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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect52 ”鎮魂歌”

 

 試合用大規模コートからだいぶ離れた観戦場でさえ、その大爆発の光は空を覆う雲に映って見えていた。カメラは赤光に焼かれて仕事を放り出してしまう。爆音は地を這い、光に遅れてなお人々の腹の底を震わせた。


          ●


 「・・・なん・・・だと!?」


 手すりを掴んだ瞬間、なにが起きたのか英宝は分からなかった。ただ、脊髄反射的に結界魔法で全身を覆ったような気がするくらいだ。


 あまりの衝撃で絶叫すら出ない。

 2階の壁も床も天井も壁も、全てが火の海であった。


 けれど、それは遠くに見えた光景だった。


 爆発が起きたのだと分かった。先ほどまで嫌と言うほど見て食らってきた風魔法による中途半端な空気爆弾ではなく、正真正銘の大爆発。英宝はその爆発でマンティオ学園の拠点の外に放り出されていた。


 目まぐるしく回転する世界。ぶつけられた殺傷力の塊を辛うじて凌いだ結界はパラパラと崩れ、オレンジ色の光を乱反射しながら舞い散る。未だ明滅する感覚。けれど英宝は地面に落ちる寸前で受け身を間に合わせる。


 「火炎、魔法・・・?バカな。野郎の魔力は―――!」


 「驚いてくれたようでなによりだ。石瀬先輩もさぞ喜ぶだろうな」


 「―――――――ッ!?」


 炎の次は水。水塊に撥ね飛ばされ、英宝は再びマンティオ学園の拠点の外壁にぶつかり、そして外壁に貼り付けられた風地雷が爆発し、英宝は今度こそ受け身も取れずに地面に叩きつけられた。

 強く打った鼻から血が滴り落ちるが、よくもあのトラップの巣窟を探検してその程度の傷で済んでいると言うべきだ。英宝は筋肉を不自然に震わせつつ、まだ起き上がる。そして、ダンプカーと間違うような轢殺攻撃を背後から撃ってきた敵を睨み付ける。


 確実に倒したはずのその男は、英宝の前に堂々と立ち塞がっていた。


 「ぐ、く・・・っそォ・・・!なんでお前がここにいる!!ぶっ倒れてたはずだろぉが!」


 「いや、こればかりは根性と気合いってヤツだな・・・」


 ペイント弾とはいえ至近距離から銃弾を撃ち込まれたのでこめかみは深く切れていて、血を流しながら蓮太朗はそう言った。

 しかし、それでも彼の足取りは覚束なく、気を抜けば今にも倒れそうに見える。

 血が目に入るが、蓮太朗はそれを水魔法で流し去った。それから、まだ勝てる表情で笑う。


 「それで、どうでしたかね、石瀬先輩の用意した史上最高のアトラクションとやらは?どうやら2階で強制排出されてしまったみたいだが」


 「・・・いろいろと手が込みすぎててドン引きだな。よく審査を通ったもんだ」


 「使った装置単体はむしろあなたの大好きな火器類なんかよりよほど安全だから、不思議なことじゃあない。・・・まぁ、多少コストを度外視していると思うところはあったと思うけどね」

 

 フッと気障ったらしく笑って髪を掻き上げ、蓮太朗は誘うように両腕を持ち上げた。再び敵を見据えた蓮太朗の目は穏やかかつ滾る光で満ちていた。剣呑とした空気がしっとりと彼の身を包み込む。

 

 「―――さぁ、第二劇といこうじゃないか」


 「清水蓮太朗―――お前がこんなにもしつこいヤツだったようには見えなかったんだがな?」


 「そうでしょうとも。ぼくはクールが売りなんだから。当然ですとも」


 「ならなんでそんな体で追いかけてきた?見ていて痛々しいんだがな」


 細い手指をすらりと胸に当ててどこまでもキザな態度を取り続ける蓮太朗に、英宝はいささかやりづらさを覚えていた。なぜなら、少なくとも今の蓮太朗の姿はデコピンひとつで気絶してしまいそうなほどに頼りなかったからだ。とてもではないが、英宝と改めて戦うには心許なさ過ぎる。

 それが分からない蓮太朗ではないはずなのに、彼は不敵な表情で闘気を漂わせ続ける。クールという意味からは最もかけ離れた姿と態度だ。


 「なぜ?決まっている。これは柊先輩と石瀬先輩の引退試合なんだ。なぜそれを分かっていながら目の前の敵をみすみす逃がさなければならない?」

 

 「驚いたな。まさかあの無礼者で有名なナルシスト副会長の口からそんな言葉が出るとは」


 「うん?あぁ―――そうだろうね。確かにぼくはとことん不敬な人間だ。なにせ魔法も勉強もスポーツもなんだって人一倍出来る。・・・・・・けどね、それはそれとして、ぼくは先輩方を人一倍尊敬している。だからあの人たちの勝利はぼくが約束する。それだけのことさ」

 

 「へぇ、そうかい」


 「―――無駄話の時間が惜しいという顔をしているな。同感だ。なら、かかってくると良い。谷垣英宝」


 そう、蓮太朗はこんなところでは決して倒れない。武仁と智継が必至に後軍を押さえてくれている。明日葉も今頃は敵の拠点に単身乗り込み、戦っているはずだ。

 なら蓮太朗はどうするか。彼はBチームのリーダー。だから、Bチームの勝利は蓮太朗が確約するのだ。


 それに、彼が血を流してでも立ち続ける理由はもうひとつある。

 ネビアが消えた。正確には入院している。でも結局彼女の失踪以来その顔を見ていないマンティオ学園の選手たちにとって、それは消えたこととなにも変わらない。それは蓮太朗とて同じことだ。

