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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect58 ”美少女魔法士、天田雪姫選手直撃インタビュー(どうせスルーされる)”

 新作は次の土日のどちらかで投下予定になりました(間に合うと良いなぁ)!

 なので、その日はこちらを一旦お休みになりますのでご了承を。


 「お迎えとは――――――ありがたいわね、カシラ」


 口から血を吐き出す兼平の顔は見ないで、代わりにネビアは彼を刺したやせぎすの男を見上げた。


 「なに、例には及ばないさ。まだまだお前には十分すぎる価値があるんだから」


 「さっすが副社長、懐が深くいらっしゃる、カシラ。でも気を付けて?カシラ。そいつ、腐ってもランク5よ、カシラ」


 副社長と呼ばれた男の指示で寄ってきた男2人にカートから取り出されながら、ネビアはニヤニヤと笑っていた。

 ネビアの警告を受けて副社長なる男は恐ろしいものを見るような顔で兼平を見た。腹を刺され大量の血を零しながらも、冷静に目の前の男を敵と判断した兼平が、既に手を振り上げていた。


 「な、なん・・・!?刺されたのになぜ平気でいられる!?化物かお前は!!」


 「副社長ってことは・・・お前が『渋谷警備』の幹部ってことか・・・。随分と出しゃばったみたいだなぁ・・・!!」


 「クソ、クソぉ!さっさと死んどけよクソが!!」


 ナイフを押し込まれながら、兼平は今回裏で起きていたらしい事件の重要参考人を捕えるべく副社長の背中に肘を叩き込む。

 腹を刺されて平気なはずはない。でも、これくらいの傷で音を上げるようではプロ魔法士の肩書きが汚れてしまう。

 当然、兼平の方が強かった。細い体の割に意外に頑丈なのか副社長は殴られたところを押さえて後ずさり、蒼白になった顔を俯かせた。まるで鉄パイプで殴られても気絶できなかった一般人のようだ。なるほど、やはり素人であることに違いはないらしい。


 もはやこのまま兼平がネビアを取り返しに来たらしい『渋谷警備』の連中を一網打尽の返り討ちにするかと思われたが、この世界はまだ彼に厳しかった。


 乾いた音がして、兼平の肩に穴が空く。


 「―――ぁがっ!?く・・・そ、フザけろ・・・!?」


 上司である副社長に当たるかもしれないのに、ネビアを運んでいるところだった男の片方が拳銃を発砲してきたのだ。そして副社長もそれを止めることはせず、むしろ気が回る部下を褒めるように叫んだ。


 「い、良いぞ!殺れ、殺してしまえ!!」


 「ナメるなよ!『リキッドスパイ―――」


 苦しいのか、笑っているのか、副社長が地面に崩れ落ちて兼平の前に盾はなくなり。


 そして、アラート音が鳴った。


 

 「ごめーんね、カシラ。じゃあねー、カシラ」

 

 

 男たちが発砲するより速く、兼平が魔法の詠唱を終えるよりも速く、ネビアの腰から生え出した10本の黒い『脚』が兼平の体を遙か上方へと弾き上げた。

 

 軽々と病院の屋上くらいまで吹き飛んだ兼平を目で追いながら、ネビアはハァと溜息を吐く。


 もう『脚』は引っ込めたネビアを鬼のような形相で睨みつけ、副社長は声を荒げた。


 「こ、殺せって言っただろうがぁぁぁぁ!!お前はぁあ、馬鹿なのかァァァ!!」


 「声がでかーい・・・、カシラ。つって殺した後どーすんですか、カシラ。無闇にブッ殺してたら後で嗅ぎ付けられちゃうんじゃないですかねぇ、しかもだいぶ重い罪状付きで、カシラ」


 「どーするなんて分かりきってるだろ!後でステーキなりなんなりにして出してやる!」


 それもそうだったな、とネビアは口の端を歪めた。上手い証拠隠滅法があるから平気で殺せるのだ。多分、元々護送車に乗っていた連中はこのままネビアの栄養にされる。

 分かっていることだ。そもそも、そうでもしないと、正直ネビア自身がもう保たない。


 「ははは・・・ハア。でも細マッチョなんて美味しいとこないし、やっぱ要らないから、カシラ。それよか副社長、私も力使ったし、そろそろとんずらこかないと危ないよ、カシラ」


 概ね自分の方が正しいのにネビアのせいで危ない状況だけは確かなので副社長は悔しげに顔を歪ませたが、すぐに護送車の助手席に乗り込んだ。ネビアもすぐに後ろに積み込まれる。


 よもや身をよじって偲ぶことさえままならないネビアは、むしろ踏ん切りがついた。 

 本来の乗り手を失った護送車は静かに発進する。もう進めない。元に戻っていく。運命からは逃れられない。

 思えば期待ばかりさせて、希望ばかり抱かせられたのに、やはりこうして社会の暗部にちゃっかり逆戻り。

 辛くて、悲しい。なにより切ない。そして、その表情を悟られたくなくてもそれを隠す手も足もない。嘘を吐きたくても、噛む爪もない。護送車という無表情な箱の隅で、壁に噛みつくように、唇を引き結んで、声もなく泣きじゃくった。



          ●



 少し時を遡り、時刻は午後7時半頃。一央市の繁華街にある、とある小洒落た洋食店に場面は移る。今日はとっくに閉店しているのにも関わらず、店にはやたらと中学か高校くらいの少年たちが集まっていた。

 ただ、少年たちというよりは、不良少年たち、の方が適切だ。明らかにグレている感じの連中は揃って「CLOSED」の看板を引っ提げたレストランに押し入って店内のテレビに釘付けだった。

