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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect10 ”ほころび”

 

 ―――あの魔法陣の奥に封印された虚無のさらにその奥で、自分たちはなにを見るのだろうか。

 周囲の期待を重く感じていたのは今までの話だ。迅雷は不思議と緊張していなかったことに気付いて、やるせなくなって苦笑した。ひとりでに笑う迅雷をからかう人はいない。


 「焔先輩、『ゲゲイ・ゼラ』ってあそこから出てきたんですよね―――」


 「あぁ、そうだ」


 迅雷がずっと見ていたものに煌熾も目をやって、認めた。あの5番ダンジョンへの門は、もはやそれだけで軽度のトラウマに他ならない。煌熾の纏う緊張がそれを示していた。

 もしも再びあの光の奥から黒い角の一端が顔を出したとしたら――――――。嫌でも恐怖が蘇る。


 「なんにもなかったら良いんだけどな」


 迅雷が独り言を呟いていると、そんな彼に声をかけてくる男がいた。


 「お、なんか見覚えあるヤツがいると思ったらとし坊か。どうした、そんな深刻そうな顔しちゃって」

 

 「ぁ・・・貴志さん」


 振り返ると、そこには『山崎組』の面々がいた。話しかけてきたのはリーダーの山崎貴志である。まともに会って話した記憶で一番新しいのはゴールデンウィークに泊まりに行った旅館で鉢合わせたときだったか。迅雷は軽く会釈した。


 「お久しぶりです。5月以来・・・ですかね?」


 「まぁ直接会うのはそうだな。でもとし坊らの活躍はテレビで見てたから俺はあんまりひさしぶりな気がしねえわ、あっははは」


 貴志はそう言って、迅雷と同じく『高総戦』で試合に出ていた煌熾と真牙のことも見て気さくに笑った。2人ともはにかんだように笑って会釈し返す。


 「それはどうも。『山崎組』の方々にも顔を覚えていただけているなんて光栄です」


 煌熾が本気で嬉しそうにすると貴志は声を大きくして笑い出した。


 「はははは!よしてくれよ、ウチだってまだまださ。今や君らの方がよっぽどトレンディだっての。そこかしこで話も聞くし、いやぁ、もしかすれば世代交代も近いかもな!ははは!」


 バシバシと背中を叩かれる煌熾はちょっと痛そうで、ちょっと嬉しそう。


 とはいえ、世代交代なんて、そんなこともあるまい。なにせ『山崎組』はランク5が3人も所属する、一央市が誇る最大戦力の一角なのだ。IAMOや警察などなにかしらの組織に所属していない一般魔法士のみで結成したパーティーとしてはこれは非常に高レベルである。

 若手の新規参加も多い『山崎組』が最前線から退くのはもっともっと遠い未来の話だろう。


 お世辞の上手な貴志との会話で『DiS』のメンバーたちが緊張を緩めていると、そこに遅れて中年のオ大男がライフルを担いで走ってきた。


 「やぁ、すまんね!急にデッカイ方がしたくなっちまって!・・・って、おや!」


 この必ず語尾にエクスクラメーションマークが付くほどの大声、耳に覚えアリ。


 「おお、なんだ久しいな!それと色黒の兄ちゃんは初めましてか!」


 日下一太だ。あれだけの腕力があってライフルなんて必要だったのかは未だに深い謎のままだが、それはまぁ、『山崎組』が魔銃使い専門のパーティーであることと、彼がその一員であるということだから、その後ろ暗い正体はともかくとして、それで良いとしよう。

 彼と面識がある迅雷と真牙、慈音はそれぞれに挨拶をする。


 「日下さんですか、どうも」


 「ちわっす」


 「あ、こんにちはー」


 一太は慈音が挨拶してくれたときだけちょっぴり嬉しさを増した感じで頬を緩めた。所詮は下賤な中年オヤジということか。

 

