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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect29 ”スーパーマーケットにて”


 こうして2人で買い物に行くのは2ヶ月ぶりだろうか。迅雷と直華は仲良く並んで歩いていた。ちょっと前まではとっくに日が暮れていたような時刻なのに、さすがは夏で、まだまだ明るい。

 学校での出来事みたいな他愛ない話をして歩く2人だったが、その途中で迅雷はふととある行事を思い出した。


 「そういやナオ。そろそろ中学の魔法大会あるんじゃなかったっけ?」


 「あー、うん。えっと、来週の土曜だよ」


 魔法大会とは、一央市第一中学が毎年7月の上旬から中旬あたりで開催している恒例の校内イベントだ。年に数度の地域へ学校活動のアピールが出来る機会なので、もちろん、応援で外部からやってくる人たちを歓迎している。

 全国的に見ても最有力の魔法科専門高校の一角であるマンティオ学園が一央市内に存在するので、そこへの進学希望者の割合が高い同市内や周辺地域の小・中学校は一般基準よりも魔法教育に力を入れているのだ。


 一中の魔法大会も、要はその一環である。

 内容としては名前で想像する『高総戦』のようなガチバトルメインではなく、もっと安心安全に魔法の腕を競えるような種目形式になっている。具体例を挙げるとすれば、魔法射的や、魅せ魔法を使ったダンスコンテストとかである。

 そしてこのイベントの特徴が、全学年混合で競技が行われるところだ。下級生と上級生が平等に切磋琢磨することをテーマにしているからとのことである。

 また、あくまでメインではないだけで模擬試合も行われる。こちらはクラス代表同士が純粋な実力を競い合うもので、人気自体はやはり一番高い。これも学年お構いなしというのは面白い方針かもしれない。

 

 まとめると、運動会とか学園祭の魔法バージョンみたいなものである。


 「土曜かぁ。もう種目決めはしたのか?」


 「えっと、うん。一応・・・」


 直華がなんだか遠慮したように頬を掻いているので、迅雷は気になって首を傾げた。


 「どうしたんだ?やりたくない種目になったとか?」


 「いや、そういうことではないんだけどね・・・」


 「じゃあなんだ?なんか悩んでるなら相談に乗るけど。なんといったってお兄ちゃんだからな」


 「悩んでるわけでも。実はね、模擬戦のクラス代表に選ばれまして・・・」


 「ふむふむ・・・マジか」


 「マジです。それで、私なんかでホントに良いのかなー、と思ってたわけで」


 控えめなことを言う直華だが、迅雷は言葉に反してそこまで驚いていなかった。親が親だし、もっと言えば兄も兄なので、直華もその影響は強く受けてきたのだ。特に意識せずとも、直華は中1にしては魔法戦の感覚に慣れている方だろう。


 「多分他のクラスとか男の子ばっかりだから、きっとすぐ負けちゃうよ。上級生も一緒だし・・・」


 「うーむ、なんとも言えない」


 例の直華に言い寄った神田を初めとして、一中には腕の立つ生徒も多数いるわけで。

 直華には是非とも頑張ってもらいたい一方で、魔法戦をするわけだから無茶をして怪我とかはして欲しくない。素人同士が戦うので、不慮の事故で大怪我をする可能性もなくはないのだ。