 洋食店の店長は彼らに「家で見ないのかい?」と尋ねたのだが、返ってくる返事は一様に「親がウザいから」だった。よくもまあここでそんなことを言えたものだ、などと思いつつ、店長も甘いというか押しに弱い人なので彼らを店内に招き入れてしまったわけだ。


 テレビでは、今まさに4日間続いた『高総戦』の閉会式も締め括られようかといったところである。


 「いやー、オラーニア学園の頭も分かってんな。やっぱ姐さんはスゲー人だぜ」


 不良たちのリーダーである少年(?)がそう言うと、みんなが頷く。

 店長はそれを見て悩ましげに首を傾げるだけだった。

 千尋達彦はなぜ自分たちが持って帰るべき優勝旗を敵であるマンティオ学園に譲渡したのか。不良たちは理由なんて達彦が言っていたことを鵜呑みにしているけれど、本当のそんな綺麗なだけのフェア精神で取った選択だったのだろうか。なにぶん店長も歳だけは取ってきたものなので、達彦の本心がどことなく見えるような気がしていた。


 「雪姫ちゃんもえげつないことしたね・・・。もしかしたらあの子も少しは後悔してるのかな?」


 「なーに言ってるんだよ店長!姐さんが後悔なんてするわけねーだろ!あんなに堂々してんのにさ、なあ、お前ら!」


 『そっすよ、ギャハハハハ!!』


 あんまりうるさいと近くのお店に迷惑だから、と店長は口に人差し指を当てたが、寄り集まった不良少年たちが大人の言うことを聞くわけもなし。爆音じみた笑い声が窓を震わせていた。


 やがて閉会式が終わる。そうすると、今度はそのチャンネルの放送局のアナウンサーが選手たちを直撃取材するわけだ。特に、60年以上ある『高総戦』史でも、たった一件のタブーを除けば他に類を見ないあれだけの大事件もあったのだから今回は熱も強い。


 そうしてさっそくテレビ画面に大きく映ったのは雪姫だ。団体戦のときにも盛大にスルーを食らったはずなのにテレビ局の連中というのは懲りない生き物である。いや、仕事だし生活も懸かっているんです、なんて言われると返す言葉もないのだが。


 『天田選手!まず、個人戦・団体戦共に優勝、かつ団体戦MVPという華々しい成績でした!そのことについてなにかコメントを!』

 

 『なんも言うことなんかないです』


 カメラの前でもブレない雪姫(姐さん)の姿に不良たちは痺れたり憧れたりして、店長は頭を抱えた。あの店のバイトちゃんすごいらしいけど無愛想だよね、的な話が広まったらどうしてくれるのだろうか。まぁ、なにがあろうと店長が雪姫をクビにするようなことは絶対にないのだが。


 『そこをなんとか!感想でも良いんです!』


 『・・・・・・本音で良いなら』


 『―――!ええ、もちろん!むしろ本音が聞きたいです!お願いします!』


 画面の向こうの雪姫は一瞬、その外にあるなにかを見て、首を振り、やっぱりカメラの方は見ないでこう言い放った。


 『つまらなかった。・・・それだけ、です』


 雪姫の一言を受けて不良たちは。


 「姐さんカッケー!!」


 「だから君らもうちょっと静かに!?」


 その後も雪姫は「なぜ旗を受け取った?」とか「今後についてどうしようと考えていますか?」とか、変なところとしては「その美白や可憐な容姿の秘訣は?普段は云々かんぬん・・・」とか、とりあえず散々に質問を浴びせられてイラついている様子だ。その度に雪姫は適当な答えを返していたのだが、最後はカメラマンとインタビュアーを睨み付けて足早にどこかへと行ってしまった。

 一瞬だけ全国配信された雪姫の刃物のような睨みがネットで一時期話題になるのはまた別の話。


 さすがに雪姫ばかり追い切れないので、取材陣は次の相手のところへ行く。


 『千尋選手、オラーニア学園の総合優勝について、主将としてなにか!』


 『ええ、今回はかなりの苦戦を強いられましたが、大勢集まってくださった観客のみなさん、そして全国のテレビの前で試合を見てくれていた方たちの応援のおかげで、なんとか4連覇に到達出来ました。そしてなにより、この勝利は個人とか団体とかは関係なく、チーム全員がひとつの目標に向けて全力を尽くしてくれたおかげです。だから、これは我々全員の誇りですね』


 達彦が言い、やいのやいのと後ろの連中も盛り上がる。4連覇ともなれば実に大会史上20年ぶり近い快挙であった。


 『ですが、優勝旗は自ら手放してしまわれましたよね?普通なら考えつかないような決断でしたが、あれには一体どんな意図が?』


 『そうですね、確かにありえないことをしたとは思っています。ですがやはり、明らかな不利の中で我々と同点にまで食らいついてきた彼らの闘志には心を打たれました。だから、当然の讃辞なのではないですかね?マンティオ学園は優勝ではないが、2位でもないですから、彼らにも示すものがあって然るべきです』

 

 マイクが拾った言葉はどれも美辞麗句だった。それは達彦の後にインタビューを受けたオラーニア学園の谷垣英宝やマンティオ学園の豊園萌生、清水蓮太朗らも同様である。


 その後も続いていたインタビューでテレビに明日葉が映った途端、今まで騒いでいた不良たちが意味もなく萎縮し始めたが、それもまた別の話。

 恐がる少年たちを横目で見ながら店長は小さく溜息を吐いて厨房に引っ込んだ。


 「まあなんにせよ、雪姫ちゃんには今度はお祝いでもしてあげないとだね。おーい、君たち。せっかくだからなにか食べていくかい?どうせ夕飯もまだでしょ?」


 閉店後の賑わいは、その後もしばらく続いていた。


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PROLOGUE 『あの日、あの時、あの場所で』

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