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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode6『Re:Start from By Your Side , Re:Life with You』
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episode6 sect3 ”予期せぬ再会”


 「ところでお兄ちゃん、メモ、なんて書いたの?なんかすごく楽しそうだったけど」


 溜まっていたのか、思っていたよりハイペースな迅雷のジョギングのペースに合わせていたら、直華は少し息が上がってきた。迅雷に少し抑えてくれるよう頼んだついでに、直華は気紛れにそんなことを聞いてみた。


 「え、気になる?」


 「ま、まぁその・・・ちょっとだけ」


 鼻歌でも歌い出しそうな兄の姿を見ていて、千影にほんのちょっぴりだけ、妬いてしまったのは悟られたくない。ふいと目を逸らしながら直華は頬を掻いた。


 よく分からないがいじらしい愛妹の仕草に迅雷は心躍らせつつ、メモに書いた内容をそっくりそのまま直華のために復唱してやった。


 すると。


 「ぶふっ!?で、でで、でーとですか!?」


 「なぜ敬語し」


 「いやいやでもですよお兄ちゃん、なぜに?なぜにそんなことを?普通にジョギングするって書けば良いのに・・・!」


 「ナオ、お兄ちゃんは別に男女がお手々繋いでちょっとオシャレしてどっかお出かけするだけがデートじゃないと思うのですよ。言っちゃえばこうやって一緒に走ってるだけでも本人がそう思うなら立派なデー・・・」


 「違いますからぁぁぁぁぁッ!!」


 「あ、待ち・・・」


 馬鹿みたいに直華の走るペースが上がって、あっという間に迅雷は置き去りにされてしまった。信号とか車通りのない閑静な道を走っていたものだから、直華は勢いのままどんどん行ってしまう。迅雷にはだいぶ前方から直華の叫びらしきものが聞こえていた。

 宅地も近いというのに、らしくもなく直華は相当取り乱しているらしいな、と迅雷は反省した。まさかこんなに怒るなんて思ってもみなかった。


 「でもさ、そんなに全力で否定しないでも良くない?」


 お兄ちゃんのハートにクリティカルヒット。しかし、こんなことで直華への愛あるハラスメントをやめる迅雷ではない。当たって砕けろ、何度だってアタックを仕掛ける所存だ。

 なにはともあれ、離れすぎたら追いつけなくなるので迅雷もペースを上げた。それと、1人で走っていたら結構寂しいのだ。


 「くぅ・・・」


 思ったよりは体が動くが、やはり本調子には程遠い。傷のこともあるはずだが、それ以上にあの日の戦いの疲れだ。遙かに格上の敵に正面から挑み、逃げずに挑み続け、最後まで成し遂げられたのは、あの日が初めてだったと思う。『ゲゲイ・ゼラ』のときよりも血を流したし、ネビアのときよりも無様に土と埃を食った。けれど、千影を連れ戻した。

 やりきった感というか、この不調はその余韻みたいなものだ。


 「つって、それはキチンと自分の体調管理くらい出来るようになれって話か。父さんなんて疲れが抜けなくて、とか言ってらんないんだしな。しっかりしないと」


 目標が高すぎるのも問題なのか。


 しばらく飛ばすと、ヘロヘロになっても逃げ続ける直華を見つけた。振り返った直華は迅雷を見てギョッとして、さらに逃げようとした・・・ものの、さすがに限界だった。


 「はぁっ、ふぅ・・・。追いついたぞ」


 「ひ、ひぃぃ」


 「『ひぃ』とはなんだ・・・って、うわ、ゆでだこみたい」

 

 冗談抜きで真っ赤になって汗だくだくの直華を見て迅雷は苦笑した。本人は日焼け止めが流れないか心配しているようだが、それより熱中症が心配だ。

 このまま予定通り走るより一旦水分を取った方が良さそうだが、近くに自販機なんてない。


 「参ったなぁ。これなら水筒に『召喚(サモン)』くっつけときゃ良かったか」


 「い、いや、大丈夫だから」


 「ダメだぞナオ。大丈夫なうちにちゃんとやっとくのが大事なの。しんどくなったときには手遅れなんだぜ」


 「うぐ・・・」


 「これからは頑張るって言ってたけど、心配かけないように強がるのと頑張るってのは違うぞ」


 「はい・・・」


 迅雷のド正論に直華は閉口した。

 

 「そうだ、確かもう少し行ったところに公園あったっけな。そこの水道でも良いか?」


 「う、うん・・・」


 1分くらい小走りで移動したところに、小さな公園がある。今走っている道は、割と自然豊かな散歩道だ。空気が綺麗で風も爽やかな良い場所だが、ただ、家からそこそこ遠かったためいつも来るわけではなく、その公園のことを忘れていた。

