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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect6  ”生徒会の非日常”


 テスト期間が終わると、その解放感はもうすごいとしか言いようがないだろう。加えて今日からは7月。知らぬ間に梅雨前線も吹き飛んで、数字からさえ暑さを感じる時期がやってきた。

 誰もかもみんながシャツの袖を捲るだけでは足りなくて、半袖のワイシャツを着たり、昼休みには購買のアイスをまとめて持っていったりと、思い思いに夏の到来を謳歌している。


 もちろん、それは彼女たちも変わらない。


 「こんにちはー。・・・って、やっぱりというか、結構来てるわね。まぁそうなるよね」


 窓の外には食堂の席を確保しようと急ぎ歩く生徒たちがたくさん見える。ちゃんと連れ添ったみんなで同じテーブルに座れると良いね、と励ましてあげたくなる。

 そんな一般生徒たちとは全く別の方向である生徒会室にやってきた萌生は早くも席の埋まりかけた長机を見てクスリと笑った。


 「あ、こんにちは、会長!」


 萌生の顔を見た蓮太朗がガタッと音を立てて席を立って嬉しそうに挨拶をした。わざわざ立ち上がらなくても良いのにと萌生は苦笑する。他の生徒たちも萌生に軽く会釈をするか手を振るなりしていた。

 ドアを開くなり肌に吸い込まれる心地よい冷気。萌生はついつい気分が良くなって長い伸びをひとつした。


 「うーん・・・・・・ん。あー、涼しい。良い感じの利き具合ね。ラッキーだわ」


 「それは良かったです!早めに来て冷房を調節した甲斐がありました」


 「えっ、あ、うん・・・ありがとう清水君・・・?」


 やたらと満足そうな顔で話す蓮太朗は、なにを隠そう昼休みにはきっと来るであろう萌生のために授業終了後、飛ぶように生徒会室に来て冷房を細かく操作していた勤勉な生徒会副会長なのである。

 いろいろ察した萌生は副会長の(重い)忠誠心に感謝しつつ自分の席に座った。家から持ってきた弁当を開き、さっそく優雅な昼休みを開始である。


 7月になると、特別教室の空調が使用可能になる。生徒会室も例外ではない。この部屋に気兼ねなく出入りできる生徒会執行部のメンバーは、夏場はこうしてお昼時に集まってくるのだ。長机の席も役職ごとに決められているから、食堂と違って座れずに立ち尽くすこともない。


 「そういえば、みんな。あの話どう思う?」


 萌生は曖昧な表現でテーブルに話題を投げた。

 何人かは「あの話」とやらが分からずに首を傾げたが、察しの良い蓮太朗が例の学生パーティーが結成された話だと説明する。そうすると、ようやく誰もが納得して口々に意見を出し始めた。

 大半の意見は「面白そうだけど危険な気もする」といったところか。


 「やっぱりそう思うわよね。私も正直心配だわ」


 意外にもこうした世間話を生徒会室ですることがないので、萌生はやっと訪れた絶好のタイミングを逃さず心情を垂れ流した。


 「それはまあ、焔君はしっかりしているしチームとしては問題なさそうには見えるけど・・・」


 「確か1年の中にはライセンスを取得していない女子生徒もいるらしいですね」


 「そう!そうなのよ!」


 いつものことながら気持ち悪いくらい話が分かる蓮太朗のするどい指摘に、萌生はびしっと指を差して肯定した。なにやら他にも萌生が知り得ない情報も多いが、いずれにせよ気がかりな点はそこだった。


 「いくら焔の腕が立っても、4人もカバーしながらというのは無理ありますしね」


 「清水君もそう思う?―――そういえば、佐々木さんって3組だったわよね?本人たちからなにかお話きいてない?」


 少し前に生徒会メンバーに加わった1年の女子生徒、佐々木果津穂に萌生は尋ねた。神代迅雷や阿本真牙と同じクラスの果津穂なら、恐らく他より多少は細かい話を聞きかじっているだろうからだ。


 「そうですね・・・そのライセンスないって子は友達なんですけど―――」


 「そうなの?じゃあなにか言ってた?」


 「えっと、同じクラスの東雲さんっていうんですけど、割と平気そうな様子でしたよ。ちょっぴり恐いこともあるけど、楽しくやってるって」


 果津穂が慈音から聞いた話では、まだ彼女たちのパーティーはこれといって危険な目にも遭っておらず、安定している風だ。もちろん、彼ら自身が自分たちの実力を把握してそれに見合った活動を行っているということもあるのだが、つまりは現状問題ないと言えるだろう。


 「でも、これからもそうとは限らないし・・・」


 「豊園先輩の言うことも確かだとは私も思うんですけど、でもなんか、1人すごく頼れる子がいるらしくて」


 「頼れる子?」

 

 萌生はそこを疑問に思った。それはまさに萌生が知り得ない情報の中でも一番大きなところに関係がありそうだったからだ。萌生は煌熾のパーティーにはこの学園からの参加が4人だと聞いているが、問題は残る最後の5人目のことだ。「子」と表現されたからには萌生が知らない「強いランク4」という人物も学生ということになる。

