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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect57 ”Re:Innocence→Trial for Correctitude...”

なんか久々にやたらと中二くさいサブタイ。意味はまあ、気にしないで大丈夫です、なんとなく察してくださいw


 兼平の唐突な発言を受けてネビアは目を点にしていた。だって、なんだ、チャレンジって。


 「・・・・・・?意味不明なんですケド、カシラ」


 バカみたいな顔をしたネビアの目を見たまま、兼平は得意げに鼻を鳴らした。返ってくるのはジト目だったが、気にしない。そう、もう決めたのだから。

 その正体が人外の存在でも、性根の捻れた馬鹿でも、ネビアはとっくに自分の部下である。ペットでも猟犬でもなく、部下(人間)なのだ。彼は、そう定義したのだ。


 「俺はお前を人として扱うという大変に難しいチャレンジをしようと思う。だから、これからお前もこのチャレンジに付き合え」


 「・・・・・・・・・・・・」


 「周りが普通はどうしていようが、周りにどう見られようが、俺はお前をただの部下としてこき使ってやるし、お前は普段からお茶汲みなり書類の整理なり、俺の仕事を当たり前に手伝え」


 そうだ。こうなのだ。こうあるべきなのだ。兼平は、ネビアをもう一度話して、ようやくそれが分かった。

 正しいとは、こういうことなのだ。やり直すべきなのは兼平だけなんかじゃない。だから、兼平が一番初めにやり直す。かつて竜一が自分たちを引っ張ってくれたように、今度は兼平が尊敬されるべき道を歩む。道を示すのだ。


 ネビアはずっと押し黙ったまま兼平の表情を窺っていた。


 「・・・・・・・・・・・・なによ、それ、カシラ」

 

 「まだ信用してくれないか?まあそうだろうな、俺だってお前のことなんざ信じられないさ。でも、敢えてここは信じてやろうって言ってるんだぞ?」


 あくまで高圧的な態度を取り続けるうちに兼平の手はぎゅぅっと固く握り締められていて、かく汗もなかなかの量だった。

 きっと兼平はは本気で今の言葉を口にして、それがどれだけの意味を持つのかを思って緊張しているのだ。それは、ネビアにだって十分に伝わるほど露骨な表出だった。

 本当は心臓バクバクのくせにそんな風に意地を張り続ける兼平が、どうしてか不意に可愛げがあって、ネビアはついつい。


 「・・・・・・プッ、プハハハハハハハハッ!なによ、なぁによ、それぇ!!キャッハハハハハハ!バッカじゃないの!?カシラ!バッカじゃねぇぇの!?カシラ!!」


 「んなっ!?こ、この・・・!俺がせっか・・・じゃなくて、俺はお前の上司なんだぞ、態度に気を付けるんだな!」


 「いやぁ失礼失礼、カシラ・・・。でもま、そう・・・そうですかい、カシラ。いやぁ、笑った笑った、カシラ」


 手足があったら今頃抱腹絶倒を体現していた頃だ。ネビアにはひたすら、兼平の思いきってやったぞと言うような顔が可笑しくて仕方なかった。なるほど、これはなかなかに面白い転機かもしれない。


 羞恥なのか怒りなのか顔を真っ赤にしている兼平に、ネビアはニッと笑った。


 「いいわ、分かった、カシラ。見ての通り手も足も出せないからね、好きに連れ回してくれれば良いよ、カシラ。それに、IAMOにいた方が別れ損ねた人たちにもっかい会って挨拶出来る可能性も高そうだもんね、カシラ」


 「――――――っ!あ、ご、ごほん!!そ、そうか。それで良い」


 一瞬喜びそうにでもなったのだろう。兼平は慌ててガッツポーズを取りかけた両腕を無理矢理組み、取り繕っていた。ネビアはそれもこれも十分だった。だから、「にゃはは」と笑う。