 そんな、心が疲れ切ってしまった自分たちが、それでもこうして懸命に戦っている。言い訳の幾何もなく、全霊を持って戦っている。


 ―――なら、勝つしかないじゃないか。1つでも多くの勝利を掲げねばならないじゃないか。


 「今日が敬愛する先輩方の最終楽章(フィナーレ)だ。空は曇りだが、決して悲しみと苦しみだけでは終わらせない。覚悟しておけ、―――この戦いはぼくらへの讃美歌(ヒム)であり、あなた方への鎮魂歌(レクイエム)だ」


 「抜かせ・・・半死人風情が!!」


 牙を露わにした英宝に銃口を向けられ、しかし蓮太朗は動かない。

 そして彼の口はひとつの始まりを告げる。


 「『イントロイトゥス』」


 蓮太朗の体を水のベールが包み込んだ。それは神々しくたゆたう水の羽衣。

 その圧倒的存在感に、きっと誰もが息を呑んだ。


 この魔法を披露するのは今回が初めてだ。

 なぜならこれから始まる『鎮魂歌(レクイエム)』は、ついぞ先日ようやく作曲(開発)し終えたばかりの長大な連続魔法なのだから。

 元々この『鎮魂歌』は蓮太朗が学内戦に間に合わせて煌熾を蹴落とし、明日葉を泣かせるためだけに考案した魔法だったのだが、細部にまで壮麗さをこだわった結果、その当時には未完成のままとなってしまっていた。


 でも、蓮太朗はそれで良かったとも感じていた。


 なぜなら今、まさにこの『歌』を捧げるべき『死者()』がいる。


 さあ、谷垣英宝の『死』の安息を以て、得るべき勝利を称讃しようではないか。


 「『キリエ』」


 天使の羽を想起させる、6枚の水翼。それらは蓮太朗が纏う水の羽衣から発していた。

 慈悲深き神は、翼を震い、英宝に『救済』を行うのだ。

 

 鉄刀より鋭利な左右三対の斬撃を英宝は身をよじって躱す。そして迷わず拳銃を発砲。

 しかし、蓮太朗を包む羽衣()はその敵意を悉く遮り、吹き散らした。その者の御前であらゆる抵抗は無意味であり、赦されざる大罪でさえある、とでも言うかのように。


 「なんなんだ、その魔法はァ!?」


 「死者が口を利くな。あなたはただ沈黙し、ぼくに悼まれていればそれで良い。きっといずれ弁明の機は訪れるのだから。―――さあ、次だ。『グラデュアレ』」


 儀式は進み、水が神々しく踊る。


 蓮太朗は音楽を愛し、けれども強欲だ。


 奏でることを許される歌はその全てを歌い遂げたい。


 昇階唱(グラデュアレ)を終え、詠唱(トラクトゥス)へ。唱えれば、次いで続唱(セクエンティア)を奏でる。


 世界が輝いて、清純な光に満たされ、心が洗われ、顕現する混沌の境地。求むる全てを現し、水が穢れ多きこの世を流し去る。


 「さあ、最後の審判だ。『ディエス・イラエ』、『トゥバ・ミルム』―――『レウス。トレメンダーエ』!!」


 怒りの水刃が裁きを下し、滝の轟音が秩序の終焉を告げ、そして蓮太朗は羽衣と共にこの世を裁く御稜威(みいつ)の王として君臨した。


 彼の者の下す裁き、其れ即ち無償の救済か。

 

 究極の神聖が水により余すところなく表現され、その限りなく済んだ破壊が全てを消し飛ばす。


 すべからく、終わりの計らいを―――。


 「『レコーダーレ』――――――なんだ、もう終わりか・・・・・・なんて、呆気ない。『鎮魂歌』はまだ半分も終えていないというのに、逝くな・・・」


 充実した瞬間を、歌うべき相手の喪失によって途絶えさせる。蓮太朗はまた、いつもの清水蓮太朗の表情で弱者を見下ろした。


 英宝が倒れ伏し、耳元には雑音。彼方には轟音。世界は無事、正しく終焉した。滅び行く者たちに楽園への道が開けることを。


 『やったぞ清水!』


 「―――はい」


 『清水先輩・・・!』


 「ああ」


 崩れゆく体の牙城。それを眺め、蓮太朗はフラリと地面に倒れた。

 気付けば完全に力を使い果たしていたが、それはとても爽快だった。まさに、今彼は至福に在る。


 『よォ蓮太朗。見えてるか!』


 「ええ、見えてます。・・・見えてますとも、柊先輩」


 『へっへへ』


 明日葉の相変わらず女性らしからぬはしたない笑い声、立ち上る汚い土煙。歓喜が湧き起こるには、それだけで十二分だった。


 『アタシらの勝ちだァ!!』


 「はい。はい―――!」



          ●



 「――――――あたしの勝ち、みたいですね」


 

 崩壊して廃墟然とした敵陣の中心で、雪姫は心底くだらなそうに吐き捨てた。


 なんと、つまらないことだろう。


 「が、あ・・・」


 「させ・・・るか・・・」


 旗は目の前。敵は2人。片方はオラーニア学園の2年生の斉藤・・・だか、なんだったか。端的に言えばザルキーパーの女子だ。イタチの最後っ屁のつもりかなんなのかは知らないが、彼女は魔法を放ってきた。


 あまりにも弱々しいので、雪姫はそれを少量の『スノウ』で包んだ手で払い落としてやった。


 雪姫はもう1人、床に寝転んでいる敵を見下ろした。千尋達彦、オラーニ学園の主将を務める3年生だった。もはや笑えない冗談に溜息を吐く。


 「ったく、なにが決勝だか。ちょっとその気になったらこれなんだもんね」

 


 

ホントはもう少しトラップのネタ考えてあったんですが、長ったるくなるのでオミット。

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