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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect41 ”止まらない運命、辿り着く未来”

本日の一本目、遂にepisode3,4のストーリーも佳境を迎えます。


 『守っ』て、と言われた。迅雷はきっとその一言を待っていたのだ。ずっと前から。歓喜と悲哀が胸中を埋め尽くし、心打ち震え、感情が熱を再び灯す。


 「―――分かった。きっと、やってみせるよ」


 力を取り戻した迅雷の顔に千影は申し訳なさそうに微笑む。その理由を迅雷が知る由もないけれど。

 

 「それと、とっしー。ちょっと左手を」

 

 千影は迅雷の左手を取り上げ、手首に巻いた腕時計を外し、露わになった刺青模様に口付けを施した。

 その柔らかい唇が肌に触れた瞬間、少年の真の力を解放する。

 

 「ん・・・・・・さ、行って」


 「・・・行ってくる」


 それっきり、迅雷は走り出して入り組んだビルの迷路へと消えてしまった。

 最後まで背中を見送り、千影は今なお轟々と盛り続ける爆炎に向き直った。


 「指ごと持ってくなんて酷いことするわね、カシラ」


 爆炎の中から、怪物となった少女が姿を現した。メモリを握り締めていたはずの右手には、人差し指と中指がどこにもなく、代わりに赤い液体が流れ出ていた。


 千影は迅雷には見せずに手の中にしまっておいたその2本を地面に放り捨てた。ネビアが笑いながら顔をしかめる。それは動揺と怒りだ。


 「どういう風邪の吹き回しなの?カシラ」


 「分からないってこともないんじゃないの?」


 こめかみをひくつかせるネビアを挑発するように千影は鼻で笑い、肩をすくめた。

 ともあれここからは千影の我儘も混じってくるが、理解を得られなくても始めたものはやり切らねばなるまい。最後は必ず、笑えるように。


 「全部君のことを思ってやってあげるのに」


 千影はそう言って虚空に穴を空け、その中に手を伸ばして一着のコートを取り出した。

 

 それは、IAMO正規所属を示す『軍服』の上着だ。


 千影はそれを羽織る。深緑の布地の上で光を受け、煌めくのは、いくつもの勲章。


 「そう・・・そうですか、カシラ。あっはは・・・はは、はははははは!!」


 狂笑するネビアを千影は初めから変わらず冷たい目で見つめていた。

 だがネビアはそれでも良いと思った。そうだ、最初からそうだっただろうに。


 「前々からあなたのことが気に入らなかったのよ、カシラ。ちょうどいいわね、カシラ」


 10本の『脚』を不規則にうねらせ、ネビアの黄色く変色した瞳がギラギラと輝いた。


 「やり合う気ならボクも容赦はしないよ。一応、降伏をオススメするけど」


 千影は勝手にその気になっているネビアに最後の猶予を与えた。千影はあくまでネビアの味方だ。けれど、今の彼女にそれが分かるのか。彼女は自分の内面が分かるのか。そこに残る全てを委ねる。


 やはり、ネビアは敵意を収めなかった。


 「そっか。残念だよネビア。やっぱり君はただの可哀想な嘘吐きだったんだね」


 「それは千影だってそうでしょう?カシラ」


 「ネビアほどじゃないよ。現に―――分かるでしょ。じゃ始めよっか。・・・君程度、4割で十分だよ」


          ●


 ネビアを探しに行った迅雷まで戻ってくる気配がない。かれこれ3時間が経過して音沙汰なし。

 マンティオ学園陣営はこの状況には非常に苦しい空気を醸していた。試合に参加するとかしないとか、そんなつまらない事件ではなくなってしまっていた。

 生徒が2人も行方をくらませ、連絡すら取れず、遂に5時半を回って太陽が頂点を降りた空は徐々に明るさを失い始めていた。


 仲間の失踪に選手である生徒たちの間では不穏な空気が流れ、教師たちの間でもまた同様だった。


 彼らも初めのネビアの捜索に加えて続く迅雷の捜索にも出ていたのだが、2人とも一向に見つからない。

 まだ警察には要請を出していないが、場合によってはその手段も現実になるだろう。

 竜一たちサポーターの3人も捜索に協力してくれているが、結果は芳しくないとの報告である。人手も時間も足りていない中で焦りが募るのは至極当然のことだった。

 

