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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect49 ”Time will Erase Those Rumors”


 千影や自分のことを仲間たちまで心のどこかでは疑っているのではないか、なんていうネガティブなことを考えるのはもうやめにしよう。

 さて、だからといって、ではどうしたものか。まさか全部認めて事実をぶちまけるわけにもいかない。というよりまず、迅雷が諸々の噂の真相を知っていること自体がイレギュラーな状況なのだけれど。

 困ったものだ。


 「まぁ、ひとまずは全部落ち着くのを待ってから、だよな。変なウワサも根っこが収まれば勝手に消えるだろ」


 迅雷はそう言って笑った。実際その通りだろう。ギルドが慌ただしいからみんな不安がっているだけのことなのだ。当たり前の日常が帰ってくれば今まで毎分毎秒耳にしていた暗い噂も嘘のように聞かなくなるはずだ。

 迅雷が明るい様子なら、矢生と涼、愛貴の3人が抱いていた不安も解消したようなものだった。彼の言い分には矢生も納得して頷く。

  

 「それもそうですわね。きっとみなさんも騒がしさで気が立っているだけですのよ」


 「そうだよな。それにしても藤沼のヤツ、ホントにクソつまんないことするよな」

 

 真牙が苛立った表情をすると、全員が彼に同意した。屋上から改めて壁に磔にされたまま放置を食らっている界斗を見てみると、どうやら先生たちが救出作戦を開始していたらしい。場所が場所なのではしごの高さも合わないから、先生たちは魔法で足場を確保しながら頑張っている。


 「ああやってるのを見るとさすがは魔法科専門学校だなって思うよね」


 向日葵が呆れ顔でそんなことを言うけれど、本音は界斗をもっと晒し者にしておけば良かったのに、とでも言わんばかりだ。いや、確かにみんな「いいぞ、もっとやれ」って思っているのだが、それで学校が訴えられても困る。

 先生たちが壁に刺さった氷の杭を抜くので悪戦苦闘しているのを見ていると、ちょっと可笑しい。というか、溶かせば良いのに。界斗を火傷させかねないからそうもいかないのだろうか。

 それにしても、こちら側の校舎から50メートル以上は離れたあちら側の校舎にまで人間1人を乗っけたまま飛んで、その上強大なモンスターの攻撃にも耐えられるほど頑丈な壁にグッサリ深く突き刺さる雪姫の魔法の威力も戦慄ものだ。


 迅雷はふと真牙の横顔を見た。普段は軽い性格だが、今更ながら、学内戦の決勝戦で雪姫の懐に潜り込もうとし続けた(らしい)真牙をすごいなと思った。迅雷も真牙の実力は分かっているつもりだが、よくもビビらなかったものだ。

 まぁ、だからと言って真牙になにか言うわけでもない。代わりに迅雷は矢生に話しかけた。


 「《雪姫(ゆきひめ)》様はやっぱり伊達じゃないな。しかも今回は矢生たちを助けたんだろ?」

 

 「うー、悔しいですわ!本来でしたら私が一射で藤沼界斗さんを倒して万事解決となっていたはずでしたのに!!」


 「ご、ごめんね、私が人質に取られたりなんてしちゃったから・・・。うぅ・・・ホントにごめんなさい」


 「い、いえいえ!涼さんが無事でなによりでしたわ!手柄なんて二の次ですわ!(・・・今回ばかりはあの忌々しい雪女にも感謝しないとですわよね)」


 そういう内心を口には出せない強がりな矢生であった。といっても、さっき素直にお礼を言ったのになぜかキレられた後だから仕方ないかもしれない。

 なんとも言い難そうな顔をする矢生と互いにフォローし合ってから、涼は改めて雪姫について話し始めた。今回の一件で涼の中で雪姫に抱いていた印象もだいぶ和らいだのは間違いない。


 「でもやっぱりさすがだよ、あの人。自分が一番みたいに思い上がってる藤沼をちょちょいのちょいでぶちのめしちゃったときには私もなんかスッキリしたし。・・・相変わらず雪姫さんも雪姫さんで気取ってるけどさ」


