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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect47 ”人死にが出るのが嫌なだけだから”


 「―――って感じでさ、あれはもう終わったと思ったよな」


 「へ、へー・・・それは恐かったね・・・?」


 1年生の教室で事件が起きていることも、ましてや自分と千影が殺人未遂の共犯関係にされていることなど知る由もない迅雷は、いつメンに金曜日にできなかった苦労話を昼飯のおともにしていた。

 とある変態電波女に逆レイプされかけた話をすると、向日葵がリアクションに困っていた。確かに食事中にする話ではなかったかもしれない。のしかかられて涎まみれにされた話なんてされても気色悪いだけだ。

 しかし、その場にいた真牙は迅雷の話に乗っかってきた。迅雷は、自分から話題を出しておきながら、あの人の話を続けるのかと思うと微妙な気分になってしまった。


 「うーん、あの人はもう少し落ち着いてたら良いと思うんだけどな」


 「真牙くんがそう言うってことは本当はきれいな人ってことなの?」


 「多分・・・?」


 「多分って・・・」


 慈音は、真牙をして曖昧な返答をさせる謎の女性Xに震撼した。いや、さすがに震撼と言うほどではないが、世の中は広いということを思い知らされたのは確かだった。迅雷の語り草が相当だったのでちょっと恐いが、慈音はその人に興味が湧いてきちゃったりなんだり。

 さて、そんなところで口を挟んできたのは友香だ。どうやら、彼女が興味を持ったのは変態の方ではないようだ。

 

 「でも、ということは迅雷君と真牙君っていろんな魔法士の人と会ったんだよね?」


 「ん?まぁね」


 「ねぇ、それってどんな人たちだった?出来たら詳しく教えて欲しいんだけど!」


 「あ、急激にテンションアップしてきた」

 

 「ふっふふふ、当たり前よ、なにしろそこには私のロマンがあるのだから!」


 相変わらずのバトルマニア(消費者)っぷりには謎の安心感さえ感じる。武勇伝をたくさん持っていそうなベテランの高ランク魔法士なんて友香からしたら感動と情熱の宝庫に違いない。


 「つったって俺別にそんないっぱいの人としゃべったわけじゃないんだぜ?なんつーか、ピリピリしてて話しかけづらい感じで」


 「な、なるほど!話しかけづらい・・・話を聞けない・・・しかし、それがむしろ良いっ!あの背中に痺れる!その声を聞け!あー、私もついていけば良かったなぁ!握手とかしてもらいたかったなー!うふふ・・・」


 話なんて聞いていないと言っているのに友香の目はみるみる輝きを増していく。さすがにプロの魔法士軍団が自分の街にやって来たともなれば、友香にとっては夢のようなイベントなのだろう。その原因としてなにが起きているのかなんてこの際どうだって良さげなところがちょっとばかりおっかないけれど。

 それに、話しかけづらい雰囲気だったと言ったのに握手だなんて、とんでもない発想だ。迅雷ならとてもではないが言い出せない。もし友香があの真剣な魔法士たちを見てまだそんなことを言えるとしたら、筋金入りのアホだ。


 「そういや前、モンスターが大量発生してればいろんな人が戦う姿が見られるなー、とか言ってたしな。もう今更友香のそういう不謹慎な発想にはツッコまないことにしよう」


 「それでいいもんね!誰がなんと言おうと私のワクワクを止めることは出来ないわ!」


 「分かったけど、頼むからギルドに忍び込んで様子見ようとかしないでくれよな・・・」


 「それはもう手遅れだよ迅雷クン」


 「え」


 高笑いしている学級委員長に迅雷は釘を刺したが、その肩を向日葵が叩いた。手遅れと聞いてサァッと青ざめる。


 「まさか・・・」


 「そう、そのまさか。日曜日にね?・・・あたしは止めたんだけど・・・」


 「・・・うん」


 普段は楽天家なキャラで知られている向日葵も裏では真面目と思われている親友に振り回されて苦労しているのだ。心労を顔に出す向日葵に迅雷はそこはかとなく同情した。制御の効かないアホの手綱を握るのは本当に疲れるものである。

 既にテンションの永久機関化している友香は1人で勝手に燃え上がり始めて手が着けられないので、彼女のことは放っておいて真牙が話の続きを始めた。


 「まぁ、話が全く聞けなかったわけじゃなくてさ。オレたちが全国行くときにサポーターでついてきてくれた人たちも来てて、その人たちとはちょっと話出来たんだよね。あとは、そう!学園長センセが来たんだよ!」


