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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect10 ”ムショ帰りの男”


 「一瞬でも油断した俺が悪かったんだよな?そうだよな?」


 「いやいや、むしろ良かったヨ。本心だ。君じゃなかったら死んでいたところだったヨ」


 「本気で言ってる?俺も死ぬよ?さっきのは普通に死ぬよ?」


 「はははは、面白い冗談を言うこともあるんダネ。生きてるじゃないカネ。はははは」


 煌熾はエジソンが自分とは別の世界に生きているのだと諦めた。いや、諦めて良いのか分からないが、煌熾が一体どれだけ恐い思いをしたのか、どう頑張ってもエジソンには分かってもらえないと確信した。冗談ではなく本当に死ぬところだったというのに。


 「さて、与太話は十分として、実験は成功だったネ。素晴らしい結果だったヨ」


 「いや失敗だと思うんだが。佐々木は自分も危なかったってことを忘れたのか?」


 「・・・。じゃあなにが問題だったと言うんダネ?」


 「ほぼ全部だよ!?」


 煌熾はそろそろエジソンに対して本気で怒っても良い気がしてきた。しかし、勢いでベッドから体起こした煌熾はそのまますぐに下に引っ張り戻された。


 「ダメですよー。手当終わってないですから」


 「あ、はい・・・すみません一ノ瀬先生」


 「もはや私を普通の先生らしく呼んでくれるのは君だけになりましたね・・・はぁ」


 要塞の如く頑丈なマンティオ学園の校舎の壁に人型の亀裂を入れた煌熾は、ほうほうの体で保健室に辿り着いて、ちっちゃな養護教諭の一ノ瀬由良に傷の手当てをしてもらっていた。

 全身血まみれだった煌熾を見て由良はひっくり返りそうになったが、意外にも治療の方は迅速で冷静だった。


 エジソンに助けてもらえたわけでもなく、自分でもここまで来られたのが奇跡に感じるほどボロボロだった煌熾は、自分の怪我が順調に癒やされていくのを見ていて感心した。


 「さすがですね、一ノ瀬先生」


 「いやぁ、先日の一件で胆力が鍛えられましてね」


 深手の裂傷や刀の貫通傷に慣れた高校の養護教諭なんて世界広しと言えどなかなかいないだろう。あの日セントラルビルに呼ばれたのが名誉なことだったのか不幸だったのか。由良は溜息を吐いた。ただまぁ、怪我と仲良しなこの学校の生徒たちの面倒を見ていく上では貴重な経験であったはずだ。


 「しかしですよ、エジソンくん。君も無茶なもの作りますね」


 2人から事のあらましを聞いた由良はびっくり半分呆れ半分でそう言った。最先端技術を真似して実際に動かせてしまうことには感心するが、結果として大事故を起こすようではどうにもならない。

 

 「僕の持論で、無茶なくして科学の発展はないというのがあってダネ―――」


 「はいはい」


 正論がいつも正しいとは限らないのである。この際無茶は良いとして、最低限予想可能な事故くらいには対策しておくべきだった。


 「そう、だから焔煌熾。僕に君の思う改善点なるものを教えてくれたまえヨ。あれば、だガネ」


 「まず炎が強すぎる。速すぎて制御出来ない」


 「ほう、面白いことを言うネ。高速移動出来ることの優位性は計り知れないと思うガネ?」


 「分かるが・・・。なぁ佐々木、ひょっとしてアレって軍事用かなにかだったのか?」


 「もちろんそうだガ?他になにがあるのダネ?」


 またもや常識が食い違って煌熾は頭を抱えた。エジソンの発想が暴走しがちな理由がよく分かる台詞だった。


 「あのな、こういう便利なものはもっと誰にでも扱える安全で平和的な道具であるべきだと思うぞ、俺は」


 「君、それは誤解ダヨ。確かにそのようにして生み出された技術もたくさんあるけれど、今日で特に重用される技術の大半は元来、軍事利用されていたものの応用だからネ」


 今や当たり前のコンピュータやインターネットが代表的だ。そして、エジソンが興味を持った魔力感応素材も、米国やロシアの軍属研究機関が積極的に開発している分野だ。当然その目的は最優先で軍事力の拡大である。

 エジソンのこの意見には、話を聞いていた由良も賛成のようで、納得して頷いていた。


 「平和的利用を目指す点については先生も全力で賛成ですが、エジソンくんの言うことも、もっともですね。そもそも大きな技術革新が起こるのは戦後です。この辺は軍を持たない日本人じゃちょっと住む世界の違いを感じそうですけどね」

 

 「な、なるほど・・・分かりました・・・」


 「あ、いや!だからって軍事目的推奨してるわけじゃないですよ!?」


 由良は慌てて取り繕っているが、煌熾も大体納得していた。実際そうなのだろう。軍事技術の向上を目指して研究をすることがない国など数えるほどもあるまい。日本が特殊なのだ。自衛隊に配備される各種装備だってあくまで防衛目的だ。積極的な攻撃に用いられることは決してない。魔法士についても同じことが言える。

