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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect30 ”とある捜査官の(非)日常”


 「フンフーン、ぴょーんぴょんっと・・・フフーン♪ふはぁぁぁ・・・」


 湯船から足先を出してクニクニと指を器用に動かす。そんなセクシーっぽい仕草をしたって色を仕掛ける相手もいないのだが。


 極度の人間恐怖症である李にとって自宅で心置きなくぬくぬく過ごす時間こそがなによりの至福だ。何者にも邪魔されず、誰の目も耳も気にならない。


 「にょーん。フフン、私って意外にスタイル良いのでは?これは男が放っておかないな!・・・む?放って、おかない・・・放っておかれなくなると・・・あれ?それって・・・ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぶびばばッ!?」


 見知らぬ(知っていても関係ないが)男性に言い寄られる状況を想像して勝手に人間恐怖症の発作を起こし、挙げ句の果てに風呂で溺れかけた。自惚れのツケが自分の中で完結する人なんて李くらいのものだろう。


 「ぶはッ!い、いかん!というかそもそも別に私モテたいとか微塵も思ってないんだった!」

 

 強がりでもなんでもなく、本気でモテたくない。だってモテたら自ら人間を引き寄せることになるのだから、そんなことになったら堪ったものではない。全くもって冗談にならない。 


 そんな李も中身がもう少しマトモだったなら署内の隠れアイドルくらいにはなっていたのだろうけれど。


 「おっと。そろそろ深夜のアニメタイムでしたな。さっさと上がっちゃいましょうねー」


 ザバッと豪快に立ち上がってのびのびと湯船を出る。ふと曇った鏡を手で擦ると、派手なピンク髪が長く垂れて自分がお化けみたい。

 ・・・と、ピンクに混じる別の色に気付いて、李は鏡に顔を近付けた。


 「んー・・・また染めないとですねぇ。やだなぁ、美容室行くの・・・」


 混じる白髪。派手なカラコンを外せば赤みがかって汚い黒目。長くは見たくなくて李はすぐに風呂場を出た。動物みたいに体を震わせて水を払ってから、改めてバスタオルで適当に体を拭く。以上。

 

 親兄弟すら恐くて16歳の頃からひとり暮らし。初めは寮生活だったけれど、いろいろ頑張って3年ほど前に手に入れた慎ましくも立派なマイホームだ。

 家の中を素っ裸で歩いたって誰もなにも言わないし、深夜アニメをリビングで堂々と見ていたってなんの問題もない。ご飯は好きなときに食べれば良いし、気分で寝床も変えられる。むしろ寝ないでマンガを読むも良し。


 「夜更かしは美容の敵と言いますが、やめらんないでしょうよってんだぃ。んっふふ」


 もっともその敵のおかげで目の下のクマがとても酷いのだが、モテたくない李は今更気にしない。

 申し訳程度に首からタオルを提げて、李は裸のままソファーに倒れ込み、テレビを点けた。

 テレビを見るのに邪魔な前髪を雑に掻き上げて、ソファーの隣にある冷蔵庫からチューハイの缶を取り出し、これまた手元に置いているおつまみのカゴに手を突っ込んで適当に選び取る。


 「今日はぽてりこですか。よろしい」


 さらにまたまたソファーの肘掛けに埋め込んだリモコンでエアコンのスイッチをオンに。これでアニメを見る準備は完璧―――かと思われたのだが。


 「んっ、んっ、んっ、ぷはーぁっ!あぁ、私今すごく自堕落してる・・・あーん・・・」


 バリッ、ボリッ。


 「・・・・・・」


 スナック菓子だもの。歯ごたえが売りなのだから仕方がない。李はテレビの音量を3上げることにした。



          ●


 

 「すかー・・・くー・・・んぐっ、ヒッグスッ!」


 1日中閉めきっているカーテンの隙間からは朝日が差し込んでいた。どうやら昨日アニメを見た後、そのままソファーで寝てしまったらしい。テレビも冷房も点きっぱなし。


 「朝・・・か。なんか素粒子みたいなくしゃみだったなぁ、ずび・・・うわさっぶ。あかん、なんで私まだ裸やねん。チョー無防備じゃないか」


 誰に対して無防備なんだという話なのだが。


 とりあえず適当に服を着て、机の上のスマホを手に取る。電源を入れて待ち受け画面に待ち受けていたのは、11:00の数字。


 「ふぁっ!?のォォッ!ウルトラ寝坊!・・・・・・まぁいっか、いつものことだ―――っくしょい!うへぇ・・・風邪かなぁ。・・・いや待て私。これは・・・・・・合法的休養!!キタキター!」


 李はたまに考える。なんで自分は世のため人のために働くのだろう、と。そして思索の果てに理由がないことに気付く。ということはやはり、働いたら負けなのだ。

 でも、本当になんにもしないで自堕落な生活をしていればお金に困るから、やはり働くしかない。


 「つまり私は約束されし敗者・・・ッ!」


 なんとなく格好良い言い回しをしてみたが、要はそれってただの負け確なだけじゃないか。

 急にテンションが下がって、李はソファーの上に逆戻りしてしまった。

 しかしスマホの通知を遡れば、緊急召集の案件があり、言い知れる罪悪感。

 さらに、嫌になってテレビを見たタイミングが絶妙だった。


 『続いてのニュースです。一央市ギルドの調査で明らかとなった5番ダンジョンの大規模な環境変化について、新しい情報がギルド側から公表されました―――』


 「ん?なんぞや?」


 そんなこともあったらしい、なんて程度に聞き流していたニュースだったが、新しい情報とはなんなのか。李はまだ眠い目を擦りながら画面を見つめていた。


 『ダンジョン内で確認された外来種生物の中には「特定指定危険種」に区分される種が含まれているとのことで―――』


 「ほうほう」


 『―――また、この異変に関して、不確定ではありますが、魔族によるなんらかの工作が行われていたのではないかという疑念も上がっているとの―――』


 「ぶっ!ちょ、ちょいちょい!そんな内容を報道でおおっぴらにしてええんですかい!」


 衝撃のあまり、ついテレビ画面にツッコんでしまった。

 しかし、いいや、良いはずがない。それくらい李にだって分かる。ただでさえ先日の魔界による晶界への侵略行為で世間が魔族の動きに敏感になっているのだ。このニュースはクリティカル過ぎる。

