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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect73 ”再対峙”


 「はッはァッ!やっと来たがったな、侵入者!」


 「おい。普通ならここまで来られちゃあマズいだろうが」


 「細けえことは良いんだぜ!とにかく、待ちくたびれたぜ!体がなまっちまうとこだったぜ!」


 5階。事務所が多く入っていたフロアの、下の階と比べるといささか窮屈さが目立つ広くない通路の真ん中。


 声の主は、赤く染め上げたソフトモヒカンや、耳や口に鼻、挙げ句の果てには瞼にまでつけた数々のピアスがこれ以上ないほどイガイガしたインパクトを与える男だった。

 彼の隣の立つのは、現実ではありえそうもないほど腕の筋肉ばかりが発達した男だ。質素で純朴な日本人らしい黒髪が嘘のように思えるほど豪華な半身を携えた彼は、チンピラ風の男とは対照的な性格に見える。


 そんな様子の2人の顔を見て、迅雷はかえって気を引き締めた。彼らは地上で千影を出迎えたヤツらだ。ふざけているからといってナメてはかかれない。

 

 「アンタらは・・・」


 「あ?・・・って、ありゃ?お前さっきのボウズじゃねぇか。なんで生きてるんだ?ん・・・?」


 千影に(ショウ)と呼ばれていた赤髪の男は迅雷の顔を見て不思議そうに首を傾げた。巡らせた考えが口からブツブツと漏れ出している。やたら悩ましそうな表情をしているところを見るに、頭の方は弱いのかもしれない。

 だが、ここで狩沢が一歩前に出た。ナイフの先端を焦に向け、喧嘩口調で質問を投げた。


 「あのガキが俺たちを殺し損ねただけさ。それよりこの階はお前ら2人だけなのか?」


 「殺し損ねた?・・・チッ、あのクソガキは」


 焦は忌々しそうに舌打ちをして、それから両手に炎を生んだ。 

 すると、大樹の幹のような腕の男―――(ダン)は戦闘態勢に入った焦の肩を叩いて、迅雷たちに背中を向けた。


 「こいつらの相手はお前1人で頼むぞ。こっちばかり見ていて別グループにコッソリ上に行かれても困るからな」


 「あぁ、任しときな。つーかお前の手なんざ借りる必要もないぜ」


 「それは結構。じゃあな」


 「おい待て、テメェ逃げるのか!?」


 「もうボロボロのくせによく吠えるな。アンタらの相手はこのチンピラだけで十分ってことだ。精々殺されないように気を付けながら逃げるチャンスを窺うことだな」


 狩沢が怒鳴ったが、鍛は気にせずスタスタとその場を離れていってしまった。彼の後を追わせないかのように焦が立ち位置をずらし、炎の火力をさらに増大させた。


 「ちくしょう、千影の尻拭いなんざしなきゃいけねぇたぁな」


 離れていても伝わってくる高熱で迅雷も萌生も直感した。彼は、強い。さっきまでの集団なんかよりも、ずっと厄介な敵だ。

 焦が眩しい橙色の曲線を闇の中に描いて、戦いの構えを取った。それに反応して、迅雷たちもそれぞれの構えを引き締める。


 「まぁ良いぜ!!どっちみちテメェらはここで俺が焼き尽くして炭と灰に変えてやるだけだぜぇ!!」


 「―――来るぞ!!」


 狩沢が叫ぶ。


 焦が腕を振るう。


 飛んできた火球は通路の幅いっぱいの大きさだった。


 回避は不可能。恐らく、防御も危険。


 「ッ、こっちだ来い!」


 狩沢に腕を引かれ、迅雷と萌生は一番近くにあったオフィスの中に飛び込んだ。

 直後、部屋の入り口のドア枠を少し融かしながら業火が通り過ぎ、通路の終端点にて壁を巻き込み爆発した。またビルの側面に大穴が増えたかもしれない。


 「なんて火力・・・。あんなのを好き放題撃てるとしたら、火炎魔法使いとして見ても焔君の比にならないわね」


 「でもこのフロアだけは実質ヤツだけだからこうして他の部屋も安心して使える。やりようはあるぜ」


 迅雷たちが飛び込んだのは5階に入っていたオフィスの中では一番大きな部屋だった。きっと昔はたくさんの人たちが慌ただしく動き回っていたのだろう。そんな風景が想像出来る、たくさんのデスクが置いて残されている。

