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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect27 ”その一言を”


 『とっしー、君の気持ちは分かるんだ。でも、今じゃだめだよ。今じゃないんだよ。もっとちゃんと考えて?ボクは大丈夫、大丈夫だから―――』


 「・・・分かった。でも、せめて今、お前がなにしてんのかくらい、俺には教えてくれないかな」


 『でも・・・はぁ、仕方ないなぁ』


 大丈夫と言われて心配することをやめられるなら、所詮2人の関係なんてそんなものだ。

 それが出来ないから、しつこくたって切れない縁なのだろう。迅雷にとって千影はとっくに家族であり、それともあるいは。ただ、家族というのはそういうものなのだ。

 

 『ボクはね?一央市内に潜伏してるサキュバスの工作員を見つけて回ってるだけだよ。だから、ホントは別に危ないことはないんだ』


 「戦闘になったりは?しないのか?」


 『離れてチェックをつけていくだけだから、ないよ。だから大丈夫。今は心配しないで』


 「そっか。じゃあ、信じる」


 『ありがとね、とっしー』


 なんだか無理を感じる千影の感謝に迅雷は妙な胸騒ぎを感じていた。千影はどんな顔でしゃべっているのだろう。

 でも、迅雷は千影の言葉を信じた。彼女が大丈夫と繰り返すなら、信じてやることも心配することと同じくらい大切なのではないだろうか。きっと今の千影を本当に信じてやれるのは、迅雷だけなのだから。


 「早めに・・・」

 『ねぇ、とっしー』


 不意に声が被ってしまったので、2秒の停滞。迅雷は苦笑するのを千影に聞かせながら、自分もまたほんの少し安心していた。


 「なるべくで良いからさ・・・早く、帰ってこいよな。俺はちゃんと、千影の帰りを待ってるから」


 『うん。―――それなんだけどね?』


 けど、という繋ぎ方に勢いを挫かれた迅雷は怪訝な顔をした。これまでの話の流れで逆接を使ってくるなんて、予想していなかったからだ。

 まさかこの期に及んで帰らない、帰れない、なんて言い出すつもりではあるまいな、と迅雷はなにも言わずに身構えた。それだけは許さない。それでは釣り合いが取れない。

 けれど、千影の台詞は良くも悪くも迅雷の懸念を裏切った。


 『あのね、実はこの件は最後に発見したサキュバス全員を1ヶ所に呼び出して一網打尽にする計画なんだけどさ』


 「お、おう・・・そっか。そりゃまたすごいことになりそうだな。でも、それが?」


 『そのときは、とっしーにも手伝って欲しいんだ。―――最後は、ボクの戦いを』


 「・・・え?」


 一瞬、迅雷は耳を疑った。

 でも、聞き返す前に千影はそれを繰り返した。


 『ムチャクチャを言ってるのは分かってるけど・・・でも、とっしー、ボクに君の手を貸して欲しいんだ。ボクのワガママを・・・聞いてくれる?』


 「――――――!あぁ、もちろん!いくらでも手伝ってやるよ!」


 千影にそんなことを言ってもらえる日が来たのだ。言いようもなく嬉しくて、迅雷はついついまた声を大きくしてしまった。 

 ようやく、千影から迅雷に助けを求めてくれたのだ。足手纏いでしかなかった迅雷が、それでもと望み続けていた一言なのだ。


 千影の「手伝って」という言葉で迅雷が喜ばないはずがなかった。


 千影がクスッと笑う声がした。とても、嬉しそうに聞こえた。


 『それじゃあとっしー。またね』


 「うん、また」


 通話はそこで終わった。また次もある。迅雷が初めに抱えていた不安はもう、ほとんどなくなっていた。

 晴れやかな顔の迅雷がようやく電話の向こう側から目の前にある場所に帰ってきた。

 千影と話す彼の様子をずっと観察していた甘菜はニコニコしながら迅雷に声をかけた。


 「なんか嬉しそうな顔ね。どうだった?あの子と話して。なにか良いことでもあった?」


 「え、いやまぁ、はい。ちょっと、ね。・・・あ、ケータイありがとうございました」


 「うん、どういたしまして。でも、ホントにちょっとぉ?へぇ?ふぅん?」


 「なっ、なんですかその顔は・・・」


 甘菜が知ったような顔をして胡散臭い声を出すので、迅雷は疑わしげな目をした。なぜだか今、迅雷は煽られているらしい。

 

 「君、実はロリコンなんじゃないの?」


 「ぶばっ!?」


 「おっと・・・」


 携帯電話を返すためにテーブルに身を乗り出していたところで甘菜からとんでもなくストレートなことを言われたものだから、迅雷はずっこけた。

 危うく迅雷の手から滑り落ちて味噌汁の中にポチャンしそうになった携帯電話を甘菜はギリギリでキャッチした。迅雷もどんぶりに顔面から飛び込む寸前でテーブルに手をついて事なきを得る。


 「危なかった・・・。というかだから、なっ、ななななんでそうなるんですかねぇ!!」


 「いやぁ、だってしゃべってる最中なんかすっごい幸せそうだったから、千影ちゃんとはそういう間柄だったのかなーって」


 「ちっがーう!違いますから!全っ然、そんなことは、ないですから!!」


 「うんうん、ゴメンゴメン。そんな真っ赤になって言い返さなくたって良いのに」


 「赤くなんてなってないです!なってるとしたら怒ってるから!」


 「だから分かったって・・・」


 甘菜はそろそろ本当に怒っているっぽい迅雷を苦笑しながら宥めた。相変わらず可愛げのあるリアクションをする弟分である。さっきまであんなに幸せそうだったくせに。まぁ、なにはともあれ、変わらず仲睦まじいのは素晴らしいことだ。

