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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect31 ”隣が寂しい退屈な朝は平々凡々”


 実際のところ、この件の方がより潜在的かつ至近距離にある事態だった。そう、魔族が人間に混じってこの世界に潜伏している問題についてだ。

 既に一央市ギルドがIAMOと提携して独自に捜査を行ってはいるが、ひとまず警察側も最大限の警戒態勢を以て監視を行い、怪しきは疑わしきを実行していくこととなる。最大の懸念事項である一般市民の混乱についても未然に防ぐ策が要求される。

 そもそも情報が出回った原因が特定出来ないが、拡散した以上はどんなに困難でも対処せねばならない。


 「この件については現在一央市ギルドも動いているが、必要に応じて我々警視庁も捜査官の派遣を行う。みな―――そして特に魔法事件対策課の者は覚悟しておくように。詳細は手元の資料にある注意書きにもあるから確認を。追加の情報があれば逐次通達を入れるので、そちらの確認も怠らないように。以上で会議を終了する」


          ●


 『ゲゲイ・ゼラ』駆逐作戦の決行予定日は2日後の7月14日から。一央市ギルドを拠点に作戦を行うので警視庁組は移動を伴うことを考えても分かるが、悠長に人員を集めて選んでいる余裕なんてほとんどない。

 それに加えて悪魔探しの話まであるのだ。


 李は自分のデスクに突っ伏して溜息を吐いた。


 「はぁぁぁぁぁ・・・。どうせ悪魔をしょっぴくのも私のチームが担当するんでしょう?分かってますとも!ケッ!」


 ウサ耳のついたフードを目深に被ってブツブツ呟く李の姿は不審者そのものだ。服の可愛らしさからは想像も出来ないほどの陰鬱で刺々しいオーラが滲み出している。職場が職場だけに彼女の異様さは2割増しである。


 「まぁメンバーは名前が分かる人から適当に4人選ぼうかな。・・・ん?つかA1班引き連れとけば・・・」


 「それですけど、小西さん―――」


 「ギャア!!」


 「うわ!?」


 名案を思いついたつもりの李だったが、顔を上げてなにか言うよりも早く後ろから声がかけられた。李は短い悲鳴を上げてカエルのようにデスクの上に跳び乗った。


 「なッ!ななななななんでございましょう!?」


 「いちいちビビりすぎなんですよ小西さん・・・。そろそろ僕も傷付くというか。で、なんですけど、僕今捜査してる事件があるんで小西さんについていくのはムリです」


 話しかけてきたのは李と同じ警視庁魔法事件対策課A1班のメンバーだった。彼に便乗して李の正面に座っているもう1人の同僚も無理だと言い始める。


 「は、薄情な!私がギリギリまともな会話を出来る仲間があなたたちなんですが!」


 フイとそっぽを向く仲間たち。あな、わびし。所詮人間関係なんてこんなものなのだ。


 肩を落とす李を唯一慰めてくれたのは、残されたA1班のメンバー最後の1人、冴木空奈(さえきくうな)だった。空奈は、ウェーブのかかった群青色の長髪を後ろで束ねている穏やかな雰囲気の女性で、A1班の中では疾風がいないときのまとめ役をすることが多い人でもある。


 「どんまいやよ、李ちゃん。きっとこれは神様が李ちゃんに試練をお与えになってはるんよ」

 

 「空奈さぁぁぁぁぁん・・・」


 「おーよしよし」


 職場での地位はあくまで李の方が上だが、彼女は自分より2つ年上でありしっかり者の空奈のことはさん付けで呼び、そこそこ慕っていた。まぁ李が慕うということは、やんわりした口調の空奈が実は人間離れした戦闘技能を持つ魔法士であることを意味するのだが。