 さて、ネビア・アネガメントの件に関して迅雷の一太に対する印象も多少変化していた。けれど、その話は今は持ち出さない。彼の正確な立場はまだ分からないし、ネビアとはもう会えない今となっては知ることにも意味もない。

 しかし、そんな迅雷の代わりに一太にとある質問を投げるのは千影だった。


 「ちょうどいいとこに。ねぇ、ネビアは今どうしてる?」


 「ほう、千影ちゃんもいたのかい!で、ネビアか!、あぁ絶賛療養中だが特に問題はないぞ!」


 「ふーん、そっか」


 一太の言う「問題ない」というのが誰目線で見た問題を言っているのか。とはいえ千影もこれからはネビアの世話までは焼いてやれない。

 ともあれ、きっと今、ネビアはあの瞬きのような生活の中で得られたものをもう一度考え直しているのだろう。言葉や味や、匂いや、プレゼント。


 一端しか話を聞いていない真牙も、そもそも完全に真実を知らない煌熾も、一太の言葉を受けて安堵している。だから、千影はひとまずこれで十分だと思った。


 話がひと段落したところで迅雷は貴志に話を戻した。

  

 「・・・そういや貴志さんたちは今日はなんの仕事で?」


 「いや、仕事というか普通にクエスト取ったんだ」


 「へぇ・・・どんなのです?」


 「ほれ、今5番ダンジョンの探索クエが出てるだろう?」


 「え?じゃあ一緒ですね」


 「お、ホントか」


 これは両者共に意外だった。


 「じゃあなんだ、とし坊たちも俺らと一緒に動くか?」


 「それはありがたいけど、今日はパスだよ」


 しかし、貴志の提案には千影が割り込んできて、即座に断りを入れてしまった。


 「おいおい千影、せっかくの機会なのに、なんでまた」

 

 確かに、貴志単独でも非常に優秀な魔法士なのだから『山崎組』と一緒に行動していればもしもの事態でもなんとかなる可能性は大きく上がる。探索にある程度の懸念がある今回のクエストで安全度を高める手段があって、それを断る理由が迅雷には分からなかった。

 

 「ごめんね、とっしー。でも2チーム別々の方が情報収集の効率も上がるから」


 ―――そう言われてしまえばそれまでか。


 意外にしっかり者な千影に参ってしまった貴志がちょっと恥ずかしそうに笑った。


 「千影ちゃんはマジメだなぁ。いやはや、なんか覚悟の決まった顔しちゃってるからに」


 そう言ってから貴志は他のメンバーを引き連れて先に5番ゲートをくぐってしまった。

 それを見届け、煌熾が「ふう」と小さく息を吐いた。


 「さて、と・・・。それじゃあ俺たちも行くとしようか?」


 一応登録情報上ではパーティーのリーダーである煌熾が先導して、『DiS』も貴志たちが消えた光の円陣の前まで行く。

 ただ、その門を通る前に千影は一旦ストップをかけた。


 「ごめん、ちょっと深呼吸しても・・・いいかな?」


 千影は困ったように笑っていた。でも、いつの間にか、どうしたのだろう、千影の顔には言い知れぬ緊張感があった。吸って―――吐く。たったそれだけのリラックスではあるが、迅雷も彼女のそんな行動は初めてだった。


 深呼吸を終えた千影はいつも通りの無邪気な笑顔で迅雷にこう言った。


 「とっしー、今のうちに言っておくね。とっしーはやれば出来る子だよ」


 「は、はぁ?いきなりなに言ってんだお前―――」


 「自分じゃ分かんないだろうけど・・・・・・でもボクは信じてるからさ」


 「なん・・・」


 なんの前触れもなく曇りない笑顔を向けられて迅雷は狼狽する。珍しく深呼吸したり、こんなことを言ったり、こんなときになんのつもりだったのかは知らないが、みるみるうちに顔が火照るのを感じる。すごく照れ臭かった。

 

