表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
238/526

episode5 sect86 ”決死の下克上”


 千影の頬を、そよ風のように優しい余波が撫でていった。


 迅雷の渾身の一撃が岩破の反撃を力でねじ伏せた。実に荒々しく、それでいて見事でもあった。すぐに追撃を仕掛ける迅雷の姿を、彼に守られながら千影は眺めていた。


 「すごいや・・・ホントにすごいよ、とっしーは」


 強くなった。本当に強くなった。力だけじゃなく、もっといろんなところが。きっとそういうところで言うなら今の迅雷は千影なんかよりずっと強く成長した。千影は彼にそのきっかけの、ほんの一端でも与えられていたのだろうか。もしそうだったなら―――と思うと、とても複雑な感情だった。

 傲りも甚だしいところだが、誇らしくもある。彼を突き動かしたことを後悔はしない。そしてその上で自分をまだ見てくれていることが嬉しかった。守って戦ってくれるのが頼もしかった。

 でも、本当はこれ以上迅雷に過酷な戦いをさせたくなかった。こんなことを続けていれば、いつか彼は命を落とすかもしれない。そんな理不尽は望んでいなかった。だから『風神』を渡すことに強い躊躇いがあった。強すぎる力は不幸を呼ぶ。


 ただ、迅雷が決めた。

 それなら、千影は信じるしかない。迅雷が信じてくれたように。寄り添い、互いを守るのが2人が目指したい姿なのだから。

 

 それにしても、なにより一番驚くべき点は、やはり迅雷の振るう強大な力だった。

 その一点だけでも、千影はすごいと思った。

 まだまだ荒削りの原石に過ぎないが、あれが迅雷の秘めていた本当の力だと思い知った。勝手に封じておきながら、実のところ千影も迅雷のポテンシャルを完全には把握していなかったのだ。


 「これがとっしーの可能性・・・ううん、これでもまだ端っこだけだったりする?」


 あの魔力量から生み出される攻撃力はもはや、常識的な次元を超え始めていた。その圧にものを言わせ、迅雷は岩破の爆破魔法の鎧を強引に突破している。しかも、それに留まらない。少しずつだが、しかし確実に岩破に傷を与えている。

 それがどれほど驚異的な達成なのか迅雷には分かっているのだろうか。


 「親父が魔力で肉体強化をしたら、砲弾だって生身で耐えちゃうのに」


 徹底的にシャツの胸部分を狙ってくる迅雷を追い払おうと岩破は腕を振り回しているが、迅雷のフットワークがそれを容易にかいくぐってしまう。きっと岩破にとってはずっと周りを蜂が飛び回っているような感覚だろう。

 でも、まだまだだ。岩破がこの程度で済ませてくれるはずがない。迅雷のことも、岩破のことも見てきた千影にとって、今ほど可笑しい光景もないけれど、だからこそそんな状況が続くわけがないのである。油断している隙に彼を倒しきるのは不可能に近い。


 ―――今に始まる。日本国内で活動している数ある魔法暴力団(マジックマフィア)の中でも最も『暴力』の一言がふさわしいとまで言われた『荘楽組』の長を任されるような暴力の権化の戦いが。


 千影はゆっくりと四肢の感覚を確かめる。まだ、もう少し。


 迅雷を狙う岩破の目つきが少しずつ本気になっていく。


 「お願い、とっしー。あと少しだから、頑張って・・・!」


 

          ●



 このまま押し切るつもりで畳み掛けたが、敵はそう甘くなかった。岩破が油断を見せた隙を確実に突いて有利をたぐり寄せた迅雷だったが、反撃を許さないほどの勢いで双剣を荒れ狂わせたにも関わらず、カウンターを正面から叩きつけられた。

 防御用のものとは段違いに猛烈な爆破魔法だ。ここまで威力が上がれば、しばしば特別に爆裂と呼び換えられる領域だろう。見えた魔法陣を見て咄嗟に身を引いたものの、間に合わず爆風に殴り飛ばされた。


 今まで暴れた影響でもはやビルの10階だったこのフロアは天井だけでなく壁さえもがほとんど吹き飛んでしまっていて、外と内を仕切るものがほとんど残っていない有様だった。さっきのような爆撃で吹き飛ばされれば、次は地上何十メートルだかから地上に真っ逆さまになる可能性がある。

 迅雷は『サイクロン』を唱えながら床に剣を突き立てる二重のブレーキでなんとか滑り止めをかけ、チラリと背後を見た。顎まで伝ってきた汗を拭い捨てて岩破に視線を戻す。


 「危なく死んでたな―――」


 魔力による全身の強化に加えて相殺目的の『天津風(アマツカゼ)』を撃ったが、岩破の攻撃を防ぎきれなかった。体を庇った腕は軽く焼かれ、真っ赤になっている。

 その気になれば、こんなものだ。やはり次元が違う。そしてここからは、これが延々と撃ち込まれ続ける。今はまだ問題ないが、一発でも防御に失敗すればその時点で負けだろう。流れが向こうへと傾いてしまった。


 「さて・・・どうするか・・・」


 魔力だけならまだまだ有り余っている。ただ、一瞬でも『マジックブースト』を解けば膝から崩れ落ちそうなほど体は疲れている。恐らく足のところどころは肉離れしかけている。

