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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode5『ハート・イン・ハー・グリード』
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episode5 sect1 ”『我儘な希望の正義』”


 「真牙、一旦バックしろ!」


 「あい――――――よォ!!」

 

 「らァァ!!『百雷(ヒャクライ)』!!」


 激しく硬質な衝撃音。獣の重低な咆哮。明滅する放電現象。飛び散る血の滴すら弾け飛び、断末魔にも似た絶叫。

 けれど、剣閃の跡には静寂が生まれない。


 「神代、攻撃が浅いぞ!」


 「チッ、くそ!」


 2つの火球が前後を入れ替わる2人の少年の間を縫うように回り込んで獣に当たり、その隙に飛び出した少年は獣の背後へ。

 先ほどのそれをさらに超える爆裂音と共に雷閃が迸る。光が躍って軌跡を描き、眼光と入り乱れて複雑に絡み合う。


 「こいつで逝っとけ!!『千雷(センライ)』!!」


 紫電が描くトライアングルに呑み込まれて獣は消滅する。

 だが、これで終わりではない。


 「としくん、次、後ろだよ!」


 「大丈夫、ボクがカバーするからとっしーは正面に集中しててね」


 「―――分かった」


 少女の声の警告の後には、映像が伸びるように駆け抜けたまた別の少女が、いつの間にか敵を殺している。

 言われた通りに前へ突撃する少年は後ろを頼る。


 「焔先輩、サイド頼みます」


 「ああ、任せろ!阿本は神代に続け!」


 「了解っす!」


 炎が撫でた後は消し炭。2本の刃が空間を一直線に引き裂いて乱れる。薄い黄金色や淡紫色の光を帯びて舞えば、一斬で肉も骨も断たれた。


          ●


 やがて少年少女たちに群がっていた獣の大群は一匹残らず駆逐されてしまった。多少時間はかかったが、彼らの受けた損害はほぼないと言って良い。


 「ふぅぅ・・・なんとかなりましたねー」


 「東雲も結構出来るようになってきたな。ガードが適確だったぞ」


 「え、そうですか?えっへへへへ・・・」


 後衛の東雲慈音と焔煌熾のやり取りを見ながら阿本真牙と神代迅雷も肩の力を抜いた。ああやって慈音がのほほんと笑っているだけで平和を感じるのは、一種の才能かもしれない。


 刀を鞘に納めた真牙は、困った顔をして剣を眺めている迅雷に声をかけた。


 「なにしてんだよ、剣ばっか見て」


 「あ?いや・・・また刃が欠けたなぁって」


 これ以上の問答はナンセンスなので、迅雷はなにか言われるより先に欠けた魔剣を背負った鞘に仕舞ってしまった。額の汗を手の甲で拭い、仲間たちの方を振り返る。

 慈音とハイタッチする千影を見ていると、真牙がニシシと笑う。


 「オレたち結構いい感じじゃね?連携も取れてきてるしさ」


 「ああ、そうかもしんないな」


 楽しげな真牙に迅雷は小さく笑って、今度は自分の方に走ってきてハイタッチを求める千影に応じて、手を合わせてやった。パチンと気味の良い音が鳴って、ピョンピョンと跳ねる千影はご機嫌な様子である。

 こうして見ればただの可愛い金髪幼女だが、その実、千影こそこのチームの結成に際して最重要メンバーだったランク4の上級魔法士である。


 「お疲れ様、とっしー!なんか動きもよくなってきたんじゃない?」


 「そんなことはないと思うけど。俺は元々こんなもんだって」


 「おやおや、自信満々だね!」


 悪戯っぽくニヤつく千影に迅雷は「うるせ」と言って弱いゲンコツをしてやった。皮肉でも言われたような顔で笑っている迅雷のところには慈音と煌熾も集まってくる。


 「これで俺たち―――『我儘な(ディープ)希望の(・イン・)正義(ソルト)』の活動も約1週間ってところだが、俺もこの成果は上々だと思うぞ?討伐系クエストをこんなにあっさりとこなせてるんだからな」


