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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect51 ”3つの命令”


 「本当に一生私の言うこと聞けんの?」


 急に甘菜らしからぬ鋭い視線が迅雷を射貫いた。今まで何度もあった、たしなめるようなものではない。声まで攻撃的になった甘菜は、迅雷を怯ませるには十分すぎるくらい雰囲気が違った。

 甘菜は、そうしてでも迅雷を突き放さないといけない。今の彼女がすべき仕事はそれだ。


 「え・・・」


 「ねぇ、聞けるかって言ってるのよ?」


 「も・・・もちろん、なんだって」


 「無茶苦茶な依頼を出して、1人でこなして帰ってこいって言っても?」


 「もちろん」


 「どっかの県を土地丸ごと買ってこいって頼んでも、買ってくるつもり?」


 「なっ・・・いや、き、きっとやってみせます!」


 「じゃあ、そこらの適当な人を指して、あの人と結婚しろって言っても?本当にするの?」


 「・・・してやりますよ。今の千影のために動けるのなら、なんだって。あいつのためだったら、絶対に」


 それが、迅雷のやりたいこと。千影のためと謳いながら、誰よりも自分のためにそうあろうとした。

 かりっと、甘菜が唇を噛んだ。


 「―――やめてよ、強がりばっかり!そんなのなんの意味もないのに!あの子のためになんてならないよ、君がそんなアホみたいな約束したって!大体、こんなつまんないことのために大切なもの、懸けすぎなのよ!!」


 ―――強がりばっかりだ本当に、強がりだ。なにが悪いのだ?世界か?時世か?彼か?自分か?それともあの小娘か?馬鹿馬鹿しい。

 仕事上の立場なんてものは忘れ去って、甘菜は呆れ果てた怒気を撒き散らした。

 迅雷は自分が甘菜の要求ひとつひとつに対して全て嫌な顔をしていたことに気付いていたか?それなのに本当に従うつもりだったことの意味を分かっているのか?

 そんなことでは誰のためにもならない。期待されたからと言って、こんなくだらないいざこざの談合を見守るだけの仕事に、必死になるほどの価値なんてない。


 「ア、アホって・・・!俺は!」


 「うっさいなぁ!どいつもこいつもやりたいやらせろやらないと!なに論法!?身の程を弁えろって言いたいよ!アホなんじゃないのって!君が誰になにをどう頼まれようと私たちは君になに1つ頼みたいことなんてないのにぃぃ!!」


 「・・・っ!?ちょ、おっ、落ち着いてください!?」


 散々喚き散らした挙げ句殴りつけるようにパソコンを操作し始めた甘菜に迅雷は度肝を抜かれた。今までの彼女は優しくてなんだかんだ言っても甘かったのに、突然こんな風になるなんて考えてもみなかった。これではまるで半狂乱である。

 落ち着かせようにも手を伸ばせば獣のような目で睨み返されるので、迅雷は汗を滲ませて突っ立っているしかなかった。


 甘菜はとても常識では考えられないような速度でキーボードを叩き続ける。彼女が最後、拳でエンターキーを押したときにはなにか壊れる音さえした。迅雷はハーハーと荒い息を吐いている甘菜を前にして口元に手を当ててオロオロしていた。


 ・・・が、次に甘菜が顔を上げると・・・。


 「―――あー!スッキリした!」


 「・・・へっ?」


 今度はなにが怒るのかと怯える迅雷。晴れやかな甘菜の笑顔さえ恐く見える。

 その甘菜にスッと手を出され、迅雷は無意識に肩を震わせてしまった。


 「つ、次はなに・・・?」


 「ほら、ライセンス貸して」


 「あ、はい」


 ついつい言いなりになってカードを渡してから、迅雷はハッとした。まさか勢いでカードを真っ二つにされたりしないだろうな、と思ったのだ。しかし甘菜は、迅雷が慌ててなにか言う前に、彼のライセンスカードをスキャナーに通して、すぐに返してくれた。それから彼女は発行された書類を封筒に入れ、キッチリと封をした。

 カードと一緒に封筒を差し出されてなお、迅雷はポカンと口を開けて甘菜を見つめていた。


 「えと・・・これは?」


 「お望み通り、案内書よ」


 「つまり・・・どういうこと?ちょっと話の流れがよく分からないというかなにが起きたんですかというか、本気ですか?」


 「要らないなら喜んでキャンセルするけど?」


 「あぁっ!!すみませんありがたくいただきます!」

 

