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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect17 ”面談って無駄に緊張するよね”


 急に子供たちが騒ぎ出したので、真牙の母親が何事かと様子を見に来た。


 「2人ともなぁに?なんかあったの?」


 「母ちゃん、オレらすぐに学校行かねぇとだわ!」


 「はぁ、学校?・・・ハッ!?もしやアンタ、またなんかしでかしたのかい!?アンタってやつは!」


 「ちゃう!面談だっつーの!すっかり忘れてた!」


 「めめめ、面談!?なにそれ、母ちゃんも行かないといけないやつじゃないだろうね!?なんで早く言わないのよ!」


 「母ちゃんはいらん!とっ、とにかくそういうことだから、行ってくる!おら、迅雷、行くぞ!」


 「ごめんなさい!あ、お金お返しします!」


 真牙に手を引かれ、迅雷も慌てながら真牙の母親に謝った。せっかくの心遣いではあったが、どうもそれどころではなくなってしまった。

 驚き呆れる真牙の母親を置いて、迅雷と真牙は家を飛び出し、自転車にまたがって学校まで全力疾走を敢行するのだった。


          ●


 他の先生型は今日も地下ダンジョンへ訓練に行ってしまった。久々に本格的な戦闘を行ったところ、気合いが入るもので、今日行かないとなると安心する一方で力の抜き方が分からなくなりかけていたことにも気が付いた。他の1年生クラスの担任たちもぼちぼち今日にライセンスを取得した生徒に対する面談をしているのだが、彼らも似たような気分らしい。

 真波は面談用に席を並べ直した教室で、生徒用の椅子に座り、天井を見つめたまま生徒を待っていた。


 「それにしても、神代君も阿本君もなにしてるのかしら。まったく、来なかったら電話しないとなぁ」


 ほぼファッション同然のブルーライトカット眼鏡を手入れしながらぼやいていると、戸がノックされた。時計を見れば、さすが、時刻はきっちり正午。


 やって来たのは、片方だけの松葉杖をついた天田雪姫だった。別にわざわざ制服で来なくても良いとは言ってあったので、現われた雪姫はカジュアルな服装だった。具体的には、インナーキャミソールの上に襟元が広く開いたオフショルダーのトップス、それから七分丈・・・よりちょっと短い感じに裾を折ったデニムといったところか。さすがに涼しい格好だ。

 ただ、似合っているのだが、今は包帯の方が目立ってしまっている。率直に言って痛々しい。いかに苛烈な戦闘を経験してきたのかを窺えるようだった。


 「意外。ちゃんと来てくれたわね、偉い偉い」


 「来なけりゃしつこそうだったので」


 すごく消極的な理由に真波は苦笑した。まぁ、図星だ。

 なにはともあれ来てくれたのならOKだ。


 真波は自分の向かいの席に雪姫を座らせて、軽い雑談から始めることにした。面談というのは、まずは教師と生徒が互いに話しやすい雰囲気を作るのが大事なのだ。


 ・・・と、意気込んで臨んでみたものの。


 「どう、調子は?まったくビックリよ。こないだの旧セントラルビルでの魔族との対談の警護、3年生の豊園さんが話を受けただけでも驚かされたのに」


 「そうですか。別にどうもないですけど」


 「松葉杖大変じゃない?着替えとかってやっぱり手伝ってもらう感じなのかしら」


 「別に」


 「そ、それにしても、あっついわねー。でもさ、天田さんって夏も快適なんじゃない?なんたって自分で氷作れちゃうしね」


 「・・・・・・はぁ」


 ちっっっとも話が弾まない。憂鬱そうに雪姫が溜息を吐いた。真波のコミュニケーション能力が未熟なのだろうか。真波はなんとかして雪姫に心を開いてもらおうとしているが、ひょっとしたらそのアプローチ自体がかえって雪姫の人嫌いな性格を刺激しているのかもしれない。


 「ま、まぁ分かった、分かったわよ。雑談は終了」


 さて、この面談は毎年、ライセンスを持っている生徒限定でこの時期に実施している。そこでする話は主に2つだ。1つは進路希望調査で、もう1つは今の時点で生徒たちがマンティオ学園で魔法の腕を磨く意味や意義をどう捉えているのかを聞かせてもらうことである。

 ある意味、これらの点について、天田雪姫がどういう風に思っているのかは教師陣にとって謎だった。あまりに卓越した技能は既に最上級生を凌駕し、そして恐らくは数多の過去の卒業生たちにおいても、在学中の時点で彼女ほどの素養を示す者などほとんどいなかったに違いない。故に、雪姫の視点から見たマンティオ学園は容易に想像出来るものではない。

 その一方で、雪姫の将来への希望のようなものもまた、判然としない。魔法だけでなく学業の成績も学年トップで、実技科目もやる気以外はほぼ完璧だと評判だ。要はなろうと思えばなんにだってなれるだけの才能があるのだ。それにも関わらず、彼女はなにかを目指すような様子が一切ない。優秀な生徒としては珍しい部類だ。


 この面談を機に、真波は雪姫の将来の希望や学びへの意欲を知る必要がある。


 「まずはありきたりな質問なんだけど、天田さんには将来やってみたい職業とかってある?」


 「いえ、別に」


 「そうよね、まだ早いよねぇ。私も昔、高校の面談でこの質問に具体的な答えを返したことなんてないもん」


 ちょっと大袈裟に共感を表現したが、相変わらず雪姫は冷め切った目をしていた。1人で騒いでいるようで真波は少し惨めな気分になる。しかしまだまだ。こんな程度でへこたれてはいけない。