 以前にも軽く触れた通り、李は「人間と認識可能」な人間が恐くて嫌いなのであって、人間やめちゃった系の方々に対しては普通あるいは好意的である。


 「空奈さんまで私を見捨てたりしない?」


 「大丈夫よ。今度のはウチも一緒に行ったるから安心しいやぁ」


 「ほっ・・・」


 しかし、これでやっと1人。李はあと3人も集めなくてはならないので、肩を落としたい気分は変わらなかった。こんなことになるくらいだったら全力で家に引き籠もっているべきだったかもしれない。

 後悔した李がまた深く溜息を吐いたときだった。


 「こっ、小西さん!大変ですよ!!」


 「ぎぃぃっ」


 ドアを激しく開けて飛び込んできたのは、さっき飲み物を買いに出て行った、最初に李をビビらせた同僚だった。

 またしても急に名前を呼ばれた李は虫が踏みつぶされたときみたいな声を上げて机の下に隠れた。それから元凶に向けて絶叫する。


 「松田ァァァァァァ!!いい加減不意打ちはやめてくださいそして何事ですかよォっ!?」


 「す、すみませんって!とりあえず机の下から出てくださいよ、ホントに大変なんだから!」


 「なにがそんなにヤバイんですか・・・?私は今人員選びで苦悩してんですけど」


 「だから、まさにそれについてですよ!部屋の外、今すごい人ですって。30人くらいいますよ!」


 「・・・はい?」


 「だから、志願者が外に!」


 志願者と聞いて李はデスク下から顔を出した。自分からやると言ってくれるなら3人選ぶのも難しくはないかもしれない。それは李としても願ってもないことだ。


 「はぁ・・・まぁやりたいと言うなら?しっかし物好きもいるもんですねぇ・・・」


 「なに疑った顔してるんですか。みんな小西さんと一緒に仕事する機会だから飛びついたんだと思いますよ、僕は」


 「ウチもそう思うよ?ほら、李ちゃんいつもここにおらへんし。みんな李ちゃんお仕事ぶりは見とう思っとったはずやろねぇ」


 「えー・・・?ゾッとする話ですよ。なんか見て面白いことあるんですかね、それって?理解しかねるなぁ」


 「まぁまぁ、そんなこと言うてへんで、面接でもしたりやー」


 「私に死ねと?」


 「うふふ―――」


 空奈の笑顔から圧が漂ってきて李は「ウッ」と呻き声を漏らした。ある意味タイチョー命令より彼女の笑顔の方が強制力があると言っても過言ではない。

 これは自分の仕事だからと割り切り、李は恐る恐るドアを開けて廊下に首だけ出した。


 「あ!あちらから出てきてくださった!みんな、小西さん出てきたぞ!」


 『おおお!』


 ざわめく集団。突き刺さる注目。浴びせかけられる期待と謎の信頼。一斉にそれら全部を向けられた李はと言えば。


 「キュウ・・・」


 『ああっ、小西さんが倒れた!?』


 白目を剥いて泡を吹く李が次に目を覚ましたのは夕方になってからだった。

 


          ●


 とあるキチガイ捜査官がテレビもエアコンも点けっぱなしで眠っていた頃、一央市にて、とある家のとある少年の場面へ。とは言っても、ただの平凡な火曜日の朝だ。


 当たり前のように7時に起きて、朝ご飯も食べたら、歯磨きをして荷物をまとめる。ちょうど良い頃合いになって靴を履き、妹と一緒に学校に行くために家を出る。そんな、いつも通り。


 「じゃあお兄ちゃん、帰ったら特訓に付き合ってね!行ってきまーす!」


 「おう。気を付けてな。特に男に」


 「う、うん・・・?」


 迅雷は直華を見送ってから、向かいの家の2階を見上げた。窓の内側には淡いピンク色のカーテンしか見えない。そこにいるべき彼女はまだ病院のベッドだ。


 「しーちゃん、先行ってるよ」


 1人で登校するのはとても寂しい。手持ち無沙汰になって両手をズボンのポケットに突っ込み、首の骨を鳴らす。

 いろいろとくだらない考え事をして歩いてみるが、なかなかどうして続かない。いざ1つの考え事に適当極まりない結論を出してみて気が付けば、ほんの10メートルくらいしか進んでいなかったりするのだ。これは困ったと迅雷は苦い顔をする。