 甘菜が手を引っ込めようとするので迅雷は焦ってライセンスと封筒を受け取った。

 でも受け取っても疑問は消えない。どういう風の吹き回しなのだろうか。


 「でも、本当にどうして・・・急に?」


 「いい?私はもう超疲れてるの。かれこれ三日三晩寝ずに駆逐作戦のバックアップに徹してきて今に至ってるの。分かる?」


 「そ、それは申し訳ないです・・・」


 「もうね、ホントにヘトヘトなの。帰って12時間くらいぶっ通しで寝たいくらいに。だから、もうあんまり私を困らせないで?」


 そう言って、甘菜は立ち上がって迅雷にズイと詰め寄った。でも、彼女は言っていることとは正反対に清々しく笑っていた。


 「特別に許可したんだから、約束は守ってもらうからね?」


 「・・・え?」


 「なに?まさかとは思うけど今更怖じ気づいたの?残念だけど、君はもう、これから先ずっと私の言うことは全部聞くんだからね」


 甘菜は迅雷の額を指でグリグリ押して、悪戯な笑顔になった。妙な状況になって迅雷はコクコクと頷いてしまう。


 「ならよし。じゃあまず3つ、命令します」


 「3つ!?てかまだ効力はナシじゃあ!?」


 「えーい、細かいことを気にしてたらモテないぞ少年!」


 「がふっ!!」


 美人のお姉さんにそんなことを言われて平気な男子高校生なんていない。迅雷の心はたった今甘菜の叫喚にも勝るほどの大打撃を受けた。

 受け流せない余計なお世話で迅雷が口から魂をはみ出させているが、甘菜は気にせず命令を3つ繰り出した。


 「1つ。この封筒の中身は部外者には見せないこと!破ったらぶっ飛ばす♪」


 「笑顔で恐いこと言うんですね!?」


 「うん?」


 「な、なんでもないです。・・・2つめは?」


 「2つめは、さっきも言った通り、私をもう困らせないこと。・・・もう、ホントに心配させないで。無事戻ってこなかったら、ダメだよ?」


 「甘菜さん・・・」


 ―――その命令は今既に背いてしまっているのに。これ以上は心配をかけられない。でも、きっとそううまくはいかない。

 分かっていて許してくれた甘菜に、迅雷は感謝しきれるだろうか。恩を仇で返すようなことに、ならないだろうか。・・・いいや、ならないか心配するのは甘菜だ。迅雷は、そんなことにさせないのだ。


 「3つめ、お願いします」


 「3つ。しっかりやってこいよ、少年。泣いて帰ってきたら、絶対許さない」


 「・・・なんだろう・・・ホントに、ありがとうございます」


 「言うこと、違うでしょ」


 「そっか。―――任せてください!」


 「よし!」


 なんというか、懸けてみたくなったのだ。やっと自分の中に光を抱いた神代迅雷という少年が、このくだらない出来事の中でなにを見せてくれるのか。彼には、他の誰にもないものがある気がした。

 馬鹿みたいにお礼を連呼しながら去って行く迅雷をカウンターの向こう側で見送って、甘菜は細い溜息を吐いた。


 「好きにしろって言ったのは私だもんね。まずは私が責任の取り方、見せてあげないと。・・・そのためにも局長への言い訳考えないと。うわぁ・・・今から胃が痛いよぉ・・・」


 第一、考えてもみろ。カウンターで客の話を聞くだけの甘菜みたいな下っ端職員に独断で迅雷の願いを叶えてやれるほどの力なんてない。事後承諾で押し切れるだけの理由を考えなければならないのだ。

 本当に、世話の焼ける弟分である。


 胃が痛いのに笑えてきて、甘菜はグッタリと椅子に座り直した。しかしなにか落ち着かない。いや、ギルドの中が落ち着かないのは元からそうなのだが、なんかザワザワしているような気がするというか。

 どうしたのだろうと思って周りの人たちの顔を見渡しているうちに甘菜は自分に注意が向けられていることに気付いてしまった。


 ―――さっき、なにをしたんだっけ・・・?


 慌てて顔を伏せたら、半壊したキーボードが見えた。


 「ぁっ・・・!あああー!もー、やだぁ・・・!」


          ●


 駆逐作戦が終了したということで様子を見に来たら、入り口で神代迅雷と擦れ違った。人のことは言えないが、彼もここに毎日のように来ているようにさえ思える。今日はなにか良いことでもあったのだろうか、珍しくこちらに気付かなかった。手には重要そうな封筒があったが、あれはなんだったのだろう。

 それと、いつも連れている小学生もいない。


 「まぁどうでもいいか」


 雪姫は迅雷の姿を目で追ったりなどしないでギルドの中に入った。ただ、本当にどうでもいいのか、とも考えていた。錯綜している複数の噂と事実、今の迅雷の状況や彼の手に合った書類。内容は分からないが、もしも低確率の予想が当たっていたとしたら。


 「・・・・・・いや」


 ―――多分、考えすぎだ。


 雪姫は気を取り直して賑やかなギルドの様子を見渡した。別に風景が変わったわけではないが、職員たちはみんな慌ただしくしている。

 また、一方では利用者も多い。特に多いのは子供だが、それよりも雪姫が気にしていたのは一般の高ランク魔法士の利用者が通常時よりも多いことだった。


 「・・・・・・・・・・・・」

 

 もう少し中を歩いて観察していると、雪姫はとある人物を見つけた。そのフードを目深に被った少年は柱の陰に隠れて実に愉快そうにニヤついていた。

 

 「藤沼界斗・・・か」


 少し前に面倒事を起こしていた同級生の姿を視界横方向に強制スクロールしながら、雪姫は彼の名前を呟いた。学校では好き放題してまた姿を見せなくなったらしいが、懲りないやつだ。気色悪い笑顔を浮かべたまま界斗は去って行く。あちらもあちらでなにか良いことでもあったのだろうか。

 まぁ、彼の考えていることなぞなおさらどうでも良いので、雪姫はさっさと用事だけ済ませようと思った。・・・のだが。


 「あぁあー!もー、やだぁ・・・!」


 「・・・は?」


 受付で喚いている恥ずかしい大人がいるのが見えてしまった。仕事中になにをしているのだ、あの人は?


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