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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect90 ”終わらない戦い”


 「でも、そういうことだったとして・・・」


 もはやこれ以上岩破は迅雷たちに敵対するつもりはないらしい。そうと分かったとき、果たして迅雷は彼とどんな風に話せば良いのか、よく分からなくなってきた。だって、年上の人は目上の人というのが日本人の考え方だ。褒められた人ではないと分かっていても年上相手にタメ口を利き続けるのが妙な気分になってきて、迅雷は変なところで言葉を切ってしまった。

 しかし、そんな迅雷の心中を察したのか、岩破は大きく肩を動かして溜息を吐いた。なにかと思えばいっつもくだらないことを考えているものだ。


 「敬語なんざ要らねぇよ。元々ウチの連中だって俺にゃあ敬語は使わねぇんだ。中にゃ好きで使ってるやつもいるが、そいつもただの口癖みたいなもんさ」


 「あ、そうなんだ。・・・じゃあ、改めて・・・そういうことだったとしてこれからどうするんだ?そっちの取引っていうのはどうなるんだ?それにこっちの魔族とのいざこざだってなんも解決してねぇし―――って、ああああああ!?」


 「「!?」」


 思えばそうだ。迅雷は千影の次くらいに大事だった用事をすっかり忘れていた。気が抜けたところで大声を出したら、急にクラッときて迅雷は瓦礫の山に倒れ込んでしまった。既に怪我していた後頭部に追い打ちのように石の角が当たった激痛で2メートルくらい跳ね上がる。

 いきなり叫んだり転んだり飛び跳ねたりする迅雷を見て千影と岩破も目を丸くしている。


 「あぎゃあっ」


 「だ、大丈夫?とっしー」


 「お、おう・・・いや、やっぱり分かんねぇ・・・」

 

 涙目になりながら迅雷はフラフラと立ち上がった。やられると分かっていれば覚悟次第のところだが、こういうダメージは見た目以上に堪えるものだ。

 

 「と、とにかくそうだよ。なんも解決してないじゃんかよ。どうすんだよこれ、こんなことになっちゃって!」


 「そう一気にまくし立てられたって困るが、悪魔どもは俺がここに到着するより先に紺が一匹残さずブッ殺したぜ?」


 「はぁ!?こ、殺した!?なにしてんだあの野郎は!?」

 

 「いや、それはボクがお願いしたんだけどね」


 千影がそっと手を挙げてそんな発言をしたものだから、そんな話は聞かされていない迅雷は仰天ものだ。


 「なんでだよ!?これじゃホントにもうどうしようもないじゃないか!」

  

 血圧が上がって鼻血が出てきたが、迅雷は構わず千影に怒鳴った。こればかりはこの世界で安穏に暮らしてきた1人の人間としては看過できない。せっかく得られた交渉の場を物理的にぶち壊すだけでは飽き足らず、まさか対話すべき相手を横入りして殲滅するなんて、もはやテロリストの所業だ。

 迅雷は今一度千影や岩破たちが表世界に生きる自分とは違う価値観の中に生きてきたのだと実感した。その上で迅雷は、これからその千影の在り方とどう付き合っていくべきかを考えていかねばならない。

 

 とはいえ、やはり彼らのことだ。言い訳次第では迅雷も理解出来なくはないだろう。納得するかは別として、だが。

 

 「・・・理由はあるんだよな?」


 「元々ヤツらも人間連中を皆殺しにするつもりだったのさ。どっちにしろ話し合いなんざ最初っから成立するわきゃなかったのよぉ」


 「魔族の動向を細かく見ていたのはボクだけだったからね。魔族側の戦力は未知数だったから確実な対応をしただけだよ」


 「そんな・・・いや、そうだったのか・・・」


 依然として解決手段における暴力の優先順位が高すぎる気もしないではないが、その判断は間違っていなかっただろう。魔族が初めから攻撃の意志を持っていたならそれなりの戦力を呼びつけている可能性もあったからだ。結果的にそういうことはなかったようだが。

 千影は元々、迅雷を含めた人間サイドには誰一人として死なせるつもりはなかった。だから紺という大戦力を投入して事前に解決してしまったのだ。相変わらず幼くて短絡的な発想だけれど、今回はそれが正しかったのかもしれない。


 「でも、最悪な結果になったな。事情はなんであれ外面的には軍事国からの旅行客をテロで虐殺したようなもんだ」


 「でもやったのは『荘楽組』っていうひとつの組織だよ?責任を負うのはボクたちだけで―――」


 説明役を気取る千影の頭に、また岩破が右手を被せた。優しいが、今は厳しさが目立っていた。


 「千影。それは違ぇぞ。俺たちなんざ世界の中で見ればちっぽけな存在だ。どっかの国の組織がなんかすりゃあ、他所の連中ってなぁその国の人間全部が過激派に見えてきて警戒する。こいつぁどこの世界に行ったって変わりゃしねぇんだ」


