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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect79 ”誰もまだ諦めてなんていない”


 「でも、応援ってどこから集めるんですかね?」


 「ん?きっとギルド内から人員を出すんじゃないか?」


 「あー、なるほど」


 「でも、応援が到着したらどうするんだ?」


 「それは・・・突入して連中を取り押さえるんじゃないっすか?なんだかんだって名前言ってたけど、あれは多分マジックマフィアの連中だろ。あんなん初めて見たけど、事件起こしてる段階で要は犯罪者なんだし、放置は出来ないっすよ」


 「だ、だけどあの山崎さんや斎藤さんを退けるような戦力ですよ?未知数すぎます・・・」


 「あぁ、3号車の方も不意打ちとはいえ一瞬で全員やられたからな。・・・正直、頭数揃えて殴り込んだって―――」


 ビルの正面、南口の前に、今回の作戦に参加していたほぼ全員が集合していた。いないのはビルの中で戦っている若干名だけだ。千影に襲われた3号車のメンバーの中には未だに意識を取り戻さない人もいるが、医療班の懸命な救助活動により一命は取り留め、背負われて一緒に合流していた。

 今は情報交換やこれから取るべき行動についての会議が多くされていた。魔族との会合に直接参加する予定だったギルドの役員も既に電波の復旧に気付いて本部に増援を要請はしていたらしい。

 そんな中で、そもそも会談の件はどうなってしまうのだ、と嘆く者もいる。それは主に政治関係者やIAMO関連組織の人間たちだ。


 そんな一方で、そのどちらでもない人もいた。例えば、ただあのビルの中にいる生徒たちの安否が心配で仕方がない由良とか。

 ビルの最上階では激しい爆発が続き、瓦礫は不定期に地上へも落下してきている。そして、最上階だけではない。あちこちから低い轟音や激しい銃声が漏れ聞こえ、煙が噴き上がり、あるいは人の絶叫さえもが下に届いていた。

 由良はもはや会談の行方もマフィアの件もどうだって良かった。魔族との衝突があるかもないかもなどという曖昧なものより、確かなものを望むものだ。だから、みんなに無事で帰ってきて欲しかった。


 「私が・・・ちゃんと引き止められていたら・・・」


 そんなとき、誰ともなく、建物の入り口を指差してあっという声を上げた。

 出てきたのは、傷だらけの男女だった。見覚えがある2人に由良は目を見開き、そしてすぐ、激しい悪寒を感じて立ち上がった。


 「なっ、なんで2人なんですか!?あとの3人は・・・神代君と豊園さんはどこに!?どこにいるんですか!!」


 「いや・・・降りてきたのは俺たち2人だけだ」


 「そっ、そんな・・・!あんまりです―――」


 その一言だけで由良は頭を殴られた目眩を感じた。彼らが子供たちを見捨て、置き去りにし、ここまで逃げ帰ってきたのだと思ったからだ。言わんこっちゃない、の一言で済ませるにはあまりにも犠牲が大きすぎる。言葉が続かず声を詰まらせた由良に、しかし、ジャージの女性、篠本の方がすぐに情報を付け加えた。


 「そっ、それは早とちりですよ!」


 「それじゃああの子たちは!?大丈夫なんですか!?」


 「お、落ち着いて、ね?今は3人とも5階で応援を待っているはずよ。そう伝えてあるもの。こっちの佐藤さんが魔力切れを起こしたから私が連れ戻しただけで・・・」


 「あ、えっと、な、なんだ・・・そうだったんですね・・・。つまり、みんな無事ってことで良いんですよね?」


 「ええ」


 「ふあぁ・・・」


 今度は急に安心してくらりとしたが、由良は篠本が指差した5階を見上げて、まだ安心出来ないと思い直した。


 「ごめんなさい、取り乱してしまい」


 「いや、仕方ないわよ。先生なんでしょう?心配で当たり前よね」


 「そうだぜ。しっかし2号車の人たちはなにをしていたんだ?建物の中でも全然合流出来なかったし・・・通信も妨害されていたし」


 「あの、通信は復帰したみたいです。それでさっきギルドの方が応援を呼んでいました」


 「え、そうなの?ま、まぁどっちにしても2号車の魔法士が誰も来てなかっ―――」


 そう言う大学生の佐藤だったが、向こうで休まされている山崎貴志たちベテラン魔法士の姿を見つけて息を呑んだ。


 「まさか・・・あの人たちが撤退させられたのか?」


 「そのようですね」


 「くそ、なんてこった!!」


 「佐藤さん、実は私たちって判断を間違ったんだじゃ・・・?」


 篠本の一言に、過剰なまでの速さで「なにを今更」という視線が集まった。やっと地上に戻ってこられた2人は、遅すぎるくらい遅れてようやく、今の状況がどれほど危険だったのかを理解した。たった3人を、しかも疲れ切った彼らを敵陣のど真ん中に残して来たのがどれほど冷静さを欠いた判断だったのか思い知った。


 「こうしていられねぇ!は、早く助けを出さないと!」


 「いえ、待ってください。だから、今ギルドに応援を呼んだらしくてですね。それを待ってからの方が確実かと・・・」

 

 由良が佐藤を落ち着かせようとするが、そこに篠本が話を挟んできた。中にいたからこそ彼女たちだけが分かっている事の状況があるのも確かだった。この場においては貴重な、5階までの内部の情報だ。


