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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect74 ”視えないものを視る目”


 「かた・・・ッ!?」


 決まった。

 

 アドリブまみれだったけれど、迅雷と萌生のコンビネーション攻撃は成功した。


 けれど。


 「なんだ、軽いな!!」


 「しまっ―――」 


 「きゃあっ!?」


 迅雷が振り下ろした刃は鍛の肩に食い込んだまま、抜けなくなっていた。

 少し出血させた程度で終わり、迅雷の体は固定された剣を支点にして床へ垂れ落ちていく。

 鍛は全身隙だらけになった迅雷の腕を掴んで、萌生に向けて投げ飛ばした。躱す間もなく2人は衝突して、そのまま近くの部屋の壁に激突したが、それでも勢いは止まらない。そのまま壁をぶち破って2人はなにかの部屋に転がり込んだ。幅の狭い部屋だ。

 だが、迅雷たちに襲いかかる猛威はそれで止まらない。打ち付けた頭を押さえている暇はなかった。


 「み・・・しろ君、次!来るわ!!」


 「ッ―――!!」


 萌生が出した蔓の鞭に横へ弾き飛ばされた直後、迅雷たちが身をもって空けた壁の穴をさらに崩し広げて鍛の拳が飛んできた。

 瓦礫が弾け散り、その中に通っていた配線が火花を散らしながら千切れて飛んでくる。うねる蛇のように動きの読めないコードから迅雷は咄嗟に腕で顔を守ったが、ショートした電気コードの熱に触れてしまった。


 「ぁづッ!?くそ!」


 さっき投げ飛ばされたときは萌生の柔らかい胸がクッションになったりしてなんとか無事で済んだが、次はない。

 助けるためとはいえ萌生も加減する余裕がなかったのだろう。弾き飛ばされた勢いのまま迅雷は思いきり壁にぶつかり、肺を圧迫された。一瞬呼吸が止まるような気がして視界がブレる。

 しかし、鍛はまず、萌生に追撃を仕掛けた。先の一斬で迅雷の攻撃が恐れるに足らないと判断したのだ。


 軽いフットワークで萌生に肉薄し、鍛は隙を見せない最小限の動きで拳を繰り出す。 


 「潰れろ!」


 「誰が!」


 萌生は袖に潜ませていた種から鋭い木を生やしてカウンターに臨む。

 槍のように尖った枝の先端が鍛の拳に正面から突き刺さったが、拳骨に負けてそのままへし折られてしまった。


 「ぁッ!?」

 

 短い驚声が聞こえるか否か。轟音が掻き消して、床が揺れた。拳の風圧で小さな瓦礫が巻き上げられ、離れていた迅雷の体を叩く。

 閉じた目を開き、濛々と沸き立つ砂埃が見えた。カラリと木が崩れ落ちる音が微かにした。砂埃の向こう側に人影が動く。萌生ではない。影は煙を内側から押してやってくる。迅雷はゾッとした。まさか、こんなにもあっさりとやられたのか?あの、豊園萌生が?


 「と、豊園先輩・・・?」


 死・・・の一文字が浮かんで、すぐに沈んだ。そんなことは、きっと、ない。萌生だってそうやすやすとやられるような半端者ではない。

 迅雷はそれが心からの信頼か、自身の取った選択のツケではないかと感じる恐怖への言い訳か、結論づけることをせずに剣を握り締めた。もう迅雷は止まれないのだ。止めてくれる仲間の手を振りほどいたように、止めにかかってくる障害は全て叩き潰してでも乗り越えなければならない。なんだって利用すると決めたのだ。例え最後に後悔するとしても。

 故にひた、萌生の無事を信じて、迅雷は精神を持ち直した。

 

 「まずは1人・・・」


 しかし、ふざけすぎだ。肩は斬り込みを入れられて拳にも刺し傷を刻み込まれて、とっくに鍛はあんな馬鹿力を振るえる状態ではないはずだ。それなのに、彼はまるで痛みなどないかのように平然としている。

