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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect60 ”備考”


 指定されていた会議室の扉を開けば、迅雷たちより早くから大勢が集まっていたらしい。先の作戦時に集まっていたIAMOやその他警察などの公的組織に所属する魔法士たちと違って彼らは一般に分類される魔法士だが、そうは言えども、錚々たる顔触れだ。


 だが、彼らは姿を見せた迅雷と千影に、警戒する様子を見せた。―――いや、正確には、千影だけを見て、警戒しているのだ。高ランクのライセンサーともあろう良い大人たちが揃いも揃って、1人の子供にそんな風に当たるなんて情けない話だ。

 聞かなくなった噂も気のせいではなかったのだと実感する。そもそも、もはや千影がその事件の犯人であるのは周知の事実なのかもしれない。ここに集まっている人間は今日の会談に関わるに当たって最低限のことは知っているのだから。

 でも、それなら千影が魔族の侵入を最初に発見した貢献者として迎えられるべきだ。だからこそ、いっそう情けない。


 「・・・千影、そこ空いてるから、座ろう」


 「うん」


 ここで迅雷が怒りや悔しさを露わにすることに意味はない。始まる前から喧嘩腰では後が思いやられる。居心地の悪さを痛感しながら、迅雷は千影の手を引いて歩いた。次第に彼らの抱く不審感は迅雷にまで届き始めていた。


 息苦しい。千影はこの何倍も強い疑いを浴びせ続けられてきたのだろうか、と想像すると、あまりに苦しかった。


 「千影、大丈夫か?」


 「心配ないよ。全部ボクが望んでそうしたんだから」


 「・・・良くないとこだよ、お前のそういうやり方はさ。もっと・・・なんていうか、他にいくらでもあるはずなのに」


 「だって、仕方ないよ」


 皮肉そうな顔をするくらいならもっと子供らしく言い訳をすれば良いのに、千影は変なところばっかりが大人びているのだった。

 それは千影の強さであり、弱さでもあるに違いない。迅雷は、ただそんな彼女に手を差し伸べ続けられる人でありたいだけだ。


 「・・・まぁ、俺はずっと千影の味方だから、大丈夫だよ」


 「およ、これは口説かれてると思っていいのかな?」


 「ブッ!バ、バカ言うな、ちがうわ!」


 家を出る直前に真名に言われたことを思い出して、迅雷は咄嗟に本気で言い返してしまった。全く、冗談ではない。それこそ迅雷は本当に疑われてしまう。主に異性の嗜好が。

 即興の漫才をしている2人に冷ややかな視線が向けられる中、逆に歩み寄って声をかけてくるマイノリティーもいた。


 「おいおい、とし坊じゃないか。そういえば、なんか特例で参加することになってたんだったか?いやぁ、大変だなぁとし坊も」


 「あ、貴志さんですか。どうも」


 「あら、神代君じゃない。あ、そっか・・・本当に」


 「・・・って、豊園先輩まで?」


 迅雷のところに集まってきたのは、一央市ギルドが誇るトップパーティー『山崎組』のリーダーである山崎貴志とサブリーダーである太田広文(ひろふみ)、そしてマンティオ学園の生徒会長である豊園萌生だった。大ベテランである『山崎組』の2人は分かるが、まさかの萌生登場で迅雷は目を丸くした。 

 迅雷が大袈裟に驚くからちょっと心外に思った萌生はぷすぅと頬を膨らませた。


 「そんなにビックリするのはさすがに失礼じゃないかしら?私だってランク4なのよ?」


 「いやまぁそうですけど・・・でも驚きましたって。極力学生は使わないもんだとばっかり思ってました」


 「実際ギルド側からはそう言われたけど、人生は経験だと思うの。やれることはやっておきたいわ。それで、君は特別参加だったのよね」


 萌生は迅雷の隣にいる千影を見やってからそう言った。彼女の様子から迅雷は軽い予想をする。

 

 「俺の件って、もしかして結構みんな知ってたんです?」


 「えぇ、聞いてるわ。神代君と、それから、あっちの子も」


 「あっち?」


 迅雷は萌生が指差す方を見た。

 迅雷以外にもなにかしらの理由で特別に参加を許可された人がいるということなのだろうか。だとしたら、なんのために?

