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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect33 ”葛藤の先へ”


 迅雷が会議室を出て行くのを見送り、少し待ってから、真波は吐くにも吐けずに詰まっていた空気を一気に吐き出した。まさか迅雷がああまで極端な姿勢を取るとは思わなかったからだ。


 「すみません、教頭先生。神代君にはもう少し考えるよう私の方からも言っておきますから」


 「いいや・・・それはいいよ。―――まさか、あの子があんな目をするなんてねぇ。なにがあったんだろうねぇ。もしかしたら私たちは、なにか貴重なものを潰そうとしているのかも・・・しれない、のかねぇ」


 松吉の参ってしまった言葉に大志が反応した。


 「それでは教頭は彼らのパーティー活動を認めるとでも言うんですか!?いくらなんでも割に合わない!命の危険と釣り合うほどの価値がどこにあるっていうんですか!?」


 「別にそんなつもりじゃないんだ。西郷先生、あまり大きな声を出さないでくださいよ。まぁ私がボチボチ―――もっと直接的に持ちかけてみるとしますかねぇ」


 あくまでひとりの大人として理性的に事態の処理をすべく、松吉はパイプ椅子から腰を上げた。

 気乗りしていない足取りの教頭を見送って、真波と大志は顔を見合わせた。2人揃って、思わず溜息が漏れてしまう。 


 「いつも進んで悪役を引き受けるんですね、教頭先生は。本当なら応援でもしてあげたいとか、思ってたんでしょうか?」


 「さぁ。俺はなんとも言わないでおくよ。知ったような口振りで人の心を想像するのは失礼だ。・・・さてと、志田先生。この後は授業もあるんだろ?本来の仕事に戻ろう」


 「はい・・・」



          ●



 「・・・・・・・・・・・・『5番ダンジョンの一時閉鎖』」


 ギルドの掲示板の大見出しを小声で読む。その下には、先日まで発注していた同ダンジョンの再探査クエストにて大規模な変化が見られたため、万一の事故防止のために閉鎖する、とある。

 続けて読む分には、後日この件の解決のためにギルドが調査チームを招集するらしい。


 「関係ない―――とは思えないか」


 雪姫は珍しく悩んだ顔をしてから、受付カウンターに向かった。彼女の頭の中ではここ数日の記憶同士がぶつかり合っていた。

 

 雪姫に気付いた甘菜がニコニコ笑って手を振ってきた。仕事中だというのに気楽なものだ。看板娘は笑っていればそれだけで給料がもらえるのだろうか。


 「こんにちは、雪姫ちゃん。放課後に来るのはひさしぶりなんじゃない?」


 「制限かけてくれたおかげですかね」

 

 「ひぃっ」


 本気で恨みの込められた目をされて、甘菜はあまりの恐さに笑顔のまま悲鳴を上げていた。

 以前『チュパカブラ』討伐クエストで無茶な戦い方をしたことでクエストランクの制限解除の度合いを下げられた雪姫は、受けるクエストもないので、ギルドに足を運ぶ回数も減っていた。

 その分彼女の通学路周辺のモンスター被害がメッキリ減ったのはどうでも良い話だ。


 そんな治安維持の功労者様が今日はどんな御用件なのか、甘菜は気を取り直して尋ねた。


 「そ、それはそれとしてー・・・今日はどんなクエストを受けるのかしら?」


 「いや・・・今日はクエストとかじゃなくて、話が聞きたいと思ったから来ただけです」


 何気ない雪姫の発言に甘菜は目を丸くした。

 キラキラした目をする甘菜に、雪姫は苛立った様子で問いかける。


 「・・・・・・なんですか」


 「もしかして、心を開いてくれたと思っても?」 


 「はぁ?」


 頬を緩ませる甘菜とは正反対に雪姫の目が熱を失っていく。まるで刺すような冷気という形を伴うような雪姫の焦れったさが伝わってくる。


 「そ、そうですか・・・。でもお姉さんはいつだって雪姫ちゃんの相談に乗ってあげるからね!」


 「じゃあさっそく相談ですけど、5番、入れないですか?なるべく早く」


 「ウッ・・・ご、5番・・・」


 「・・・・・・」


 呻き声で誤魔化そうとしている甘菜を見て雪姫は溜息を吐く。元々分かっていた反応だ。甘菜がなにか言うより先に雪姫は甘菜の顔に顔を近付け、半ば脅すように本来しようと思っていた話を突き付けた。


