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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
202/526

episode5 sect52 ”中学校でも魔法大会があるようです”


 魔族による人間族の拉致・監禁、あるいは殺害への容疑、及び攻撃行為の事実への責任追及、動機解明のための両族当事者間簡易協議会合、または会場警備業務要項。

 

 尚、本書の内容は下記期間中において極秘扱いとする。同期間中の関係者以外への情報の開示の一切を禁止する。ただし、一央市ギルドから特別の許可を得ている場合のみ例外を認めるものとする。

 

 日程、7月30日、午後6時、一央市ギルド本館4階大会議室へ集合。後に同局のバスで移動する。会合はその移動先にて行うものとする。


 (会議参加者への要項は省略する)


 次に警備参加者については、基本的に参加依頼の申請とギルドからの参加許可以外の条件を設定しないものとする。服装、道具の持ち込み等は制限しない。ただし本件は会場の警備であるため怨恨等の不正当な理由による積極的な攻撃行動は禁止する。これを行った場合ギルド側から200万円以下の罰金を課し、また、これと別に刑事上の責任を問うものとする。

 参加者中には特に医療魔法を専門とする魔法士を最低6人は揃えることとしている。安全に万全を期して会談に臨むが、万が一戦闘行為が勃発した場合は相応の激化が予想されるため、注意されたし。


 以上の詳細は上記の通り、期間中は極秘扱いである。不要な混乱を防ぐため、くれぐれも留意すること。



          ●



 迅雷は書類を封筒に戻して、机の引き出しにしまった。



          ●


 空は快晴で風も穏やかな日になった。今日は一央市第一中学校の魔法大会の日だ。

 午前中から競技が行われて、選手の生徒たちはそれぞれに磨いてきた実力と重ねてきた練習の成果を存分に発揮していた。

 なにかと不安要素の多い日々に頭を悩ませてきた人たちも彼らの頑張る様子を見ていれば、明るい気分になれているのではないだろうか。


 土曜日ということで、応援に来ている客層は親御さんだけではなく、兄弟姉妹に他校の友人、果ては全く無関係で、興味だけで来た人までとなかなか幅が広い。ただし怪しい理由での来校はお断り。生活指導の先生や用務員が目を光らせている。


 午前の部が終わって、今はお昼の休憩時間だ。校舎内の教室も休憩用ということで一般開放されているが、せっかくの良い天気なので、神代家(と東雲慈音)は校庭にレジャーシートを敷いて、広々とくつろいでいた。


 「こうしてるとすごく平和だねー・・・」


 「そうねー。おとといまであんなに大騒ぎだったのに、嘘みたいだわー」


 冷たい麦茶を啜りながら慈音と真名がのほほんと空を眺めている。この2人を並べたら途端に気が抜けてしまう。

 相乗効果を受けた強力な脱力オーラを浴びてようやく帰ってきた平和を実感しながら、迅雷は空ではなく中学校の校舎を観察した。


 「まだ卒業して半年も経ってないのに、中学の景色がすげぇ懐かしく感じるなぁ」


 校庭の植木はなにも変わらない景観で、校舎に大々的に垂らされた幕には今年の運動部の大会成績が書かれている。落ち着いた時間の流れを感じつつ、迅雷は持ってきた弁当を開いていく。それを手伝う慈音も迅雷の感慨に同調してくれた。


 「そうだね。なんかちょっとだけ帰ってきたみたいな気もするよ。せっかくなおちゃんの応援だったんだから真牙くんも来れば良かったのにねー」


 「しょうがないよ。久々に道場の方に駆り出されて忙しいんだろうし」


 阿本家は名門道場をやっているので、高校入学を機に惜しまれつつも一応その道から離れた真牙だったが、土日なんかはたまに特別講師として稽古の手伝いをさせられている。本人はかなり面倒臭がっているが、阿本家に生まれて剣道を始めて才覚を発揮してしまった以上、仕方ない。

 ちなみに真牙の意に反して教え方が上手いと評判なので、人当たりの良さや(道場主(父親)と少なくとも互角以上の)実力諸々込みで、門下生やそのご父兄からの信頼も厚かったりする。要は道場の人気者ということだ。


 そんなわけで今日の応援に来ることが出来ない真牙は「直華ちゃんに会えない」とか言ってむせび泣いていた。当然迅雷は「そうか」の一言でスルーしてやったが。


 「さて、そろそろナオが来る頃かな・・・と言ってみたらさっそくだな」


 噂をすれば影。直華が手を振りながらやってくる。微笑ましい妹の白い体操着姿に迅雷は頬が緩むのを止められない。しかし、よく見ると直華がなにやらたくさん引き連れてきたので、迅雷はギョッとした。そのうちの2人は直華と特に仲が良い石川安歌音と小野咲乎だと分かるのだが、あとは?