 岩破が迅雷の方を向いた。その体は誰が見ても痛々しいほど斬り傷まみれだった。だが結局、それだけの攻撃を届かせておきながら迅雷は肝心である岩破の胸部には一撃も入れることが出来なかった。

 攻勢が途切れた今、迅雷は今まで以上に冷静にならざるを得ない。むしろ今まで押せていたことの方があまりにも奇跡すぎるほどの大物が相手なのだ。


 岩破が掌を迅雷に向ける。迅雷はとにかく素早く横へ逃げる。直後、大爆発。床にヒビが入っている。このままやらせれば床が崩落するかもしれない。でも、止める手立てがない。

 爆風に煽られ腕で目を守るが、追撃が来た。再び目を開いたときには遅かった。


 「ッ―――がぁぁ!?」


 火だるまになって転がる。死に物狂いで風魔法を使って火を吹き散らすが、起き上がったところには、また目の前に爆裂魔法が待っている。後は―――断崖絶壁。壁を失ったフロアの縁だ。

 逃げ場はない。爆発から身を守る手段もない。直撃を耐える体なんてない。なら、なら、なにか未然に防ぐ手は―――。


 「そうだッ」


 未然に防ぐ。そんな当たり前の戦術を忘れていた。


 無駄と知っていて逃げかけた足を無理に前へ持っていって、迅雷は体重を乗せて『雷神』で水平斬りを繰り出した。狙いはそう、目の前で輝きを増す魔法陣だ。その刃は呆気なく高密度の魔力の塊を両断した。

 思えば、そうなのだ。魔法陣とはいわば魔法という現象が起こる直前の姿、つぼみのようなものだ。当然それは圧縮、成型された魔力の塊であり、そうして加工された魔力は一定の物理的実体を得るのではなかったか。

 場合によっては盾代わりにすらされる魔法陣はつまり、こちらからの物理的干渉によっても破壊可能なのだ。今まで魔法は見て躱すものだ、と魔法戦の大前提のように教わり扱ってきたが、それだけでは実用に全く足りていないと分かった。学校が教えてくれるのはあくまで安全な身の守り方ということだ。


 魔法陣が破壊されたことで内包されていた魔力が放散された。しかし、本来起こるはずだった爆発と比べれば全く問題にならない。迅雷はそのまま光の中を真っ直ぐ走り抜ける。

 岩破はさらに連続して魔法を放つが、迅雷その全てを斬り、破壊してみせた。遠くのものには『雷神』を投げつけることで対応し、その度に『召喚(サモン)』で手元に戻す方法を採った。学内戦で対真牙戦でやった技だ。

 一心不乱に剣を振るって迅雷は岩破の懐を目指す。本当は『風神』にも『召喚(サモン)』のマーキングが出来ていれば良かったのだが、今はその隙もない。余計なことは考えず、ひたすら岩破の攻撃を処理するのに集中した。



 が、赤光。


 追いつかない。

 追いつかない。

 斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても斬っても。

 追いつかない。


 どんどん潰しきれない魔法陣の数が増えていく。展開が加速する。増大する。間に合わなかった陣が火を噴けば、たちまち迅雷は吹き飛ばされる。


 「近付けねぇ・・・けど、こんくらいで―――!!」


 敵の起こす爆風に乗る―――今までもよく使ってきた戦術だ。自力で近付けないなら他力を借りれば良い。これだけの威力を借りるのは自殺行為に等しいが、それ以外に方法がない。

 迅雷は前方の魔法陣だけを潰し、背後の爆発を待った。


 そして。


 光に呑まれるような感覚の直後、背の肉をごっそりとけずられるような激痛が走った。だが、体を張った帆に風は受けた。木っ端微塵になりそうな苦痛と激熱で頭の中がグチャグチャになりそうだ。

 ただこの一瞬、一戦に勝利したい一心で迅雷は吠える。戦意が彼の意識を現実に繋ぎ止めた。


 「ぐぎッ・・・あああぁぁぁぁぁあ!!」


 「!?」


 「ぁぁぁぁ!!」


 岩破だって、まさか、迅雷があの爆撃を敢えて受けるとは思わなかっただろう。戸惑っている。してやった、と迅雷は苦し紛れながらも笑いたくなった。格下の悪足掻きほど侮れないものはないと思い知れば良いのだ。迅雷は何度だって、思いつくかぎりの方法で挑み続けてみせる。

 負けたくない。勝ちたい。背負った命運ではなく責任でもなく、ただこの勝負を迅雷は諦められない。今まで散々諦めて妥協して甘受して生きてきた他でもない自分自身と、そして千影のために。


 「今度こそ・・・届、けェェェェェェ!!」


 「こんの――――――ッ」


 このために負った傷は深い。でも、それで届くなら別に構わない。死ぬより良い。死なすよりずっと良い。ほんのわずかな間、音すら追い越した気がした。目まぐるしいまでの圧倒的な加速を、生身の体で実現した。弾けそうな圧迫も忘れ、迅雷はそこにある勝利を掴み取るために無我夢中で両手の剣を、振り抜いた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第1話はこちら!
PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

❄ スピンオフ展開中 ❄
『魔法少女☆スノー・プリンセス』

汗で手が滑った方はクリックしちゃうそうです
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