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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect9 ”しゅごいこと?”


 主に一央市などの『高濃度魔力地帯』に区分される街の話だが、それ以外も例外ではない。窃盗事件や交通事故と同じようにあまりにも日常の中に馴染みすぎて、普段は誰も感じなくなってしまったものがある。それは「モンスター」の脅威だ。野良猫や野良犬のように街中を彼らがのさばることはない。それは魔法士たちの尽力によって逐一モンスターが退治されているから。でも誰もその当たり前を意識しない。

 故にモンスターと分類される異世界の生物たちは、その出現が当然とされ、その速やかな駆除も当然とされ、要するに危ないけれどそこまで気にしなくてもなんとかなる事件となっていた。


 そんな中で現れた『ゲゲイ・ゼラ』という名前。あの日報道されたニュースで、「モンスター」がもたらす脅威は再認識されていた。


 それが現れたのは5番ダンジョン。そして千影がクエストの目的地としたのはそこだった。


 「・・・千影。俺は正直行きたくないな」


 「しのもちょっと心配だよ」


 慈音もまた、『ゲゲイ・ゼラ』のことを思い出して今から怯えていた。いや、むしろ迅雷や煌熾よりもさらに一般人に近い視点に立っている彼女の方がその恐怖は大きいのかもしれない。

 しかし、千影は異論を認めなかった。


 「大丈夫だよ。『ゲゲイ・ゼラ』の討伐は完了してるから。ちゃんと報告も上がってる」


 「あのなぁ、それでもさ」


 苛ついた様子で迅雷は頭を掻いた。千影が言った通り、5番ダンジョンにおける『ゲゲイ・ゼラ』の掃討は済んだという報告はあった。ギルドの掲示に大々的に出されていたのは記憶に新しい。

 それでもあれは二度と、万が一ですら遭遇してはならないものだ。次も生き残れる奇跡なんて誰も保証してくれない。

 そもそもがある程度手負いの状態でこの世界にやってきて、そこをランク4の魔法士たちが一斉攻撃をしかけたにも関わらず殺しきれなかったのだから、もしも万全の状態の『ゲゲイ・ゼラ』があの門をくぐってきたなら、あの場にいた人間はほとんどが死体すら残せなかったはずだ。


 もし、もしも、まだ生き残った個体がダンジョンにいて、それと出くわしたら?まさかそんなことはないと分かっている。

 でも、そのまさかがあるなら、迅雷は誰も『守れ』ない。なら、初めからそんな冒険なんてしない方が良いに決まっている。

 

 だが、千影はそんなことなどとうに分かっている顔で言い返した。


 「いーや。行くもんね。いないって言ってたんだから大丈夫だよ。とっしーはもう少し冒険して、もう少し考えた方がいいんだよ」


 「・・・ッ!分かんねぇかな、お前だって『ゲゲイ・ゼラ』には苦戦してたんだぞ!もしまだあんなのが残ってたら取り返しのつかないことに―――」


 「むーっ!べっつにぃ?ボクがその気になればあんなモンスターなんて瞬殺だもんね!」

 

 心配の過ぎる迅雷の発言に千影はむくれた。

 二度も同じ敵に後れを取るなど、千影に限ってあり得ないのだ。それこそ、ごくごく一部の異常なレベルの強者を除いては。 


 「とにかく今日は5番に行くからね。もしものときはボクがなんとかするから」


 しばらく千影とにらめっこをして、迅雷は折れてしまった。迅雷がそうなれば、真牙も煌熾も仕方なさそうに息を吐き、慈音はそんな彼らについていく。


 「それで千影ちゃん。しのたちは今日はなにをすればいいの?」


 「簡単だよ。ダンジョン内部を探索して変なことがないか確かめるんだ」


 「変なこと?」


 千影の説明をより具体的に言い直すと、要は『ゲゲイ・ゼラ』駆除後のダンジョン内の環境変化をリストアップする、という仕事だ。

 あれだけの危険生物が跋扈したのだ。おそらく5番ダンジョンの生態系は短期間でもかなり破壊されているに違いない。ひょっとすると地形すら変わった可能性があるのだから、この作業はこれ以降に同ダンジョンを探索する人々にとって重要になってくるのは言うまでもない。

 千影の言い方だけで大方の作業内容は理解した真牙が挙手する。


 「はいはーい」


 「どうしたの?真ちゃん」


 「いや、地図とか資料ってもらえんのかなって思ったんだけど」


 「あ、そっか。うーん、ちょっと待ってて」


 そう言って千影は小走りでレストラン出て行ってしまった。

 それから3分ほどして戻ってきた彼女はB5くらいの紙の束とスマートフォンサイズの端末5個を抱えていた。


 「千影、それは?」


 「これはねー・・・よいしょ」


 千影がいない間に出されていた飲み物のグラスをどけて迅雷がテーブルにスペースを作ってやって、千影は持ってきた品々をそこに置いた。


 「さっき真ちゃんが言ってた資料と地図だね」


 「地図ってどれだ?もしかしてこの機械?」


 「そうそう。これの中には詳しい地形データとか写真とか、いろいろ入ってるんだ」


 言うより見せる方が早いので、千影は5個あるデバイスの1つを手にとって軽く操作してみせた。ほぼほぼケータイに入っているマップアプリと同じような印象なのは、もしかしたら開発者が意図的に合わせて使いやすさを求めたからかもしれない。おかげであまり機械の扱いに明るくない慈音もホッとした顔である。

