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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect98 ”のどかな後日談”


 軽やかにノックする音がして迅雷は目を覚ました。と言っても、寝ていたわけではない。ただ暇だから目を瞑って考え事をしていただけだ。

 迅雷は返事をしてやらねばならないと思って入り口の方を見たのだが、返事するよりも早くドアが開かれてしまった。なんて無遠慮なんだろうと思わなくもないが、そんなことを指摘する方がよほど今さらなのだろうか。


 入ってくるなり、真牙はベッドの迅雷にスキップで駆け寄って背中をぺしぺし叩いてきた。


 「水くせぇなぁー、もう!言ってくれたらオレも手伝ってやったのによー!千影たんのためなら例え火の中水の中チョコモナカなのによー!」


 「チョコモナカってなんやねん」


 「え、美味しいだろ?」


 「いや俺はバニラモナカ派だし。―――じゃなくて、うるさいし痛いから大人しくしてくれ」


 昨日の今日で迅雷は死にかけなのだ。むしろ今普通に起きてしゃべっている方が不思議なくらいである。包帯とガーゼだらけの今の彼は十分痛々しい姿をしているのではないだろうか。

 

 真牙の後に続いて慈音が入ってきた。怪我の具合はともかくとしても元気そうな迅雷の顔を見てホッとしたのか、小さく手を振ってやっほうと言ってきた。迅雷も真牙に抵抗しながらやっほうと返す。

 迅雷に押し退けられながら、真牙はそれでいつもの調子を感じたのか、少し安心した様子になった。迅雷としては真牙の面倒臭い雰囲気のおかげでだいぶ痛い思いをしたので気に食わない。先に来てくれた直華や真名のようにちゃんといたわって欲しいものだ。

 

 真牙はマジメになって迅雷に説教をかます。


 「でも本当だぜ?せめてオレとか慈音ちゃんあたりには教えてくれても良かったじゃねぇか。なんのための仲間なんだよ。まぁ、出来れば手を貸してやれるのが一番だけど」


 「そうだよ、もう。いきなりとしくんがボロボロになって入院しましたって聞いたとき、しの心臓が止まっちゃったんだからね?」


 「それはなんていうか生きててくれて良かった」


 さりげなく自分よりも危険な状態に見舞われたと自称する慈音にツッコみつつ、迅雷は2人の心遣いには唸った。正論のようで、そうもいかないのが現実なのだ。


 「無茶言うなよ。頼んだところで2人とも門前払いだったろうし」


 「知るかよそんなん。現場でコッソリ待っときゃ良いんだから」


 「どっちにしてもダメだ。・・・分かるだろ」


 迅雷が目を伏せると、真牙も微妙な顔になった。というのも、今朝になってようやくギルドが昨夜の一件とそれに関する情報を開示したからだ。いずれは明るみに出る惨事の数々だ。細かな話も潔くつまびらかにしたようだった。

 でも、迅雷が特に驚いたのは、その報道の内容に千影の発言がほんの少しではあるが反映されていたことだった。元々敵意を剥き出しにしていた魔族とマジックマフィア『荘楽組』による介入の話だ。もっとも、それが事実だから、千影がいくら疎外されていたとしても覆い隠す方がおかしいのだが。

 

 そんなことがあって昨日の情報は出回っており、事前に待ち伏せしようものならどんな結果になるかは真牙も慈音も分かっていた。

 だから迅雷は申し訳ないとは思うが、自分が間違っていたとは思わないようにしていた。


 「昨日のは俺のワガママでやったことなんだし、大目に見てくれよ。真牙とかしーちゃんまであんな目(・・・・)に遭わせてたら俺が立ち直れない」


 「藤沼・・・あいつ、本当に死んじまったのか?」


 「しのもちょっと・・・信じられないよ・・・。だって、なんていうかね、えっと・・・」


 誰からも好かれていなかった藤沼界斗でも、突然死亡を報じられれば彼を知る学園の生徒たちにはショックが走った。まだ親も若い年代の高校生である迅雷たちには、見知った誰かの死に耐性はないのだ。

 そればかりか、昨日の作戦には界斗の父親もいたらしいと聞いて、迅雷は恐くなった。その父親の気持ちを思うとあまりにも屈辱的過ぎるものがある。

 近々学校で、界斗のことについて、夏休み中にも関わらず臨時の全校集会をするらしい。


 「でも・・・としくんだってもしかしたら・・・!としくんだけそんなこと言って、しのたちには秘密なんてひどいよ・・・。しのだって、としくんがいなくなったら立ち直れないよ?いっつもいっつもみんながとしくんのこと、どれだけ心配して待ってるのか分かってるの?」


 「分かってる・・・とは言わないけど、俺、千影に言われて気付いたことがあるんだ。俺はなんのために戦ってたのか。そしたら、すげぇくだんなくてさ、今まで結局なにをしたかったんだよってなったんだ。今本当に大切なものは、今目の前にあるのにさ」


 「む、なんかよく分からないけどカッコイイこと言ってるみたいだけど、そんなの言い訳にはならないんだからね」


 「うっ・・・。そ、そう言うとは思ってたけどね・・・」


 こういうとき迅雷は慈音に弱いのかもしれない。痛いところを突かれた。ふくれっ面をする慈音を前に迅雷はたじろいだ。

 というか、随分前のめりになって言ってくるものだから顔も近いのだ。ついでに言うと夏らしく涼しい格好の慈音は襟元が無防備で、しかもまな板だからそのまま危ないところまで見えちゃいそうなのだ。

