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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect39 ”肩すかし”


 「それにしても、やっぱりあの『ゲゲイ・ゼラ』ってのは相当の怪物だったんだな。あの全員がランク5と6の魔法士なんだろう?こう言ってもアレなんだが、本当によく生きてるよな、俺たち」


 「不幸中の幸いっていうか、普通にツイてたんじゃないすか?オレたちは」


 煌熾と真牙は暢気に笑っている。でも、それは全部ひとえに『山崎組』の3人と千影のおかげだ。

 そんな彼らと同等、またはそれ以上の実力者たちの集団がそこにいる。壮観だ。


 「でも、千影はいないんだよな」


 分かってはいたが、やはり今もあの少女は1人で危険な調査活動を行っているのだろう。

 迅雷が1人静かに千影のことを案じていると、遂に駆逐作戦の参加魔法士たちが動きを見せた。


 「お、出発かな?」


 「みたいすね」


 「・・・ん?なんかこっち来るぞ?」


 見れば、空奈とかいった女性が李の手を引いて迅雷たちの座っているベンチに向かってくるではないか。

 空奈は満面の笑みで迅雷の前に立ち、手を合わせてこんなことを言い出した。


 「ごめんやけど、迅雷くん。李ちゃんに応援メッセージ言うたげてぇ」


 「えっ」


 唐突にもほどがある。しかもいきなりほとんど面識のない大人の女性から名前で呼ばれたら迅雷は緊張してしまうではないか。

 そして死んだ魚のような目をして運ばれてきた李を見て迅雷はさらに困惑した。このタイミングでこれはいろいろとおかしい。


 「えっと・・・もう出発するんじゃないですか?」


 「そうやけど、ほら、見てよこの子のオーラ。こんなんで敵さんの目の前に放り出すんはさすがのウチでも心配やさかいなぁ・・・せやから、確か李ちゃん、君のこと好みや言うてたし、な?ええやん、ちょろっとでええから励ましたってぇな」


 よく分からないようで、そうでもないような。所謂「愛の力」ってやつだろうか―――などと迅雷は適当に考えるが、先ほど李に逆レイプされかけたのを思い出して身震いした。

 とはいえ彼女がそれで働けるようになるのなら、ここは嘘でも笑顔を向けてやるべきなのだろうか。それはつまり他のみなさんの安全のためでもあるからして、有意義な嘘だろう。

 迅雷はしばらく唸り、隣にいる真牙と煌熾の顔色を窺おうとした。が、しかし、2人ともフイと目を逸らした。なんて薄情な奴らだ。


 それからまた考え込むが、両手をこすり合わせてお願いしてくる空奈に押し負けて、迅雷は了承した。こんなズルい容姿の部下を持つ父親が羨ましいやら心配やら。こうまでされては迅雷に勝ち目はない。

 そうそう、自分の身の安全と人々が安心して暮らせる未来を秤にかけることなんて出来ないのだ。そういうことにしておくしかない。


 「分かりました・・・」


 「おー。おおきにな!」


 まるでくたびれたぬいぐるみのように前に持ち出された李に迅雷はぎこちなく微笑んだ。もしかしたらアイドルっていつもこういう気分で笑っているのだろうか。


 「えっと、李さん。大変な仕事だとは思いますが、頑張ってください。あ、でも無理はせずに。俺も、李さんの活躍に期待してます」


 「・・・・・・」


 「―――やって、李ちゃん?」


 李が無言のままワナワナしているので、あんまり効果がなかったかと迅雷が心配していると、急に李の目が輝きを取り戻した。


 「・・・キ」


 「・・・?」


 「キタァァァ!キマシタワァァァ!」


 「ひぇっ!?」


 急に電源が入ったみたいに李は迅雷の手を取って激しく握手をしてきた。


 「よきよき!そんな笑顔もまた美味なりですよ!よーし、李さんは張り切っちゃうぞー!!」


 「は、はぁ。良かったです・・・あは、あはは・・・」


 一瞬悲鳴を上げそうになったがグッと我慢して、迅雷は笑ってみせた。


 「ぃよーし、では空奈さん!出陣じゃあ!!」


 「あーれー」


 ついさっきまでとは真逆の構図で走り去っていく李と空奈を見届けて、迅雷は深い深い溜息を吐いた。そんな彼の肩に真牙と煌熾がポンと手を置いて、グッジョブと親指を立ててくる。