 痩せ我慢でもここまで来れば脅威かそれ以上だ。

 迅雷は立ち上がり、鍛を見据えて無理に笑ってみせた。そうでもしないと戦意が保てない。


 ―――だが。


 「そう構えるなよ。すぐに楽にしてやる」


 「へっ・・・これはヤバいな」


 言いつつ、迅雷は前に飛び出す。


 「なんだ?自殺でもする気か?」


 鍛は本気で迅雷を叩き潰すつもりのようだ。迅雷の目の前に立って、逃げ場を奪う。そして、まともな人間だったらこの至近距離では攻撃を躱せない。文字通り、迅雷をぐちゃぐちゃの挽肉にしてしまうような勢いで拳が飛んでくる。あの巨体のほとんどは筋肉。鍛のパンチはそれ自体がいかなる魔法にも勝る砲弾と化していた。

 


 ―――速い。重い。触れていなくても殴られる錯覚を引き起こすようなプレッシャー。でも、恐がるな。見ろ、見るのだ。



 「これで終わ―――」


 「らねぇ!!」


 「!?」

 

 だが、多分。


 誰もが迅雷のポテンシャルを甘く見積もっている。ランク1だから。まだ高校生になったばかりの子供だから。激戦の経験が浅いから。―――でも、本当にそうだろうか。どれも根拠に欠ける先入観でしかないではないか。例えば本人ですら制御不可能なほどに膨大な魔力。例えば独学で漕ぎ着けた二刀流の戦い方。―――しかし、それらを封じてなお、迅雷には手札が残っている。


 僅かに迅雷の眼光が揺れた。


 迅雷は一撃必殺の爆砕拳を身をよじることで、紙一重で避けてみせた。


 時の流れが極限まで引き延ばされた世界で、迅雷は敵が初めて驚愕に目を見開く瞬間を捉えた。


 迅雷が発揮したこの常人離れした反応速度は、千影と魔力慣れのための特訓を繰り返す中で手に入れた副産物だ。元々迅雷が培ってきた素養が、不可能なほどの高速と触れたことで開花したものと言っても良い。

 躱せない攻撃を躱し、突けない隙を突いて―――。


 「倒せない敵を倒す!!」


 「お前・・・まさか・・・!!」


 剥き出し壁の中の配線に左手の指先を掠らせる。迅雷はそこから流れ込んで全身を駆け巡る電流を完全に支配・制御し、さらに、増幅した。

 

 「『ファイナル・・・・・・スパーク』ッッ!!」


 

          ●



 自分でやっておいてなんだが、迅雷自身も『ファイナルスパーク』の閃光で目が眩んでしばらく立ち上がれなかった。おまけに全身が少し痺れている。慣れないレベルの大電力を一瞬で体内に取り込んだのが原因だろう。雷魔法使いでも感電はするものなのだなとくだらない実感を得た。

 だが、結局迅雷の視力が戻り痺れが消え去るまでに、鍛が迅雷を殴ることはなかった。もちろん、取り戻した後にも。


 「ハッ、ハァッ・・・倒した・・・んだな」


 目の前で倒れている鍛は、動き出す気配がない。

 小さく肩が動いて焦ったが、どうやら呼吸しているだけらしい。まぁ、あれだけ凄まじい電撃をまともに受けて正常なバイタルを保てているのは既に異常ではあったが。黄色魔力で体が高電圧や大電流に慣れている人間でない鍛は今ので死んでいてもおかしくはなかったはずだ。

 とはいえ、この男も千影の仲間だったのかと思うと、無事なことにはホッとしなくもない。勝手に思い込んでいるだけとはいえ、迅雷には鍛が複雑な関係にある人間に感じられた。


 しかしすぐに、迅雷は安心している場合ではなかったことを思い出した。鍛なんかの心配は二の次三の次だったはずで、そう、だから彼女の無事はどうなのだ。


 「そうだ、萌生先輩!!」


 一気に恐怖が蘇り、迅雷は慌てふためいて床に出来たクレーターに駆け寄った。


 だが結局、幸運にも迅雷の心配は杞憂で終わってくれた。迅雷を見上げ、萌生が微笑む。


 「・・・無事、だったようね」


 「先輩・・・ぁあ~、良かったぁ・・・!バラバラにされてたらどうしようかと思いましたよ!ホントに無事で良かった!」


 本心と多少のエゴで、迅雷は今度こそ心から安堵した。萌生はやや縁起でもない後輩の発言に苦笑する。


 「さすがに危なかったけど・・・ね・・・。でもあなた、すごいのね」


 「なにがです?」


 「だって―――勝ったんでしょう?」


 「いや・・・運が良かっただけですよ」


 「ふぅん?」


 萌生は思わせぶりに曖昧な相槌を打ってから萌生は迅雷に手を伸ばした。


 「ごめんなさい。体が痛んでうまく立ち上がれないの。手を貸してくれないかしら?」


 「もちろん」


 それ以外は萌生もなんとか無事のようだった。曰くどうやら寸前で堅木のシェルターを展開してパンチの直撃を防いだらしい。あの木片が床に散らばる音はそれだった。しかし、結局衝撃波はもろに食らったので全身打撲状態になったわけだ。

