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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect45 ”5日目の非日常”


 一央市ギルドで連日続いている5番ダンジョンでの大規模な掃討作戦は、既に市内に留まらず全国的に大きな話題となっていた。報道関係者の立ち入りも厳しく制限され、情報が出回っていないことも不穏な噂や心ないデマの拡散に拍車をかけている。


 ここのところ一央市には物騒なニュースが多い。

 1つはこの大がかりな作戦だ。徹底した体制を維持するために、一央市ギルドは現在、一般利用の一切を停止している状態である。そのせいか実は想定外の事態で被害が大きくて作戦が難航しているのだ、という噂もあり、日増しに信憑性を強めている。


 そしてもう1つの話題が、「悪魔の子」だ。これもまた7月に入ってから主にSNSやインターネット上の匿名掲示板などを介して流れ始めた話である。平気で人を斬り殺そうとする小さな子供がいた、という内容なのだが、それを事実と主張する者もいればただの都市伝説と言う者もいる。

 ただ、嘘か誠か全く分からないが、あまりに具体的な「悪魔の子」というストーリーが人々の心にリアリティーのある恐怖を抱かせていることは否めない。


 ギルドが厳戒態勢に入ってから、今日で5日目になる。週を明かしてなお終わらない戦闘には多くの人々が注目を向けていた。

 それはマンティオ学園の生徒たちも例外ではないようで―――。


 「ギルドのあれ、まだ終わってないんだね」


 祝える気分にならない祝日を含めた3連休明けの昼休み。向かいに座って弁当箱を開けながら溜息を吐く涼に、矢生も頷いた。


 「そのようですわね。私も昨日、ギルドへ様子を見に行ったのですけれど・・・ほとんど見られずじまいでしたわ。ロビーの中でさえ厳重に立ち入りを管理してらしたので。新聞社やテレビ局の方々も大勢、建物の前で立ち往生していましたわ」


 「うわ、そんなに!?だいぶヤバイんじゃないの?それって」


 「ヤバイもなにも、苦戦しているという情報はもう間違いないということでしょうね」


 いつでも使えるように何台もの救急車がギルドの駐車場に待機させられているのはみんな知っている。そして、その台数が増えたり減ったりしているのも、SNS等で写真付きの投稿が盛んに行われているため話題になっている。

 あの光景を見ていて自分にも出来ることはないかと思ってしまったのだが、矢生の実力ではあるはずもない。なにせベテランの高ランク魔法士たちが集まっても決着がつかないのだ。


 「はぁ・・・。こんなときに貸せるほどの能力がない自分が悔しくてなりませんわ」


 「仕方ないよ。私たちはほら、今は耐えて頑張って将来、その悔しかった分も世の中に貢献すれば良いんだよ」


 この頃の涼は前向きな発言が多くなった。たまに会う旧友に「なんかフインキ変わった?」と言われるので、涼はその度にちょっと照れ臭くなったりしていた。

 矢生も自分の弁当を机の上に出した。妙に高級そうで立派な漆塗りの弁当箱だ。


 その中を覗き込み、涼は渋い顔をする。


 「矢生ちゃん、なんか今日のお弁当、いつにも増して質素だね・・・」


 「うっ・・・!こ、これはあの・・・そ、そうですわ!精進料理です!今も戦っている魔法士のみなさまを差し置いて自分ばかり良いものを食べるなんて、私にはとても出来ませんわ!」


 「わ、分かったよ、うん・・・。とりあえずそういうことにしておこうね。・・・・・・私のコロッケ、1個あげようか?」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・」


 「・・・・・・お言葉に甘えます」


 「うん」


 視線だけは強がりを隠せない矢生に涼は手作りのひとくちコロッケを1つあげた。矢生の立派な漆器を安い油で汚すのも微妙に抵抗はあったが、矢生が栄養失調で干からびてしまっては元も子もない。誰かが生きるか死ぬかで不安になって夜も眠れないのなんて、ついこの間ようやく安心出来たばかりの涼からしたら金輪際御免被りたいところなのだ。


 それと、涼は最近、いい加減に矢生がエセお嬢様なのではないかという疑念を確信に変えつつあった。遠目に矢生のことを見ているだけならそんな考えに至ることもないのだが、一緒に行動することが多くなってからはちょくちょく彼女の庶民的行動が目につくようになった。