 果たして、そんな人物が実在するのか―――いや、しない確率は極めて高い。なぜなら、少し前の『高総戦』に参加していたランク4の学生は萌生と達彦、英宝の3人のみなのだから。もし仮にそのような人物がいるのであれば『高総戦』で顔を見ないはずがないのだ。


 「あくまでその『頼れる子』っていうのは『子』だったの?」


 「えっと・・・はい。私は会ったことないのでなんとも言えないですが、東雲さんは『子』って。でもとにかく強いらしくて」


 そうまで言われると萌生は深く追求しにくい。半分は疑念を残しつつ、卵焼きを頬張った。

 ともかく、その『頼れる子』が後輩たちの安全を確保してくれるのなら萌生も安心出来る。出来るのだが、どうしても腑に落ちないところもないわけではないのだ。


 「それにしても、そもそもなのよ」


 そんな不満も今ならこぼせる気がしたので、萌生は一度箸を置いて不服そうに頬を膨らませた。実は『DiS』を結成したという話を聞いたそのときから彼女には思っていることがあった。けれど、諸々の都合を気にすると今日まで声を大にして言えなかった。

 かと言って生徒会室でそれを言うのと教室か職員室でそれを言うのとで差なんてないのだが、そこはまあ、場のノリなようなものだ。


 結局のところ、優等生で温和な生徒会長だって心の奥では不服は持つということだ。


 「そもそも、なんでパーティーを組むってなったときに私に声をかけてくれなかったのかしら。せっかく私だってランク4なんだから、なにも遠慮しなくたって良いのに・・・」


 「・・・もしかして、会長実は焔のパーティーに入りたかったとかですか?」


 「そ、そこまでは言わないけど・・・」


 分かりやすい態度で取り繕う萌生は微笑まし限りだが、今回ばかりは可愛らしい振る舞いでも誤魔化せないものがある。

 

 「失礼ながら言わせていただきますが、ぼくはそれはあまりお勧め出来ませんね。会長の座学の成績が優秀なのは重々承知していますし、魔法の実力が校内でも飛び抜けていることだって分かっていますが、やはりパーティーとしての活動を受験勉強と平行させるのは厳しいはずです。ここは『高総戦』終了後に気が緩んだ3年生たちに受験生としての手本を会長が示すべきです」


 蓮太朗が意見すると、萌生が言い返すより早く他の3年生が彼に噛みついた。


 「おいおい清水、別に俺たちはたるんでなんていないぞ。なにを見て言ってんだ」


 「そうだよ。今はまだ本腰を入れる時期じゃないってだけで、あと少しもすれば!いろいろ学校単位でバタバタしてたんだからちょっとくらい休憩があっても良いじゃない」


 「ハッ。そんな風に言っている時点でたるんでいると言うんですよ。推薦やAOでの受験を考えていらっしゃるのかもしれませんがいずれにせよ―――」


 「まあまあ、清水君。それなら私だってまだ本腰入れて勉強なんてしてないんだから」


 上級生にさえ物怖じせずもの申した蓮太朗は萌生に諫められるなりシュンとする。

 それから萌生は人差し指を立てて持論を述べる。


 「それに、勉強と魔法士としての活動を両立させている方がマンティオ学園の生徒会長のキャリアとしては良さそうでしょ?」


 「会長・・・・・・」


 萌生の言う通り、勉学に励む傍ら高ランク魔法士としての存在意義を示せるならキャリア云々の話を抜きにしても素晴らしいことだろう。

 だが、それにしたってパーティーに加わるというのはリスキーだ。いくら要領が良くたって上手くいくかは分からない。現場にアクシデントは付き物だと言う。

 現3年生で最も将来有望な萌生に気を遣わなくて良いという方がむしろ後輩たちからすれば無理な話だった。


 頭の良い萌生ならそれくらい分かるはずなのに―――。蓮太朗は彼女に強く気遣われる騒動の中心人物たちをちょっとだけ羨ましく思いながら嘆息した。


 「本当にパーティーに参加したかったんですね・・・」


 「だからなんでそこばっかり突っつくのかなぁ、清水君は!?別に面白そうとかあの子たちばっかりズルいとかで言ってたわけじゃないんだから!」


 「・・・?それ本気ですか?」


 「―――あっ」


 その後、萌生は大急ぎで残った弁当を食べ終えて気まずそうに生徒会室を去ってしまった。あまり見られない彼女の姿を他の生徒会メンバーたちは面白がったり目を点にして見送ったりしていた。


 端的に言って、萌生が『DiS』に強い関心と反対意見を持った理由はそんなところだ。

 せっかく身近なランク4の先輩だったはずの萌生が、今は少し仲間はずれにされたような気分もあるし、煌熾と一緒に活動出来る1年生たちが多少羨ましくもあるし―――。


 ただ、それでもやっぱり一番は。


 「私は、あの子たちが心配なだけなのになぁ」


 大切な後輩たちが自分の知らないところで必要ない無茶をしていたらと思うと、結局萌生もおちおちペンを握ってもいられなかった。

 ひたすら、何事もない彼らの活動が充実してものであるように。気遣われた今となっては自分からやりたいとも言い出せない萌生はジレンマのような祈りを秘めるしかなかった。

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