 「じゃあさ、もう少し近い将来の話をしよう。例えば、卒業後の進路は少し想像してるかしら?大学に行くも良し、望むなら就職も良し。あなたくらいの成績なら学園も推薦しやすいわ」


 「将来のことなんて考えてないです」


 「えぇ・・・そんな。なんとなくで良いのよ?別に来年は違う意見になってたって良いんだし」


 「どうでも良いって言ってるんです」


 雪姫の目は本気で自身の未来に興味がないように、沈んでいた。彼女はそれほどにこじらせている。好成績者というのは往々にして自意識が強い中で、雪姫の在り方は極めて異質だ。例として隣の2組の聖護院矢生を思い出してみれば分かりやすいか。


 実を言うと、同じ1年3組でライセンサーという点も雪姫と共通する神代迅雷も、以前は彼女同様に自己への関心が薄かったのだが、友人がいる点や普段の素行にその影が見られなかった。真波がそれに気付いていれば、あるいは真波は迅雷からそれを克服した要因を教えてもらえていたかもしれない。ただ、それが雪姫にも当てはまるかと言えば、きっと、否だろう。つまりは今よりは多少マシなアプローチが出来たかもしれないだけの話だ。迅雷と雪姫は似ているが、選んだ結論が全く異なっていた。



          ●


 昴と一太は、引き続きパトロールで歩き回っていた。今は表通りから2本ほど引っ込んだ住宅街だ。そして、ちょうど公園の側を通りかかったときだった。

 不意に昴と一太の目の前をサッカーボールが転がって、車道に出てしまった。

 それだけならどうでも良かったのに、恐らくボールで遊んでいた子だろう、小学校低学年くらいの男の子が道路に飛び出した。


 なんて間が悪いのだろう。少年が道に踏み込むのと同時に、一通の標識を無視した車が少年とボールの方にほとんど減速もせずに曲がってきた。


 「ちょっ・・・」


 昴は、それなのに、焦っただけで全然動くことが出来なかった。辛うじて手だけは前に出て、もうそのときには間に合わない。


 ―――でも。


 「危ないッ!!」


 昴が気付いていながらなにも出来ずにいたその間に、一太は男の子を車道の外に引っ張り戻していた。

 分厚い破裂音がして、車はギュン、と走り去っていった。タイヤに踏まれて弾けたサッカーボールがヒラヒラと地面に落ちる。


 見知らぬ男に助けられた少年はまだワケが分からないという顔をしていた。昴は少年を抱きかかえて情けない格好でアスファルトに尻餅をつく一太を見て、伸ばしかけた手を下ろした。


 「大丈夫か!少年!怪我はないか!」


 「・・・ぇ、う、うん?えっと、えっと・・・?」


 「今のは車が悪かったけどな、君!やっぱり飛び出したら危ないぞ!さっきみたいな悪い大人もいるから気を付けないと!」


 「ふぇぇ、ご、ごめんなさい!?」


 一太の大きすぎる声で男の子は怯んでいる。でも、今回はむしろそれくらいで良いのかもしれない。あの子も、これなら相当強く印象に残って、同じ失敗はしないだろう。

 ちびりそうになっている男の子を立たせて、一太はその大きなてで、男の子の頭を優しく撫でた。


 「まぁ!無事で良かったな!ラッキーだ!」


 「あ、あの、ありがとうございました」


 「ふはは!なんのなんの!つってもボールはペシャンコだな!まぁ仕方ない!これはまた買えば良いんだ!それじゃあ達者でな!もう轢かれるんじゃぁないぞ!」


 干物みたいなボールの残骸を男の子に渡して落胆させてから、一太はまた巡回業務に戻った。

 昴は、少し遅れてから小走りで一太の隣に戻る。改めて一太の顔を見上げれば、清々しい表情をしていた。


 「いやー!ビックリしたな!肝を冷やした!」


 「大声出すから結局恐がってましたけどね」


 「ははっ!こりゃ参ったな!」


 子供の命を救っておいて、まだ一太は自然だ。昴は間に合わなくて、そのことを気にして悶々としているのに。彼がもう少し誇らしげにしていれば、こんなにも悔しい気分にはならないはずなのに。


 「なんだ安達君!不機嫌そうだな!」

 

 「いや、そう見えるのは生まれつきなんで」


 「んや、いつもはそんな眉間にシワ寄せてなかっただろ、安達君!」


 「いやいや、そうでもないっすよ。どんだけ俺のこと観察してんすか、ホモっすか」


 「それは心外だな!大人が子供のことを見守ってるのはいつの世も同じさ!」


 未婚者のくせに人の親みたいな顔をするのはなんなのだろうか。完全に良い人にしか見えない一太の隣で、昴は足下に視線を落としたまま歩き続けた。


 ・・・が、そんなタイミングで昴の腹が鳴った。


 早起きに合わせて朝食もブレックファーストの時間で済ませていたから、腹が減るのもいつもよりも早かった。どうやら昴の腹の虫の声は一太にも聞こえてしまったらしい。


 「そうだな、もうそろそろ昼時だし、どっかでメシにしよう!今から行けば混む前に店に入れそうだし、良いタイミングだな!」

 

 「そうっすね。この辺、なにありましたっけ」


 「それで良いのか地元民!まぁ待て、こういうときにスマホだろ!なになに・・・!」


 普通なら「なになに・・・」と言うときは声が尻すぼみになりそうなところなのにやっぱり大声なのは、なにかウケでも狙っているのだろうか、それとも素なのだろうか。体格のせいで余計小さく見えるスマホ・・・というかi-Pon(アイポン)を操作して、一太はちょうど良いお食事処を探し始めた。


 

 

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