 「そうですわね。まぁ私だってあの程度?別に難しくありませんわ!」


 「よっ、師匠、日本一!」


 「ホーッホッホ!!」


 ここぞとばかりに矢生に合いの手を入れた愛貴の腹が鳴った。お師匠様の高笑いに紛れて聞こえた間抜けな音でみんなが目を点にしているのを見て、愛貴は顔を真っ赤にした。

 思えば学食帰りの迅雷たちは良いかもしれないが、ドタバタの渦中にいた愛貴たちは碌に昼食を食べられていないのだった。

 モジモジする愛貴を見て真牙がホコホコしている。

 

 「愛貴ちゃんの腹の虫可愛いハァハァ」


 「興奮すんな変態!」


 「涼ちゃん痛い!」


 失礼極まりない真牙を涼がキックで成敗した。彼女にツッコミの役を奪われた迅雷はチョップしようと持ち上げた手のやり場に困って、そっと髪を直すフリをした。隣で向日葵がいろいろ分かったような目で見てくるのが恥ずかしい。


 「うくっ・・・!し、師匠!早く教室に戻ってお昼食べちゃいましょうよ!これ以上は恥ずかしいですっ!」


 「そうですわね。お昼休みが終わってしまってはいけませんわ。それではみなさん、ごきげんよう。・・・それから愛貴さん、私はあなたの師匠ではないと何度も言っ―――」


 「さぁ師匠、早く行きましょう!そしてさっき途中だった新しいウワサの話があるので聞いてください!」


 「気にはなりますがこのタイミングでまた変な噂話をするのは不謹慎なのでは!?」


 「大丈夫ですよう。・・・多分」


 「多分って・・・」


 微笑ましいやり取りをするツインテ師弟を見送ってしまって、涼はどうしようかと迷ってしまった。2人に置いていかれるのは寂しいが、かと言ってせっかく真牙もいるのだからもうちょっと話をしていきたいと思ってみたり。乙女の恋愛事情は複雑なのだ。


 オロオロしている涼を見て真牙は調子良さげだ。面倒臭い2人を見比べて迅雷は溜息を吐いた。大体真牙もなかなかよろしい性格をしている。

 いろいろ焦れったい気持ちもありながら、人の恋愛事情に口を出すのも憚られて迅雷は悶々としてきた。そもそも迅雷がそのことを知っているだなんて涼は思いもしないはずなので、なにを言っても彼女がショックを受けることは間違いない。結論、とりあえず腹いせでさっきからニヤけっぱなしの真牙を殴りたい。

 涼を見ていてなんとなく察したらしい友香と向日葵も対応に困っている。というか半ば信じられなさそうな顔をしている。さすがにそれは真牙に失礼だ。


 一方、そんな細かいことなんてサッパリ知らない慈音が涼に100パーセントの良心で無慈悲なことを言った。


 「えっと、涼ちゃん?矢生ちゃんの愛貴ちゃん行っちゃったけど、一緒に戻らないの?」


 「へっ!?あ、あー・・・・・・っはははは、そうだねー!置いていかれちゃったー、あは、あははは・・・」


 ―――可哀想に。


 唖然として死にかけの笑声を漏らしながら涼は退場していった。彼女の思っていたのと違う反応に慈音は首を傾げた。なぜか落ち込んでいるようだったので焦る。


 「あ、あれれ!?しのなんか変なこと言った!?」


 「しーちゃん。同じ女の子なんだからさ・・・」

 