 また不意に思い出してしまった少年が自分のことを見つめる目と、さっき部屋の中を見渡した後に兼平がした目。なんとなく、似ていた。もちろん優劣はつくけれど。


 ―――まぁ、だから。良いんじゃないかな、任せてみても、カシラ。



 「無理して威厳保とうとしなくて良いわよ?カシラ。あなた顔ばっかり美形してるけど、でもナイーブな方だからそーいう威厳みたいなのなんて元からないんだし、カシラ」


 「はぁ!?くそ、本当に失礼なヤツだな!!」


 「キャー、無抵抗な美少女を襲おうだなんてー、カシラ、ケダモノー、ヘンターイ!カシラ!」


 「やかましい」


 兼平はネビアにチョップをして黙らせる。手も足も出ないとか言って、既に再生は始まっているし、そもそも『脚』が出るのだから無抵抗なはずもない。

 それに、『高総戦』でのネビアの試合を見た限りでは、彼女は魔法の扱いにも驚くほど長けていることが分かる。例の「目からビーム」でも十分危なっかしい。

 そんなネビアはチョップに驚いて目を瞑っていた。だから、そういうことなのだろう。


 「分かってくれたんなら、さっそくだがもう出るぞ。せっかちなことにもう外に護送車が来てるんだ」


 「つーか、それは良いんだけど、でも私をどうやって運ぶの?カシラ」


 「あー・・・それはについてはその、悪いんだけどこれで我慢してくれ・・・」


 お前のことを人間扱いするなどと言っていたくせにそんなそばからこれを出すのは兼平も気が引けたのだが、そこは謝意で示した。

 それから、持ってこられたそれを見たネビアも明らかに屈辱的な顔をする。


 「ねぇ、これってよく清掃のおばちゃんがモップとかいろいろ突っ込んで押してるアレよね?カシラ・・・」


 「あぁ、アレだな」


 「・・・・・・」

 

 「じゃ、乗せるぞ―――」


 「ヤダヤダ!さすがになんかヤダ!カシラ!」


 「だから我慢してくれって言っただろ!さすがに四肢欠損者用の車椅子まではすぐには手配出来なかったんだよ!」


 「だからってコレは落差酷い!カシラ!」


 「うっさい、大体お前今さっき好きに連れ回せとか言ってたじゃんか!」


 幸い隔離された病室だから「病院内ではお静かに」などとは言われないので、2人はひとしきり怒鳴り合った。埒が明かないので兼平がムンズとネビアの手術衣の首根っこを掴むのだが。


 「あ、待って!今引っ張ったら脱げる!カシラ!」


 「ええっ!?」


 よく見ればネビアが着ている患者服は普通の人用と同じものなので、確かに袖に通す腕のない彼女の襟を引っ張れば、すぽんと脱げる。


 「まあいいだろ、別に俺はダルマ女の裸なんか見ても興奮しないからな」


 「良くねーよ!カシラ!主に私がね!カシラ!」


 さっそく女性としての人権が怪しくなってきたのでネビアが怒鳴ると、兼平はとにかく面倒臭そうな顔した。


 「もうお前いっそ自分で歩けよ・・・」


 「んなことしたら速攻でアラート鳴るけど?カシラ」


 「・・・それもそうだよなぁ」


 なにかないか、と思い、それから兼平は良いものがあったことを思い出した。

 異世界やダンジョンで行う活動において有事の際に使える便利グッズとして、確か兼平は常にロープを『召喚』出来るよう備えていたはずだ。

 これもまた竜一から受けたアドバイスだったので、やはり彼には感謝である。

 さて思い出したなら善は急げ、だ。


 「『召喚(サモン)』。あったあった、よし・・・」


 「え、なにそれ?ロープ?カシラ」

 

 どこからともなく丈夫そうなロープを引っ張りだしてきた兼平が不穏な空気を醸して迫ってくるので、ネビアは思わず後ずさ・・・ろうとして、手足がないから逃げられないことを思い出す。これはもしかしたら千影と戦ったとき以上にピンチかもしれない。主にネビアに残されたケシカス並の尊厳が。


