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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect20 ” Too Late ”


 一央市ギルドでは、昨日実施された旧セントラルビルの調査について改めて資料の整理が行われていた。言質に赴いたギルドレスキューチームのリーダーである清田浩二の指示通り、メンバー全員が過剰なほど積極的にレポートを持ち帰ったため、昨夜だけでは情報をきちんと資料の形にまとめるので精一杯だったのだ。


 人手不足だろうということで、別部署の方からもいくらかの人数を回してもらい、浩二は部下たちと共に写真や文章の山を一から見返していた。


 「ふむふむ・・・むっ!?なんじゃこりゃ」


 1階の資料を見て疑問が沸き、浩二はそこを担当させたメンバーの1人である伊藤を呼んだ。


 「なぁ伊藤、これはなんなんだよ」


 「と言うと?・・・あぁ、それのことですか?本当ですよ」


 「本当って・・・ミニ四駆の大会でもしてたのかよ・・・」


 「ミニ四駆はラジコンじゃないですよ」


 「そんなのは良いんだよ。揚げ足とんな」


 写真付きで丁寧に説明されていたのは無数に散らばった安価なドローンやラジコンカーの破片だった。戦闘があった場所にあるものとしては不自然で、考えにくいが万が一それらが戦闘に用いられたとしても、なぜそれなのか、浩二にはよく分からない。残っているのが破片だけなので確かめようがないのだ。

 伊藤がサンプルとして持ち帰った3、4個の破片を浩二は見せてもらったが、やはりそれだけではどうとも判断がつかない。

 

 「1階で交戦してたのは誰だった?」


 「あ、はい。確か警視庁から応援で来てくださっていた冴木空奈さんと、『山崎組』の山崎さんと太田さん、それから『ミドラーズ』の斎藤さん、平さんの5名でした。ただ、太田さんは入り口のトラップで即撤退を余儀なくされた上に、冴木さん以外のみなさんも途中で敵の攻撃によって戦闘の続行が困難になって撤退しています」


 「あの貴志さんや広助さんまで倒すのかよ。とんだ怪物がいたな。まぁ良い、その人らにはこのオモチャについて改めて話を聞くことにしようか」


 「分かりました」


 「よし伊藤、時間取って悪かったな。作業に戻ってくれ」


 「はい」


 この件は一旦保留として、浩二は次の資料を手に取る。大方は想定の範疇を出ることはなかった。戦闘の痕跡と思しき魔力反応もおおよそが事前の情報と合致している。


 ずっと紙の文字ばかり見ていると目や肩が疲れる。ある程度作業が済んだので浩二は一度コーヒーブレークを挟むことにした。作業中の部下らにもキリの良いところで少し休憩を取るように言い、浩二は作業室を出た。


 「ッくぅ・・・デスクワークは苦手だな」

 

 それなりに高い地位の役職にいる以上避けて通れない仕事なので、文句を言うだけ空しい。兄の清田(ハジメ)や父の清田宗二郎を真面目に尊敬するようになったのも、ちょうど浩二がレスキュー隊のトップになった頃からだ。

 2階の吹き抜けがある共用スペースのカップで出てくるタイプのベンダーでクリーム多めのブレンドコーヒーを買い、出来上がるまでの30秒を待つ間に浩二はギルドの様子を観察する。

 見るに、魔道具の業者の訪問が増えた。危険に備えておかねばならないという一央市の風潮を商売のチャンスと見なしたのだろう。ギルド内のショップでも取り扱う品は増えつつある。


 「あんな護身グッズ、役に立つものか―――なんて思ってます?」


 「まぁな。つか急に後ろから声かけんな黒川。ビックリするだろ」


 「ビックリしたようには見えないですけど、まぁとりあえずすみません」


 浩二とは親しい後輩の黒川は缶のアイスコーヒーを手に持っていた。まぁ、夏だし妥当か。冷房が効いていると、かえって熱いのが飲みたくなって浩二はホットを選んだのだが。


 「防犯ブザーじゃ痴漢は撃退できてもモンスターには効果がないだろ、普通」


 「いやぁ、一応あると思いますよ?大きな音で怯ませることくらいは。それに、入荷したのはそんなチンケなものじゃあないっすよ」


 黒川はそう言ってズボンのポケットから1本のスティック糊みたいな道具を出した。このちっぽけな道具は、実際にそこのショップに新しく並んだ護身グッズの1つだ。


 「ここの安全装置外してスイッチ押したら、強い光と火が噴き出すんですって。護身用って言ってますけど立派な手榴弾になりますよ、これ」


 「なんでお前まで買ってるんだよ・・・」


 「えー、だってモンスター恐いじゃないすかぁ」


 「・・・」


 「―――ってのは冗談で、俺の場合は水魔法じゃ対抗出来ない場合に備えて変化球を入れておくためですよ。これなら手間もかからないですしね。そう考えたら、これは浩二サンの指輪と扱いは似てるんじゃないですか?」


 「さぁな」


 微妙に装備する理由は違うが、大体は黒川の言った通りだ。空気弾を撃てる指輪は浩二にとってあくまで補助装備である。

 プロの黒川が手持ちに加えるなら、なるほど例の護身具も馬鹿には出来ないか。

 