 まあ、かと言って『DiS』の受注してきたクエストのレベルはランク2か1相当の採集とか軽い討伐で、お小遣い稼ぎくらいのものかもしれなかったが、それは良いとする。いずれにせよ素人ならままならない仕事をこなしてきたことには変わりないのである。


 煌熾の言う通り、彼らのパーティーとしての活動はこれで約1週間、正確には6日になる。この前の日曜日にギルドにて『DiS』の正式な登録手続きをして、25日の今日で6日だ。


 結成の翌日にはどんなルートで広まったのだか、学園中で話題になっていたのは驚きだった。

 自分も是非と詰め寄ってきた聖護院矢生と紫宮愛貴を迅雷が人数制限があるから仕方なく断らせていただかなければならなかったり、自分も頑張りたいから(というのは建前で実際は真牙がいるから)入りたがっていた五味涼にも慈音がやんわりと事情説明したり。

 はたまた2年生のフロアには3年生の不良風紀委員長である柊明日葉が突撃してきて「なに勝手に面白そーなことしてやがんだ」と煌熾を恫喝したり、彼女の成績的に進学出来るか心配な豊園萌生が降りてきてペコペコ謝りながら明日葉を連れ戻そうとしたり、穢れ無き生徒会長に頭を下げさせたとして清水蓮太朗が煌熾にいわれのない罪を問うたり・・・。 


 ただ、生徒たちが噂する中で教師陣があまり騒ぎ立てなかったのはきっとメンバーの中にしっかり者の煌熾がいることと、「頼れるランク4」がいるという話をされたからだろう。後者の理由については学校側からギルドにも直接話を聞いて、キチンとウラは取れているようだった。


 心配や羨望が入り交じって向けられたそのメンバーのほとんどが学生というレアなパーティーの登場は、幸いにも順風満帆に大変だった。

 クエストも無事達成したのでギルドに帰るべく転移ステーションへ向かう道、ちょっと暗い短草草原地帯。歩きながら迅雷はふっと思い出す。まぁ、くだらないことではあるが。


 「そういや今日ってライセンスの給料日だったっけか。先月にかなりトラウマしたからむしろすっかり忘れてた」


 命を張った代償が780円とかいう今思えば実に似つかわしい金額を見たことを、迅雷はクエストの報酬金のことを考えていたついでで思い出した。ある程度活動が積極的になったとはいえ、金額は今月もあまり変わらないだろう。2日分の昼食代が賄えるかどうか程度なんて悲しい話だ。

 迅雷が回想で頬を引きつらせていると、いろいろと同感するところがあったのか真牙も萎え気味な相槌を打ってきた。どうやら真牙も先月はだいぶガッカリしたらしい。


 「でもその分、今日の依頼の報酬って確か1人頭5000円くらいだったよ?」


 千影がそんな風に言えば迅雷と真牙の機嫌もそれなりに戻った。それでもまだ危険を冒した割に安い気がするが、平均的な高校生から見た5千円は大体一般社会人から見た5万円に相当なのだ。――――――多分。


 「よーし、帰りにゃパーッとラーメンでも食ってくかー!」


 「「いいね!いこーいこー!」」


 「あ、じゃあさ、あの『馬鹿者ラーメン』行こうぜ!」


 迅雷が調子の良いことを言って拳を空に突き上げると、慈音と千影が真似をして、真牙がさっそく提案していく。

 『馬鹿者ラーメン』とかいう頭の悪そうな名前の店だが、それはギルドから少し離れたところにある、ここらでは名の知れたラーメン屋である。値段も高くて距離も寄り道というにはちょっと遠い店だが、おいしさは間違いない。上機嫌な若者たちからすれば、店の暖簾はダンジョンの中を歩いていたって目と鼻の先である。


 「おいおい、家帰っても夕飯食えなくなっちまうぞ」


 「むむっ、マジメかムラコシ!楽しめるものは後先考えず楽しまないとダメなんだよ!」


 「そ、そうなのか・・・」


 割と真っ当なことを言ったはずが10歳児に説教された煌熾は、かえってなにも言い返せないで口をつぐんでしまった。煌熾はひたすら腑に落ちないという顔で首を傾げるのだった。