 ただ矢生が持ってくるお茶だけはやたら美味しいので、この頃は涼も1杯分けてもらって一緒に嗜むのが常になっている。

 ・・・と、2人が本格緑茶でほっこりしようとしていると、狙ったように2組の教室の扉がバーンと開けられた。


 「ししょー!涼さーん!お昼一緒に食べても良いでしょうかー!」


 「あ、愛貴ちゃんだ」


 敬愛する師匠の返事も待たずに机をくっつけて座る愛貴に矢生は心底呆れた顔をする。


 「ご一緒するのはもう構いませんが、愛貴さんはクラスに昼食を一緒に出来るご友人はいらっしゃらないんですか?私、少しばかりあなたのことが心配なのですが・・・あ、お茶どうぞ」


 「やった、ありがとうございまーす。あと、それについては心配ご無用ですよ師匠!良くしてくれるお友達はたくさんいますから!でもあんまりにもほっぺたつついたり頭を撫でたりしてくるので落ち着かないからお昼はここに来てるんです」


 「それは可愛がられているだけなのでは・・・?あとですから師匠はやめてくださいと何度も―――」


 「可愛いだなんて、照れますねー!師匠だって美人さんじゃないですかぁ!」


 「・・・・・・」


 「矢生ちゃん。そろそろ師匠って呼ばれるのにも慣れてきてるでしょ。もう諦めて受け入れちゃえば楽になると思うよ」


 キャッキャと無邪気に喜んでいる愛貴を視界の端に収めつつ涼はそう言った。もうかれこれ2ヶ月も愛貴から師匠と呼ばれ続け、矢生についたあだ名はまんま《師匠》。

 一部の聖護院派の生徒たちが言うにはその呼び方をされたときの矢生の表情がたまらないらしい。こう見えて(?)矢生にはイジられキャラとしての類い稀なる素質が眠っているのかもしれない。


 愛貴の弁当はいつも通りの愛らしいキャラ弁だ。たまに食べるのがもったいないクオリティーのものを持ってくることもある。

 緑茶と一緒に三者三様な弁当を囲み、女の子トーク・・・と行くのがいつもの流れだが、やっぱり今は違う。愛貴が新しい話題を引っ提げて来ていた。


 「そういえば知っていますか?例のウワサ」

 

 「例の?それって『悪魔の子』のこと?」


 「それじゃなく・・・いえ、というか私、その『悪魔の子』の特徴と一致する子を知ってるんですよね」


 「えぇ・・・?だって悪魔なんでしょ?知ってたとしてそれって大丈夫なの・・・?」


 「いやいや、あの子は悪魔なんかじゃないと思いますよ」


 なんか涼が、愛貴が口封じのために悪魔に消されるのではないかと変な心配をし始めたので、愛貴は初めにしようとしていた話から外れてしまうが『悪魔の子』の噂について自身の見解を示しておくことにした。

 それに恐らく、涼も矢生も愛貴が話をすれば思い当たる節はあると思われる。


 「ほら、金髪と赤いリボンで、赤い目をした小さな女の子の姿をしているって言うでしょう?」


 「まぁ、私もそう聞いていますけれど・・・それが?」


 「2人もちょっとは見覚えありませんかね、神代さんが『高総戦』のときとかによく一緒にいたあの子。似てませんか?話の子と」


 「迅雷くんと一緒にいた子・・・・・・あ、もしかしてあの子?学内戦でも見かけた気がするけど」

 

 涼が最初に思い出して、それから矢生もハッと気付いた。


 「金髪と赤い目の女の子・・・そういえば、私も見覚えはありますわ」


 矢生は全国大会中にその少女を間近で見ていた。試合前のウォーミングアップをエイミィに手伝ってもらおうとしていたときに、唐突に現れて彼女を連れ去った、あの金髪幼女だ。

 思えばそれとよく似た外見の子供が迅雷と一緒にいるところを見た気もする。


 「なら―――愛貴さんは迅雷君が悪魔と仲良くして・・・場合によっては匿っているとおっしゃりたいのですか?それはさすがに・・・」


 「いやまさかですって。そこまでは言いませんよ。私、その子とちょっとの間一緒にいましたけど、普通に元気な女の子でしたよ?まぁ・・・多少、なんていうか、変な感じはする子でしたけど・・・でも人を傷つけるようには」


