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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect64 ”アホか”


 医療班は既に行動を開始したというのに李は彼らの後を追うのを渋っている様子だ。空奈は李にけしかける。


 「ほれ、李ちゃんもはよ行きさい」


 「やっぱ私なんですか・・・」


 「当たり前やろ。万が一のとき誰があんなんとやり合えんねん」


 「いやいや、空奈さん、私じゃキツいっすよ・・・。てか空奈さんだって―――」


 「分かった分かった。ほいで?」


 「・・・・・・」


 議論の余地はナシと見た。李は仕方なく、先行した医療班の2人を追うことにした。人間恐怖症に人間を護衛させようというのが、そもそも最初からおかしかったのだ。断るのであればギルドの作戦を手伝えと言われた時点で腹切りでもする勢いで断っておかなければならなかったのだろう。

 

 さて、李を送り出したは良いが、空奈も分かってはいる。もし千影が自分たちを裏切っていたとして、彼女が本気で襲いかかってきた場合は李でも無事で戻れるかは分からない。そして想定しうる限りでもっとも面倒なパターンだった場合は、それこそ泣いて帰る他ない。

 しかし、止まっても居られない。


 正直なところ、別に最悪の場合だろうがそうでなかろうが空奈としては些細な違いだった。つい緩んでしまう口元を真顔に矯正して、空奈は後ろの一般魔法士たちに向き直る。


 「さて、これからウチもビル内に突入します」


 『えっ!?』


 全員が突拍子のない空奈の自殺発言に目を丸くした。だが、空奈は自信ありげに親指を立てた。


 「当たり前ですやろ、そこに犯罪者がおんねんで?ウチはポリ公、ならやることは1つ」


 「い、いくら魔法対策課の所属とはいえ・・・1人じゃマズいでしょうよ。なんてったって相手は魔族ですし人間の実力ではとても推し量れない」


 「む・・・まぁ、そらそうですね。なので少数精鋭で一気に上まで突破しましょう。『山崎組』の山崎さんと太田さん、それと『ミドラーズ』の斉藤さんと(たいら)さんは、ウチについてきてください。残りは要人の警護と周囲の警戒だけは怠らんといてください。あとは臨機応変に、最悪逃げるという選択肢もあるってことを覚えといてくださいよ。ウチがもしボロボロなって戻ってきたら完全アウトやからウチのこと見捨ててでも即撤退すること」


 どうにも物騒な注意を言い、空奈はパンと手を叩いて鳴らした。異論は出なかった―――というより出しようがなかった。空奈はそのままスタスタとビルの入り口前まで歩いて、まだついてこない貴志たちを手を振って急かす。空奈に呼ばれた4人はそんな彼女に駆け足で追いついて、共にビルの中へ―――と思ったのだが、しかし。


 「どぁぁッ!!」


 「ヒロ!?」


 「あづっ、あづっあぁぁ!?」


 屋内に一歩踏み入った瞬間、先陣を切っていた『山崎組』の太田広之が火だるまになった。空奈がすぐに水魔法で消火したが、今の一瞬だけでも火傷が酷い。まさか最初の1歩で1人やられるとまでは思わなかった。そもそもトラップが全く視認出来ないのだ。そこにあると分かってから見ても、まだどこに仕掛けられているのかがサッパリ分からない。


 「アカン!とりあえずバックバック!」


 「くそ、魔族の仕業なのか・・・!?とりあえず誰かヒロのこと介抱してやってくれー!」


 貴志が呼ぶと力自慢の男たちが広之を担いでバスまで連れて行ってくれたが、火傷に服が擦れて痛がっているのを見ていると貴志まで体が痛くなった。傷はきっと魔法治療であればなんとかなるだろうが、酷い目に遭ったものだ。


 「あのー、山崎さん。あとあの中で上手いこと連携出来そうな人っていはります?」


 「俺から合わせれば別に誰とでも苦じゃないですが・・・どうも敵の質が違うらしいし・・・今日ウチのパーティーから来られたのはヒロだけだったんですよね。斉藤さんとこも今日は斉藤さんと平だけだよな?」