 「え、ホントに?あの学園長先生!?すっご」


 「学園長先生かー。しのなんてちょっと顔を覚えてないかも・・・なくらい見てないなー」


 「しのちゃんはちょっと失礼だな、だがそれが良い!」


 可愛いは正義、と真牙はグッドサインをしているが、実際自分の高校の校長先生の顔がうろ覚えなのは慈音だけではないだろう。それくらい清田宗二朗は生徒たちにとってレアな存在なのだ。


 「あと、話をしたって言ったら警視庁の魔法事件対策課の人もだよな。俺の父さんとこの部下なんだって。初め急に名前呼ばれたからびっくりしたよ」


 「としくんのお父さんの部下かぁ、やっぱりすごい人だった?」


 「いや、あれだけじゃ分からないなぁ。能ある鷹は爪を隠すってことかもしれないけど、関西弁で優しい感じのお姉さんだったよ」


 「優しいお姉さん・・・なんか憧れるねー」


 慈音がなにか言っているが、彼女は彼女でもう十分優しいので、あと数年もすれば憧れの優しいお姉さんになっていることだろう。


 「それと、最初に紹介したあの人も父さんの部下らしい」


 「それは苦労してそうだね」


 「してるだろうな。あの人の面倒見るくらいならまだブラック企業にこき使われる方がマシな気がする」


 「でも言う割に迅雷、ちゃっかりしてたじゃん。わざわざニッコリ愛想笑い浮かべてエールなんか送ってさ。意外と李さんと相性良いんじゃないの?」


 「ふざけんな」


 「えー、迅雷クンそんなことしてたの?どんな顔?見たい見たい」


 真牙が余計なことを言うので、向日葵が興味を持ってしまった。真牙は当事者ではないから簡単に言うが、あれで迅雷も頑張ったのだ。写真を撮るときに笑うのって難しいよね、と言う人がいるが、あの気持ちがよく分かった。

 向日葵のノリに後押しされて真牙がけしかけてくる。 


 「だってよ、迅雷。向日葵ちゃんが言ってんだからちょっと再現してくれよ、あのアイドルスマイル」


 「ぷっ。と、迅雷クンがアイドルって!」


 「なんで笑うんだよ、なんか傷付くな!?」


 「い・・・いや、意外と出来るんじゃない?ぷぷっ」


 「としくんがアイドルかー。としくんならなれるかもね。そしたらしのもみんなに自慢できるね、この人実はしののお隣さんで仲良しなんだよーって。そしたらサインとかいっぱい頼まれちゃうのかなぁ」


 「ほらほら、慈音ちゃんまで言ってるんだから笑えって」


 「みんな揃ってなんなんだ!って、やめ、やめろ!わか、分かった!やるから!だから引っ張んな!」


 向日葵と真牙が結託して、迅雷は両隣からほっぺたを引っ張られる羽目になった。食事中になんともお行儀の悪いことだ。

 迅雷は首を振って2人の手を払いのけ、ひとつ咳払いをした。

 ここで笑わなかったらどうせ別の機会に思い出されるだけなので、恥を忍んであの愛想笑いをしてやることに決めた。しかし、あの時はどうやって笑っていただろうか。なかなか難しいが、李が目の前にいるイメージを思い浮かべてみた。


 「・・・じゃあ、やるぞ」


 「「「わくわく」」」


 「うっ・・・よ、よし」


 期待に満ち満ちた視線がある中、覚悟を決めて、スマイルスマイル。多分今、迅雷は普段絶対に見せないようなとても上品で爽やかな笑顔をしている。


 「・・・こ、こんな感じ?」


 「ぶふっ」


 「もうやだ帰る!!」


 「まー待て待て待て帰るとかそんなつまんねぇこと言うなよ、可愛い笑顔だったぜ?」


 「可愛いって言うな気持ち悪い!」

 

 爆笑する真牙に腕を掴まれて椅子に戻された迅雷は頭を抱えて机に突っ伏した。なんという恥ずかしさだろう。帰れないならせめて保健室で由良ちゃん先生に慰めてもらいながらタヌキ寝入りしたい。

 慈音と向日葵を見れば、なんかハッとしたような顔をしている。


 「としくんがスマイルしてた!なんだろう、スマイル!爽やかスマイルっ!」


 「あ、あれ?結構イケてたんじゃない?ちょっとキュンとしたんだけど」


 「やめてやめて忘れてください!てか普段しない顔して褒められても嬉しくない!今のは俺の顔をした別の人だから!」


 「としくん、それはしののトラウマだよ・・・」


 「ごめんね!?」


 慈音の割とシリアスな一言に迅雷は全力で謝った。今のは気が回っていなかった。

 さてしかし、向日葵からの思わぬ好評を得られたことを素直に喜ぶべきなのか否か。迅雷は思春期の男の子として非常に悩んだ。これからずっとこの営業スマイルをすればモテ期が到来でもするのだろうか。

