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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect21 ”トップシークレット”


 ――――――なんて思ったけれど、よくよく考えたら無理があったかもしれない。


 ちょっとテンションが上がりすぎて家を飛び出してしまった迅雷は今、お馴染みの一央市ギルドのエントランスロビーにいた。


 それで、なにが無理があったのかというと簡単な話で、町中を探し歩いて千影を見つけようという試みのことである。

 かといって、さすがの迅雷も無策に駆け回ろうとしていたわけではないのだ。彼は千影の足取りを追うべく、こうしてギルドまで情報収集に来たところである。


 千影は迅雷と喧嘩した後、間違いなく迅雷たちより先にダンジョンから帰還しているはずだ。となれば、ギルドが彼女の最新の目撃情報を持っていると考えて、まず問題あるまい。


 ――――――と思ったのだが、いや、今の説明を聞いて「確かにそれもそうか」と納得するかもしれないが、よく考えてみて欲しい。今はもう深夜だ。迅雷たちが帰還したのは夕方であるからして、いかんせん時間が経ちすぎた。

 千影のことだから外で何時間も、同じ場所で同じことをし続けているとは思えない。


 「まぁ・・・一応話だけでも聞いてみるかぁ・・・」


 「あら、迅雷くんじゃない。こんな時間にどうしたのかな?」


 「あ、こ、こんばんはっ」


 ここまで来ながら微妙な顔をして立ち尽くしている迅雷に気付いて声をかけたのは、キャラメル色の優しい茶髪をポニーテールにして肩に流した可憐な女性、日野甘菜だった。

 ひさびさにビクリと肩を震わせた迅雷を見て毒気を抜かれたように甘菜は笑った。しばらく口元に手を当てて笑っているのを誤魔化しつつ、甘菜は迅雷を手招きした。


 「なぁに、そんなビックリしなくてもいいのに。おかしいの、ふふふ」


 「あ、あはは・・・。いや、なんていうかその、年上のお姉さんとしゃべるのもだいぶ緊張しなくなったつもりだったんですけど・・・不意打ちは対応出来なかったですね、はい」


 「あらら、そっかそっか。・・・にしても、フーン?お姉さんかぁ。なんかくすぐったい響きだね。私、君みたいな弟なら大歓迎だよ?」


 甘菜にからかわれて迅雷はまたもやたじろいだ。深夜のテンションなのか、甘菜の柔和な表情はいつもよりもどこか色っぽく見えてしまう。


 「あー、迅雷くん顔真っ赤だ!あっはっは!」


 「ぁ・・・うぅ、ひでぇ・・・」


 「それにしても、思ったより元気そうで安心したよ、私」


 「え?」


 慣れた格好で受け付けのカウンターに頬杖をついて、甘菜は本当に安心した様子で微笑んでいる。馬鹿な話、迅雷にも一瞬彼女が姉に思えるくらい安堵が伝わってきたはずだ。

 こんなところにも、本当に自分のことを気にかけてくれる人がいた。それは今の迅雷にとって単純に嬉しいことだった。


 「ダンジョンから帰ってきたとき、迅雷くん、ホント酷い顔してたんだよ?なんかもう―――家族が目の前で死んじゃった、みたいな」


 「なんすかそのやけに具体的な例・・・」


 迅雷は甘菜のヘビーな例えに呆れ顔をするが、つまりきっと、迅雷はまさにそんな風に例えられるような顔をしていたのだろう。

 怒りや憎しみ、自己嫌悪や悲しみに寂しさ、喪失感。その顔に混じっていそうな感情は今だっていくらでも思いつく。

 