 「焔先輩も行きましょうよ、あそこの味噌ラーメンはかなりウマいんですよ?」


 「ま、まあそうだな、うん、そうだよな。早めの夕食とでも思えば良いか・・・よし、行こう!」


 せっかくの後輩からの誘いなので煌熾も断れない。

 普段から同輩に限らず先輩後輩とも友好的な煌熾だが、なぜだかそのしっかりした人気とは裏腹に、高い能力や生真面目な面から特に年下には畏敬さえ向けられてしまっている。そのため実はあまり後輩から気軽に声をかけてもらえないことを煌熾はちょっと気にしていたりいなかったりしたのだ。

 だから今回の『DiS』結成の話は寂しかった彼にとっては飛びついてしまう勧誘だったし、ラーメンだって本当は行きたくなってウズウズしてしまったり。


 ・・・と、こっそり感慨に浸る煌熾の袖を千影が軽く引いた。


 「ムラコシムラコシ、このダンジョン暗いから錯覚したのかもだけど、まだボクたちの世界は昼の2時だよ」


 「―――ハッ!?」

 

 「早い夕食ってより遅い昼食っすねー。あっはは」


 真牙に指まで差されてからかわれながら煌熾は―――。


 「・・・あれ?なんかこういうのもアリか?」


 「え、焔先輩ってマゾ系だった・・・?」


 「いやッ、ちが、違うから!普通だから俺は!・・・ったく、そうじゃなくて後輩に冗談交えてしゃべってもらうことが新鮮でなぁ・・・」


 「Mじゃなくてウサギちゃんだ!?」


 色黒ムキムキ長身スキンヘッドな炎使いの男がその実可愛い子兎ちゃんキャラだったとして、果たしてそのギャップは萌えるのだろうか?

 冗談ではなくドン引きする真牙を見て煌熾は悲しそうな顔をした。


 「し、真牙くん、マゾとMってどういう意味だったっけ・・・?」


 1人だけ俗語の雨に置いていかれた慈音が目を白黒させていると、真牙も迅雷も彼女の質問をはぐらかしてしまう。

 そんな中で空気を読まない千影がなんの気なしに答えようとしたら、迅雷が慌てて黙らせた。


 「Mっていうのはね―――」


 「やめろ千影!しーちゃんの脳を汚染するんじゃない!そこにあるのは天然記念物だぞ!」


 「いつの間にしのはそんなすごいものに!?」


 「むぐっ、んー、んー!!」


 千影の口を押さえている迅雷に慈音が詰め寄って、いろいろ羨ましい真牙がギャーギャー喚いて、そんな後輩たちの楽しげな姿に煌熾は心を和ませる。


 人間世界への門の管理地点、所謂転移ステーションが見えてきた。彼らの短い短い旅はこれで終着する。


 危険と隣り合わせで大変なことばかりで、だけれど、思ったより平和でほのぼのとしていて、豊かな時間がここには在った。


 殺伐しているかと思えば意外に潤った充足。それがもしもハリボテや仮初めの猶予だったとしても、本当の安寧だったとしても。


主要登場人物


神代迅雷:主人公。中二病でシスコンでロリコンで根暗。・・・なんかヒドいな。頑張れ。


千影:ぅゎょぅι″ょっょぃ。アホ毛が本体かと思えば自作だった。


阿本真牙:迅雷の親友にして悪友。『DiS』の結成をもちかけた。


東雲慈音:迅雷の幼馴染み。あの野郎にはもったいない(作者談)。


焔煌熾:迅雷たちの先輩でパーティーリーダーも請け負う。強くて真面目。


日野甘菜:覚えてますか?そう、ギルドの受付嬢です。


岩破:今考えても凄い名前ですが、まあ色々あったんです。


紺:ランク6のプロ魔法士だろうと笑って嬲り殺すチート野郎。ニヤニヤしてばかりでなにを考えているか分からない。


and more!

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