 「ちょっと触るけど気にするなよ。大丈夫、俺は気にしてないだろうから」


 「あ、ちょ、このっ!や、やめろォ!カシラ!!」


 ネビアはギャーギャー文句を言うが、兼平は構わず彼女を縄で巻き上げてやった。


 ―――亀甲縛りに。


 「よし。これで服も崩れないだろう」


 「うん、『よし』じゃないでしょ、カシラ。素でこの縛り方するの?あなたは、カシラ」


 「素じゃない。わざとだ。気にするな」


 「タチが悪い!カシラ!」


 こうでもしないといつどこから本体が服からすっぽ抜けるか分からないから亀甲縛りにしたまでなのだが、どうやら兼平の慈悲深い考えは伝わらなかったらしい。きっとネビアの中では兼平はとんでもない自己中野郎でとんだサディストになっていることだろう。兼平自身それは否定しないが。

 まぁネビアにどう言われようと、今度こそこれで持ち運び可能になったので、兼平はネビアの首根っこを掴み直し、例のアレの中に放り込んでやった。


 「ちょ、待ッ!?カシラ!?うわ、クッサ!!めっさカビ臭いんですけどォ!?カシラァ!」


 「今更この程度のことにも耐えられないのか、お前は?今までもっと散々な目に遭ってきただろ」


 「それとこれとはなんか違うっての、カシラ」


 ぶー垂れてもネビアは自力で清掃用カートから這い出ることが出来ないので、兼平は構わずカートを押して歩き出した。


 そうしてしばらく。そろそろ一般患者もいる地上階に出るのでネビアには黙るよう言って、兼平は堂々と歩く。こうしていれば、多少不自然な様子でも意外に誰も彼を怪しまないし、カートの中身を覗き込んだりする人も現われない。


 最短ルートで病院の裏口へ回った兼平は、そのまますぐにドアを開けて外に出た。


 「あったあった。あれが護送車だな」


 「私じゃ見えないんですけど、カシラ」


 もう聞き飽きてきたネビアの文句は無視して兼平はやたら物々しい車のところまでカートを押していく。

 兼平が近付くと車の中から人が降りてきて、兼平に丁寧な挨拶をした。こういう裏方仕事はIAMO構成員の中でも兼平のような実動隊メンバーではなく、基本的に事務的な仕事を担当するオフィスワーカーが行っているのだが、IAMOという組織の性質上幹部職でもない限りは後者の方が身分というか立場が低い傾向がある。

 とはいえ兼平は別に彼らにえばるつもりはないので、会話はどちらも敬語になったりする。


 「ご苦労様です、それではネビア・アネガメントを車に積みますので・・・」


 「はい。一応丁重にやってやってください」


 「ええ、もちろん・・・」


 護送車の助手席から降りた男が兼平に歩み寄ってきて、やや耳障りな声でそう言った。

 積む、という表現にそれなりな難色を見せてやりつつ、兼平はカートの中にいるネビアを男に見せた。しっかりと回収対象を確認した男はニヤリ、と笑った。

 

 「どうかしました?」


 「あぁ、いいえ?」


 男になにか嫌なものを感じたが、兼平は男もこんな仕事ばかりで心が壊れかけているのだろうと解釈した。だから、男の顔を見たネビアが目を見開いたことに、気が付かなかった。

 まだまだ青いのは、兼平も同じだった。彼の心は普通過ぎて、あまりに性善的だった。もっと素直に男を疑っていれば、結末は幸福なものだったのに―――いや、それが出来るのならそんな結末は訪れなかったのだろうか―――川内兼平はここで失敗した。


 男は、笑う。あまりに上手く出来すぎていて恐いほどだった。


 「いや、本当にご苦労だったなぁ、君」


 「はぁ・・・?――――――アッ・・・?」


 刺された―――と、兼平はすぐに察した。腹の真ん中が、急に熱くなった。


 ―――だが、なぜだ?


 「な、にを・・・がぁぁッ!?」


 問う間もなく腹の内側でナイフが捻られ、今度こそ明らかに危ない激痛が走る。

 兼平の口から、腹から、信じられない量の血が溢れ出していた。 

 

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