 

 照れたのか拗ねたのか、はたまた両方なのかして、迅雷はどんぶりのご飯をかき込んでいる。

 口いっぱいの食べ物を飲み込んだ迅雷は少し落ち着いたのか、小さく笑って言った。


 「千影が言ってくれたんです。最後は手伝って欲しいって」


          ●


 昼食の後、甘菜は仕事があるからと言ってギルドに帰って行った。

 病室でようやく1人となった迅雷はしばらく千影に頼ってもらえたことを喜んでニマニマしながらベッドの上を転がっていたが、そのうち10歳女児相手にデレデレしている自分が気持ち悪く思えてきてすっかり萎えてしまった。甘菜の言ったことも相まって自分の将来が不安になる。


 これはいけないと思って、釣り合いを取るように頭の中で学校のアイドルのことを考えている。そうそう、あの人を人とも思っていなさそうな冷たい目・・・今の迅雷にそんなのを向けたら自己嫌悪で窓から飛び降りそうだ。

 

 ―――これもこれでアカン!!


 心の中で叫んで、迅雷はいよいよなにもすることがない。

 ベッドの上でじっとしていると、静かすぎて寂しかった。なまじ元気なばかりに、大人しく体を休めている方が変な気分になるのだ。


 「・・・そうだ、みんなの見舞いにでも行くか」


 一央市にある大きな病院なんてここくらいなので、この病院には昨日の怪我で入院した真牙と慈音、煌熾の3人とも揃っている。それと、『山崎組』で唯一入院となった鹿野礼仁ももちろんここに入院している。


 「『DiS』メンの中では俺だけ入院せずに済んだはずが謎の出戻り、しかも怪我は全快かぁ。なんか・・・なんだろ、すっげぇ複雑だな」


 昨日は自分だけ無事で済んだことの罪悪感を感じていた分、迅雷は自分も病院送りにされたことをなにかの埋め合わせのように感じていた。

 とはいえ、なんでせっかく怪我の程度もマシだったのに入院する羽目になっているんだよ、なんて言われそうなオチであり、しかもいざ顔を見せたとして昨日よりむしろピンピンしているとか、ちょっとしたイヤミだ。


 以上諸々のコンプレックスを抱えながら迅雷は病室を出た。

 昨日も病院で手当を受けた後に一度見舞いに行ったので、迅雷は3人の病室の場所は分かっている。ちょっとした計らいなのか、3人とも一緒の部屋なのだ。


 しばらく廊下を歩き、リハビリのつもりで迅雷は階段を降りた。もちろん、リハビリの必要なんてさっぱりないけれど。

 病室に着いて、部屋番号の下にはまだその名前があるのを確かめる。


 「失礼しまーす」


 「お、神代じゃないか」


 扉を開ければ、ベッドの上で体を起こした煌熾がすぐに迅雷に気が付いた。


 「焔先輩。もう大丈夫なんですか?」


 「まぁなんとかな。神代は―――大丈夫みたいだな。良かった・・・って、ん?なんか大丈夫になりすぎてないか?」


 「デスアンドリバースしたようなもんだから気にしないでください」


 「お、おうそうか・・・?まぁなんにしたって無事なら良いんだ、うん」


 「ありがとうございます。でも俺だけこれだとなんか後ろめたいっていうか」


 「なんだ、そんなこと。お前の方こそ変なこと気にするなよ。むしろあのとき神代が来てくれなかったらどうなってたか分からなかったんだから、気にするなよ」

 

 「そう言ってもらえるとちょっと楽です」


 弱ったように笑って迅雷は頬を掻いた。励ましてもらえても罪悪感と後悔は拭い去れないものの、心の救いにはなる。

 

 「しーちゃんと真牙は?」


 「2人ともまだ目を覚まさないな。あぁでも、特に心配するほどのこともないからな」


 「そうですか―――」


 迅雷はそう言って奥のベッドを覗いた。昨日と同じ姿勢の慈音と真牙が静かに眠っている。昨日は2人の呼吸が今にも消え入ってしまうのではないだろうかと思えて恐くて仕方なかった。

 ただ、どことなく感じる生命力からして、今日は昨日よりもずっと安心感があった。


 まず迅雷は慈音のベッドの横の椅子に腰掛けて、彼女の顔を覗き込んだ。

 ちょっとだけかいた汗と、しめってひっついたパッツン前髪。夏の暑さは冷房に負けないのか、それとも慈音が頑張っている証拠なのだろうか。

 髪が目にかかっていて、目を覚ましたときに入るといけないから、迅雷は慈音の前髪を優しく掻き分ける。


 本当なら、慈音はこんな目に遭わなくてもいい生活をずっと送るはずだったのに―――そう思って、いた。いや、少し前まではきっと確かにそうだったのだろう。

 でも、慈音は選んだ。いや、慈音が選んだ。彼女自身が望んだ。後ろで見守っているだけなのはもう嫌だから、迅雷と同じ場所に立っていたいから、と。

 そんな彼女を、あと少しで失ってしまうところだった。


 「ごめんな、しーちゃん。ちゃんと助けてやれなかったよな。信じてくれてたのにな。・・・俺、もっと強くなるよ。絶対にもう、こんなことにはさせないから」


 むしろ、迅雷がもっと早く、慈音と同じものを見るべきだった。 

 今のこの気持ちが、きっとそれだったのだろう。失くせないものは、もっともっと近くにあったのだ。

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