 「はぁぁ・・・緊張した。そして恐かった」


 「迅雷。お前アイドルのセンスあるよ」

 

 「あってもなくても二度とゴメンだよ」


 どっと込み上げてきた疲れに音を上げることはせず、迅雷はすぐに腰を上げた。


 「それじゃ、俺たちも本来の用事を済ませましょうか」


 「あいよ、待ってました」


 「そうだな」


          ●


 ギルドの事務室に案内され、迅雷たちは数人の大人たちに囲まれる形で椅子に座らされた。


 「今日こうして来たのは俺・・・僕らのパーティーの解散が命じられた件についてで―――」


 「あぁ、話は学校から聞いてるよ。あとそんなに緊張しなくても良いよ、別に。・・・でもまぁ、確かにあんなことにもなれば先生方もなにもしないわけにはいかないんだろうね」


 別に対して偉い立場ということもなさそうな、平凡なアラサー男がテーブルを挟んで迅雷たちの前に座った。胸のネームプレートには安浦平治とあった。

 その口振りからすれば、少なくとも平治は学校側の意見に反対する気はないらしい。


 予想通り学園がギルドに働きかけていたことと職員たちもそれを拒否する様子がないことは、『DiS』の不利を示していた。

 でも、そんなスタートは最初から分かっていたことだ。


 「それで、学校からはどう聞いていますか?」


 「うんと、君らのパーティーの登録を強制的に抹消して、パーティー団体としての権利や義務なんかを停止してやって欲しいってさ」


 登録の抹消は事実上の解散であると同時に、その手段の強引さは二度と同じことをしようとは思わせないために理不尽さを見せつけるという意味を持っているのだろう。

 目論み通り、その響きに押された迅雷が声を詰まらせたが、今度は煌熾が身を乗り出した。

 実際に、なにかの制度やルールに則って権利を利用する者は、いかにその枠の中で大きな力を持っていたとしても、その決めごとの施行者には敵うはずがない。少なくとも、理屈的には、絶対に対等にはなりえない。

 でも、少なくとも理屈的に、でしかない。


 勝負は初めから、理屈の外に構えていたはずだ。大切なのは、売り込みである。面接と一緒だ。自分たちの価値を相手に納得させることが勝負だ。


 「そうなるのが妥当なのは分かっているつもりです。でも、その上で、それを待って欲しいんです」


 「あぁいや、待って待って。気が早いよ」

 

 「・・・?」


 ・・・と、意気込んだのだが、平治はそれを苦笑いで制した。気が早いとはどういう意味なのかと煌熾は拍子抜けする。


 なにしろ煌熾と平治とでは真剣さに差がありすぎるのだが、どうもそれは大人が子供に対して見せる余裕や勝利者が敗者に誇る余裕というよりも、互いの持っている情報の差による感情の違いによるものに思える。

 ひとまず煌熾が平治に説明を促して、迅雷と真牙も姿勢を正した。


 「実はさ、ギルド側としては『DiS』に解散して欲しくないんだ。もちろんこれからは制限も改めて考え直すし、ちょっとのペナルティーも受けてもらうつもりだけどね」


 平治の言うことが不可解なので、煌熾は質問を重ねた。


 「解散に反対というのは、一体なぜ?さっきはそれも仕方ないという風に見えましたが」


 「簡単な話だよ。情けをかけてるわけじゃないんだ。そこは誤解しないで聞いといてよ。本当に単純な、実利の話さ」


 そう言ってから、平治は事務机の上に置いてあった資料を持ってきて、こちらのテーブルの上に広げた。


 「見てごらん」


 「これは・・・なんかいろいろあるけど―――」


 まとめられていたのは、一定期間ごとのギルド訪問者数や、シニア向け講習会の参加人数、クエスト達成件数などの推移だ。他にもモンスター被害件数やマジックアイテム取扱店の売り上げについての資料も混じっている。