 でも、おかげで大体察することが出来た。

 事態は急を要する。李は急ぎ外出の支度を調えた。いつもの触角ツインテールをキメてから、鏡の中の自分へニヤリと笑う。


 「要するに、李さんの手も借りたいんですね?」


 仕方がないから、副隊長、出勤。



          ●



 「着いた・・・長い旅だったぜ・・・」


 李は会議室ドアの前で額の汗を拭った。

 出勤で一番大変なのは、どうやって人目を避けて職場まで辿り着くか、というところだ。外を出歩けば、視線をかいくぐるのはスパイ映画でよくある赤外線レーザーを避けるアレの何倍も大変なのだ。


 部屋の中からはまだ声がする。会議は終わっていないらしい。李は注目を浴びないために後ろの方のドアを音を立てないよう慎重に開けた。


 「あ、やっと小西さん来ましたよ」


 「ひぎぃ!?」


 「あっ!引っ込んだ!逃がすか!」


 結局開けたドアを閉めて、李は廊下でうずくまった。ショックで心臓が引きつりそうだ。


 「な、なんでみなさん一斉に注目するんですか・・・!せっかく静かに入ったのに!」


 今度は内側からドアが開けられて、男が1人出てきた。李の部下にあたる青年で、恐らく李が来るなら後ろから来ると予想していたのだろう。青年は呆れた顔で李を見下ろす。


 「今日の話は小西さんいないと進まないんですよ。さっさと入ってください」


 「ギャー!やめっ、やめろー!!やめてくださいなんでもしますから引っ張るなぁ!!」


 青年はそのまま李を特に広い特別会議室の一番前で他大勢と向かい合う代表席まで引きずった。


 「ほら、小西さん。ここに座・・・って?」


 青年が振り返ると、既に李は白目を剥いて気絶していた。せめて同僚の視線くらい耐えられるようになって欲しい。

 死体同然の魔法事件対策課ナンバーツーは無理矢理指定席に座らされた。


 「・・・・・・ハッ!?ここはどこ私は誰!?」


 「警視庁の特別会議だ、小西」


 「会議・・・・・・あ、そうでした・・・って、総監!?」


 30秒ほどして目覚めた李のトンチキな質問に律儀に返事をしたのは警視総監だった。李が来るまで前で話をしていたのも彼だった。

 職場のトップの顔を見て、李もこれが予想以上の大事になっているらしいことを察知した。

 とはいえ、なにを会議していたのかまでは分からないので、李は苦笑して頬を掻いた。


 「あのぅ、それで、失礼ながら今日は一体わたくしめになんの御用でありましょうか・・・?」


 「かいつまんで言えば害獣駆除の話だ」


 総監はそれだけ言って、再び大勢の警官たちの方を向いた。その面持ちだけで場の雰囲気がシャープに引き締まる。

 

 「それでは改めて内容の確認を行う。まず今回の件だが、5番ダンジョンにおいて『特定指定危険種』の『ゲゲイ・ゼラ』が複数体確認された、というものだ」


 総監の以降の話をまとめると、こうだ。


 『ゲゲイ・ゼラ』の生息数は現状不明だが、ほぼ確実に100体はいると推測されており、その討伐は必須である。しかし、『ゲゲイ・ゼラ』の生態は未だに不明な点が多い。4月に一央市ギルドに現れたときは、圧倒的なパワーとあの巨体からは想像のつかない敏捷性、さらには強烈な『黒閃』などが見られたという。

 一央市ギルドはこの『ゲゲイ・ゼラ』駆逐作戦において、警視庁の魔法事件対策課からもランク6を中心とした5名編成のチームを派遣するように要請してきた。


 「ということで、今回の臨時編成特務班の班長に小西李を据えることとする。異論のある者は挙手の後発言を認める」


 「ハイ!ハイハイ!」


 「・・・なんだ小西」


 「なんで私がそんな重大な役職なんでしょうか!?タイチョーは?来られないんですか?」


 「来られん。神代は忙しいからな。それにデタラメな敵と戦うならお前が適任だろう」


 「それは・・・その、うぅ・・・」


 謙遜しても、李の実力は日本警察が世界に誇る魔法事件対策課のエリート魔法士たちの中でも頭一つ抜けていることは周知の事実だ。

 返す言葉もなくて李は子供のように唇を尖らせた。総監曰く残り4名のメンバーは李が選んで良いとのことだった。ただし提示された条件は守り、ワンマンアーミーという選択肢はないらしい。

 

 「特別班の臨時編成については以上とする。我こそはという者がいれば、小西李臨時特務班長に直接名乗り出ること」


 総監はそこで一旦話を区切った。


 そして、次の案件―――人間に扮した魔族の件について、話を始めた。

 

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第1話はこちら!
PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

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