 「ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」


 「こんにちは、お兄さんに直華のお母さん」


 「こんにちはー。あと、えっと・・・?」


 慈音の顔を見ると安歌音と咲乎は揃って首を傾げた。なんだかんだで2人は慈音との面識がほとんどないのだったか。


 「えっと・・・お兄さんの彼女さん?だっけ?」


 「あ、あー、だったっけ?・・・えっと、こんにちは!」


 「すごく返し方に困る勘違いだよ!?」


 「あ、あれ!?間違ってました!?」


 「し、しのとしてはそれもなんていうかその―――じゃなくて!しのは、なおちゃんのおうちの向かいに住んでて、としくんの幼馴染みの東雲慈音っていうんだよ?これからはよろしくねー・・・」


 すごく複雑な心境を、すごくハッキリと顔に出して、慈音は安歌音の誤解を解いた。いや、解けたのだろうか、いや、解いたのだ、きっと。でも多分今一番気まずいのは迅雷だった。


 直華が連れてきた人の中には大人もいる。きっと安歌音たちの家族だ。


 「さぁ、安歌音ちゃんも咲乎ちゃんも上がってね。お父さんお母さん方も、どーぞ」


 真名に勧められて、何枚か繋げた広いレジャーシートの上に全員が収まった。こんなこともあろうかと真名が予め余分にシートを用意していたのだ。

 

 「あれ、そういえば咲乎ちゃん」


 「はい?なんですかお兄さん」


 「いや、今日は咲乎ちゃんの応援に大地来てないのか?」

 

 大地とは、小野大地のことで、咲乎の兄だ。迅雷と彼がどういう関係かと言えば、中学からの知り合いで、今も同じ学校に通っている間柄たまに話をする程度には付き合いはある。以前マンティオ学園の学内戦が開催されていたときは1年生の部で実況を務めるなど、学園入学後は放送委員としての活動に精を出している。

 大地の話をされて、咲乎は「あー」と手を叩いた。


 「兄貴だったらまぁ、来てますけど・・・もうちょっとしたら追いつくんじゃないですかね。なんか部活かなぁ、後輩の女の子たちに絡まれてたから置いてきました」


 「そのまま来なけりゃ良いのに」

 

 「うわ、素直ですねー」


 「ふっ。俺は自分に正直に生きることにしたからな」


 「今の一言だけならかっこよさげなのに・・・」


 来ているらしい友人を待つ気も失せたので、迅雷は弁当を広げる方を手伝い始めた。


 家族ごとに弁当を持ち寄って分け合いっこをすれば、初対面同士でもすぐに打ち解けた。まぁそのそも真名や慈音の人付き合いパワーを持ってすればこの程度どうということもないのだが。


 「ナオのクラス、結構頑張ってたじゃん」


 「えへへ、そうかな。まぁ私はまだクラス対抗の全員参加のやつしかやってないけど」

 

 「なんたってナオの見せ場はこっからだもんな。特訓の成果を見せるときだぜ」


 「うん!」


 迅雷から改めて魔法戦の手ほどきを受けた直華の実力は確実に上がっている。それに、迅雷自身も妹のポテンシャルには感心するくらいだった。歳があと1つも近ければ中学も高校も一緒に通える時間があったかもしれないのに、と微妙にガッカリしたものだ。


 ほどなくして微妙にやつれた大地がやって来たりしていろいろ盛り上がっていると、安歌音が迅雷の袖を引っ張った。


 「お兄さんお兄さん、私の射的競技見てました?」


 「ん?あぁ、見てたよ。安歌音ちゃん、実は凄かったんだな。あれだけ上手だったら将来有望なんじゃない?」


 「えー、褒めすぎですよー、あはは。ホントに見てたんですか?怪しいなぁ」


 「見てたってば」


 直華と咲乎には兄妹がいるのに対して安歌音は一人っ子だから、もしかしたらちょっとだけ寂しかったのかもしれない。迅雷が自分の競技を見ていたと知ると少し嬉しそうだった。

 しかし、せっかく兄貴と呼ぶくらい仲の良いお兄ちゃんがいるのに、咲乎まで迅雷の方に安歌音とおんなじ質問をしてきた。ただ、安歌音とは少し調子が違う。


 「お、お兄さん。私の方は見てた?」


 「まぁね。でもまさか咲乎ちゃんがダンス競技やる子だとは思わなかったわ」


 「あっ、あれはチャレンジみたいなものですから!・・・やっぱりなんか変でしたよねー、あは、あはは・・・なんかやっぱ見られてたと思うと恥ずかしい・・・」


 「ま、まぁ独創的ではあったよな。でもあれはあれで素敵だったと思うけどな、俺は、うん」


 「あぁっ!ビミョーって顔に書いてる!」


 じゃあなんて言えば良かったんだろう。自分で話を振っておきながら羞恥で真っ赤になった咲乎にポカポカ殴られながら迅雷は渋い顔をした。

 女子中学生にモテモテ(?)な少年を見て羨ましそうにしている父親たちはセーフなのだろうか。いや、もしかしたら最近娘が反抗期に入りかけていて寂しい思いをしているのかもしれない。

 

 しばらく他愛ない会話をしていると、後半のプログラムの開始時刻も近付いてきたからか、校庭にも人が集まってきた。そんな中の1人が、なにか見つけたのか迅雷たちのシートの方へとやってくる。誰かと思って見れば、彼は気軽に手を挙げて挨拶してきた。


