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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect32 ”宣戦布告”


 「なんだあのモンスターは!?他よりデカい!!」


 「ちょっとヤバそうだな!気を付けろ!」


 一太は飛来した大型モンスター、『ワイバーン』について詳しくは知らないが、経験的推測では今感じたプレッシャーは特級の危険存在と出くわしたときの感覚に似ている。先ほどからこの一帯の上空を右往左往していた小型翼竜の親玉といったところだろうか。とにかく『アメノウワバミ』すら倒せていない今、あれにまで対応は出来ない。

 一太は昴の腕を掴んで、戦場となっている道路の端まで退避した。彼の行動に他の魔法士たちも倣う。全員が『ワイバーン』の次の行動を警戒と共に注視していた。


 そして、歓喜した。『ワイバーン』が『アメノウワバミ』と敵対行動を取ったのだ。

 

 既にワイバーン種の縄張りと化した一央市において、本当の偶然に現れた大蛇は彼らにとって人間以上の脅威だったのだろう。仲間以外は全て狩り殺すように調教された(・・・・・)空の支配者は、当然の如く『アメノウワバミ』を敵視する。

 人間たちのことなどすっかり無視している『ワイバーン』を見て、一太はさらに建物と建物の間に魔法士たちを誘導した。このまま同士討ちしてくれている間に逃げ切ってしまおうという作戦だ。


 うねる『アメノウワバミ』の体を躱して、『ワイバーン』は灼熱の火球でカウンターを繰り返す。しかし、大蛇はますます激昂し、依然として弱る素振りを見せない。口から膨大な水量の霧を吐き、瞬く間に辺り一面が真っ白になった。

 逃げ込んだ建物の隙間まで霧が充満して、急にそれを吸い込んでしまった昴は咳き込んだ。危うく溺れそうになるほどだ。


 「しっかりしろ安達君!今がチャンスだ!」


 「はい・・・!」


 だが直後、水蒸気爆発がなにもかもを吹き飛ばした。

 これは『アメノウワバミ』の力ではない。『ワイバーン』の炎が超高温だったために起きたものだった。

 爆発の瞬間、昴は朦朧として大きな音を聞いただけだった。しかし、すぐに自分が守られたことに気が付いた。吹き散らされた霧の中からうっすらと自分の体を包むようにうずくまる一太の姿が現れたのだ。


 「・・・なッ、日下さん!?」


 「無事か!良かった!」


 「良かったって・・・」


 なぜそんなに元気に大声が出せるんだ、と昴は恐くなった。酷い怪我だ。昴を庇ったせいで無数の破片を背に浴びた一太は血まみれだった。


 「なんでっすか・・・!そこまですんなよ。おかしいですよ・・・」


 「するさ!君がやめろと言おうともな!」


 「痛くないんですか、笑ってんの、なんですか?」

 

 「痛いのは慣れっこさ!こんなのは唾つけとけばなんとかなる!」


 「なんないっすよ・・・」


 周囲にいた魔法士たちも崩れた瓦礫の山に埋もれてしまっている。呻き声を上げられる者はまだマシだ。完全に意識を失っている者も少なくない。彼らも生きているだろうか。昴は地獄のような光景に戦慄を覚えた。ほんの一瞬手間までは逃げられるかも、なんて希望を抱いていたはずなのに。

 すぐに治療出来る人間が必要だ。でも、戦況は昴たちに逃げる余裕を与えてくれない。断末魔の咆哮が昴の鼓膜を撃ち抜いた。右耳がプツンと変な音を立ててまるっきり聞こえなくなった。全身から力が抜けて倒れ込む。脳震盪でも起こしたような浮遊感の中、声のした方に目を向ける。


 「く・・・そ、だろ・・・」


 隠れていたはずの建物が吹き飛んで、昴はモンスター同士の争いの決着を見ていた。


 あの爆発をもろに受けて、大蛇、なお健在。

 尾の先で搦め捕った飛竜から血のジュースを搾り取った直後だった。赤い滝が地面を打つ内に『ワイバーン』は滝と共に黒く消え去った。

 『特定指定危険種』を凌駕した時点で、後に『アメノウワバミ』のレートは正式に『特定指定危険種』に当たる、SSまで繰り上げられることとなる。だが、この場を生き残るので精一杯だった昴たちにとってはそんなことはどうでも良いことだっただろう。

 

 もはや「無限」や「不死」の象徴とされる伝承としての蛇そのものだ。『ワイバーン』を屠ってなお、彼は暴れ狂う。恨みを晴らすより早く敵に絶命され、行き場のない憤怒を吐き散らすかのようだ。近寄ろうものなら粉微塵にされかねない。これまで以上に手が着けられない事態になってしまった。


 だが、唇を噛む昴の眼前で状況は更に一変する。


 それは、一央市民なら誰もがその名を聞くなり戦慄する、一頭の化物の襲来によってもたらされた。

 どこからともなく黒いレーザービームが駆け抜けて、気付いたときには『アメノウワバミ』の長大な体が両断されていたのだ。


 「な・・・?」


 不可能に思われた『アメノウワバミ』の討伐がものの一撃で達成されたことに、昴は強力な助っ人の登場を期待した・・・が、そんなわけがない。人間が『黒閃』を撃てるはずがないのだから。

 勝ち誇るようなけたたましい咆哮が響く。片方聞こえなくなった耳でどこか虚ろにその音を聞きながら昴は落胆した。声の主はまだ見えない。でも分かる。もう、手に負えるわけがない。