 「えええ!?だからなんなのー!?」


 最近はすっかり女の子になり始めた慈音だったが、まだ他人のことまで察するには早かったらしい。微笑ましいくらいの天然っぷりだ。

 まぁ、過ぎたことは仕方ない。涼もきっと自力で立ち直るものとしておいて、迅雷はさっき愛貴が矢生と話していたことを思い返した。


 「また別のウワサ、か・・・。嫌な響きだな」


 そう聞いたとき、迅雷には心当たりがあった。甘菜がお見舞いに来てくれたとき教えてくれたあの話だ。実際、それっぽい噂は通学路を歩いていれば聞こえてきた。

 朝は迅雷と一緒に学校まで来た真牙も噂の方は知っているので、それに思い至ったらしい。


 「もしかして、アレのことじゃないか?」


 「アレって・・・やっぱ例のアレ?」


 「そうそう」


 もはや『アレ』だけで話が通じてしまう2人を見て友香と向日葵がヒソヒソ話を始めた。


 「迅雷君と真牙君ってときどきすごい以心伝心だよね・・・」


 「ねー。まるで長年連れ添った夫婦みたいじゃない?」


 「「そういう気持ち悪いこと言わないでくんね?」」


 「おっ、ハモった!やっぱ夫婦じゃん!・・・ん?でも両方男子だから夫々(ふうふ)?まぁいっか!お似合いなんじゃな・・・い・・・?」


 腕っ節強さだけなら学年トップクラスの2人が怒気を醸し出し始めた。必殺ヒマワリスマイルが通用しないので向日葵は逃走開始。

 男子2人がかりで女子1人を追いかけ回しているとかなり鬼畜な印象がつきそうなものだが、走るのが得意な向日葵はちょこまか方向転換して割と頑張っている。でもやっぱり迅雷と真牙の方がスタミナはあったりしちゃうので向日葵は涙目だ。

 理不尽な鬼ごっこを眺めながら慈音は安心して肩の力を抜いた。


 「ほっとしたなぁ。としくん、元気そうで」

 

 「そうね。―――あ、ヒマが捕まっちゃった」


 どんだけ夫婦ネタが心外だったのだろう。大人げなくも迅雷が向日葵を羽交い締めして真牙が手をワキワキさせている。


 「オラァ!くすぐり地獄じゃあ!」

 

 「地獄の底であんなこと言ったのを後悔するんだな、向日葵ちゃん!コショコショー!!」


 「ああああっ!ダメッ!マジでそこはらめっ、あひっ、んはははははは!?せっ、セクハラで訴えてやるぅぅぅぅ!」


          ●


 「うわぁああぁぁ!?どっ、どどどどどうしたんですか天田さんその手は!?」


 「別に・・・」


 「『別に・・・』じゃないですよぉ!思いっきり血まみれじゃないですかぁ!てかなんでそんな涼しい顔してるんですか痛くないんですかもうホントに信じられないですぅ!」


 そもそも「別に」と言うなら保健室に来るだろうか。変なところでアホなことを言う生徒には由良もほとほと呆れてしまう。さっきは顔を腫らした女子生徒が担ぎ込まれてきたりしたので、もしや1年生のところでなにか事件でもあったのだろうか。

 由良が勘繰っても仕方がない。まずは自分の仕事をするのが優先だ。自分なりな応急処置は済ませてきた雪姫を椅子に座らせて、由良は戸棚から消毒液と包帯を取り出してきた。


 「えっと、まずはその氷どうにかしてくださいね。これじゃ私の治療魔法も届かないので」


 「・・・」


 「よしよし。ホントは完治させてあげたいところですけど先生もまだまだ未熟ですからそこは許してくださいねー」


 そうは言いつつも、この程度の傷であれば由良でも十分元通りに出来る。雪姫が思いの外素直に手を出してくれるので由良も少し安心した。

 傷口を水で流して消毒し、それから医療魔法を抉れた掌に当てる。

 

 「でも本当になにをしたらこんなことになるんですか」


 「チッ・・・」


 「なんで舌打ち!?・・・まぁ良いですよ、無理には聞きませんし。でももうちょっと私たちを素直に頼ってくれても良いんですよ?私じゃ頼りなく見えるかもですけどね、あはは・・・はぅぅ。で、でもですね、私から見たら天田さんだって大切な可愛い生徒の1人なんですから、あんまり怪我されると、やっぱりイヤですよ」


 「・・・・・・」


 結局、雪姫は由良が治療を終えて手に包帯を巻き終わるまで一言も発しなかった。

 お礼も言わずに保健室から出て行った雪姫を見送り、由良は溜息を吐く。


 「まぁ、お礼なんて別に良いんですけどね?・・・はぁ。もっとあの子とまともにコミュニケーションを取りたいですよぉ!先生はどうすれば良いんですかぁ!?」


 「うーん・・・由良ちゃん先生、保健室で騒がないでー・・・」


 「あ、ごめんなさい。・・・って、だからちゃん付けしないでっていつも言ってるのにぃ・・・」


 さっき治療を済ませてベッドで休ませてあげていた女の子も、もうだいぶ良くなっているようだった。


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