 デバイスの面積割合が大きなスクリーンに表示されるのは、千影の言う通り、ダンジョンの地形図だった。マークのある地点をタッチするとその地点の写真や、それでは分かりにくい点をまとめた文章などが出た。中にはユーザーレビューみたいなものもある。

 

 こういう情報があるなら初めからIAMOのアプリに入れておけば良いではないか―――と思うのだが、実際はそうもいかない。というのも、ダンジョン内は基本的に電波圏外のため、外部の情報源にアクセス不可能だからだ。しかもダンジョンの情報も凄まじく膨大なため、もしアプリ内に入れてしまうと、まず一般の情報端末の容量には収まらない。

 故にこうしてダンジョンマップはダンジョンマップとして別々に作られたわけだ。


 千影は既にチェックの済んでいるらしい箇所を見せたりして説明を加えた。


 「まぁ、こんな風にして前の状態とかなり変わったところをまとめる感じだね」


 「そんな便利なもんあるなら今までのクエストでも使いたかったな」


 「うーん、こんなのなくたって討伐系・採集系のクエストなら問題ないっていうか探索向けの道具だし、それに実はコレ有料だし」


 「有料!?」


 便利で、有料。嫌な予感がして迅雷は手に持ったグラスを滑らせそうになった。


 「そんなに便利ってことはお高いんじゃないでしょうか・・・?」


 「そうだよ」


 あっさり肯定した千影は謎のピースサイン。


 「なんと1台につき2万円!」


 「「「「ブッ!!!!」」」」


 迅雷はもちろん、彼よりは多少冷静に話を聞いていた慈音、真牙、煌熾も綺麗にタイミングを合わせて飲み物を噴いた。


 「に、ににににに2万円!?しの、そんなお金持ってないんですが!?」


 「フッフッフ、これはイケナイなー。お金がないならナニで払ってもらおっかなー」


 「え、えぇー・・・?しの、なにされちゃうの・・・?」


 「それはもうしゅごーいことに・・・ウヒヒ」


 無駄にいやらしい手つきで千影に冷やかされた慈音が顔を青くする。

 しゅごいこと・・・。どんなの?男子3人は変な妄想を掻き立てられたが、一番最初に煩悩を振り払った迅雷が千影のアホ毛を引っ張った。


 「って、やめい」


 「いててててて!はなっ、はなせー!」

 

 さぞかし大事そうにお手製のアホ毛をさすりながら千影は引き下がる。


 「とっしーはしーちゃんがしゅごいことになってるの見たくないの?」


 例えば季節も季節だし、金がないなら君可愛いしちょっとモデルでもやってくれということでピッチピチの水着でも着せて、そのうちスタジオのオジサンたちがニヤニヤしながら次第にあんなことやこんなことになって最後は(自主規制)みたいな。

 例えば事務室に連れ込んでお金が払えないなら体で払ってもらおうかということで最初から自主規制なこと始めたり。

 例えば例えば・・・。

 たった一言で無性に想像を掻き立てられる思春期に迅雷は立ち向かう。顔は真っ赤だが。


 「それしーちゃんの前で言うの?バカなの?」


 「むぅ・・・。あ、分かった!とっしーはしーちゃんよりボクのあられもない姿を・・・」


 「小学生に興味なんてねーから!」


 千影はやたら必死に否定する可愛い迅雷を宥める。


 それから一拍置いて、いろいろ満足した千影はウインクした。


 「ま、ホントはコレ、今日はタダで借りれてるんだけどね」


          ●


 1時間ほどの綿密な作戦会議を経て、『DiS』の一行はようやくギルドの転移門棟にやってきた。休日ということもあって、小遣い稼ぎのつまりなのかピクニックなのか、安全なダンジョンに出入りする人が多い。特にピクニックならライセンス持ちの魔法士についていく一般も多いことだろう。

 そんな中での彼らは少し異様だったかもしれない。他とは一線を画する緊迫感があり、前述のお遊び組からはもうひとつの珍しさも相まって興味の目を向けられた。


 「あれがウワサのメンバー全員が高校生っていうパーティーか・・・」

 

 「なんだっけ?『我儘な・・・・・・なんだっけ・・・。でもとにかくガチっぽいな、あの雰囲気」


 「あれって子供じゃない?可愛いけど、もしかして『DiS』についていくの?もしかしてあんな見た目して学生?」


 もはや結成しただけでこの知名度だ。いや、名前は長すぎて覚えられていなかったが。とにかく、これからの活躍如何によっては、『|我儘な希望の正義《Deep.in.Solt》』という冗長なパーティー名も一世を風靡して人々の記憶に残るかもしれない。


 思った以上に期待の込められた多くの視線は、メンバーそれぞれに個々別の思いを募らせる。


 「しのたちって有名人なのかなぁ?」


 「そりゃあ慈音ちゃん、オレたちのインパクトって相当だぜ?もしかすっとある日突然インタビューが来るかも」


 「ほぇー・・・」


 慈音と真牙のやり取りを軽い気持ちで聞き流しながら、迅雷は5番ダンジョンの門を遠目に眺めていた。他の門となにも変わらない、ただのゲート。なにも起きていなければ今日も大勢が利用していただろう異界への扉。


 ―――でも。あの巨大な魔法陣をくぐって、災厄は現れたのだ。

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