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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect48 ”True Friendship , True Trust”


 「・・・・・・なにこの空気。重いんですが」


 ようやく学校生活に復帰出来た慈音のお帰りなさい記念で久々に全員揃って食堂に行った帰り、迅雷は自分の教室周辺が妙な雰囲気になっているのに気付いた。

 廊下にたむろしていた生徒たちはみんな迅雷の顔を見るなりヒソヒソと話し始め、目が合うとよそよそしく顔を背けてしまう。中には窓の外に向けてスマホのカメラを向けている生徒もいるが、彼らも迅雷に気付いた途端に同じような態度を取るのだった。

 しかもなんだか物騒なことに、廊下には途切れ途切れに血痕らしきものがある。


 ―――なにがあったんですか、これ?


 身に覚えのない気まずさを感じた迅雷は隣を歩いている真牙を頼るように見たのだが、既に彼もジト目だった。


 「な、なぁ真牙。俺、なんかしたっけ・・・?」


 「迅雷。自分の胸に聞いてみな」


 「それ完全に俺が悪かった前提じゃねぇか!!」


 「どうせアレだろ、迅雷に告白したけど『年下の子しか受け付けてないんだよねキリッ』つってフラれた女の子があまりのショックでリストカット・・・」


 「そんなことは記憶にございません!つーか俺だって別に年下専門じゃないもん!そしてその結末は笑えない!」


 なんて感じに怒濤のツッコミを繰り広げながらも、迅雷は一方で「いやまさかな・・・」と不安になった。

 ちょっと前まで精神的に不安定だった自覚はあるので、その間に真牙が言ったみたいなとんでもないことを言っていた可能性は・・・なくもなくもないわけではないはずもない・・・のかもしれない。

 いやしかし、だがしかし、落ち着いて考えてみよう。さすがのネガティブ迅雷でもそんな発言をしただろうか、いや、しない。多分。


 真牙が普通に真顔で言うから真に受けた友香と向日葵、さらには慈音までもが揃って青い顔をしている。


 「と、としくん・・・見てないうちにそんな・・・」


 「えっと・・・そ、それでも私は友達でいるから・・・とは頑張ってね?」


 「いや、さすがにうわぁってなるんだけど・・・」


 「お前らも本気にすんじゃねえ!」


 「・・・と、オレたちがおバカしててもみなさんの迅雷を見る目が変わりません、と」


 「・・・だな」


 女子組が今のやり取りはわざとだったのかと驚いている。もしかして、本当の本当に真牙の冗談を真に受けていたのだろうか。いや、迅雷も一瞬ドキッとする瞬間はあったが、すぐに真牙からの振りだとは気付いた。

 せめて慈音くらいは察してくれているかと思ったのに。これでは迅雷と真牙だけが以心伝心みたいだ。いや、悪いことではないが、以前から一部の女子生徒たちの間で妄想の対象にされていたことを思うとなんかイヤだった。


 改めて真牙が、今度こそ本気で訝しむような顔をした。


 「なぁ・・・お前ホントになんもしてねぇの?これは尋常じゃないぞ」


 「してないってば。実際、真牙だって学校にいる間、ほとんど俺が見えるとこにいただろうが」


 「それはそうだけどさぁ。んー・・・」


 推理小説の犯人役ではないのだから、複雑な手口で見事にその場にいないままに誰かを攻撃するなんて出来るわけもない。

 どうしたものかと思って迅雷は窓の外に目をやって―――衝撃的なものを見てしまった。


 「ぶふぉっ!?なんだありゃ!?」


 「としくん、今度は演技?それともホント?」


 「し、しーちゃんもあれ、あれ見てみろって!人、人が!」


 「外?人?」


 迅雷があんまりにも必死に窓の外を指差すので慈音は不思議に思って窓の外を見る。


 「・・・え、えぇぇっ!?なんか人が壁にはりつけられてるよ!?どっ、どどどどういうことなの!?」


 慈音の驚きようも大概大袈裟だ。彼女に続いて窓の外に目をやった向日葵と友香も目を丸くした。向こうの校舎の壁に、透明な杭のようななにかで服を刺し留められている誰かさんがいるのだ。