 迅雷は萌生の手を取って抱き起こし、クレーターから出してやってから改めて壁にもたれさせた。

 倒れて動かない鍛を見た萌生は目を丸くしてから、クスクスと笑った。


 「やっぱりあなた、すごいじゃない。私でも全く歯が立たなかった相手なのに、一撃でのしちゃうなんて」


 「だから言ってるじゃないですか。運が良かったって。電気がまだ通ってて助かりました」


 「・・・なるほど、あれを利用したってことね」


 焼け付いた壁の内側の配線を見て萌生は納得した。


 「でも、それでもよ」


 萌生は褒めてくれるが、迅雷は素直に自慢出来るとは思わなかった。通電していなかったら正直手の打ちようがなかっただろう。鍛の攻撃は見切れても攻撃が通じなければ永遠に勝つことは出来なかった。

 環境を生かして戦えとも言うが、不利なときでも独力で勝利をもぎ取れるだけの力がないと、きっと迅雷はついていけなくなる。


 

 同じフロアの別の場所では今もナイフ使いと炎使いが戦い続けている。一進一退の攻防を想像するのは容易だが、どちらかがわずかに押されているのか音源はさっきより遠い。


 「どうやら狩沢さんたちはまだのようね」


 「そうみたいですね―――」


 ドッ!!  


 と。


 「「!?」」


 上の階から一際大きな轟音が伝わってきた。すぐそこで繰り広げられている狩沢と焦の戦いよりもずっと近くに感じるほど強烈な衝撃だ。

 天井が崩れたのではないかとすら感じて上を見上げて迅雷は、振ってきた粉塵がちょっと目に入ってしまって気持ち悪さに仰け反った。


 「いやぁ!?」


 「だ、大丈夫!?ちょっと待ってて」


 「?」


 萌生は魔法で草を生やして、それを搾った。すると、見た目からは想像出来ない大量の水が出てきた。萌生はそれを別の魔法で作った木製の器に注いで迅雷に渡した。


 「これで目を洗って。あと残ったら飲んじゃっても大丈夫だからね」


 「あはは・・・ありがとうございます。ってか豊園先輩の魔力って一応地属性の亜種でしたよね。それなのに水まで出せるとか便利すぎですよ」


 「ね。サバイバル性には自信あるわよ?」


 よくよく気が利く素敵なお姉さんがいてくれるのは幸せな話だと思わされる。今日こうして勝手に行動出来ているのだって、元はと言えばそんなお姉さんの1人が手を回してくれたからなのだし。

 萌生に感謝しながら迅雷は目と喉を潤し、立ち上がった。これ以上は休んでいられない。


 「やっぱり、行くのかしら?」


 「そうですね」


 「・・・申し訳ないんだけど、私、ちょっともうまともに動ける状態じゃないの」


 「まぁ・・・ですよね」


 「1人でも・・・進む?」


 萌生はもう了解した目をしていた。ただ、その責任の重さを迅雷は改めて思う。萌生のこの微笑を若気の至りだったと後悔させたら罪が重い。

 ただ、その上で迅雷も力強く笑った。初めから行くと決めていたのだから。

 萌生には悪いが。迅雷には彼女よりもずっとずっと大切な少女がいる。この上で待っている。


 「それじゃあ・・・行ってきますね」


 「やっぱりそう言うのね。あの子・・・千影ちゃんを連れ戻すため・・・だったよね?」


 「誰に反対されたって、絶対にです」


 「そう。私はまだ反対だけど―――もう止めたりしないわ。私があの子を恐いと思ったところで、君の意志には関係のないことだもの」


 そういうことだ。万人の反対も迅雷を止める理由にはならない。迅雷は剣を鞘に納め、萌生に背を向けた。散々ワガママで振り回した申し訳なさはあるが、後でいくらでも謝れば良い。迷いなく、次の階へと踏み出す―――が。



 「行か・・・せるか・・・ァァ!!」 


 

 「―――なッ!?」


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