 迅雷はジレンマを感じて唸りを上げたが、やはり、せっかくだから活躍させてやりたいのが本音だった。


 よし、と迅雷は胸を叩いた。


 「ならばお兄ちゃんに任せなさい!」


 「へ?」


 「軽く特訓つけてやるよ。やるからにはナオだって負けたくないだろ?」


 「うん。でもお兄ちゃんも大変なんじゃ?」


 「俺にまで遠慮するなよ。ナオのためならなんてことないさ」


 「お兄ちゃん・・・!ありがとう!」


 実の妹に向けてキメ顔をするような迅雷だったが、やるからには真面目にだ。なにから教えていこうかと今から考えている。


 やがて2人がスーパーに着いて売り場を歩いていると、正面からマンティオ学園の制服姿で目立つ髪色の少女がカートを押してくることに気付いた。

 半袖のワイシャツと短いスカートはいかにも涼しげなのに、どこか気怠そうな様子である。

 その少女も迅雷たちに気が付いて足を止めた。

 薄い水色髪の奥で彼女が目を丸くしているのが分かった。迅雷はその理由が簡単に察せられたので、気まずい冷や汗。


 「や、やあ天田さん・・・奇遇ですねー」


 迅雷の反応が良くなかったのか、雪姫は怪訝そうに目を細めた。


 「アンタ・・・入院してんじゃなかったの?」


 「い、いや、いろいろありまして!」


 「・・・・・・・・・・・・」


 「・・・・・・ゴクリ・・・」


 どうにも苛立った様子で押し黙る雪姫から放たれる威圧感で迅雷は固唾を飲んだ。チラと横を見れば、別に引け目を感じる理由もない直華さえ緊張して固まっている。

 その居心地の悪い静寂は雪姫の吐息で崩れた。


 「―――はぁ。まぁいいや、どうでも」


 「ほっ」


 雪姫はそう呟いて、迅雷たちが買いに来たのと一緒のコーヒーのビンを1つ、それから詰め替えを2つ、カゴに入れた。見てみるといつもよりお買い得になっていたらしい。

 どうでもいい扱いをされたのがちょっと心に刺さったものの、そんなのは今更なので、迅雷は見逃してもらえただけでもホッと息を吐いた。

 ただ、どうやら兄の扱いが雑なことに関して、今度は直華が不機嫌な様子である。それに気付いた雪姫が直華の顔を横目で見る。


 「なに?」


 「い、いえ、なんでも・・・」


 と、そんな微妙な空気になったときだった。


 「あ、お姉ちゃん見つけた!」


 「「ん?」」


 背後から小さな女の子らしい声がしたので、迅雷と直華は振り返る。そこにいたのは、実際に小学生くらいの女の子だった。水色髪を二つ結びにしている女の子だ。

 前にも見たことがあるような、ないような・・・。


 「―――って、あれ?お姉ちゃんのお知り合いですか?」


 「え?ああうん、こんばんは?」


 姉とはあんまりにも印象が違うので拍子抜けしてしまった迅雷は、挨拶まで語尾が上がってしまっていた。

 直華も迅雷に続いて少女に、軽い会釈と一緒に「こんばんは」と言う。

 

 「えっと、こんばんは・・・」


 ちょっと緊張はしているが、キチンとお辞儀をしてから、少女は手に持っていたポテチの袋を雪姫の押しているカートのカゴに放り込んだ。

 呆れた目でポテチを眺める雪姫に妹ちゃんは事後承諾でおねだりの目をする。


 「いいよね、お姉ちゃん?」


 「まぁ、いいけど。じゃあ行くよ」


 「え?もういいの?」


 「別に大した話なんかしてないし」


 澄まし顔で妹をあしらって、雪姫はカートを押し出した。

 でも、迅雷は雪姫が横を過ぎ去ってしまう直前に呼び止めた。


 「あ、そうだ、天田さん」


 「・・・なに?」


 「俺以外のみんなも今はなんとかなったよ」


 迅雷が雪姫にまでこんな報告をしたのは、実のところなんとなくでしかなかった。雪姫はやはり他人になんて興味がないのか、すぐに顔を正面に戻してしまった。

 ・・・と思ったのだが、意外なことに雪姫は少しの間考えるように天井を仰いでから、「そう」と一言だけ残してから去って行った。


 早歩きで雪姫の後を追う妹ちゃんを見送ってから神代兄妹も買い物に戻る。


 「まるで正反対の姉妹だったね・・・」


 「そうだなぁ。てか妹さんも可愛いんだな」


 「やっぱりお兄ちゃんってそういう趣味あるんじゃないの・・・?」


 「そういう意味じゃなかったんですが!?」


 いつの間に直華まで迅雷にそんな印象を抱くようになっていたのだろうか。今の迅雷の発言には下心なんてなく、純粋に愛嬌のある少女を「可愛い」と評しただけなのに。

 なんだかまた自信がなくなってきた迅雷は哀しみのオーラを纏って歩き出した。気のせいかカートが重く感じる。


 「でもさぁ、今まで何回か会ったけど、あのお姉さんの方、私ちょっと苦手かも」


 「珍しいな、ナオが人のことそんな風に言うなんて。でも雪姫ちゃんだって別に悪い人じゃないと思うぞ?俺は」


 本人がいないところでちゃっかりコッソリちゃん付けして名前を呼ぶ小心者の兄に少しだけ呆れつつ、直華は自分の中にある雪姫の印象を整理する。

 容姿端麗で先月の『高総戦』で見た通りの圧倒的かつ圧倒的な魔法の腕を持っていて、バイト先の洋食店ではとても美味しい料理を作っていた。どことなく賢そうな雰囲気もある。