 体重を壁に預けて深呼吸をひとつする。


 逃げ場はあるが、敵はそんなに甘いのだろうか。

 迅雷は今の隙に刃こぼれし始めた『インプレッサ』を新しいものに換え、強く握り直し―――。


 「いつまで隠れてる気だぁ?」


 「「「ッ!?」」」


 迅雷たち3人が反射的に背中を預けていた壁から離れた直後、その壁が赤熱し、爆散した。燃やしたら良くないものが焼けたのか、黄色っぽい煙が充満した。

 何事かと一瞬理解が追いつかなかったが、痺れを切らした焦が壁に大穴を空けてオフィスに踏み込んできたのだった。ビルの壁はどこも間違いなく耐火素材を利用してあったはずなのに、本当に凶悪な火力である。


 「小学校じゃねぇんだ。いつまでも廊下に立たせてんじゃねぇぞヘッポコ野郎!」


 「オイ!今どきの小学校はそんなことをさせねぇよ!教育委員会に訴えられるからな!」


 ・・・狩沢が変なところにツッコミを入れた。


 「あ?なんだ、やけに切実な顔しやがって」


 「当たり前だろ、こっちはそれで食ってんだ!」


 「・・・え、アンタ、そんなツラで先公してんのか」

 

 「悪いかよ!?これでも3年生の担任を任されてるし生徒からも人気あんだからな!つか顔はお前にだけは言われたくねぇんだよピアスまみれ!」


 ナイフ男改め小学校教員は、そう言い返してからナイフに魔力を込めた。焦に劣らぬ悪人面にはよく似合うワルっぽい得物ではあるか。

 狩沢は、しかし、小声で迅雷と萌生に指示を出した。


 「―――いいか、ヤツは俺がやる。お前らは俺と一緒に突っ込むフリをしてヤツの横を素通りしろ。そして先に進むんだ。分かったな?」


 「そんな!3人でやった方が良いんじゃ・・・」


 「いや、時間との戦いでもあるんだろ?上の用事が済んでトンズラされたら元も子もねぇ」


 今も不定期に振動で軋んでいる天井を見上げ、狩沢はそう言った。 

 この上ではなにが起きているというのだろうか。もしかしたら既に2号車の誰かが最上階の会議室に辿り着き、この事件の黒幕と刃を交えているのかもしれない。あるいは、千影とかもしれない。

 だが、いずれにせよ続く戦闘を思えばそちらも苦戦しているのは違いない。なら、ここは狩沢が1人で押さえて後ろの2人を加勢に行かせるべきだと判断したのだ。時間に猶予なんてない。


 「良いな?言ったぞ!」


 「「は、はい!!」」


 合図もない。3人は焦に向かって同時に走り出す。


 「なんだぁ?今度は馬鹿正直に突っ込んでくるのか!!いいぜ、やってやる!!」


 「悪いが!!」


 狩沢がナイフを振るうと、彼の周囲に炎や水、岩や雷の小さな刃が生み出された。そして、続くナイフの一突きに合わせて4つの刃が焦に殺到する。


 「お前の相手は俺1人でしてやるよ!!」


 焦が灼炎を纏う手で刃の雨を焼き尽くす瞬間を狙い、迅雷と萌生はその真横を全速力で駆け抜けた。


 「すみません、お先に!」


 「どうか無事で!」


 「ん、なァッ!?汚ぇぞ、騙したな!!くそ、行かせるか―――」


 「させねぇぞ!」


 「ちぃっ!!」


 爆炎が荒れ狂う中を駆け抜けて、迅雷と萌生は一気に上への階段まで辿り着こうとした―――が。


 強烈な風圧を感じて危険を察したときには、大樹の幹を振り回すようなラリアットが迫っていた。


 「そんな・・・ッ!?」


 「先ぱ―――くそ!!」


 2人揃って首を刎ねられるわけにはいかない。迅雷の反応ならまだ間に合う。剣が軋む勢いで魔力を流し込み、斬り上げる。


 「『駆雷(ハシリカヅチ)』!!」


 「きゃっ!?」


 一度に大量の魔力が放出され、破壊的な放電現象に変わった。そして同時に迅雷は萌生の胴に腕を回して確実にホールドして、風魔法に加えて『駆雷(ハシリカヅチ)』が炸裂した爆風の反動も敢えてそのまま受けることで敵と距離を取った。