 しかし結局それは自分を偽ることになる。それだけはもう絶対に嫌だと思ったから却下だった。

 というか、自分からけしかけておいて悔しがっている真牙は一体なんなのだろう。


 このままだといろいろ面倒臭いので、迅雷は話題を逸らすことにした。


 「そ、そういえばさ!IAMOの人たちが来た後にさ、雪姫ちゃんも来たんだよね―――」



          ●



 本物の銃声が鳴り響くと、それにも負けない悲鳴が連鎖した。

 藤沼界斗は、なんの躊躇いもなく人に向けて散弾銃を撃ったのだ。


 床に赤い滴が垂れて、全員が息を呑んだ。だが、その表情は今限り絶対的な安堵であり、次なる恐怖とも取れるものだった。

 界斗は、矢生との間に突然割り込んできたその少女を見て呆気にとられた顔をしている。


 「おい・・・おいおいおい、なんのつもりだよ、天田雪姫。もしかしてお前もぼくの邪魔をしようっていうのかよ・・・?」


 射線を遮るように手をかざした学園最強の凍てつく絶対王者は、不機嫌そうに口の端を下げた。


 「―――ってぇな。これ実弾じゃん」


 氷結した弾が床に落ちて砕け散った。発射された弾は全て、彼女の掌で受け止められていた。

 至近距離からの実弾には、さすがに無傷とはいかなかった。少し掌の肉が抉れて血が流れ出る右手を見ながら、雪姫は舌打ちをした。つい、魔法より先に手が出てしまった。

 

 なんの前触れもなく現れて妨害をした雪姫に界斗は激しい怒りを露わにする。


 「おい、無視すんのか?おいッ!!おいィィィッ!!お前、お前お前お前ぇぇぇぇはぁぁ、さぁぁぁ!?ムカつくんだよこの雪女がさァ!!気取りやがって!!」


 「誰か。そこの窓開けといて」


 言うなり、雪姫は血まみれの右手で界斗の涼を掴んでいた方の手首を握り潰してしまった。掴まれていた制服を放され涼は床に落ち、界斗は手首を押さえて跳ねるように倒れる。


 「あぎゃあッ!?」


 膝を折り絶叫して床をのたうち回る界斗の足を掴んで引きずり、雪姫はギャラリーに開けさせた窓のところまで行くと、そのまま片手で彼を外の放り投げた。

 仲裁にしてはあんまりな暴挙には一同揃って唖然としたが、直後に雪姫は氷弾を4つ発射して界斗を遠く吹っ飛ばしてしまった。

 服の端を氷弾に引っかけられた界斗は為す術もなく隣の特別教室なんかが集められた方の校舎棟の外壁に叩きつけられ、そのまま服を貫通した氷に4点を刺し留められて磔にされた。

 遠く向こうで界斗がなにか叫んでいるが、雪姫はそれさえ無視して窓をピシャッと閉めた。


 ちょっとの沈黙のあと、さすがだとか凄いとかありがとうとか、その場で見ているだけだったみんなが口々に雪姫に称讃を贈り始めた。

 もちろんそれを嫌そうにしながら雪姫は立ち去ろうとしたが、矢生に呼び止められた。


 「あ、天田さん!お怪我を!?」


 振り返れば、涼と愛貴らも雪姫のことを心配でもするような目で見ている。けれど雪姫は鬱陶しいので1つ舌打ちをした。


 「こんなの―――別に大したことないし」


 「そんなわけがないでしょう・・・!血も出ていますわ!」


 「チッ、うっさいな・・・イライラしてんの。話しかけないでくんないかな」


 「マ、マジの顔ですわね・・・」


 手の出血は傷口を氷で覆うことで強引に止血してしまった雪姫は、矢生がたじろいでいる間にさっさとその場を離れようとした。・・・が、今度は涼に呼び止められた。無視して立ち去るより早く涼の声が届く。


 「天田さん!ごめんね・・・でもありがとう!助かったよ!」

 

 「別に―――」


 ほとんど誰にも聞こえない声でそう呟いた。


 食堂の購買から戻ってきた生徒たちや騒ぎを聞きつけ飛んできた生徒たちが集まって騒動が大きくなったのは、雪姫が歩み去ってから数分後の話だった。


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