 「君が自分を信じられない分、ボクが君のことを信じてる。多分、みんなもだよね?」


 慈音たちも急な展開に戸惑いを見せていたが、千影と目が合ったときにはなにか感じ取ったのか、素直に頷いていた。


 今日はなにが起こるか分からない。それは事前に話し合っていた通りだ。いわば『DiS』の初めての冒険になる。

 だから、なにがあっても迅雷は剣を握り続けないといけない。もう一度、今ひとたび、考える時が来た。


 「大丈夫、ボクがいるうちは。だから、信じるよ?」


 難しそうな顔をする迅雷を安心させるように千影は胸を張った。

 そのすぐ後、5番ダンジョンの門が起動した。ただ、まだ千影らの側からは起動させてもらっていないので、恐らくは門の向こう(ダンジョン)側からの操作によるものだろう。


 「おっと、帰りの人か。みんな、一旦よけよう」


 電車やエレベーターと一緒で出る人優先。煌熾に背中を押されて迅雷たちは門から降りてくる階段の前を空けた。


 それにしても、思っていたよりもこの再探索クエストを受けている魔法士は多いらしいので、確かに万が一の可能性はないのかもしれない。

 やがて巨大な門から2人の男性が出てきた。格好は2人ともダンジョン探索にしては軽装な方だが、特になにかと争ったような汚れや傷もない。元気な様子で今回の成果なんかを話しているようだった。


 「なーんだ。割といけんじゃね?千影たんの言う通りだったかもな?」


 「・・・・・・」


 その男性2人の様子を見た真牙がそんな風に言いながら千影を見るのだが、千影はなにか不味いものでも食べたようなしかめ面をしていた。


 「あ、あり・・・?なぁ、迅雷はそう思うよな?」


 「――――――」


 「え、迅雷も無視!?」


 「―――っ!?あ、あぁ、ごめん、なに?」


 「いやほら、あの人たちを見た感じ今日のクエストいけそうだなって」


 「あぁ、うん、そう・・・だな、うん」


 苦笑して曖昧に相槌を打つ迅雷を真牙はジト目で疑った。あんなお兄さん方を見て迅雷はなにを考えていたというのだ。


 「お前・・・シスコンのフリして実はコッチ系だったのか?」


 「ちゃうわ!フリじゃなくて普通にシスコンだわ!」

 

 「それは普通なのか」 


 同性愛者になるくらいならまだロリコン呼ばわりされる方がマシな気がして迅雷は真牙に怒鳴り返した。

 ちなみに千影と迅雷に続けざまにスルーされた質問が悲しくなった真牙は慈音と煌熾に同意を求めたら、今度はすぐに頷いてくれた。 

 

 門が立てられた台の階段下でよけていた迅雷たちに気付いた男たちは軽い会釈をして去って行く。


 「それじゃあ、今度こそ俺たちも行くか。あんまりチンタラしてても緊張感がもたないし」


 「あーっとごめんとっしー、ちょっと気になることが出来たからさ、先行ってステーション周辺だけチェックしといて?」


 「えぇ・・・?いやでもなぁ・・・気になるのって?」


 「だいじょぶ。2分くらいで行くよ」


 「んん・・・」


 まさかダンジョンに入る前からいきなり別行動になるのだろうか。そこはかとなく不安を煽られた迅雷が嫌そうにしているが、千影は煌熾に後のことを頼んで無理矢理4人に門をくぐらせた。

 転移ステーション付近であれば基本的に安全なので、とりあえずそこにいるよう伝えたし、当たり前だが千影も彼らだけでこのクエストを進めさせる気はない。

 

 「それじゃあ俺たちは行っとくぞ」


 「うん。あ、でもちゃんとボクのこと待っててよね!」


 「分かってるって・・・」


 苦笑いの煌熾に背を押されて迅雷も真牙も慈音も、みんながダンジョンに行ってしまったのを見届け、千影は小さく吐息を漏らした。

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