 2人が立ち話をしていると、奥の方から白衣の男が1人、早足にやって来た。


 「あぁ、ここにいたんですね」


 「お、もしかして検査結果出ました?」


 浩二は、違う部署の人間には一応丁寧語を使うことにしている。特に理由はないのだが、同じ職場でも所属が違うと部署内の立場もそれほど意味を成さない風潮がある。良い意味で言い直すと、それぞれの部署が互いの出来ること出来ないことを把握して敬意をもって協力している、みたいな感じだろうか。

 浩二の質問に白衣の男性はうなずいた。


 「えぇ、黒色魔力の成分検査がさっき完了しまして。各階で得られたものをまとめてきました」


 「いやぁ、どうもありがとうございます。さすがに仕事が早い」


 「それで、とりあえず10階のはどうでしたか?」


 黒川が割って入って尋ねると、白衣の男性は資料のページをめくって、浩二と黒川に見せた。


 「例の床を綺麗に消し飛ばしたってヤツですよね。でしたら―――ここですね。こちらも風化が進んでいましたが、よほど高濃度の魔力だったんでしょうね。比較的簡単に分析出来ました。で、各特性を参照したところ」


 「神代千影(仮姓)のものと推定、ね。見たところありゃ『黒閃』の破壊痕だ。やっぱり俺は・・・こんなヤツを人間扱い出来ねぇな」


 「まぁ実際人間じゃないですしね」


 「そうですけど・・・」


 理系の人間というのはこういう元も子もないことを平然と言う。

 ただ、ともかくこれでオドノイドの高い戦闘能力は再確認した。人の形をしていながら、強大なモンスターや魔族などが扱う黒色魔力を身に宿す怪物。未だに浩二は千影のような存在を味方サイドに置こうという動きにはいささか不安がある。つまり反対派だ。

 なにせ先の事件で千影の裏切りで大きな被害を出したばかりで、その本人を擁護する話なのだ。少なくとも一央市に住まわせるのは納得出来ない、という意見で議論のストッパーの1人になっている。


 「また浩二サンは難しいことを考える。俺はあの子、戦力に数えちまえば良いと思いますよ。多少の重傷でもものともしない・・・ん?多少の重傷・・・?なんか変?・・・まぁいいや、それでこんだけのパワーがあるなんて、理想的なコマですよ」


 「そういう扱いをして反発されたら誰が止める?俺は正直微妙だぞ。少なくとも加減出来ねぇ」


 「だから神代さん家なんでしょう?」


 「やめろ、黒川お前、俺のことおちょくってるだろ」


 口笛を吹いて、誤魔化したつもりだろうか。

 そんな不測の事態で、また神代迅雷を矢面に立たせるつもりはない。浩二は、だからこそ千影の以降の扱いに難色を示すのだ。

 

 浩二は研究員に話を振り戻して、改めて資料を受け取って作業室に戻った。

 しかし、戻った浩二と黒川を待っていたのは血眼になって資料を探し続けている事務員たちだった。なにか異常事態の気を感じ取り、浩二は眉根を寄せて彼らに尋ねた。


 「どうしたんだ?休憩は挟んでないのか?」


 「大変なんです、清田さん・・・!」


 浩二が席を空けていた10分少々の間も山のようなレポートを掻き分け漁り続けていた数人の職員は、口を揃えてこう言った。


 『地下階のデータが、一部全くないんです!』


 「なに言ってるんだ。確かにまとめたと思うんだが・・・ちゃんと探したのか?」


 「だから言ってるんです!ほら!」


 1人が、資料の当該ページ付近を開いて浩二に突き付けた。よく分からないが、浩二は確かに旧セントラルビルの地下には赴いたはずで、昨夜文字と写真でまとめたはずだった。そう、ちょうど今目の前に提示された紙に書いてある内容そのままに。

 

 「そもそも特に変なところもなかったはず(・・)なんだよなぁ。どれどれ?」


 思えば、その時点で浩二は奴らの術中だったのだろう。なぜそのとき「はず」という結論を許してしまったのだろうか。疑問の1つさえ感じずに、「はず」だなどと曖昧な言葉を口にするのだろうか。


 そう、あくまで彼の部下らが足りないと慌てて探していたのは、地下階の、一部、だ。

 建物の見取り図と一緒に自分のまとめた情報をまとめ、浩二は次第にその事実に気が付いてきた。その感覚はまるで、催眠術が解かれて脳の中のノイズが消えていくかのようで―――。


 「なんでだ・・・なんで抜け落ちてるんだ・・・?こんな、こんな目立つ場所だったのに・・・!?」


 地下3階の、中央。管理室がある、広い空間。なぜない?いや、問うまでもない。確かにそのドアの取っ手に手を掛けなかったのは、浩二だった。その場にいた黒川と尾代も同じだった。


 だが、やはりなぜ、そうなったのか?



 不安げな顔の部下のことすら忘れ、浩二は当時の自分の思考を思い出し、愕然とした。頭にあるのは、絶望だった。


 

 「『どうせなにもないだろう』・・・・・・そう思ったんだ、俺は・・・」

 


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