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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect37 ”まさにカオス”


 さて、かれこれなんだかんだあったようななかったようなで木曜日になったのだが、放課後にまだ傷の手当の跡が痛々しくも無事に退院出来た煌熾と真牙を連れてギルドを訪れた迅雷は、現在不審者に追いかけられて逃げ回っていた。


 「待ぁってくださいよー!!ウヒヒヒヒヒヒ再会の喜びをオネーサンと分かち合いましょうよ例えば!!例えば・・・なんでもいいから頬ずりくらいさせやがれくださいって言ってんのにホワイユーランアウェーイ!」


 「な、なんでアンタがいるんだぁぁぁッ!!」


 迅雷を追いかけているピンク髪ピンク瞳ウサ耳モコモコパーカーの変質者―――ではなく小西李魔法事件捜査官を捕えられる者がいない。


 「くそ、なんて速さだ!?」


 「あれが小西さんの実力・・・!?」


 「まるでゴキブリのような瞬間加速度だったぞ!?」


 「ありゃまぁ・・・」


 どうにも警察機関から派遣されてきたらしい人たちが、年下の男の子を体液まみれになって追いかけている変態を見てなぜか口々に感心したようなことを言っている。

 明らかに健常者とはかけ離れた目をする女に顔を引きつらせながら、煌熾は真牙の背中を小突いた。


 「な、なぁ阿本。あの女性は・・・?」


 「出来たらオレも知らない体でいたいです」


 「馬鹿な・・・!?女性相手にあの阿本がそんな感情を抱くなんて!?あの人一体何者なんだ!?」

 

 「失礼な―――と言いたいっすけど、いや、まさにその通りっすわ。あの人、もっと健康的だったら普通に美人のはずなんですけど・・・女の人見て初見でこれはマズいと感じたのはオレの人生でもあの人だけですわ」


 「でも、どこで知り合ったんだ?」


 「いや、『高総戦』のときに遭ったんだけど―――」


 「なんか今の『あった』の字がおかしかった気が・・・」


 「おっといけない、オレとしたことが誤字を」


 「コイツわざとだ」


 1つ咳払いをしてから、真牙は自分が知り得る限りの李の情報を煌熾に教えてあげた。まぁ、要は彼女の正体は警視庁魔法対策課で勤務する迅雷の父親の部下だった、ということなのだが、むしろそれ以前に語られた彼女の性格が凄まじいので煌熾は話の後半を聞いていなかった。

 青ざめて汚物を見るような目をする煌熾を誰が責められよう。むしろ彼にそんな顔をさせた李がすごい。


 「というか、あの人が警察・・・」


 「らしいっすね」


 「というか、前から苗字で思ってたんだが、あの人の上司ってことは神代の父親ってもしかして、あの神代疾風、なのか・・・?」


 「らしいっすね」


 「らしいらしいって・・・投げやりだな、おい」


 「それよりも迅雷から聞いてなかったんです?」


 「聞いてない!なんだそりゃ!びっくりだよ!」


 これ以上煌熾の驚愕を解説していると話がどっか意味の分からない方向に飛んでいきそうなので元に戻すこととする。

 

 李の化物じみたスピードによって、必死の抵抗も空しく迅雷は床に押し倒されて馬乗りになられていた。


 「うひょひょひょひょひょ!やっと捕まえましたよ!さぁ、どこから舐め回しちゃおうかなぁ!!」

  

 「いやあああああああ!!助けてください!!誰でも良いから助けてお願いします!!俺の大事ななにかが今まさに強引に奪われようとしているッ!!」


 「へっへっへ、抵抗してもムダだぜぃ・・・!」

 

 なにをしたらこんな酷いことになるのか分からない目の下のクマと闇の深そうな瞳が迅雷の恐怖心を煽りに煽る。おまけに上から覗き込まれる格好なので李の顔には影が差しているから、余計に恐い。

 李が飢えた獣のように垂らした涎を避けることも出来ずに、ひたひたと迅雷の頬が濡れていく。過去最高に自身の貞操の危機を感じて泣き喚く迅雷が悲惨すぎて目も当てられない。