 立ち寄って、子供が好きそうな上に噴き出すタイプの蛇口で給水完了。一息ついてから迅雷と直華は再び走り出した。


 山林がすぐ脇に広がる道を走っていて、直華はふと思い出したように話し始めた。


 「ねぇお兄ちゃん、知ってる?」


 「ん?」


 「なんかね、少し前、この辺りで夜な夜な森から不気味な声が聞こえてくる時期があったんだって」


 「ふーん?いつもの都市伝説?」


 「いつものって・・・まぁそうだけど」


 あっさりした返しをされて直華はちょっと不満そうな顔をしたので、迅雷は宥めつつ先を促した。


 「最初は犬か鳥かだって思ってたけど、どうも違うらしくて、それが何日も続いたある日、我慢出来なくなった近くの家のおじさんが見に行ったらしいの」


 「む・・・そして?」


 「それがね?一晩中探してもなにも見つけられなかったんだって。でもね?くたびれて帰ってきたおじさんを見た奥さんが、悲鳴を上げたの。それはもう、ご近所さんが何事かと思って家から飛び出してくるくらい大きな声で」


 「ほう」


 なんとなくオチが見えた気がしたが、陣らはあくまで黙って続きを聞いてやることにした。この手のホラーは、どうせ背中に幽霊か化物でもしがみついていた、とかそういうやつだろう。


 「なんでかっていうと、帰ってきたおじさんが全身血まみれだったから、だって。しかも、おじさんは奥さんが悲鳴を上げるまでそのことに気付かないの。それでなんだろうって怪しんだおじさんが自分の体を見ようとした瞬間・・・」


 「瞬間・・・?」


 「―――プツッって、首が取れちゃったの。そのまま体のいろんなところが不自然にズレて―――バラバラに」


 「ギャー!痛い痛い痛い、そしてグロい!そんな不健全なもの見ちゃいけませんお兄ちゃん許しませんからぁ!」


 というか、大惨事過ぎる。本当ならとっくにニュースでやっているはずだ。ホラーエンドの方がよっぽどマシだった。直華にそういう不適切なコンテンツを提供する都市伝説サイトに迅雷は申し立てしてやりたくなった。


 「つか、どこもそんな空気じゃないだろ。その辺を子供だけで歩いてるし」


 「うーん・・・まぁ。でもでも、都市伝説なんてそういうやつだもん!楽しんだもの勝ち!」


 「謎の達観。・・・でもマジなら恐いな。たぶんこっちに棲み着いたタイプのモンスターかなにかだぜ。危なっかしいな」


 ギルドに足を運ぶ回数が増えると、自ずと先輩魔法士たちとの交流も増える。そうするとだんだんいろんな知識もつくものだ。

 そんな話の中には、この「定着型外来生物」と言われるモンスターの駆除以来が酷く大変だった、なんていう愚痴もあった。なにせこちらでの生活が長くなると食べ物の違いでモンスターの魔力成分が白に偏り、黒色魔力センサーにかからなくなってしまうのだ。おまけに、異世界の環境に比較的短期間で適応してしまうような個体なだけあって強かったり賢かったりするようだ。見つけるのにひと苦労。討伐でもひと苦労。このパターン自体レアケースだから大きな問題にこそなっていないが、それでも月に一度程度は報告があるものらしい。

 迅雷は、そんな話を聞かされて、今後似た仕事が来てもやりたくないなぁと思わされたものだ。もっとも発足して間もない『DiS』に仕事を選ぶほどの立場はないのだが。

 

 こんな内容の話を迅雷が垂れ流している間に2人はジョギングルートの8割くらいをぐるりと回り終えていた。人から聞いた愚痴でさえこんなに話が持ったのが驚きだったが、きっと直華が聞き上手だからだ。

 静かな一本道から賑やかな市街地に戻ってきて。ほどよく息は上がり、2人は走るのをやめた。タオルで汗を拭って風を浴びる。少し風がある日で良かった。心地良い涼風に疲れがほんの少し和らいでいく。


 「さて、じゃあコンビニ寄って飲み物と、あとアイスでも買っちゃうか」


 「お、アイス」


 アイスと聞いて直華がちょっと嬉しそうな反応をした。

 運動してすぐに冷たいものを飲み食いするのは本当は良くないらしいが、知らない知らない。健康のために若いうちから楽しみを取り上げられては堪ったものではない。


 しかし、意気揚々と家の近所の見慣れたコンビニに立ち入ろうとした迅雷だったのだが、その店先でヤンキー座りをしている1人の青年を見つけて顔色を変えた。


 「―――ふぉおっ!?」


 「わぷ」


 急に立ち止まった迅雷の背中にぶつかって直華が変な声を出した。鼻を押さえながら直華は迅雷の顔を覗き込む。

 迅雷の表情は強張っていた。


 「どうしたの、お兄ちゃん?」


 「ナ、ナオはとりあえず俺の背中に隠れといてくれ」


 「え、なんで?」


 「いいから」


 相手が相手なので、迅雷は一応の臨戦態勢を取って直華を自分の陰に入れた。

 その人物はまだ迅雷に気付いていないらしいが、どうも前と様子が違う。なんというか、分かりやすく刺々しい感じだ。


 このままスルー出来たのかもしれないが、なぜだか迅雷はそうする気にもなれず、「彼」に話しかけることにした。


 「な、なぁ・・・紺、さん?」


 「・・・あぁ?」


 迅雷を見上げた白髪交じりな紺色髪の青年は、今日は目だけでなく表情も笑っていなかった。

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