 変な感じ、というのが、愛貴自身言っていて引っかかるところだが、それもきっと登場のしかたや非常に優れた身体能力を見て驚かされたからだろうと思っている。

 それに、そんなことを言うなら少女を追うようにして現れたピンク髪の変態女の方がよっぽど変な人だっただろうし。

 ところで、例の変態女が今まさに5番ダンジョンを駆け回って化物退治をしているなんて知ったら、愛貴はどんな風に感じるのだろう。まぁ、知る由もないので関係のない話だが。


 さて、愛貴の内心の動きまでは窺い知れずとも、涼と矢生も友人を疑うようなことはしたくなくて、愛貴の言葉に納得した。


 「そうだよね。あの迅雷くんに限って、そんなことがあるとも――――――」



 

 「ぼくが歩いてんだろぉぉ!前立つなよぉ!!」



 

 突然、半分ヒステリーが混じった少年の怒号が轟いた。会話の途中で驚いた涼たちがそちらを見ると、直後に女子生徒が強く突き飛ばされたのか、2組の教室に勢いよく転がり込んできた。

 大きな音を立てて入り口近くの机や椅子と激突した女子生徒は痛そうに体を縮こまらせている。どうやら怪我をしたようだ。


 「な、何事ですの!?」

 

 「師匠、あの人!」


 「酷い!頬も腫れてるじゃない!」


 矢生たちは3人とも席を立ち、急いで殴られたらしい女子生徒のところへ駆け寄った。

 その女子生徒は顔や肩を押さえて呻いているだけで、他になにも言わない。唇が切れて血が出ていた。


 「大丈夫ですの!?早く保健室に―――!」


 「わ、私が連れて行きますから!」


 矢生が介抱する女子生徒を愛貴が保健室に連れて行こうとしたが、教室の前に立っていた人物の様子を見てすぐに立ち止まることになった。


 「誰!?こんな酷いことするヤツ!」


 涼は教室の外を睨み付けた。だが、そこにいたのはしばらく不登校をしていた、彼だった。


 制服の上から着たパーカーのフードを目深に被り、以前にも増して冷酷な瞳を覗かせる少年は、涼や矢生、そして自分が殴った相手を勝手にどこかへ運ぼうとする愛貴を見下ろす。


 「なに?お前らもぼくに文句があるのか?それはおかしいなぁ・・・元はと言えばぼくが歩く道を塞いでペチャクチャとしゃべってたそこの馬鹿が悪いんじゃないかぁ・・・!」


 破綻した理屈だった。涼はそんな性格破綻者の人を見下した顔を見て、驚きに目を見開く。


 「あんた、藤沼・・・界斗・・・!?」

界斗「なに?は?ぼくのことを忘れた?ふざけ・・・!!い、いや、いいさ。どうせお前らの記憶力なんてそんなもんってことだもんな。僕は寛容だからその辺は良いとしてやるさ、あーあ、これでまた感謝されちゃうなぁ。まぁでも、アレだ。君らはもっかいep3.sect33,34を読み返してきたら良いよ、そしたらぼくがどれほど優秀な魔法士なのか分かるからさぁ!・・・あ、でもお前ら、絶対にep3.sect65,66は見るなよ?絶対に見返すんじゃないぞ、分かったな!絶対だか―――」


迅雷「おい、それ以上メタ発言するなら強制退場させるぞ・・・って作者が言ってたぞ。つかお前、サラッと自分に都合の悪い回だけ隠そうとするなよ」


界斗「ハァ?なになになんですかぁ?えー、聞こえないなぁ?うーん?てかお前何様ですか神代ぉ、どせお前、今日出番なかったからって拗ねてしゃしゃり出てきたんだろ、どうせさぁ?あーあぁ、なーんだ、主人公のクセして器の小さいヤツだよねぇぇぇぇ!」


迅雷「チッ・・・お前ホントにムカつくヤツだよな」


界斗「ありがとう。ま、安心しなよ。そのうちぼくがこの作品の主人公の座はいただくんだからさ、今のうちに好きなだけ自分の株を下げときゃ良いんじゃないかな」


迅雷「いや、さすがにそれは・・・って、あ、お、おい藤沼、後ろ、後ろ!!」


界斗「プッ。なんだその三文芝居は・・・あぁぁぁ!?くぁwせdrftgyふじこlp」

お見苦しいところをお見せしました。さすがにあんなクズ・・・界斗くんが主人公になるような展開はあり得ないので大丈夫です。後でキツく言い聞かせておくので。まぁでも、一応彼のことは思い出してあげてください。 

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