 「あ、あの―――」


 「ヒッ!?」


 「―――って、え!?」


 さすがに見かねた煌熾が李を止めようとして近付こうとするのだが、1歩踏み出した瞬間に李はギルドの大きなエントランスホールの隅まで飛んでいった。


 「ごめんなさいごめんなさいこんな私ですけどどうか殺さないでただ単にこの迅雷クンがひっじょーにタイプの男の子だっただけで別に!!別に害意などないのですからッ!!」


 命乞いも甚だしく李は喚き散らすが、既に涎まみれの迅雷の目はどこか遠くを見ていた。


 「あは、あはは、あはははははは・・・ごめん千影・・・」


 「あぁっ、神代が!?というか殺すってなんですか!?そんな物騒なことしませんから!」


 「ひぃぃやぁぁぁ!怒られた!!今私怒られた!!謝ってんのに!!なぜなにどうしてぇ!?」


 「俺は一体どうすれば良かったんだ!?」


 李とまともに会話しようとするだけムダだとそろそろ気付いても良い頃だろうに、真面目な煌熾は会話が噛み合っていないことに頭を抱えてしまった。

 一方、知らない相手に話しかけられた李の精神がますますオーバーロードし始め、発狂レベルになっていく。

 しかし、こんなただでさえ収集がつかないところにさらなる刺客が現れた。


 「おやおや、これはまたなんだか騒がしいみたいですな」


 「あ、が、学園長先生!?」


 マンティオ学園の生徒なら必ず年に3回だけ出会えるという話の清田宗二朗だ。入学式または卒業式で1回、そして終業式と修了式の3回だ。それの1回をこんなところで消費したことに煌熾は驚きを隠せない。だがなるほど、彼ほどの実力者なら今日からの作戦にも相応しいことだろう。

 宗二朗は驚声を出した煌熾を見つけて「やあ」と挨拶をして、床で死んだ目をしている迅雷に気付き苦笑いをしていた。また別のところには真牙も見つけて、軽い挨拶を投げる。


 「まさかこんなところで学園の生徒に出会えるとは思わなかった。こうして見学のためにギルドまでやってくるなんてとても熱心なことだ、いやぁ、誇らしい限りだ!もっと多くの生徒たちが君たちのように我々先輩魔法士の姿や活躍を見に来て多くを学んでくれれば(中略)とにかく嬉しいですな。これは仕事の方の気合いも入るというものであって、(中略)。期待されていると思ってもいいのだろうかねぇ。教師冥利に尽きるし、魔法士冥利にも尽きるし(中略)―――」


 どうやら話し終わる様子はないので、煌熾と真牙は聞いている感じに見せながら聞き流しておくことにした。迅雷は・・・最初から聞いていないと思っても良いだろう。

 清田宗二朗と言えば魔法士業界でもそこそこの大物なので彼に挨拶をしようと思っている人は多いのだが、宗二朗の語りは留まるところを知らず、その口からは絶えず言葉が垂れ流されているので誰も声をかけられずにいた。

 それから、オッサンが突然やってきて延々とBGMのごとく話し声を発生させ続けるので、人間恐怖症の李はさらに追い詰められて遂に部屋の隅で膝を抱えて泣き叫び始めた。


 しかし、デフレスパイラルは止まらない。地獄絵図と化した一央市ギルドにはまたまた新しい客が現れた。


 「やっと着いた。まさかこの歳で道に迷うだなんて思っ・・・なんの騒ぎですか、これは・・・?」


 いざ一央市ギルドに到着してみれば、倒れて死んだ目をした少年と1人でベラベラしゃべっている中年オヤジと部屋の隅で泣き叫ぶ電波女、そして彼女に手を伸ばしかけたままオロオロする大男、それからなにもしない観衆。


 「すみませんエイミィさん、多分場所を間違えたっぽいです」


 「いや、ここで合っていると思うわ・・・」


 エイミィは真顔で踵を返した兼平の肩を掴んで引き止めた。だって、ここがギルドでなかったらこれ以上どう彷徨ったって本物の一央市ギルドには辿り着けない気しかしないし。

 無理矢理連れてこられた感は否めないものの、こうしてわざわざ出向いたからには馬鹿みたいな理由で市内を放浪したくない。


 「Hey,Mr Sendai,it was great travel ! Might we have walked around the whole of Ithio-city !? HAHAHA !」