 「いやぁ、こっちとしても今やってる『ゲゲイ・ゼラ』駆逐作戦のおかげで忙しくなれたから『DiS』の件を先延ばしに出来そうで、ちょっとだけホッとしてたんだ。で、これを見てどう思う?」


 ギルドであれどもマンティオ学園の要求を真正面から叩き潰すほどの力はないので、もし駆逐作戦の緊急度がそこまででもなかったら、今頃ギルドが押し切られていたところだ。


 資料のデータに関して意見を問われたものの、そもそもこういうものに親しみの薄い迅雷は唸るだけだった。地理や公民のテストで折れ線グラフを出されても得意ではないからしょっちゅう点を落としてしまうくらいである。

 そんな迅雷をよそに、真牙が小さく声を上げた。というのも、ギルドが『DiS』の存続を望む理由は明らかなくらい、そのグラフ群で表現されていたのだ。


 「全部、程度はそれぞれとはいえ、良い方に動いてるみたいっすね。それも、ある時期から唐突な勢いで、しかも着実に」


 「そう。で、その時期と言うのが―――」


 「オレたちがパーティーを結成した頃、と」


 「そういうこと。少なからず、学生オンリーでやる気十分なパーティーの登場は人々の意識に影響していたってことになるんだ」


 右肩上がりの折れ線を見て、まだ自分たちの存在と結果に相関がないとは思えなかった。

 もうライセンスを取ったお墨付きの魔法士に限らず、これから頑張ろうとしていた人や、普段はそれと無縁の人たちにまで、『DiS』の存在は立てた波を及ばせていたということだ。


 別にみんなが揃って「じゃあ私も戦おう」だなんて思うわけではない。それはむしろ悪影響というか、野蛮な世界みたいになる。

 だからそうではなく、純粋に、もっと単純に、人々の意識が魔法士の活躍、ひいてはその在り方みたいなものに向けられ始めた、ということなのだ。

 魔法士はより積極的に活動するようになったからクエストも次々と完了するし、モンスター被害も減った。興味が出たから魔法の講習を受ける人も増えた。そうなると魔具の売れ行きもさらに潤うから、経済効果もある程度はある。

 

 「そう思えば、俺たちにもそれなりな意味があったんですね。考えてた以上に」


 「そうそう。オマケに君たちは3人とも『高総戦』で顔も出てるメンバーだから、なんていうか、プロパガンダっていうか、もうちょっと優しくすると一央市ギルドが誇るイメージキャラクターになって欲しいわけだ」


 「イメージキャラって・・・」


 「アイドルグループの方がいい?」


 「それはまた・・・なんていうか。実際の活躍が追いつかない顔っぷりになっちゃいません?」


 「細かいことはいいんだって。君らみたいに頑張る若者がいるってことに意味がある」


 平治が後ろを向いて「ねぇみなさん」と呼びかけると、事務室の中は満場一致で頷いた。


 「えっと、それじゃあつまり、やっぱり、ということは、俺らの解散はそもそも・・・」


 「うん。ナシ。やー、しかし直接頼みに来てくれて助かったよ。あ、でも待って。言おうとしてた続けたい理由は教えてね。こっちもマンティオ学園にする言い訳は多い方が嬉しいからさ」


 「「「あ、はい」」」


 メモする準備を整えた平治に迅雷たちは来る前から練っておいた『DiS』を続けたい理由をひと通り教えた。ところどころ交渉に使うには稚拙な部分を見つけては事務室の職員たちと話し合って形だけ調整したりして、簡単にリストアップし終えてしまった。

 

 「よし、お疲れ。これからも互いにWin-Winの関係でいようじゃないか」


 箇条書きで言い訳を書き連ねた紙を大事に仕舞って、平治はそう言った。

 

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