 ただでさえ『通り魔』と仮称されるなんらかの計画犯罪が起こっているこの街でまさかの行方不明である。どう安心しようにも憶測は暗い谷底を目指すだけだった。「もしものこと」がここまで現実味を帯びてしまった。


 「おや、どこぞのサルかと思えばマンティオ学園のイモ教師じゃないか。いや、近くで見るまで人だとわからなかったな」


 街を歩いているときに不意に嫌味な声をかけられ、真波は立ち止まった。その程度の挑発なんて、今となっては頭にも来ない。

 いやむしろ、良いところに来てくれた、とばかりに真波は絡んできたオラーニア学園の教師に歩み寄り、睨み付けるように顔を見上げた。


 「な、なんだ?やるのか?」


 「いいえ、サルで結構です!それよりウチの生徒を見かけませんでしたか?神代迅雷とネビア・アネガメントです。見かけませんでしたか!?」


 「遂に認めちゃったのかい、サルが。そっちの生徒は敵前逃亡したんだったなぁ?うん?」


 「言うだけ言っていれば良いです!見てないんですか?見たんですか?教えてください、それだけですから!!」


 この光景はともすれば異様だったかもしれない。

 真波の剣幕に押され、オラーニア学園の男性教師はたじろいだ。今の真波はとても強い。なにかが起きていることが伝わってきた。


 「み、見てない!それがどうしたんだ!?」


 「そうですか・・・。ネビアさんは逃げたのではなく行方不明、それを探しにいった神代君も連絡がつかないんです―――。だから、だから、その・・・・・・」


 「・・・・・・」


 真波が「だから」に続けてなにを言おうとしたのか、察しがつかないほどこの男性教師も愚かではない。彼は目の前で取り乱してしがみつきたい衝動を必死に抑えている敵校の教師を見て羞恥した。

 くだらない意地も戦いの行く末さえも関係なく生徒を心配し、焦心する彼女をなにも知らずに嘲ってしまった。


 本当は喚いてでも他の全ての人間に縋り、協力を仰ぎたいはずなのに、真波はそれをしない。

 プライドではなく模範として、それをしない。それがあまりにも健気で、見ているだけでその不安が伝わってくる。

 だから、男性教師にも抵抗はもうない。


 「―――我々も」


 「え・・・?」


 「我々もその2人の捜索に手を貸します。2人の顔は分かっていますからね、たった数人加勢するだけですが、子供たちが心配なのは教師として当然です。微力ながら協力させてください」


 言葉遣いすら直した男性教師の言葉に、真波は涙を滲ませそうになった。

 けれど、それにはまだ早い。お礼は一度だけ。今までのいがみ合いは別の話として、今は誠心誠意の感謝を伝え、今からすぐに捜索を再開する。


 しかしながら、例え何人になろうと、いつだって日の当たる場所に生きる彼女らがその闇を覗くことは能わない。


          ●


 そして、そのときは来た。


 来たるべき不可避の結末はこうして迎えられた。


 血湧き肉躍る暴力の饗宴を生き残るのはいつだって力のある者だ。


 どちらも正しくなんてない。

  

 正しいのは全てだ。正義は悪で、悪は正義。それは見ている世界が違うだけ。


 誰もが今の世界を愛し守る従順な民であり、誰もが世界への叛逆者なのだ。

誤字の訂正ついでに追記です。次話『episode4 sect42』は『episode3 sect1 “叛逆者たちのシンポジア“』の既読を前提としています。ここまで読んでくださった方なら恐らく大丈夫かとは思いますが、念のためにお知らせしておきました。

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