 一太が強く昴の手を引いた。


 「逃げるぞ・・・逃げるぞ安達君!!」


 「く、日下さん?いや、他の人たちも―――」


 「あの声は『ゲゲイ・ゼラ』だ!今の俺たちじゃなにも出来ない!助けてる暇もない、全滅する!良いか、動ける人は全員退避するんだ!!」


 見つかる前に逃げ切らなければ、あっという間に蹂躙されてしまう。5番ダンジョンの探索で遭遇した『ゲゲイ・ゼラ』の脅威は忘れられない。


 「俺だって・・・まだ死ねないんだ・・・!」


 恐らくだが、瓦礫から出られない人に関してはむしろそのまま死んだふりでもしていた方が安全だ。一太の切羽詰まった指示に場が動く。

 逃げ込むならギルドが近い。怪我人の手当を考えても、救助の要請をするにも、それがベストだろう。一太は怪我をおして魔法士たちを先導した。



          ●



 「くそ、最悪だ、くそ!!」


 旧セントラルビルにはもはやなんの解決策も残されていなかった。極限まで濃縮された魔力が一度に放出された結果、その圧力によって建物そのものが完全に消滅していたのだ。

 なんとかしようと駆けつけたギルドの精鋭たちは揃って崩れ落ちた。これでは爆心地で既に起きた爆発をキャンセルする方法を探すのと一緒だ。


 だが、浩二が地面を殴って絶叫したのは、そんなことが理由ではない。



 止められなかったのだ。突如として出現した8体もの(・・・・)新種『ゲゲイ・ゼラ・ロドス』を。


 

 蹴散らされた仲間たちは辛うじて無事だ。だが、それはある意味当然だった。彼らの実力の話ではない。『ゲゲイ・ゼラ』は初めから浩二たちのことなど歯牙にも掛けず、どこかへと走り去ってしまったのだから。

 どう見ても不自然な行動だ。獰猛極まりない『ロドス』と呼ばれる改造種が人間を無視した時点で、浩二には『ゲゲイ・ゼラ』にはなにかしらの目的、あるいは指示があると確信していた。


 「連絡急げ!あんなのを市街地で好きにさせてみろ!一央市と言えど終わりだ!!」


 そのとき、浩二たちの頭上から妖光が差した。


 「今度はなんだ!!」


 「浩二サン、どうも魔族のお出ましみたいっすよ・・・」



          ●



 天から一央市を、ひいては人間たちを見下ろす気分は実に良い。種としての差が目に見える形を得たようだ。街のあらゆる場所から火の手が上がり、放たれた魔獣たちが自由に飛び回っている。

 アルエル・メトゥは人間界に踏み込むのと同時刻に地上へ放った『ゲゲイ・ゼラ・ロドス』たちに施した魔術を起動した。彼らを連れて来た理由は単に人間を蹂躙するためではない。その魔術は、映像と音声を発生させるだけの術だ。


 「さて・・・」


 地上の8箇所で全長100メートルはある自分の映像が現れたのを確かめて、まず、アルエルは唯一勉強してきた日本語の一文を読み上げる。


 「請う、まずは意思疎通魔法を用意していただこう」


 面倒だが、言葉が通じない以上仕方がない。1分ほど待って、アルエルは今度こそ自分たちの言語でもって人間たちに語り始めた。


 『お初にお目にかかる。私は魔界、リリトゥバス王国騎士団長アルエル・メトゥである。本日は私が魔界全ての民を代表し、この一央市を最初の地として、人間族諸君にひとつ、宣言をさせていただく』


 よもやアルエルが登場するまで魔族を疑わなかったような者はいないだろう。来るべくして来た仇敵の姿に戦慄する人間たちの姿が目に浮かぶ。


 『そうだ、先に挨拶に伺った我らのペットはいかがだったかな?人懐っこくじゃれてくるから可愛らしく感じてもらえたのではないかな?今後も是非彼らと戯れてやって欲しい。それでは本題に移るとしよう』


 アルエルは左右で歪な翼を広げた。地上では『ゲゲイ・ゼラ』の背から映し出された彼の立体映像が全く同じ動きをする。巨大さによって威圧感が極まる。人間よりも優れた種であるという自負、あるいは事実はアルエルの姿に表現されているようだ。

 そして、同時に愛国の騎士団長としての誇りはその手の剣に灯る冥光に宿る。禍々しい漆黒の奇剣を抜き放ち、天に掲げ、そしてアルエルは眼下の世界に鋒を向けた。


 『貴様たち人間族の魔法研究は究めて高度な次元に至っている。他の数多の世界群に対して負っていた数百年、数千年のブランクさえ埋め、追い越さんとするほどの素晴らしいものだと我々魔族は認識している。我々は人間族との交流で魔法学の知識を取り入れ、共に発展してゆければと願っていた。―――だがしかし!我々は忘れない。かつて人間生み出さんとした未知の脅威の片鱗を!未然に完成を防がれたその概念が、ただその可能性のみの力でなにを呼んだか。戦乱だ!だが五年前、事件は終結したのだ。我々や他の世界の民たちの説得に人間が考えを改めてくれたものだと思っていた。にも関わらず・・・人間よ、忘れたのか!自らが侵さんとした滅亡をもたらす禁忌を!我ら魔界は今の人間族にかつてと同じ危険な兆候を見た。故に、我が君主、また、魔界を統べる皇国魔姫アスモ様の名の下に、以上を人間界への警告、そして宣戦布告とする!!』


 

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