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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect68 ” The Wartering Berserker”

  

 「『バースト』!!」


 「『龍渦散波瀑』っ!」


 号。


 貴志と空奈が被弾覚悟で仕掛ける一切加減なしの殲滅砲撃だ。


 貴志の放った最高火力の銃魔法は研を弾道の先に据えて2人の正面を呑む勢いで駆け抜け、空奈の撃った水の大魔法は背後から迫る機械の軍隊を叩き潰すべくして唸りを上げた。


 ライフル弾から漏れ出した膨大な魔力そのものが巨大なシルバーバレットとなり闇を裂く。白く、激しく、立ち塞がる全ての障害を巻き込み破砕し粉微塵にしなおも勢いを殺すことなく、壁に隠れた研を壁ごと直線ルートで狙う。

 そして、九頭龍の如く先分かれした水流は猛然と押し寄せる兵器軍を目論み通りに押し流した。


 だが、その破壊水流は空奈の右手から発せられたもののみだった。彼女が組み上げた魔法陣は両手に1つずつ。貴志の弾を追うように、空奈は左手で研の眉間に照準を合わせた。


 「『水閃衝』!」


 貴志の攻撃に重ねる追い打ちだ。

 猪突猛進する巨大ライフル弾と鉄筋コンクリートすらねじ切る水鉄砲の二段弁当。食ったらかえって腹が空きそうなコンビである。


 そしてもちろんのことながら、凡人の研には銃弾が発射されるのを見てから避けられる超人じみた反応速度なんてない。白光が彼の目前に容赦なく迫った。



 「ちょ、う、うおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?・・・なーんちゃって、な」


 

 「「―――!?」」

 

 余裕に満ち満ちた研の笑みの直後、痛いほど激しい光が溢れ出した。衝撃波によってフロア中の窓ガラスがまとめて内側から砕け散った。空奈は咄嗟に水壁を出したが、水で光は防げない。爆発の破壊力だけはなんとか殺して、目を瞑る。

 衝撃波が通り過ぎたあと、壁を解除した空奈は恐る恐る目を開き、あの大惨事を悠々と生存した研が腕に着けていたそれ(・・)を睨み付けた。


 「・・・なんやねん、それ・・・!」


 「残念だったな。つってもドローンとラジコンも全部やられちまったし、こいつで振り出しってとこか」


 「せやから、それ、なんやったんか聞いとんねん」


 白々しい研の腕には、光の盾―――のようなものがあった。その光の盾で貴志と空奈の魔法やその余波、そして光の爆発、それら全てから身を守った彼はケロッとした表情で立っている。


 「見れば分かるだろ。光魔法だよ」


 「なんであんたが光魔法なんてけったいなもん使(つこ)てんねや」


 「愚問だな」


 「・・・そうやったわ」


 キュイィ―――というモーター音がした。それに伴って光が消える。夏だというのにむさ苦しい長袖の内側に隠された研の腕に巻かれていた機械からの音だった。

 

 「備えあれば憂いなし、だぜ。俺は脳筋のおたくらとは頭の使い方が違うからな。こんなこともあろうかと思って用意してたのさ。便利だろ?」


 その展開速度はまさに秒速30万キロメートルの具現だった。デモンストレーションのつもりで光の盾を出し入れした研は空奈たちを馬鹿にして笑った。

 魔法工学の知識がない空奈たちには原理は不明だったが、つまり機械は流し込んだ魔力の属性を光属性に変化させ、実体性をほとんど与えない光をシールド型に成型した後に改めて実体性を与えることで頑強な壁とするというものだった。


 ドサリと、貴志が膝をついた。


 「山崎さん・・・大丈夫です?」


 「ぐ・・・いや・・・少し、マズいかもしれ・・・ないですな」


 「―――分かりました、一旦下がって休んどってください」


 先ほどの光の爆発に貴志は反応が遅れたので、受けたダメージが大きかったようだ。一応空奈が水壁で貴志の体もガードはしていたのだが、全方位から押し寄せてくる謎の光を防がなければならなかったために壁の防御力は低かったのだ。重ねて肉体強化をする必要があったが、貴志はそれが遅れてしまったのである。