 見て興奮するほどおっぱいがおっぱいになっていないのだが、なんとなく申し訳なくて迅雷は目を逸らしながら慈音を宥め制した。


 「で、でもな。だから俺、決めたんだ」


 慈音は怪訝そうにする。真牙が言ってみろと迅雷に促す。文句を準備している顔だ。そしてきっと迅雷はその文句からは逃げられない。でも、それでも構わない。迅雷は胸を張って公言することにした。


 「俺はこれから、俺の好きなようにやる」


 「・・・いやいやいや、いきなり自己中発言かよ!?」


 「そうじゃないけどさ。まぁ聞けって真牙」


 今の言い方は少し語弊があったかもしれない、と迅雷は反省する。別にワンマンアーミーになろうとか、パーティーは抜けるとか、そういう意味ではないのだ。

 

 「もちろんこれからだって俺は『DiS』のメンバーとしてやっていくし、ライセンサーとしても真面目にやるよ。だからこう・・・なんか、アレだよ。その戦いにも自分なりな意味と理由をちゃんと見据えて、そのために戦おうって」


 「なんだそりゃ。なに当たり前のことをそんな偉そうに言うんだよ」


 「そう、当たり前。俺はそっから既に欠けてたんだよ」


 馬鹿を見る目をする真牙に迅雷は苦笑した。だからくだらないと思ったのだ。真牙も慈音も呆れた顔だ。


 「としくん、ユイさんとの約束守って頑張ろうとしてたからちゃんと理由はあったんじゃないの?」


 「そうなんだけど、そうじゃないっていうか・・・本当に目指すところを知らなかったんだと思う」


 言われた仕事だけを無心にこなす機械人形となにも変わらなかった、というのが迅雷の回想だ。ただ市民を守って戦うヒーローを目指すだけなら、それがわざわざ迅雷である必要なんてない。迅雷は、迅雷として剣を握らないといけない。

 誰も今までの迅雷を見ていてその歪さに気が付かなかったが、千影だけがそれに気付いて諭してくれたのだった。慈音はまだよく分からないのか首を傾げている。


 「まぁそんなわけで、俺は以後今までよりもちょっとだけ勝手に振る舞うので、よろしく」


 「いや、よろしくって言われてもなぁ」


 真牙は困り顔になった。一方で慈音は最初こそ真牙と同じ顔をしたが、すぐに嬉しそうな笑顔になった。 

 「うん―――うん、そだね!としくんはそれでいいのかもしれないよ。しのは応援してるからね」


 「ありがとな。まぁだからこれからも無茶するだろうけどさ、そんときは頼むよ」


 「そのときは今度こそしのがとしくんを守ってあげないとだね!任せといて!」


 慈音は(ほとんどない、あるいは小学生よりもない)胸を張ってドヤ顔をしている。頼もしいというかなんというか。それを見て真牙も折れたので、わざわざセットしてきたであろう髪を無造作に掻いて溜息を吐いていた。迅雷は得意げに笑ってやった。


 「真牙も頼むぜ?」


 「分かったよ。いくらでも力を貸してやろうじゃねーか。なんたってオレの方が迅雷より強いんだし?」


 「あ?」


 「お?」


 「よし分かった。ケガ治ったら決闘だ!」


 「望むところだぜ!病院に送り返してやんよ!」


 「ちょっと、としくんも真牙くんもストップぅ!?」


 慈音が迅雷と真牙の間に割って入ってもみくちゃになっていると、ものすごい勢いで病室のドアが開けられた。3人がビクッと肩を震わせてそっちに注目すると、ドギツイ化粧をした(そこそこなお年に見える)看護婦さんがギラギラ光るメガネを指で押し上げ、3人を睨み付けていた。


 「病院ではお静かに!!」


 「「「はい!ごめんなさい!!」」」


 ピシャリと戸を閉め、ツカツカとせっかちな足音が遠退く。


 「・・・いや、どっちが静かにしないとなんだっていうな?」


 「真牙。看護婦さんたちも疲れてストレスメータが振り切れてんだよ。あんまり言わないであげなさい」


 というか、真牙もなかなか辛辣なものだ。それくらい察してあげられるだろうに。相手が女の子でなくなった途端に女性への態度もこんなのだ。悪い子である。仮にも剣道の経験者なのだからもっと年配の人を敬う気持ちくらいは持っているべきなのではないだろうか。


 「・・・あれ?そういえばしのたち、なんのお話で騒いじゃったんだっけ?」


 慈音が小首を傾げてそんなことを言う。顔からして多分本気だ。

 迅雷と真牙はちゃんと覚えていたのだが、目を合わせて、せっかくだから忘れてしまったことにした。


 「「さぁ、なんだっけ」」


 そこで話が途切れて、部屋の外の様子が音でうっすらと聞こえるようになった。迅雷の世話をしてくれた看護婦さんが言うには昨夜と比べればだいぶ長閑になったらしい。

 昨日の事件でケガを負い、意識不明で病院に運び込まれたのは迅雷を含めて10人と少しだったらしいから、その家族や親戚が病院に飛び込むようにやってきたのだろう。てんやわんやの様子は目に浮かぶようだ。


 無事を確かめ波が引いた後もしばらく残っている人たちが来たり返ったりの会話を聞き流し、真牙が「まぁ」と呟いた。


 「なんにせよ、迅雷が生きて帰ってきて千影ちゃんとも一緒にいれることになって、大団円だな」


 「うん、うん!めでたしめでたし!」


 多分大団円が聞き慣れなかったのだろう。慈音はちょっと考える顔をしてから諦めた風になって何度も頷いていた。雰囲気的にニュアンスは通じたのだろう。迅雷も素直に笑って締め括る。

 

 慈音も真牙も来たばかりで帰る気はなかったから、その後は迅雷が黙っていた千影失踪中のマル秘話なんかをして3人で盛り上がっていたのだった。

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