 「いや、すんません。『ミドラーズ(ウチ)』の連中はもう夏休みの家族旅行だとか社畜の本領発揮で日曜まで出社してるもんで来れなくて」


 「いや、良いんだけどさぁ・・・苦労してんなぁそっちも」


 山崎貴志ら『山崎組』と斉藤広助ら『ミドラーズ』は一央市のベテランパーティー同士よくつるむので息は合っているのだが、他のパーティーはそうでもない。『山崎組』は若手も多いのでそちらであれば例外もあるかもしれないが、どちらにせよ彼らを不要に危険な目に遭わせるかもしれないので今日は連れてこなかったのだ。魔族の相手をするともなれば、彼のようなベテランでもそれくらいは不安を抱くのである。

 結局、欠けた1人を補うことも出来ずに空奈たちは再度正体不明の敵に挑まなければならないことになった。


 しかし、空奈は人数の減少については特に気にしていないようだった。

 

 「あの嫌がらせ・・・。ウチが前張ります!」


 恐らくさっきの火炎トラップは初見殺しの小手調べだ。殺す気だったならあの時点で全員吹っ飛んでいただろう。

 とはいえ、トラップの起点が分からない以上は死なないからと高を括ってはいられない。空奈は水魔法で他の3人も丸ごと覆える殻を作り、火炎トラップを通過した。結論から言うとトラップの起点は足下ではなくフロアの角の天井にあった。センサーで感知して高速で火炎魔法を発射する装置だったらしい。貴志がライフルでそれを破壊する。

 しかし、トラップを解除して安心したのも束の間のことだった。


 激しい発砲音が鳴り響いた。


 「来よった・・・!!」


 「うお、くそ!ありゃドローンか!?」


 実弾を雨あられとばらまいてきたのは、4機のドローンだった。左右からの挟み撃ちである。反応の早かった広助が持っていた大斧を盾にして片方からの射撃はガードした。空奈はもう一方からの攻撃に水のバリアを集中させる。


 「すまない!すぐに撃ち落とす!」


 2人がガードしてくれている隙に貴志がライフルを使ってドローンを全機破壊した。さすがに見事な腕前で、この状況でも全弾必中だ。


 「助かりました山崎さん」


 「おおきにです」


 「いやいや、連携ってことで」


 「それにしても今の、いやぁ、なんだったんですかね。魔族ってのもなかなかこしゃくな真似をするもんだ。もっと正面から力で潰しに来るかと思ってましたけども」

 

 広助は構えを解きつつも次にまたなにが来るかも分からないので斧を背負い直したりはしなかった。周囲に散乱した銃弾を拾い上げて、広助は貴志に尋ねた。

 それを受け取った貴志は思わず唸る。


 「これは・・・どっからどう見てもミスリルコーティング弾だぞ。くそ、いよいよ訳が分からねぇ・・・敵は一体誰なんだ?ホントに魔族か?それとも人間だってのか?わざわざこんな弾丸使うのなんて俺たち人間くらいだぞ・・・」


 ミスリルコーティング弾は、高い導魔力性があり、薄くしても熱や衝撃に強い金属であるミスリルで鉛合金の弾をコーティングした小口径向けの弾だ。銃魔法の高性能化や単純な威力の増強に大きな進歩をもたらし、長く使われ続けている、まさに人間のための武器である。

 そんなものが出てきた時点で貴志は首を傾げるしかなかった。ここにいるのは魔族のはずなのに箱を開けてみればこれだ。辻褄が合わない。


 しかし、空奈だけはそれの意味を理解していた。結局のところ、一番厄介なパターンそのものだったのだ。

 ビルの1階、広いフロアに姿勢の悪そうな足音がした。1人の男だ。現れた男はひたすらずぼらな服装をしていて、困ったように頭を掻いている。しかし、疲れた表情とは裏腹に眼鏡の奥には理知的なものが感じられる。