 一体その変わり者は誰だろうかと思えば、そこに見つけたのは、天田雪姫だった。


 「―――え!?えぇ!?なんで天田さんまで・・・?」


 雪姫は煩わしそうにそっぽを向いてしまった。


 「うーん・・・天田さんについては純粋に戦力として申し分ないから許可したって聞いてるんだけど・・・」


 ノーリアクションの雪姫に代わって萌生がそっと、迅雷にそう教えた。

 雪姫の纏う風格は、よもや周囲のベテランたちの中にあって未熟さを感じさせないほどだった。今日集まった若手の実力派たちの方がよっぽど青い気さえする。

 ここに来てまで魔法士としての格の違いを思い知らされ、迅雷は苦い顔になった。なんて頼もしいことだろうか。


 「それにしても、やっぱりギルドからあの子に話をしたのかしらね?」


 「どうすかね・・・俺的にはなんか自分から聞き出した風にも思えますけど」


 「そうなの?」


 「なんとなくですけどね」


 萌生は、その後少し千影の様子を窺ってから、優しく微笑んだ。千影は首を傾げる。


 「あなたが―――千影ちゃんね?少し見かけたことはあったけど、そうか・・・。お話するのは初めてだったよね。よろしくね、千影ちゃん」


 「うん、よろしく。えっと・・・君は?」


 「あっ、ごめんなさい。私は豊園萌生っていうの。神代君の学校で生徒会長をしているわ。植物を操る魔法が得意なのよ?自分で言うのもちょっとアレだけど、植物魔法なんて珍しいでしょう?うふふ」


 「へぇ・・・・・・」


 萌生の丁寧な自己紹介に対し、千影は彼女を品定めするような目で見上げた。それから呆れたように溜息をして、千影はジト目になった。


 「・・・清楚で黒髪サラサラストレートで穏やかなお姉さんキャラでちょっとかわいい系も入ってて、しかもトドメに巨乳って、どこのラノベのテンプレ生徒会長だろうね」


 「・・・へ?」


 千影の思わぬ反応で萌生は目を点にした。というより、多分度肝を抜かれたのは萌生だけではないだろう。周りで千影たちの会話の様子を観察していた大人たちの顔を見れば分かる。

 そんなことにはお構いなしに千影は話し続ける。


 「やれやれ、これはアレだね。君には親しみを込めて『テン長』のあだ名を進呈するよ。あ、ちなみにテン長って、テンプレ生徒会長の略だからね、お店の長じゃないんだからね?よろしくね、テンちにゅっ」


 「オイ、千影さんや。お前はウチの先輩方になにか恨みでもあるのか・・・?」


 「みゃー」


 煌熾(ムラコシ)に関してもそうだったが、相手が尊敬すべき美人生徒会長であっても物怖じしない千影には、さすがの迅雷も手が出てしまった。アホ毛がチャームポイント(自作)ですってんてんの寸胴ボディーの幼女がバカにして良いお方ではない。

 顔を鷲掴みにされた千影は変な声を出している。2人の様子を見た貴志は迅雷の肩をポンと叩き、大笑いしながら元の席に戻っていった。良くも悪くも、彼の大笑いでちょっとだけ他の魔法士たちのピリピリした空気が和らいだようだ。千影と迅雷への警戒も薄まっている。