 ―――いや、さすがに町内一周はしてない・・・と思う。


 ジョークを言いながら兼平に続いてやってきたのは、一央市ギルドの要請に応じて派遣されてきたIAMOの魔法士たちだ。今回参加しているメンバーの中では唯一の日本人である兼平が道案内をする羽目になっていたのだが、それがこのザマだ。兼平はからかわれて肩を落とす。

 まぁ、元はと言えば兼平が全部悪いわけでもない。バスなりなんなりの移動手段を使えば良いものを、陽気な連中に振り回されたせいで兼平がうろ覚えの道順を踏み外したのだ。今からハードな仕事が待っているというのにせっかくだから市内見物をしたいなんて、連中はどんな神経をしているんだ―――と兼平は嘆いていた。


 「それはともかくとして、なにがあったんですか。この状況なんなんです?」


 「ギャー!!なんかまた来た!!しかも1、2、3・・・ファアアアァァァァ、これ以上人を増やすな私を殺す気かァ!!いや、そうに違いない!うおお!こうなったら殺られる前に殺るしかあらず・・・お覚悟を―――!」


 「ちょ、なにを!?」


 「あ!!」


 李がなにを言っているのかサッパリ分からないが、とりあえずなんかヤバそうだと思ったので煌熾は慌てて取り押さえようとした・・・のだが、さらにそれを見たまんまの光景からなにか害意のある行動なのではないかと誤解してしまった兼平が取り押さえてしまう。

 兼平は自分が正しいと思うことをやり遂げようと心を改めたところだ。小さな悪でも見逃すつもりはないのだ。まぁ、煌熾は全く悪ではないのだが、とにかくそう見えたのだ。この世界に根底から悪い人なんていないのだ。多分。


 「泣いている女の人に手を上げようだなんてな!」


 「ちょ、なにするんですか!?あの人放ってたらなんかマズい気が・・・って、あれ?川内さん?」


 「ん?あ、君は焔君じゃないか、なんでこんなところでこんなことを!?」


 「こんなことっていうのは誤解です!あ、ほ、ほら危ない!!」


 「え?」


 煌熾が兼平に取り押さえられたということは李を止めようとした人の行動を妨害したことになり、李はやりたい放題だ。しかも李のターゲットはIAMOの魔法士であり、手当たり次第に片付けるモードの李は手近にいる相手から狙うつもりだ。つまり、兼平が危ない。

 煌熾を通り越して飛び掛かってくる変態女に兼平は恐怖した。なんか、すごく恐い。


 「な、な、なぁぁぁ!?」


 「くたばれぇぇぇ!」


 「はぁい李ちゃんそこまでやでー。見てみぃ。IAMOの人たちドン引きやで?」


 李の攻撃が兼平に届く直前で、さっきまでは傍観していた同僚の空奈が介入してきた。


 「ええい、放してください空奈さん!ヤツらは私を陥れる敵じゃあっ!!」


 「アカンわ、この子スイッチ入ってもうたわ。ごめんやけどみなさまいっぺん出てもらってよろしい?」


 「そうだそうだ、出てけこのヤロー!!」


 「李ちゃんは黙っててねー・・・?」


 錯乱状態の李はさすがに手に負えず、ほとんど彼女のお目付役として同行してきた空奈でさえ肝を冷やしていると、そこにさらなる客人が現れた。流れからして嫌な予感しかしないから、みんな揃ってゾッとした顔で入り口に目を向ける。

 ただ、もしかしたらその人は今一番この場に必要なキャラの持ち主だったのかもしれない。


 床に寝転んで明後日の方角を見ているクラスメート、誰としゃべっているのかサッパリ分からないがとりあえずなにか語っている学園長、なぜか取り押さえられている先輩と彼を取り押さえながら青い顔をしている見知った魔法士に加えて、なにか喚き散らしている変態とそれを押さえようと必死の女性、それからなにも出来ないで見ているその他諸々・・・。

 

 「・・・どっか失せろし」


 そんな光景を見た雪姫の第一声はそれだった。

 

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