 「さすがに今のじゃ退場してくれないか」


 「あーあ、これまた面倒なお客様のお出ましたね。やっぱりあんたらやったね」


 その男―――(ケン)と呼ばれる『荘楽組』の構成員は、空奈の顔を見るなり最悪だとでも言いたげに肩を落とした。面倒な客はどっちだろうな、という呟きが聞こえた。


 「冴木、ここは手を引いてくんねぇか?俺はお前とはやり合いたくねぇな」


 「そうか?ウチは別に構へんで。それにそうもいかへんねん。見つけてしもたから。というかなんやねん偉そうに。そういうセリフは普通強い方が言うもんちゃうん?」


 「見逃してください」


 研は間髪入れずに命乞いをしたが、現行犯を見逃してやることなんて現役バリバリのマジメな警察官である空奈には無理な話だった。

 しかし、こうして鉢合わせてしまったのは空奈にも意外だった。今まではうまく擦れ違ってこられたというのに、今日に限って、こんな場所で、それもこんなタイミングで遭遇してしまった。何者かの意図さえ感じるうまく出来たシナリオだ。

 ただ、糸に吊られて操られていたのだとしてもするべきことは分からない。敵が悪魔から悪魔みたいな人間に変わったに過ぎない。例え、それさえ筋書き通りだとしても。


 「悪いけど通してもらおか?こないなった以上はまた別のお話し合いが必要や」


 「ケッ・・・そうはいかねぇな。正直勝てる気はしねぇけど、こっちも大切な取引があんだよ。任されたからにはここは通せねぇな。お前らは1回戦で敗退だ」


 ウエストポーチから怪しげな液体の入った試験管を数本取り出して、研は空奈を睨み付けた。


 今まで蚊帳の外だった貴志と広助、それから広助のパーティー仲間である平潤平は、揃って空奈の方を見た。訳が分からないといった風だ。

 それも仕方がない。たった今、事情ががらりと変わったのだから。もはや魔族側との会談なんてものは始まる前からご破算になったのかもしれない。

 研から感じ取った戦意に反応した3人は身構えこそしているが、相手の正体が掴めなくなっているからどこか腰が引けている。貴志が空奈に研のことを尋ねた。


 「なぁ、あの男は誰だ?あれが悪魔なのか?」


 「ちゃいますよ。れっきとした人間です。―――ただ、今はウチらのれっきとした敵です」


 「じゃ、じゃあ魔族の連中はどうしたんだ・・・?」


 「さぁ。ウチもそこまでは。それよりみなさん、今はあのメガネや。ああ見えてなかなか厄介なヤツやから気ぃつけてくださいよ?」


 空奈が臨戦態勢になって初めて、研は彼女たちギルド組を歓迎するように笑った。いや、どっちかというとやけっぱちな感じもする。気合い入れの意味も兼ねているのだろう。


 「ようこそ科学と魔法のマジックショーへ、バカ野郎ども!でも悪いけど、今日ここは俺たち『荘楽組』の貸し切りだぜ。邪魔しようってんなら容赦しな―――」


 「『水閃衝(スイセンショウ)』」 

 

 「うひょぉあっ!?」


 「あ、躱した」


 空奈の掌から放たれたリンゴ大の水弾が研の髪の毛数本を巻き込みながら壁に当たると、急激に渦を巻き始め、鉄筋コンクリートを捻じ貫いてしまった。容赦しないと言おうとしている人よりよっぽど無容赦な空奈には味方であるはずの貴志たちも目を点にしていた。

 危うく前口上の途中で殺されかけた研は目を吊り上げて怒鳴り散らした。


 「テメェ!!こういうのは最後まで言わせやがれよ!?」


 「なんでウチがわざわざそないなことしたらなアカンのや。アホか???」


 「クソ、この腹黒女め。分かったよ。こっからは賢くやらせてもらおうじゃねぇか」

 

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