 「それなんだけどね、私たちが下に降りていくとき、水色髪の女の子と擦れ違って・・・あの子、あなたのところの生徒さんで、『高総戦』のときすごかった子でしょ?」


 「天田さんですね!?彼女は無事でしたか!?」


 「無事もなにも・・・圧倒的だったわよ!なにもかも氷漬けにしちゃってて!恐らくだけど、もう5階まで行っているんじゃないかと思うわ。多分連れ帰る目的であれば今ここにいる人数でもなんとかなると思うわ」


 篠本と佐藤が雪姫の通った跡で見たものは、体を氷漬けにされて身動きの取れなくなったならず者たちと、地吹雪すらある、さっきまで自分たちがいた場所と同じところには見えないようなフロアだった。

 あの氷がそう簡単に解けるとは思えないので、しばらくは敵の心配は薄い。そうと分かれば、話は決まったようなものだ。今すぐビル内の仲間を救出しようという動きが生まれた。


 ―――が。


 「いえ、みなさんが行く必要はありませんよ」


 逸りだした一般人たちの動きを制するかのように重い衝撃波が走った。アスファルトの地面がビルの中へ向かおうとした考えなしたちを妨害するために大きくめくれ上がる。

 そしてそれは、たった一人の人間が剣を振るった余波だった。


 「な、なんですか今度は!?」


 「医療班の方はなんていうかまぁその、ご苦労様でした。素晴らしい対応だったと思います。疲れてるでしょうから休んでて結構です。で、魔法士の方々も手出しは無用です。無駄な犠牲は避けるべきですから。あと、ギルドからの増援も来ません」


 好転しかけていた流れを完全に破壊し尽くす発言で全員を震撼させたのは、他でもない、小西李だった。

 だけれど、彼女の発言は他の魔法士たちの心意気と熱意を蔑ろにするものだった。作戦に参加してきた時点から既に信頼しかねる様子しか見せなかった李だ。誰もが彼女に反感を抱いた。


 「なに勝手なことを言ってんだアンタ!!」


 「そうだそうだ!大体、5階まではクリアされてるんだろ!危険は少ないはずだろうが!無駄な犠牲?ナメるなよ!」


 「増援だって来ないはずないじゃない!」


 「ギャーギャーと!!」


 李が剣で地面を突き、ギャリンッ!という鋭い音が響いた。脅しじみたその行為に文句を言う有象無象が口を閉じた。李はその静寂に対して背を向けたまま怒鳴りつけた。


 「うるさいんですよ!!敵はいます!そしてあなた方が束になっても勝てない!増援は私が断りました!以上質問も文句もナシ!!」


 吐き散らかしてもう胃液さえ枯れ果て、出すものが腹の中にない李は代わりに鬱憤込みの絶叫を吐き出した。深く息を吸って、吐いて、李は心を落ち着けた。


 「あとは私がなんとかしますから」


 黙りこくる一般人たちの前から歩み去り、李は単身ビルに踏み込んだ。

 もはや対談は始まる前から破綻していた。ここからは、李たちの仕事だ。



          ●



 「が・・・ぁ、ぅ・・・」


 狩沢は全身火傷だらけだった。


 「ハァ、ハァ・・・やっとぶっ倒れやがったな・・・くそったれめ。なかなかしぶてぇ野郎だったじゃねぇか。こんなにやるとは思わなかったぜ、アンタ」


 「くそ・・・」


 焦もまた、切り傷だらけだった。ナイフを振り回す強面とはいえ、自分が今戦っていた男はただの一般人だったのだから驚きだ。


 「チョイワル風のくせに根性はあったな。ここ最近やり合ったヤツの中じゃアンタが一番強かったぜ」


 「う、るせぇ・・・。見た目は・・・お前には言われたくねぇな・・・」


 「あ?まだ元気残ってんなぁ。焼き加減が足りなかったか?」


 「ほざけよ。もうウェルダンだ」


 「ホントに素晴らしい根性してやがるな。気に入ったぜアンタ。トドメの前に名前聞いといてやるよ」


 フロア全体の室温が急激に上がるほど苛烈な炎を掌に凝集させ、焦は柄の悪い笑い声を上げた。

 名乗りを求められた男は握っていたナイフを床に置き、潔く目を瞑った。


 「狩沢凌汰だ」


 こんなときに限って、自分が担任を受け持っているクラスの子供たちの顔が浮かんだ。


 (あいつらは、俺が死んだらどうなるんだろうな・・・。まだ10歳やそこらの子供に、身近な人の死は重すぎる。全員が全員、あの子のように前向きで明るくいられるはずがないんだから)


 その、あの子。元気で少しおっちょこちょいでクラスのアイドルみたいな、あの子。担任をするとなってあの子の資料を預かったときはとても緊張したのに、いざ顔を合わせればそんな素振りは微塵も見せなかった。

 でも、だからこそあの子にはこれ以上の残酷な運命を押し付けるわけにはいかないと思った。


 「カリサワ、リョウタ、か。確かに聞き届けたぜ。俺は焦だ。焦がすって書いて、焦。さらばだぜ、カリサワリョウタ!」


 「ッ!!」


 凌汰が再びナイフを握り締め―――。



          ●



 びちゃびちゃと生々しい音を立てて、口から血がこぼれた。全身の苦痛が生命の危機を知らせていたのに無視し続けたから、今度は視界まで時折霞むようになってきた。

 ただ、剣を握る感触と何度も叫んだ想いだけが確かに在るだけだった。


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