 もっとも、数多の世界が接した後の人間界で国家間の大きな戦争なんてもの自体、そんなに起きていないのも事実だ。強いて例を挙げれば、一度の世界大戦くらい、らしい。それも所詮、この保健室にいる若い世代にとっては、そんなものは何世代も前の教科書の中の話に過ぎない。

 一方で、過去に幾度か異世界と人間界との間で争いが発生して純粋な科学技術による軍事力を持って対抗したことがある。当初はその圧倒的な火力暴力破壊力で他の世界を戦慄させることすらあったという。

 しかし、魔力という摩訶不思議な非科学の力を相手取る上では、当時のまだ今よりずっと少なかった魔法士たちの方がパワーで劣っているにも関わらず安定した戦力になったことも戦争と科学という世界観を過去のものにせしめている。もちろん、どっかの国々が自慢の核技術を好き放題に振り回していれば話はいろいろ別だっただろうが。


 そんなわけで軍隊の影はなおさら薄い。過去の界間大戦における活躍が最後にして最高だったと評する専門家は多い。時代は魔法とそれを駆使して世界を守るIAMOに傾いた。


 ひと通りの談義に決着がついたあたりで、エジソンはくだらなそうに溜息をひとつした。彼とてなにも妥協を知らないわけではない。せっかく作った自信作も、誰にも使ってもらえなければ甲斐がないからだ。


 「分かったヨ。ひとまずは内蔵魔法の出力を落とすところからにしようカネ。でもあくまで焔煌熾の反応域に合わせる。常人よりかはいくらか優れているだろうからネ、落とすにしても高水準は保ちたい」


 「そうか、ありがとう・・・・・・ん?」


 ちょっと感謝しかけたが、煌熾はエジソンの物言いに引っかかりを覚えて顔を強張らせた。


 「な、なぁおい。それってまさか・・・」


 「当然、以降のテストも全て君に手伝ってもらうヨ。ん?なんダネその顔は。まさか今日のこの一度きりで事が済むとでも思っていたのカネ?」


 「い・・・いやだ!俺はまだ死にたくない!!」


 苦笑する由良も、結局助け船を出してくれなかった。


 焔煌熾、絶体絶命の夏を迎える。


 

         ●


 

 「酷い有様だな、こりゃあ」


 先日の『旧セントラルビル爆発事件』の現場に初めてやってきた彼の一言はそれだった。

 とても人が立ち入る場所とは思えない雰囲気を醸すビルを見上げる、スポーツでもやっていそうな健康的に筋肉質な上背の男は、清田浩二だ。


 「昔はあんなに賑わってたのがまるで嘘だな。急に倒産して、なぜか取り壊されもせず、しまいにゃドカンだもんな」


 子供の頃、何度か父親や兄と一緒にここへ足を運んだ記憶が懐かしい。幼い浩二にとっては都会のなり損ないみたいなこの街に暮らす中で、このビルだけは眩しい大都会だった。

 見るも無惨な廃ビルと化したセントラルビルにこれほど切なくなる人は、案外少なくはないだろう。若い世代はあの賑わいを知らないかもしれないが、浩二とは別の理由にしたってこの場所に思い入れのある人は大勢いる。


 「まぁ、感傷に浸るために来たわけじゃないんだ。職場復帰を早めてもらった分は働いて返さねぇとな」


 そう、清田浩二はただの勘違いでとある高校生を半殺しにするという擁護しようのない罪を犯してお縄についたのだ。しかし、街の緊急事態に際して被害者の少年の理解もあり、浩二は特例的にシャバに戻って来たのだ。

 一央市ギルドが独自に保有する戦力の中では最大級の浩二が、この状況に参加出来ないのは痛い、との理由だった。早い話が、もし悪魔がひょっこり出てきても慌てず確実に速攻で生け捕りに出来るスーパーマンが1人でも多く必要だったのである。


 したがって当然、お帰りパーティー代わりに浩二に与えられた仕事は危険なもの―――というわけでもなかった。その内容は事件現場の調査である。

 

 調査自体は今日まで全く行われていなかったわけではないが、現場の安全が確認出来ず、本格的な作業に移行するのが今日からとなる。

 浩二はギルドのレスキュー隊所属魔法士から数名選んで連れて来たので、ここからは2人1組での分担作業になる。浩二は敢えて堂々とみんなの前に立ち、班分けの確認を始めた。


 「伊藤・織田班と輪島・関班は1階から4階を手分けして調べてくれ。巻・田辺班と村上・吉野班は5階から8階だ。俺と黒川、及び尾代は9階と10階、それと件の地下階を回る。異常点は全部キッチリ詳細にまとめるんだぞ。以上!」


 青空の下に開けっぴろげのブラックボックスに、ギルドの精鋭たちが踏み込んだ。

 

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