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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect13 ”電子果たし状”


 直華とランニングに出掛けたらなんの因果か顔見知りのヤクザに出くわしていろいろ大変だった日の、その明くる朝。迅雷は枕元に置いていたスマホの通知音で目を覚ました。普段なら通知くらいで起きるようなことはないのだが、やたらうるさく通知が続けばその限りではなかった。マナーモードにしていてもバイブレーションが凄まじい周波数で木の板を打ち鳴らすので、それこそ耳元でハエに飛ばれるのと同じくらいうるさいレベルだ。


 「うっ・・・るせぇな―――」


 朝からこんな迷惑行為を仕掛けてくるようなヤツは1人しか知らない。いつもへらへらしている悪友の顔を思い浮かべて迅雷はスマホを手に取った。画面を開くまでの短い間にまで通知が鳴って迅雷は舌打ちした。

 SNSのアプリを開くなり迅雷はメッセージを打ち込む。


 『なんだうるせぇなこの野郎』


 『あーさ』・・・『はい、起きるまで5分もかかりました』


 通知を遡ると、半分くらいが『あーさ』『でーす』『よー』の3連句のループだった。自供していてもはや疑いようがないが、まさか真牙は5分間もひたすらそんなことをしていたのだろうか。さすがに引くな。


 『まだ7時なんだけど』


 『学校ある日なら起きてんだろ』

 

 『今は夏休みなんですけど?』


 『知らんな』


 なぜか真牙のガチトーンの声が聞こえた気がして迅雷は苦笑いした。そういえば夏休みになってからというもの、真牙は普段以上に道場(いえ)の手伝いをさせられているのだったか。門下生が多いから大変だと愚痴っていた。迅雷は可愛い女の子も通っていなかったか、と聞いたときに真牙にそう言い返されたのを覚えている。

 そして、その多忙な真牙師範代が今日はなんの用だろうか。休みがもらえたからどこかに遊びに行こうとか、そんなもんだろうか。迅雷はまだ半分寝ぼけたまま適当に予想していたが、実際は全然違っていた。


 『迅雷どうせ暇だろ?ウチ手伝え』


 「イヤです・・・やべ、声出てた」


 送信履歴にもちゃんと『イヤです』が残っていて、迅雷の短い返信に先を越された真牙の「お願い」スタンプが表示された。


 『まぁそう言うのは分かってた』


 『じゃあ言うなよ』


 『猫の手も借りたくてさぁ』


 『大体俺は人に教えられるほど剣道自体はうまくないだろ』『中学のときも言っちゃえばやってたことが邪道っていうかさ』


 『それな』


 肯定されてもムカつくな、と迅雷は頭をかいた。しかし実際、基本中の基本は押さえたとはいえ、それ以上の基礎は捨てて二刀流の立ち回りに3年間の部活のほとんどを費やした迅雷では真面目に剣道を学ぼうとする人に教えられることがほとんどない。

 そんな風に自己分析をする迅雷に、真牙がトドメの一言を放った。


 『つかオレんちは天下の阿本流サマだぞ?門下生でもなかったお前ごときがオレと対等にやれると思うな』


 『よろしい、斬る』


 『そう、それそれ』


 「は?」


 いつもの睨み合いになるかと思えば、真牙の反応は違う方向にズレていた。迅雷を煽るわけでもなく、むしろこの流れを待っていた風だ。


 と、なると、思いつくパターンは・・・。


 『手合わせしたい、と?』

  

 『察しが良いな』『さすがオレのライバル』


 『療養中の人になに言ってんだかな』


 いやがるような返事を入力する指とは裏腹に、迅雷はにやついてしまった。リハビリにはもってこい―――というか、普通に楽しそうな誘いだ。


 『まぁ良いや、少し体動かしたいとこだったんだ』『ちょうど良いから俺の新戦力の錆びにしてやるよ』


 『例の「風神」ってやつか?いいね、乗った』


 果たし合いの時刻は午前11時頃、真牙の家にある道場の庭ですることになった。


          ●


 悔しいが真牙のおかげで早起きが出来たので、迅雷は腹いせに千影も叩き起こしていつもより2時間くらい長い1日を満喫していた。夏とはいえ、朝は爽やかなものだ。もちろん暑いが。