 さて、問題の中心人物にされた萌生がオロオロしているので迅雷は千影を解放してやった。


 「ふぅ。いやいや、とっしーさんや。言ったじゃん最初に。ボクは親しい人にあだ名を―――」


 「お前のそれは単純に馴れ馴れしいだけだってはっきりしたわ!焔先輩のときもそうだったけどさぁ、俺の先輩につけたあだ名、本人性なさすぎだわ!」


 「むー。とにかくだよ、テン長!とっしーは年下派なんだから優しくして取り入ろうとしてもムダなんだからね!」


 「いや、別にそんなつもりはないんだけど」


 真顔で言われたので、なにも言っていないのに迅雷が一番傷付く羽目に。しかもサラッと年下好き認定された。いや、別に直華のこともあるから否定するつもりはないのだが。

 迅雷の好みなんかより萌生はむしろ煌熾のあだ名に興味津々のようであった。彼が千影にムラコシ呼ばわりされていると聞いて笑う萌生に、迅雷はさっきから気になっていたことを尋ねた。


 「あの―――豊園先輩。ひとつ聞いても良いですか?」


 「ん?どうしたの?」


 「さっき天田さんが参加出来た理由は知ってたみたいですけど、もしかして俺のも?」


 「え、あぁ、えっと、まぁ・・・・・・一応知ってるわ。でも―――」


 萌生は千影を見るから、確かなのだろう。迅雷はそんな風に思った。しかし、この場合は迅雷の参加理由はどう説明されたのだろう。事実通り、千影の要望でもあったから特別に許可した、とかだろうか。

 話を通してくれたのは甘菜だったはずだ。うまく取り繕ってくれたことには感謝だが、迅雷は少し詮索してみたくなった。今、自分はこの場においてなに扱いなのだろうか、と。

 試しに迅雷はなんという風に説明を受けていて、どうしろと言われているのか萌生に尋ねてみたのだが。


 「いや、君の場合はなんていうか・・・!?」


 「ん・・・?」


 ―――なぜそんなに慌てるのだ?


 千影からの要請を受けたからとか、そういった類いの説明だったのではなかったのか。気付けば萌生だけでなく、他のライセンサーたちまで様子がおかしかった。

 そんなに言いづらいような特殊な理由をつけられていたのか?言うとマズいことでもあるのか不審に思った迅雷は萌生を問い詰めようとしたが、それを止めようとしたのは他でもない、千影であり―――。


 「なにか変な―――」


 「とっしー、いいから―――」



 「遅くなりましたぁ!!」


 

 その千影の言葉をさらに遮ってバチーン!と元気よく扉を開けて駆け込んできたのはもふもふしたくなるような栗毛の女の子・・・ではなかった。


 「由良ちゃん先生!?」


 そう、なにを隠そう、彼女こそがあのマンティオ学園で養護教諭を務める一ノ瀬由良、先生(・・)、である。なぜ先生を強調したのかと言えば、多分本人がそれを激しく望んでいたであろうことを察したからだ。


 「ちゃん付けは要らないですってば!・・・って、おや、神代君に豊園さんですか。それに千影ちゃんも。・・・ということは、あぁ、いましたいました。天田さんも。こんばんは」


 だいぶ本気で走ってきたものだから汗をかいて頬も紅潮させている由良を見たライセンサーたちは、驚き戸惑ってヒソヒソと相談し始めた。


 「(なんでまた子供が?)」


 「(やー・・・分かんないな。これは聞いてないけど・・・急遽追加とか?)」


 「(いやまさか)」


 どこに行ってもブレない子供扱いにショックを受けた由良は、子供みたいに涙目である。


 「ふぇぇ・・・私はこれでもれっきとした成人なんですよぅ!今回は医療班として有事の際にみなさんのバックアップをするために・・・ん?」


 頑張る由良に迅雷が手招きをする。なにかと思って由良がそちらを向くと。


 「よしよし、偉いよ、由良ちゃん先生。みんなのために頑張ってるんだよね」


 「なんで年上と分かっている上でそんなに無礼ぶちかませるんですかね、ウチの生徒たちは!」


 迅雷が頭を撫でようとするので由良は焦ってその手を払いのけた。これ以上威厳を失ったら、由良の名誉はどうなることやら・・・。

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