 「日曜になにがあったのか、詳しく教えて」



          ●



 「ごめんナオ、ちょっと帰り遅れるかも」


 『えぇー、なんでなんで?特訓手伝ってくれるって言ったじゃん』


 「くぅ・・・ナオにそんな風に駄々をこねられることってあんまりないから心苦しさマックスだが・・・っ!!」


 『え、あ、ごめんなさい!・・・ちょっとワガママだったよね、私』


 「いや、ナオはもっとワガママなくらいでも良いんだけどさ」


 迅雷は苦笑した。今は学校の屋上で、校庭を見下ろしながら柵に身を預けている。

 電話の向こう側からは直華の直華らしい声がする。約束していた分、迅雷は心から申し訳なく思っていた。

 ただ、約束の優先度に割り込むような案件が舞い込んできたのだ。多少心が痛んでも、迅雷は先にそちらへ行くべきだと思った。


 「病院寄ってから、すぐ帰るよ」


 『うん』


 迅雷は通話の切れたスマホをポケットに突っ込んで、学校を出た。病院まではさすがに徒歩で行く距離でもないから、バス停の列に並んだ。


 「・・・ここで大丈夫、だよな?」


 よくよく考えると学校付近のバス停からバスに乗るのは初めてなので、迅雷はさりげなくスマホで発着点の検索をかけた。・・・すると案の定乗り場が1つズレていることに気付く。


 「うわ、恥ずい・・・!い、いやでも乗り違えるよりかはマシなはず!」


 インターネット様普及してくれてありがとう、なんて心の中で呟きながら迅雷は隣の列の最後尾に並び直した。さっきの列で後ろに並んでいた人に不思議そうな目で見られたが、鋼の精神で恥を堪えてみせた。

 こんなことなら前に迅雷が怪我で入院したとき、放課後に見舞いに来てくれた友香と向日葵についてきてもらえば良かったかもしれない。―――と思ったが、今回はただのお見舞いではない。

 

 数分しか待たないうちにバスが来たので迅雷は乗り込むも、さすがに時間帯が時間帯だ。ギリギリ座りそびれて吊革を掴む。バスが揺れると隣の人に肩やバッグが当たるのは、気にしない方が難しい。

 しばらく揺られて、迅雷は病院前バス停に到着した。今日そこで降りたのは迅雷ともうひとりだけだった。


 「さて―――なんて話したもんかなぁ」


 手続きを簡単に済ませて迅雷は煌熾たちがいる病室の前までやってきた。なんとなく頭の中で話す内容をまとめるものの、うまくいかない。結局、それは迅雷1人で結論を出すだけのように思えたからだ。

 ノックをすると中から男2人の返事が聞こえた。


 「失礼しまーす」


 「来たな」


 「よう迅雷」


 事前に用があって行くとは連絡していたので、煌熾と真牙はしばらく待っていた様子で迅雷を迎えた。


 「おっせーぞ。怪我人待たせんなよなー」


 「悪かったって。ナオに帰る遅れるって電話してたからさ」


 「へいへい。良いよな、直華ちゃんみたいな可愛い妹に帰りを楽しみにしてもらえるとかさ」


 真牙は唇を尖らせてそんなことを言う。迅雷はそれに同意して深々と頷いた。自分で自分が羨ましい。相手が真牙でなければ分けてやりたいほど大きな幸福だ。

 一方で煌熾は真牙の拗ねた発言に被せて、すまなそうに笑っている。


 「はは・・・。まぁ神代、俺たちは外に出ていないからさすがに話題が少なくてな。阿本もだいぶ退屈してたから許してやってくれ」


 よく分かるので、迅雷は肩をすくめた。4月に入院したとき病院に話し相手が1人もいなかった迅雷はなにを楽しみにして1日を耐えていたかと言えば、看護婦さんとの戯れだった。看護師さんが現れたときはガッカリ感が顔に出ていたらしく、からかわれたものだ。