 向日葵はその誰かさんを見て、小さく驚声を上げた。


 「あっ。あれって1組の藤沼じゃないの?」


 「藤沼・・・って、あの学内戦以降不登校になってた、あの藤沼界斗君のこと?」


 「そうそう。遠目だからトモは見にくいかもだけど、多分そうだよ。うーん、なんか髪切ってなかったのかな、前以上に陰気な感じになってるけど」


 「言われてみれば・・・確かに」


 友香は目を細めて、界斗と思しき、ジタバタ暴れている男子生徒を見てみた。そろそろコンタクトの度数も新しくするべきかもしれない。とにかく、ボンヤリ見えた少年の顔は確かに、あの胸糞野郎だった。

 さて、しかしなんでまた、久々に顔を出したと思えばあんな場所あんな格好で驚き・桃の木・山椒の木な登場をしているのだろうか。さすがに今の状況と全く関わりがないとは思えない。


 少しの沈黙のあと、名探偵ヒマがポンと手を叩いた。素晴らしい推理を思いついたらしい。

 なにやら変にキラキラした目で見つめられるので、迅雷は一応彼女の話を聞いてあげることにした。もちろん、あんまり期待はしていないのだが。


 「どうしたんだ、向日葵」


 「フフン、あたし分かっちゃったよ!」


 「どうぞ」


 「ふっふっふ。ズバリ、知らんぷりしてるようだけど藤沼をあそこまでぶっ飛ばしたのが迅雷クンだったのだ!」


 「・・・・・・で?」


 「で、そこの血の痕から分かる通り迅雷クンはやり過ぎちゃったからそれを見たみんなはビビっちゃってるんだよ!ほら、迅雷クンと藤沼って仲良くなかったでしょ?これなら変なところもないし、名推理だね!」


 「ある意味期待以上っすね・・・」


 「でしょでしょ?」


 「でも昼休みに俺と向日葵はずっと一緒にいたわけだけど、そこはどう説明するおつもりで?」


 「そっ、それはぁー、そのぉー・・・そ、そう!分身したんだよ!忍者みたいにドロンって!これで解決!」


 「あーなるほど!それは完璧な推理じゃねぇか!不可能という点に目を瞑ればよぉー!」


 「で、でしょー!?いやもう迅雷クンったら知らない間にまたすごい魔法を開発しちゃってぇ!」


 「・・・向日葵視点の俺ってすごいのな」


 「・・・ごめんなさい調子乗ってました」


 見事に自爆した向日葵がしょぼくれている。迅雷は別に励まさなくてもいいや、と切り捨てた。

 それから迅雷は改めて磔に処されている界斗を見る。向日葵が言う通り、迅雷は界斗と仲が悪い。率直に言って、嫌いだ。

 ただ、それは迅雷に限った話ではないはずだ。


 「確かに俺とあいつは仲悪いけど、そもそもあいつと仲良いヤツなんているのか?学内戦のときに印象最悪だったんだぜ?むしろアレぶっ飛ばされるの見たらみんなスカッとしそうだけどな」


 「基本みんなに優しい迅雷クンがそこまで言うあたりだよね」


 「よせよ、照れるだろ」


 真顔で照れてから、迅雷はもう少し具体的に観察することにした。主に、あの杭だ。


 「よく見ると、あれって氷じゃないか?いきさつは分かんねぇけど、つまり―――」



 「あら、迅雷君に真牙君、それに―――、みなさんお揃いでどうか・・・されましたか?」

 「や、やっほー真牙くん、それにみんなもー」

 「こんにちはー、あはは・・・」


 

 後ろからだったので、迅雷たちは振り返る。

 そこにいたのは雑巾とバケツを用意してきたらしい矢生と涼、それと手ぶらだがなにか背負って運んだ後のような疲れ方の愛貴だった。血で汚れた床を掃除するつもりだったのだろう。