 「やぁ、直華ちゃん!」


 「あ・・・神田先輩・・・」


 いかにも自然にモテそうなスマイルを浮かべてやって来たのは、才色兼備で校内一のモテ男、2年生の神田だった。少し前に直華に一目惚れの告白をして人生初のお断りしますを経験したところだったか。


 「か、神田ぁ!お前、ナオに馴れ馴れしいぞ!あっち行け、シッシ!」


 直華になにか言うよりも早く迅雷が神田に噛みついた。完全に臨戦態勢に入っている。


 「うわっ、なんだ!?・・・って、神代先輩じゃないですか。今日は直華ちゃんの応援に?」


 「そうだよ。そしてお前に物申すためにもな」


 「お言葉ですけど先輩、もう俺と直華ちゃんも他人というほどの間柄ではないと思いますけどね、お義兄さん」


 「誰がお義兄さんだテメェ!ちょっとモテるからってフラれたのが認めきれないだけのくせに爽やかぶってんじゃねぇバーカ!そういうんだから馴れ馴れしいんじゃワレ!お前みたいなのにウチの直華さんは釣り合いませーん!!これ以上しつこく言い寄るようなら真っ二つにしてやるぜ!」


 「なっ、せんぱ、そっ、どこで・・・!?」


 「お、お兄ちゃんストップ!今一番大人げないのはお兄ちゃんだよ!?」


 「ぐぬっ!?」


 本当に本気なのか分からないが、多分本気で迅雷が剣を『召喚(サモン)』しようとしていたので、直華は慌てて羽交い締めにした。

 最愛の妹の柔らかいところが背中に当たっているのに、もったいないことに迅雷は神田への怒りばっかりでそっちに頭が行かない。きっと後で思い出して後悔するのだろう。


 「な、なにすんだ!こいつはナオをたぶらかそうとした人類の敵だぞ!」


 「え、人類!?」


 話の規模がいろいろとおかしくて直華が戸惑っていると、その間に落ち着きを取り戻した神田が割り込んできた。


 「まぁまぁ、落ち着いてくださいよ先輩。さすがの俺も先輩の斬りかかられたらひとたまりもないですから」


 「ほら、神田先輩もああ言うし!」


 迅雷は不承不承拳を収めた。まだバチバチと漏電現象を起こしているし、神田への敵意を剥き出しにしたままだが、ここは年上として落ち着きある落ち着きを見せなければ。


 神田は改めて直華に向き直り、ニコニコ笑って話し始めた。


 「とにかく、模擬戦、お互い頑張ろうね。俺も直華ちゃんのこと応援してるからさ!」


 「あ、ありがとうございます。精一杯頑張って勝ち進みますね・・・」


 「そしたら俺たちどっかで当たるかもね!」


 「そんときゃ神田なんてナオにケチョンケチョンに―――」


 「だからお兄ちゃんってば!!」


 終始バカ丸出しの迅雷にニコニコしたまま、神田は直華に手を振る。

 去り際に、ぼそっと神田が呟いた言葉を迅雷だけが聞いていた。


 「勝ち進んでもらわないと困るんだよ」


 なるほど、と迅雷は溜息を吐いた。結局そんなことだったわけだ。微妙にとある陰湿な性格をした同級生の顔を思い出すが、まだ神田の方がマシか。それにまぁ、直華なら心配は要らないだろう。ちょっと出来るからって調子に乗っているやつに負けるような実力ではないから、むしろ痛い目を見させてやれるかもしれない。

 ようやく落ち着いてきた迅雷はお茶を口に含み一服する。

 

 が、今の一幕を生温い目で見ていた安歌音と咲乎の両親に気付いて、迅雷はバッと俯いた。


 「ぁ・・・・・・(ヤバイ、やりすぎたッ・・・!!神田を見てついカッとなってしまったァァァァ!!)ブクブク・・・」


 迅雷は今まで人前ではある程度シスコンによる衝動的な行動を自粛してきたのに。こんなところでボロを出してしまった。別にシスコンであることを隠すつもりはないが、今のはさすがにドン引きレベルだったかもしれない。

 安歌音が、迅雷同様気まずい感じで黙りこくっている直華の横っ腹をつまんだ。


 「ひゃっ!?」


 「お主もおモテになるようですなぁ?」


 「だからぁ!」


 「ふぉっふぉっふぉ・・・」


 罪な女、神代直華はいよいよ困って準備運動だからと誤魔化してどこかへ逃げてしまった。


 「あーあ、逃げられちゃった・・・。それにしてもお兄さん、なかなかやりますねぇ」


 「俺の方もあんまり言わないでくれないかしら。これでも割と反省してんだからさ・・・」


 「罪なお兄さん・・・」


 その罪は直接的な罪だろ、と迅雷は心の中でツッコんだ。両肩を真名と慈音に支えられてやるせなさは倍増だった。


 「ま、まぁ、後は直華の活躍を見守るとしましょうよ、ね?ね?」


 「そう、そうですよ、うん!」


 安歌音も咲乎も本当に良い子だった。肩に手を置くだけの誰かさんたちよりずっと気が利いている。

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