 いや、普通反応が間に合うはずがない。あの爆風はあまりにも速すぎた。それこそ、光魔法のように。空奈に野性的なまでに鋭敏な危機察知能力がなければ2人とも全身の骨がやられていたかもしれない。

 

 貴志は掠れた声で空奈に謝って、研には背を向けないように後ずさりながら撤退していった。


 1人ビルの中に残された空奈は、それでも引き下がるという選択肢を持たないかのようだった。困り笑いをして、研を見据える。


 「まだ1階やのに4人もリタイアやって。アカンなぁ、ウチ正直あんたのことナメとったわぁ」


 「そりゃあどうも。俺、これでもすごいのさ」


 「せやでホンマ。見直したよ。―――でもごめん、もう十分やろ。そろそろ退場してもらおか?」


 瞬間、空奈の目に苛立ちが滲んで野蛮なまでに鋭くなった。


 「・・・へっ。お手柔らかに頼むぜ。こっちはもうオモチャの軍隊が品切れなんだよ」


 「知らんわそんなこと―――!!」


 残機の有無などもはや些事だ。研という男の厄介さは彼の持ち歩くウエストポーチの中身だけでも十分に発揮される。

 

 「『打天流拳(ダテンルケン)』」


 今度は腕に水を纏わせるだけの魔法だ。ただし、その水を飛ばして「伸びるパンチ」くらいの芸当は出来る。光の爆発はどこに原因があったのか分からないが、光の盾の方は既に種が割れている。遠距離攻撃はまずあれを突破出来ないだろうから、接近戦で剥がすしかない。


 「ほな―――いくでッ!!」


 「好きにしな!」


 脚力を強化して空奈は15メートルほどあった研との距離を一気に詰める。

 裏拳で横顔面を狙う。当たれば最低でも脳震盪、悪ければ頬骨が弾け飛ぶ。もちろん研は盾で受け止める。空奈は腕に巻き付けた水を操って研の背後に回り込ませる。

 しかし、拳の形をした水塊が研の後頭部を殴る前に間に入ってくる浮遊物体があった。それと衝突した水が突破出来ずに四散する。

 それは、表面に透明な障壁を発生させていた。


 「それ、結界魔法やん!?なにサラリとスゴい発明してくれんのや・・・!?」


 「まぁねー。すごいだろ?もっと褒めてくれよ、この、天・才、エンジニア様を」


 「図に乗んな、や!!」


 「おっと」


 空奈のボディーブローをいなし、研は空奈から距離を取った。


 「とにかく、世の中は便利になったぜ。そう思わねぇか?術式のベースさえ作れれば機械でも簡単に高度な魔法が使えるんだからよ」


 実際はそのベースを作るのが難しいから誰も今まで結界魔法を再現出来なかったというのに、研はそれを遂に完成させ、しかも技術を公開せず自分だけのものにしていた。それは白色魔力を光属性魔力に変換するコンバータも同様だった。

  

 だが、工学的な話には弱いので、空奈は細かいことを考えるのはやめた。要はあの、ポットに鍋の蓋を逆さまにして乗っけたような不格好なマシンには、浮遊したり魔法を発動したりするための魔力(燃料)と結界魔法を発動させるためのプログラムが入っているのだ。

 それが―――3機。厄介極まりない。

 だけれど1つ、予想出来ることがある。この手の装置は恐らくエネルギー効率があまり優れない。特に完成からまだ日の浅い最新のテクノロジーならなおさらだ。


 「ほんなら、さっさと電池切れにさせたるわ!!」


 「そうはさせねぇよ!!『召喚(サモン)』!」


 勢いを増す空奈の『打天流拳』を交えたインファイト。研は敢えて頭上に『召喚(サモン)』を展開した。地面に向けて口を開けた空間の穴から、重力に引かれてなにか金属の塊のようなものが落ちた。