 迅雷と真牙は彼女たちに挨拶を返そうと思ったが、それよりも気を遣った声色が気になってしまった。


 「矢生たちなにか知ってるだろ」


 「な、なんのことでしょうか。私にはよく分かりませんわね」


 「お嬢様然とした態度でそれ言うとなんか胡散臭い悪役令嬢みたいだな」


 まぁ、そうだとしたらお金持ちのお嬢様が青いポリバケツを持って立っているという光景のシュールさもより一段と増してくるのだが。

 迅雷のジト目から視線を知らす矢生の脇腹を涼が肘で小突いた。


 「遅かれ早かれ迅雷くんの耳にも入るから、隠すことないよ」


 「そうですよ、師匠。それに神代さんはなんにも悪くないんですから」


 「お2人とも・・・えぇ、そうですわね。迅雷君、失礼いたしましたわ。ただ先にここのお掃除を済ませてしまいたいので、その間だけお待ちください」


 「分かったよ」


 特に文句もないので、迅雷たちは矢生らの掃除を手伝いながら待つことにした。


          ●


 「―――ということがありましたの」


 校舎の中は居心地が悪いということで、迅雷たちは屋上に出て矢生の話を聞いていた。

 彼女から事の詳細を聞けば、なるほど、冗談を言って様子を窺っている場合ですらなかったのかもしれない。最後は予想通り雪姫の活躍で大事には至らなかったようだが、余韻が暗すぎる。迅雷は恐れていた現実を思い知った気がしてならなかった。


 「ウワサって・・・本当に、ねぇよな。酷い話だろ」


 『悪魔の子』という噂がある。―――噂で済んでいたから良かったのに、ほんの些細な悪意が混じっただけで、こうまで歪んでしまうものなのか。それでいて真実から遠いまま、汚れた手で核心にベタベタと触られるかのようだ。


 恩を仇で返され続けるのがあの少女の宿命なのだとしたら、悲しすぎる。


 例え誰もが千影のことを恐れるようになったって、迅雷は絶対に千影を恐がったりなんてしない。でもみんなが本当に彼女を疑い始めたら?弾劾され世間から追放される異端者が1人から2人に増えるだけだ。そうなったら、生きていけない。世界の全てを敵に回して2人ぼっち淋しく寄り添って生きていくなんて、そんなのは恐すぎる。

 でも、頭を抱える迅雷を心配してくれているここに集まったみんなは、きっと味方になってくれる。今の迅雷と千影にとって、多分それが最大限の幸せだ。

 真牙が迅雷の肩に手を置く。


 「まぁ、オレは信じてるぜ。千影たんのことも、もちろん、迅雷のことも」


 「しのだって信じてるよ。としくんのことは誰よりもずっと見てきたもん。としくんがそんなことするわけがないのに、みんなひどいよ!千影ちゃんだって、すごくいい子だもん!」


 励ますだけの安易な信頼なんかじゃない。一緒に重ねてきた時間の重みが、真牙と慈音の2人が迅雷に寄せる信頼の重みだった。


 でも、なら千影はどうだ?そして、真牙と慈音以外のみんなの本心はどうだ?まだ3ヶ月の信頼は、彼らの中にどれだけの大きさで存在している?

 信じたいという気持ちと現実は違う。界斗が見せびらかしたという写真はきっと事実だし、彼が煽った不安は日野甘菜が懸念していたそれ、そのものだった。


 果たしてみんなが信じたい、信じていると言うのは、千影のどこからなのだろう。

 人を傷つけたりなんていない、と主張するのか。斬った相手こそ悪魔だったんだと言い張って千影を擁護するのか。それとも、あの子の全てを信じてやれると言ってくれるのだろうか。


 考えて考えて、不安を巡らせて、迅雷は首を横に振った。なんて馬鹿なのだろうか。


 「みんな・・・ありがとう。ありがとな、本当。俺が信じないと、始まらないよな」


 せっかくの大切な友人なんだから、そんな彼らの心まで疑ったら恥も甚だしい。迅雷は相変わらずネガティブに向かいやすい自分の心を叱咤して持ち直した。

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