 やるせなくなりつつも、迅雷はもっと別のことを考える。例えば、昨日千影に言われたこととか。


 「ただ待ってるのも、キツいんだよなぁ」


 迅雷は千影にお願いされた通り、その時が来るまでは待とうと決めていた。千影がいずれ一央市に潜伏する悪魔たちを炙りだして、1ヶ所に集まらせる。そして、一網打尽。そのときに、千影は迅雷の力も借りたいと言った。

 猫の手も借りたい状況になるということだろう。そうでもなければ、そのような作戦にランク1の迅雷が呼ばれる理由はない。

 ただ、それでも嬉しいものは嬉しかった。その時が、危険と分かっていても、今の迅雷には待ち遠しいのである。


 さて、それにしても本当に退屈だ。学校が普段の2倍は遠く思える。これなら自転車通学とかでも考えるべきなのだろうか―――と思ったが、この時間帯に家を出るようでは駐輪場の陣取り合戦に出遅れてしまうのが目に見えているから諦めた。大体、あの駐輪場は全校生徒の人数に対して小さすぎるというのだ。

 ・・・と、そんな迅雷の間延びした思考でも読み取ったのか、スマホが唸りを上げた。着信ではない。アラートだ。


 「モ、モンスターか!?くそ、容赦ねえな!」


 朝だろうが夜だろうが、出るものは出る。

 ただ容赦ないと言いたくなるのは、こういう朝の時間帯となると、外を出歩いているのは大人だけでなく、小学生や中学生のような子供も多くなるからだ。彼らの多くはまだ非力で、弱い小型モンスターに襲われたって大人とでは危険度が違う。


 仕方がないから迅雷は病み上がりの体に鞭打って―――と思ったのだが、そういえば、だ。


 「絶賛快調でしたっけね―――『召喚(サモン)』」


 さすが、大人たちは慣れた対応で子供たちを建物の中へ避難させている。外に残っているのはつまり、迅雷と同じくライセンス持ちということだろう。サラリーマンから主婦、大学生、散歩中のご年配に至るまで、様々だ。

 戦力は多いし、見ればモンスターも大したことはなさそうだ。小型に紛れて中型種もいるようだが、迅雷はなんとなく余裕だった。


 「『ゲゲイ・ゼラ』の群れと比べたら・・・な」


 迅雷は他の大人たちよりも率先して敵に突っ込んで、その中型モンスターを縦に裂いてやった。電光石火の勢いだった。だが感じている余裕は感覚のズレみたいなものだ。油断は出来ない。気を引き締めて、迅雷は次の標的に飛び掛かった。

 一息に強敵を葬った学生に負けてはいられないと、他の魔法士たちも魔法を唱え始める。


 「―――すげぇ。むしろ前より動けてるんじゃね?」


 迅雷は返り血も気にせず害獣を駆逐し続けた。どうせ肌や服についた汚れはモンスターを倒した時点で魔力に変わって霧散する。

 入院前にどれほど無知覚の筋疲労があったのか知れた気がする。それくらい、今の迅雷は体が動いていた。

 なんて思い通りに体が動くのだろう。

 鋒が唸りを上げて、襲い来るモンスターを斬り伏せていく。


 「こんだけやれたら来月にはランクアップも狙えるかも―――しれないな!」


 今斬ったのが最後だったらしい。みんながその様を見ていたことに気付き、迅雷は直前の調子の良い発言を聞かれていたと分かって恥ずかしくなり、苦笑した。


 「そんなに照れるなよ少年!その校章、マンティオ学園だろ?さすがだって」


 「そうですよ、ランク2目指して頑張ってくださいね!」


 「あっはは・・・ホント恥ずい」


 悪目立ちした気分になるので、迅雷は照れ臭さを紛らわすように『インプレッサ』を『召喚(サモン)』で元の場所に戻した。

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