 金属塊はそのまま、空奈が腕に纏う水の中に落ち、そして。


 「なぁ――――――ッ!?」


 そして、激しく炸裂した。


 空奈は反射的に水を体から切り離して飛び退いたが、爆発の熱にやられて左腕を火傷した。こんな反撃があるとは全く想定していなかった。どこまでも読めない相手だ。


 「なにしたんや、今。水ん中で燃えたように見えたんやけど」


 「ただのナトリウムさ。単体の」


 「あー・・・そういえば、化学の授業でそんなこと言ってはったわ。・・・それにしてもさっきから爆発ばっかりで飽きへんの?」 


 「飽きてるよ」


 ウエストポーチから試験管を取り出しながら、研は小さく笑った。事実、彼は爆破一辺倒な戦い方には飽き飽きしている。それでも爆発物に頼るのは、結局それが一番分かりやすい殺傷方法だからだった。別に研がエクスプロージョンしていればオールオッケーなマッドサイエンティストなわけではない。

 盾はいつでも使えるよう構えて、研はもう一方の手に持った3本の試験管を揺らした。中に入った無色透明の液体がいかにも怪しい。


 使われる前に倒さないと面倒そうだ。空奈は再度『水閃衝』の魔法陣を組んだが、ここで研の脅しが割り込んできた。


 「おっと、やめときな。こいつはさっきの光爆薬だぜ?魔力に触れればドカンだ。しかも試験管1本分の量でさっきの半分くらいの威力があるから気をつけな」


 「信用出来へんわ」


 「ウソだと思うか?なら試してみろ、ほら」


 「!?」


 信用出来なくても可能性はある。研が試験管を放り投げると、空奈はほとんど条件反射で試験管を躱す方に頭が行ってしまった。もしも研が言う通りあの液体が光爆薬だとすれば十分な脅威だ。

 しかし、何事もないまま試験管は床に落ちて割れただけだった。中の液体は床の上にごく小面積の水溜まりを作る。


 「・・・?」


 なにもないことがむしろ空奈に隙を生ませた。それでも、とてつもなく短い隙だ。戦い慣れした空奈がそんな下手をうつなんてあり得ない。 

 だから研は最初から準備しておいた。ここまでの運びも全て彼の想定内だったから。


 背後からの銃声。


 「っ!まだあるやんか!!」


 それは兵器化されたドローンだった。品切れなどと言っておいて、やっぱり、ちゃっかり、残していたようだ。空奈は首を振ってそれを避ける。放たれた銃弾は空奈の髪の毛数本を巻き込んで、そのまま床の小さな水溜まりに触れた。

 そして次の瞬間、あの光の爆発が起きた。空奈はギリギリで防御を成功させるが、至近距離の爆発は殺しきれず、吹き飛ばされないように歯を食い縛って踏ん張る。


 「ッくぅ・・・!そういうことか・・・!」


 「そういうことだ。俺はまだこれを30本持ってるし、『召喚(サモン)』にもストックはざっくざくだぜ」


 「それは辛いなぁ・・・」

 

 苦笑しながら空奈は背後のドローンを撃墜した。すると、そのドローンまで大爆発した。こちらも防御して、空奈はさらに苦々しい顔をした。


 「さっきの大爆発、どっからやろとは思とったけど、なるほど。これの一斉爆発っちゅうことやな。中に今の爆薬を仕込んで。まんまとハメられたわけや」


 空奈はこれで無闇に魔法を使えない状況に追い込まれてしまった。感度からして『マジックブースト』ですら起爆させるトリガーになってしまうだろう。


 「さぁ、どうする?なんならこのまましっぽ巻いて逃げ帰ってくれたって良いんだぜ?つーかむしろさっさと帰ってくれると嬉しい」


 「この期に及んでへっぴり腰かいな・・・。せやけど、ほんまどないしよか―――」


 「笑ってんぞ」


 「あらそう?かんにんな。久々に面白い勝負になりそうやからつい」


 空奈は、追い込まれてなお笑っていた。いや、追い込まれたからこそ笑ったのかもしれない。平時は穏やかな冴木空奈という人間の本性がここに見えた。柔和な目つきの面影はなく、鋭く獲物を狙う鷹のようだ。

 空奈は指を動かして骨を鳴らし、独特な構えを取って研を睨み付けた。

 張り付いて盾を剥がす作戦は変わらない。結界魔法装置も力技で破壊する。問題は得体の知れない薬品群だ。


 距離だけを見据える。深呼吸で全部リセットする。ここからが正念場だ。求めて止まない争いの悦びに昂ぶる心を押さえ付け、空奈は自身の最高潮に身を委ねた。


 

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