 「え・・・で、でも、それじゃあ―――」


 「そぅさ」


 戦いの運命は避けられない。千影の判断は正しくもあり、間違いでもあった。でも、岩破は彼女を戒めはしても叱るわけではなかった。そこには、岩破がいろいろ見てきたなりに積み上げてきた私見があったからだ。


 「でも、俺が思うにこいつぁずっと昔から決まってたレールの上なんだ。例え誰がなにかしてもしねぇでも、結果は変わらねぇ。そう思えば、千影も、ボウズも、辛ぇ時代に生まれちまったなぁ」


 辛い時代。それは、戦争の時代、という意味になるのだろう。どちらか片方が争い滅ぼすことを目指しているなら話し合うことに意味なんてない。せっかく言葉を操るほどの知性を持った生き物同士でありながらその特性を全く蔑ろにして睨み合うだけの、それはそれは、辛い時代だ。 


 けれど、ならば幸せな時代とはいつだったのだろう。今日も、昨日も、明日も、どこかでなにかは生まれ、無数の世界たちへ波及する。

 だからきっと、岩破の言葉は半分合っていて、半分違う。


 「俺は、そうは思わない。確かに嫌だよ。辛い思いするのはさ。誰だって嫌だ。でも、辛い時代を幸せに暮らしたいからこうやって頑張るんだと思う」


 「とっしー・・・。うん、そうかもね」


 「がはははは!」


 真面目な話をしたつもりなのに岩破が急に笑い出すので、迅雷も千影もギョッとして彼の方を見た。

 不幸も幸福も本当は一緒にあるものなのだ、と、迅雷はそう言っているのだ。ただ人がその時々で感じるのはそのどちらか一方だけだから、辛い時代なんてものが存在する。

 今日は迅雷や千影にとってそのどちらだったのか。岩破も岩破で迅雷に負けず劣らず傷だらけだったが、だからこそ芯に感じるものがあった。それが可笑しいのだ。


 「違ぇねぇ!まぁ、なんとかなるだろうよ。なぁそうだろ、神代迅雷少年?お前ぇの父親は大したヤツだ。俺も疾風のやつから恨みは買いたくねぇ」


 ―――やっぱり俺のことも普通に知っているじゃないか、と迅雷毒づいた。


 「みんなしてボウズボウズって」


 「だってまだガキじゃねぇか」


 「はいはいそうですね。・・・でもまぁ、そうだよな。確かに父さんがいるのは頼もしいかな」


 「あぁ」


 敵にまでそう言わせる疾風のすごさを迅雷は再認識する。追われる側からすれば彼なんて真っ先にいなければ良いのにと思われそうなものなのに、それがないのだ。


 「あと恨まれたくないって言うけど、じゃあなに?手加減してくれてたのって―――」


 「残念だが俺は別に手加減(・・・)はしてねぇぞ。してたのは油断でぇ。俺もボウズも、ボウズのことを過小評価してただけだ。おかげで勝たせる気もなかったってのにこのザマよ」


 またボウズと呼ばれてムッとしつつ、迅雷は少し頬を緩めた。岩破が迅雷の能力を認めてくれるような発言をしたからだ。岩破は少なくとも魔法士としては遙かに格上で、その彼に認められるのなら、それは自信にはなろう。

 

 と、話がひと段落したような雰囲気になっているが、もうひとつ問題が残っている。それを忘れていない迅雷は話を振り戻した。


 「それで、そっちの取引はどうするんだ?メモリも壊しちゃったし」


 そもそも、取引場所がこの有様だ。今頃ニュースで速報でもされていそうなほど派手に破壊され、今も地上にはギルドが召集したたくさんの魔法士たちがいる。品物の安否を確かめるより先に件の取引相手はここに辿り着けないのでは、とさえ思える。なにせ日陰者同士の怪しい商売だ。

 ただ、迅雷のそんな感想に対しては千影が答えてる。


 「元々それが狙いだったんだもん。ギルドの人たちがいる間はあの人も顔を出さないはずだから、そのうちに決着をつけようって」


 「なるほどな。それなら一応うまくいったってことになるのかな」

 

 「まぁそうなるね。でも」


 「・・・?でもって、なんだよ?」

 

 不穏な間を感じて迅雷は表情を険しくした。もう取引は成立しないはずだ。千影の目論み通りになったというのに、彼女の顔は今ひとつ晴れきらない。相手の報復を恐れているとか、『荘楽組』が被る不利益を心配してのことだろうか、と迅雷は考えを巡らせた。でも、千影が彼に打ち明けたのはそのどちらでもなく、そしてどちらともかけ離れたものだった。

 千影の戦いはまだ終わっていなかった。


 「とっしー。それと、親父も、聞いてもらえるかな」


 2人は頷く。千影はその最大の目的を暴露する。




 「ボクは今日、ここで、あの人を殺すよ」




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