 朝一番からクーラーをガンガン使うのももったいなかったからか、下に降りてみると真名は家中の窓を開けて扇風機で空気を循環させていた。


 直華が部活に出掛けたあたりで、電話が鳴った。迅雷は結局暑さにだれて、比較的涼しいソファーの上に千影と一緒に寝転んでいたが、真名は今洗濯物を干すので手が放せないようで、自分が電話に出ることにした。


 「ほれ、どけ千影」


 「うごくのだるーい」


 「そうか」


 仕方ないので迅雷は腹の上で寝転がる千影を床に落とし、立ち上がった。

 迅雷は面倒臭くて相手を確かめずに受話器を取る。


 「はいもしもし神代です」


 『あ、俺俺』


 「・・・いやどなたですか」


 『酷いな息子よ、俺だ、父さんだよ!』


 「はいはい、冗談だよ」


 『ったく、母さんみたいな冗談言うようになってきたな』


 言われてみれば、迅雷もよく真名にそんな風にからかわれている気がした。子は親に似ると言うが、そんなくだらない精神まで似なくても良いのにと思ってしまう。

 

 『それで今は母さんはいないのか?』


 「いや、いるけど代わった方が良い?」


 『いや大丈夫だ、そんな大したことじゃないし。あのな、父さん、今日の夕方くらいに帰れそうだ。今飛行機の乗り継ぎで韓国にいるんだ』


 「今日帰ってこれるの?そっかぁ、そりゃ楽しみだな」


 『お土産もいろいろあるから期待しとけよ』


 疾風も久々の我が家だから、ワクワクしていた。本当はもう少し帰って来られれば良いのだが、やはり世界に3人しかいないランク7の魔法士ともなると思い通りには生活出来なくなってしまう。息子に憧れてもらえるのは父親として嬉しいが、あまり上を目指すのもオススメ出来ないのが当事者の心情だったりもする。

 

 『直華は部活かな?』


 「んだね、あと5分くらい早く電話してくれたら声聞けたのに」


 『んなっ!?ち、ちくしょう・・・』


 迅雷と同じかそれ以上に疾風も直華を溺愛しているからか、電話越しにもどれだけガッカリしているのかが分かった。

 しかし、気分を切り替えた疾風は、(声からして全然切り替えられていないが)千影に代わるよう言ってきた。迅雷はさっき迅雷に落とされたときから微動だにせず床に寝転がっている千影を呼びつけた。


 「はいはーい、もしもし、千影だよ」


 『おぉ、千影!いやー、聞いたぞ、やらかしたんだってな!』


 「笑い事じゃないよ、おかげで無期限の自宅謹慎だし」


 千影が毎日どんなに退屈しているか、疾風には分かるだろうか。茶化されたような気がして千影は頬を膨らませた。


 『やり口が強引だったからな。・・・いろいろ大変だったろ、すまなかったな、気付いてやれなくて』


 「ううん、良いんだ。ボクにはとっしーがいてくれたから。ボクがオドノイドだって知っても、受け入れてくれたんだ。すごく・・・嬉しかったな」


 『だから言ってただろ、きっと大丈夫だって。・・・でも、お前「荘楽組」との方はどうするんだ』


 「まぁそれはそれ・・・かな。親父には縁切られちゃったし」


 『そうなのか―――あの人も気を利かせるもんだな。すごい寂しそうにしてたんじゃないのか、岩破さん。いけねぇ・・・想像するとなんか笑えてきたぞ』


 「えー、わかんないよ。そういうとこ見せないんだもん。まぁでも?ボクみたいな美少女が手元から離れたらそりゃー寂しくもなるんじゃないかな?笑ったら可哀想だよ、はやチン」


 『はいはい、悪い悪い』


 疾風の声は聞こえないが、迅雷は千影の話から2人がどんな話をしているのか想像していた。昨日会ったとき、紺も千影のことを気にかけていた。あの日も、『荘楽組』にとって千影はちゃんと仲間だったに違いない。

 あれだけ冷たくしていたのにそれを察しろと言う方が無理な話だが、経緯はなんであれ迅雷は彼らの大事な「娘」を預かることになったのだ。別にだからと言って千影に対する付き合い方をがらりと変えるつもりはないが、千影の隣に立つ者としての責任のようなものは感じていた。


 「はーい、じゃあねはやチン。気を付けてねー。まぁはやチンなら途中で飛行機撃墜されても全員助けて無事帰還しそうだけど」


 千影はそう言って受話器を置いた。



 ここから疾風が一央市に帰ってくるまでの、長い1日が始まる。


 



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PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

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