 でも、いくら能力的に優秀でも人間味がない。

 最初は見覚えがある、程度にしか感じなかった雪姫の態度も、今となっては直華の不興を買うようになっていた。

 

 「あの雪姫さんって、お兄ちゃんのクラスメートなんでしょ?だったらもっとこう・・・言うことあったんじゃないのかなぁ。思わない?」


 「ナオが俺のためにプリプリしてくれてる」


 「ちゃっ、茶化さないでよー!」


 ―――例えば「なんともなくて良かったじゃん」くらいの一言はあっても良かったのかもしれない。でも、相手はあの雪姫だ。お世辞を言うところすら誰も見たことのない彼女に限って、まさかだろう。

 

 迅雷はお菓子売り場で、さっきの天田妹が持っていたポテチが何味かは分からなかったが美味しそうだったので探してみた。見つけて手に取ってみれば、期間限定商品だったらしい。パッケージの色の印象で美味しそうだと感じたのに、改めて見ると「ブルーハワイわさび味」という斬新なフレーバーだった。


 「・・・これは確かに疑うよなぁ・・・」


 雪姫が呆れていたのにも納得する迅雷。どうかこれが子供の好奇心にトラウマで応えるパンドラボックスでないことを。そう祈って、迅雷は袋をそっと棚に戻した。


 「なんだかんだ言ってやっぱしレギュラー商品が安定だよな・・・っと」


 なんだか言い訳しているみたいだな、と思いながら、迅雷はまず間違いないうすしお味のポテチをカゴに入れた。何事も普通が一番なのだ、多分。

 自分の分は決まったので、迅雷は直華の姿を探した。どうやらスナック菓子の棚は見ていないようなので裏に回ると、食玩コーナーの前でぎこちない挙動をしている妹の姿を発見する。


 「ナオ、なにしてんの?」


 「わわっ」


 「・・・?」


 ぴょんと跳ねて直華は足早に数歩先の棚からキノコ型のチョコレート菓子を取ってきた。


 「わ、私はこれでいいかなー」

 

 「・・・?というかナオってたけのこ派じゃなかったか?遂に里を裏切るの?抜け忍になるの?」


 「う、うん、まぁそんなところかなー。たけのこ崩しを仕掛けちゃおうかなー」


 ノリ良くそんなことを言う直華の意識はさっきから食玩の棚に向きっぱなしだ。いい加減気になって迅雷は棚になにがあるのか探して、納得した。


 「別に欲しいなら欲しいでなんも言わないのに」


 棚の下の方に並んでいた「都市伝説ガム」とか言う胡散臭い駄菓子を2枚取る。


 「ナオはこういうの好きだったもんな」


 「だって!中学の制服着てオマケ付きってなんか恥ずかしいんだもん!」


 「大の大人がキラキラアイドルアニメのカードがついてるウエハースをボックス買いしてるのと比べたら可愛いもんだろ」


 「比較対象がっ!?」


 大きなお友達を引き合いに出された直華がなにやらショックを受けているが、迅雷は何食わぬ顔で取ったガムを2枚ともカゴに入れた。どうせしょうもない話が書いてあるだけなのは目に見えているが、可愛い妹のためである。


 「でも・・・なんだっけ。ちょっと前にナオが言ってた・・・『一央市に出没するモンスターを食う妖怪女』だっけ?俺も、あれは面白かったけどな」


 ホラーに慣れてしまった迅雷でも、この話には鳥肌が立ったのをよく覚えている。


 欲しいものは全部カゴの中に入れたので、迅雷と直華は会計を済ませてスーパーを出た。

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