 煌熾はもうかなり回復した様子で、迅雷がやるより早く見舞客用のパイプ椅子を適当なところに置いて彼を座らせた。


 「それで神代、話ってなんだ?ケータイで済まさないってことは重要な話なのか?」


 「結構重要です。まぁ聞いてくださいよ」


 もちろん、話とは先生たちに言われたパーティー解散の話だ。

 あくまで迅雷は淡々と語る。というのも、現実に仲間たちが『DiS』の存続を望んでいるのか否か―――迅雷は確かめたかったのだ。

 学校では迅雷の意見として「解散はしない」と宣言したが、教師たちの言うことが正当であることも分かっている。危険な目に遭った上で、実際に死にかけた上で、みんなはまだこのグループに居続けることを望むのか。

 その意志を見るために、迅雷は賛成とも反対とも取れない無感情な言い方をした。


 「教頭先生たちが、俺たちにパーティーを解散しろって言ってます」


 「えっ」


 「・・・・・・はぁ?」


 「やっぱり危ないのが分かったから、もうやめなさい、と言われたから、それについての意見を聞きに来ました。俺1人がどうこうする問題じゃなかったんで」


 息を飲んだ2人に迅雷は抑揚のない話し方で問いかけを続けた。この話は不意だったろうか。それとも薄々感じてはいただろうか。

 ただ、真牙も煌熾も黙って俯いてしまった。

 迅雷が無言で答えを待っていると、しばらく経って煌熾が顔を上げた。


 「お前は、どうしたいんだ?神代」


 「焔先輩。俺の意見は今は置いといて、先輩自身の考えを、先輩だけの望みを、聞かせて」


 「・・・・・・、そうか、そうだろうな、・・・でも・・・」


 少しばかり残酷な後輩の要望は、あまり理不尽ではなくて、煌熾は初めから与えられていたとても簡単そうな選択の余地に押し戻された。

 実際は2択の皮を被った複雑怪奇な選択の枝分かれ。ゴールは見えず、全てのハテナに自分なりな答えを返し続ける。とても直視できない闇の名前は葛藤だ。背を撫でる薄ら寒さは自分の選択が仲間に与える影響と責任への緊張だろう。

 果てない問答は難しく、迅雷がああも平然としていられるのが煌熾には分からない。

 煌熾はまた、なにも言えなかった。

 

 俯いたしっかり者の煌熾の姿を眺めて真牙はただなにも思いつかない。別に人の意見に左右されるタマではない。それでも真牙は真牙で、あの経験を経た今となっては結論をつけかねる思いがあったのだ。―――あんな思いはもうゴメンだ。でも、こんなので終わるんじゃ遊んでただけみたいだ―――と。初めに抱いた望みはまだ変わらないのだから。 

 ギリリ、という歯軋りの音はそんな彼の口から聞こえていた。


 「オレは・・・オレは、オレ、だったら・・・」


 迅雷はひたすら黙っていた。そうするべきだったから。とても苦しい空気だ。みんなが解散を望まないなら続けると言い張るし、望むなら解散することに迅雷は異を唱えはしない。ただ、自分の望みのためにはそのどちらを選ぶべきなのか、それを知ることは困難なのだ。

 額を押さえて言葉を選んでいる真牙。自問自答の泥沼にはまった煌熾。みんなおんなじだった。迅雷だって、正解を知らない。

 きっと千影だって知らない。戦い続けること、自分を大切にすること・・・正解はどこに?誰がそんなもの、知っているんだ?


 でもきっと千影は答えを出す。迅雷も答えを導いた。それはつまり、くだらないことに縛られることをやめたから。


 問う。問う。問い続ける。無言と共に。


 声はない。それでも良い。元々、すぐに決まるものとは―――迅雷は思っていない。


 しかし。


 「――――――」

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