 それに、こうしている今だって、そういった感覚の名残はないでもない。


 「つっても、まだ正直心がモヤつく感じはあるんですけどね」


 「それはそうだよね」


 簡単に解決して納得出来る悩みなら、迅雷はあんなに生気の抜けた土くれみたいになることなんてなかった。


 ほんの一助になれば幸いかな、なんて思いながら甘菜はそっと迅雷の頭に手を伸ばした。今し方出来たばかりの弟分は、甘菜にとって可愛くて仕方のない存在だった。


 「へっ!?ちょ!?急になんですか!?」


 「よしよし・・・。いやね?迅雷くんも大概危なっかしいオーラを出しちゃってる子だからねー」


 「うわぁ・・・」


 意外と反論しにくいことに気付いた迅雷は呻いた。言われなくても、迅雷はここ最近は自棄の色が濃厚だっただろうから。

 とはいえ頭を撫でられるのは恥ずかしいので、迅雷はむりくり話題を変えた。


 「そ、そういえば甘菜さんってこんな時間までいるんですね」


 「普段はそんなことないのよ。今日はちょっと会議があったから、特別。それで、迅雷くんこそこんな時間にどうしたの?もうだいぶ遅い時間だけど、大事な用事?」


 「まぁ・・・大事な用ですかね。千影が今どこにいるのか、手がかりないかなって思って。あ、まぁでも、よく考えたら―――」


 「え?もしかして聞いてないの?」


 「・・・?」


 なにかが食い違っている。なにか知っていたとしても今はもう分からないと答えてもらうはずだったのに、迅雷の予想を裏切って甘菜は明らかに知っているという顔をした。

 一瞬意味が分からず迅雷は怪訝な顔をしたが、すぐにその話に食いついた。今はそれに困惑している場合ではない。


 今度は迅雷の方からズイと迫られた甘菜が目を丸くする。


 「それ!?どういうことですか!?詳しく!」


 「わわっ!?分かったからひとまず落ち着こうね!?」


 焦ったのは甘菜も同じだった。

 ただ、これで彼女もようやく理解した。1人で先に帰ってきた千影の、あの不自然さは、そういうことだったのだ。


 しっかりとしていて責任感が強くて、あまりにも頼れすぎる戦力だったせいでどこか対等な存在にさえ見えていた。でもやっぱり、あの子は年相応、子供でもあったのだ。

 愛されるべきニュージェネレーションだったはずなのに、その異様さに過ぎる存在を目の前にして、大人はそれを忘れ去った。


 「私もまだまだ、冷たいなぁ・・・」


 「・・・?」


 「それで、じゃあ君はどこから聞いてないんだろう?ひとまず確認するけど、千影ちゃんが今日ギルドで騒動を起こしたのは?」


 「いや・・・え!?いつ!?なんで!?」


 徐々にとはいえ留めようもなく拡散しつつある話なのだが、迅雷は寝耳に水といった感じで、分かりやすい驚きの顔をしていた。

 甘菜は頭を抱えて溜息を吐いた。それは迅雷も心配するわけだ。


 「なるほどね。最初の最初っから言わなかったんだ、あの子」


 「一人で納得してないで、とりあえず、どういうことなのか説明してくださいよ!・・・・・・俺は、あいつが人を傷つけるやつじゃないって―――。そう、なんか理由が・・・!」


 「はーいはい、大丈夫だから落ち着いてってば。私だって千影ちゃんのことは信じてるし、ちゃんとしたオチもあるから」


 恐らくその場に居合わせた人たちにとって、あの少女は悪魔よりも恐ろしい存在に見えたことだろう。血を見て逃げた連中からすれば千影がただの人斬りに見えただろうことはもちろん、ことの顛末を見届けていたとしても、だ。結果なんて関係ないのだ。ただ、そこで事件が起きていたということにしかならない。


 一度疑えば、人間と全く姿の違わない相手を微塵の躊躇もなく斬りつけ、人間なら死ぬレベルの「半殺し」の加減さえ熟れた手さばきでやってのける。幼い少女が平気で血を浴びて赤い海を作り出すその光景が異様だということなんて確認するまでもなく分かるはずだ。

 刻み込まれた恐怖と疑念が払拭されることはない。故に千影の印象はさらに「子供」から離れ、いっそ畏怖の対象と化していくだろう。書類に目を通して予備知識のあったギルド職員たちでさえ、その御しきれない可能性をまざまざと見せつけられて怯えているのだ。


 だとしても、少なくとも甘菜は千影のことを信じている。それに足る、少女だから。


 「あの子、たくさん人がいる前で5番ダンジョンから帰ってきた2人組を攻撃したのよ」


 「攻撃?2人組・・・・・・あの人たちのこと・・・なのか?」


 ―――思い当たる節は・・・ある。それがもしも千影のそれ(・・)と一緒なら。


 迅雷の言葉に甘菜は頷いた。


 「うん、多分迅雷くんもダンジョンに入る前に擦れ違ったと思う。それで、君たちがダンジョンに入った後だったんだけど、だいぶ過激に攻撃したから一時は騒然としたらしいんだけど―――」


 と、そこで甘菜は言い淀んだ。変なところで黙られたので、迅雷は怪訝な顔をする。


 「甘菜さん?」


 「いやね?思ったらこれ一応今のところ機密扱いなんだけど・・・。でも迅雷くんなら知っておくべきなのかな・・・?いやいや。でもやっぱり機密は機密だからね。ごめんね迅雷くん、でも、理由はあるの。ちゃんと―――」



 「あの2人組、本当は人間じゃなかったから」



 「・・・へ?」


 「―――とか、ですか?」


 迅雷と甘菜の声がぶつかって、よくある奇妙な沈黙が生まれた。ただ、そこには普段は存在しない別の奇妙さもあった。

 それを怪しんだ甘菜が目を細めた。


 「な、なんですか?急にそんな目をして・・・?」


 迅雷は細められた甘菜の目を見て、少しゾッとした。まるで敵の存在を疑うような目だ。今の今まで親しげだったはずの彼女にそんな目で見られたら、それだけで恐ろしい。

 なぜだ?なんでそんな目をする?数秒前まで笑って話していたはずの相手が自分に対して敵意と、あまつさえ恐怖まで覗かせていることがどれだけ異常であるか。


 「あなた(・・・)、どうしてそう思ったの?」


 「え・・・、それは、その―――」


 「なにか答えられない理由でも?」


 まるで迅雷が迅雷でなくなったように、甘菜の声は疑念で塗り潰されていた。

 

 迅雷にはなにも理由が分からない。ここに来て、なにをしたか、思い返す。けれど、ダメだった。迅雷はい自分がそんな目で見られる理由が思いつかない。

 

 カウンターの上に乗せていた腕を、甘菜が隠すように上板の下に運ぶのが見えた。


 「こ、答えられなくは・・・!でも、そのっ、というか、なんでそんな目で俺を見るんですか!?」


 心臓が逸り、覚えのない罪悪感でシャツが濡れていくのを感じた。迅雷の返事に甘菜の視線はいよいよ鋭く冷たく尖っていく。

 流れ出す汗に堪らず迅雷が手で拭おうとした瞬間、彼のわずかな挙動にさえ過剰に反応した甘菜が後ろに飛び退いた。


 迅雷が理解することもなく、そのとき、なにかが確定されてしまったのだ。


 「え?」


 「ごめんなさい―――お願いしますっ!!」



 「ああ、了解だ!!」


 

 迅雷の視界の端でなにかが動いた。

 今までに浴びたことのない激烈な敵意に曝されて、迅雷は条件反射的に『召喚(サモン)』を使っていた。剣を引き抜き、影が迫る。


 「待、ちが――――――ッ」


 「させるかよクソ悪魔が!!」


 そして―――。


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