 「豊園先輩、無事ですか?」


 「ご、ごめんなさい・・・。反応出来なかったわ・・・」


 「いや、無理ないです。あのラリアット、めちゃくちゃ速かった」


 迅雷は換えたばかりの『インプレッサ』をチラッと見やった。今の『駆雷(ハシリカヅチ)』一発で刀身が焼けてしまっている。これはもうしばらく使い物にならない。あの剣技魔法を実戦レベルの火力で撃つとこの剣では耐えられないらしい。


 「やっぱ『インプレッサ』じゃキツいか・・・?」


 今の一合の音を聞いた狩沢が声を張り上げて迅雷たちの無事を確認してきた。


 「どうした!?なにがった、大丈夫か!?」


 「余所見とはなぁ!」


 「くそ、すまん!そっちは任せるぞ!」


 大口を叩いたものの、結局狩沢は焦の相手で手一杯だった。いや、これだけ消耗していながら元気な焦とまともにやりあえているだけ狩沢の実力の高さが窺い知れる。

 だが、迅雷は狩沢には返事をせず、自身が放出した魔力の煙の奥を警戒し続けていた。そして、煙を押し退けてラリアットの主が現れる。


 「どっか行ってたんじゃなかったのかよ・・・」


 「マズいわね・・・」


 首の骨をゴキゴキと鳴らし、鍛は戦闘中の焦に話しかけた。


 「なんか騒がしいと思えば・・・」


 「なんだ、結局戻ってきたのか!心配性め!」

 

 「その結果まさか素通りされかけてるとは思わなかったがな。結局バカには任せられないのか?まったく・・・」


 「それは、なんだ、その、すまんな鍛!まぁそっちはお前がなんとかしてくれや!この自称小学校の先生野郎、割とやり手で手が放せねぇ!」


 「あぁ、任せろ」


 鍛が焦と話しているうちに―――とも思ったが、隙が見当たらず、迅雷も萌生もなにも出来なかった。

 鍛の体はバランスが悪そうに見えるが、なにかしらの武術は修めている様子だった。立ち方に妙な安定感を感じる。

 

 「というわけだ。子供だからって容赦はしねぇ。悪く思うなよ」


 「神代君、大丈夫?」


 「なにを今更―――」


 誰が相手だろうと突破する他に道はない。

 

 「本当は今すぐ逃げ帰るなら止めはしない・・・って言おうかと思っていたんだが、その気はない、か」


 「あぁ。手ぶらで帰る気はないよ。帰るときは千影連れてって決めてんだからな!」


 「おかしなことを言うやつだ!」


 「言ってろよ!行くぞ!!」


 「ちょ、神代君!」


 「先輩は援護を!」


 迅雷は萌生にサポートを任せて走り出す。

 剣を低く構え、鍛の間合いに入る寸前で斬り上げ・・・と見せかけてそのまま剣を投げつけた。初手から武器を手放すという迅雷の予想外の動きに意表を突かれ、鍛が鈍る。


 「『召喚(サモン)』!!」


 投擲のモーションからそのまま走り高跳び風にジャンプし、迅雷は左手に呼んだ3本目の『インプレッサ』で兜割を繰り出した。

 

 「甘い―――!!」


 「そこッ!『花舞断(カマイタチ)』!」


 腕で飛んでくる剣を叩き落とし、鍛は頭上の迅雷を殴り飛ばそうとし―――そして萌生が放った花弁の刃が鍛の肩に直撃してそのカウンターを妨害する。


 その一瞬を迅雷は全力で詰めてみせた。


 そして、激しく鋭く血飛沫が散った。


 

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