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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect32 ”追加のご注文は落下系ヒロイン属性ですか?”


 環状の廊下に漂うハミング。


 耳を澄ませば聞こえる程度の、少女の軽やかな声だ。


 「おい君、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ?どうしてまたこんなところにいるのかな?」


 「あ、もしかして誰か探してたんですか?それとも大会本部の部屋とかですかね?」


 リングアリーナ『希』の地下3階環状通路にて、警備で巡回していた2人の男はなぜか立ち入り禁止と明示されていたはずの区画に入り込んできてしまった髪の青い少女を見つけ、肩を掴んで立ち止まらせた。

 着ている服は―――どうやらマンティオ学園のユニフォームのようだ。学生がなにか間違って道に迷ってしまったのだろうと適当に当たりを付ける。確かに、ごくたまにではあるが学生が迷い込んでくることもないではないものだ。


 警備員が尋ねると案の定、少女は恥ずかしそうに、にへらと笑った。これと言って邪気のない照れ笑いに警備員の2人も気を許すことにした。そうと分かれば上の階に返してやりつつ、目的地の位置を教えてあげれば良いだけのことである。


 「やっぱりね。それで、君はどこに行きたかったのかな?良ければ案内しますけど」


 「ホントですか!?カシラ」


 顔の前で手を組み合わせて青髪の少女は鈍色の瞳を輝かせた。


 そして少女は可愛げのある笑顔のまま警備員にこう言った。


 

 「それじゃあ、『モニタリングルーム』にお願いします、カシラ」



 「はいはい『モニタ・・・・・・は!?まさかお前ッ!」


 警備員2人の態度が豹変し、そんな彼らの反応を楽しむかのように少女は薄く笑う。

 けれど、もう手遅れだ。彼らがどんなに素早く身構えようと、仕事中の少女に話しかけたその瞬間から終わりは見えていた。


 『モニタリングルーム』。わざわざ鉤括弧で括ったのには理由がある。それは、ごく限られた人物しかその情報を共有していない、この施設の最重要機密の部屋だ。断じていち学生が知り得るセキュリティレベルではない。


 「でも大丈夫。案内なら必要ないわ、カシラ。だから、サヨナラ、カシラ」


 おびただしい量の霧が立ち込める。


 狭くも広くもない通路を重たい白が支配した。

 

 淀む発砲音と引きつる絶望と恐怖の声。


 「バカな!なぜここでこれだけの魔法が使えるんだ!?や、やめげがぼぼっぼッ、殺さばばば・・・」


 「え?あぁ、確か・・・『ポドストルフスキー効果』だっけ?カシラ。確かに有効よね、カシラ。人間には、だけど、カシラ。キャハハハハハハ!!」



          ●



 B地区の大演習場では『団体戦』の3回戦が行われている。3回戦からは遂に試合が1対1で行われるようになり、戦いの苛烈さは2回戦までの乱戦とは趣を異にした、より鋭く洗練されたものへと置き換わっていた。

 

 敵の総数は減り、全ての戦力はたった1つの目標のみを狙って、あるときは電光石火で、またあるときは虎視眈々と集中される。

 攻略の手段は反比例したように複雑さを増し、戦力差を覆すために奇策を弄することが要求される学校もあった。


 だが、そんな中にあってなお圧倒的な戦力を以て正面から敵を叩き潰す学校も同時に、いくつかではあるが存在した。当然、マンティオ学園やオラーニア学園のチームもその内に含まれている。彼らをして勝利を確約しかねる敵があるとすれば、それはまた彼ら自身をおいて他にないのだから。


 オラーニア学園のAチームではリーダーの千尋達彦が柊明日葉との試合で受けた負傷の手当てが未完了だったために大事を取って欠場しつつも容易く勝利を収めていたし、マンティオ学園のAチームに関しては相変わらずの過剰火力による制圧が行われていた。

 そして同校Bチームにおいては個人戦で負けてしまった明日葉が脅威の復活速度で参戦、腹いせに拳ひとつで敵を蹂躙し阿鼻叫喚、応援に集まっていたはずの仲間たちですら震え上がる始末。


 さて、試合はまだまだ続くが、ひとまずは正午にもなったので昼食をコンビニにでも買いに行こうという話になる。

 小腹の空いてきた迅雷は数人の友人と連れ立って観戦場を出た。


 「そういや真牙、ネビア見てないか?やけに戻ってこないなって思うんだけど」


 「ネビアちゃん?いやぁ、試合終わってから見てないな。そういや、マジで瞬殺だったんだろ?すげーよな、ネビアちゃん」


 「そっか、お前試合時間一緒だもんな、見れなかったのは惜しいよ。なんか凄かったぜ?『目からビーム』がとりあえずパワーアップしまくって相手も躱せずにワンパン。アレは俺も躱せないな」


 「なんかとんでもない想像したけど、多分合ってるんだよな、あの子の場合」


 「多分ね。―――底知れないよな、ネビアって。実は雪姫ちゃん以上だったり・・・なんつってな」


 迅雷の思ったことはあながち冗談では留まらないかも、というのが周囲の共通認識だ。転校してきた日に一応2人は勝負して雪姫が勝っていたが、ここ最近のネビアの活躍はその結果を今一度考え直させるものがあった。


 「私も見てましたけど、本当にすごかったですよ。どばーぶわーって感じで、あっという間に勝っちゃいましたもん。・・・あ、でも師匠だってすごさなら負けてないはずですよ!少なくとも胸の大きさとかは!」


 この場にいない人物のフォロー(?)もしっかりする健気な弟子・愛貴を真牙が微笑ましそうに見た。確かに愛貴の言う通りだ。プロポーションの話をするならもはや矢生は校内で見ても圧倒的な凄さを誇っているはずである。


 「いいなぁ、オレもネビアちゃんの活躍見たかったわ。誰か録画してるかな?」


 「それなら多分志田先生が撮ってたと思いますよ。試合の度に志田先生、張り切っちゃってるし。後で頼んでみるのもアリかもです」


 「お、マジで?ラッキー。ありがとね愛貴ちゃん」

 

 真牙がガッツポーズをした。

 ネビアに限らず自校の選手が出た試合は全て先生のうちの誰かが映像に修めているはずだ。以降の試合で改善すべきポイントを見直したり、人の良いところを勉強したり、いろいろと役に立つ。


 そんな真牙と愛貴のやりとりを見ながら、ふとネビアはネビアに出会った日のことを思い出していた。そうすると少し面白く感じて笑ってしまった。


 「どうしたんだよ迅雷。急にキモいぞ?」


 「っせえよ。いやさ、ネビアも随分馴染んだなーって思ってさ。覚えてるか、真牙?初めてアイツに会った日のこと」


 「正確にはオレは陰からジトーっと見てただけだけど、ちゃんと覚えてるよ、1ヶ月前だし」


 真牙は「1ヶ月前だし」などと言うが、きっと迅雷は1年経とうが10年経とうがあのときのことを覚えているだろうな、と思った。


 あれは千影と同じくらい鮮烈な出会いだったろう。

 急に声をかけられたかと思えば卓球勝負を挑まれて、全く敵わずに息も切れ切れ。そこに千影が現れて大わらわになったか。

 

 愛貴が話についてこられずに首を傾げたので、迅雷は合宿の後日に、転校してくる前のネビアと出会った話を噛み砕いて教えてやった。


 「へぇ・・・それで今はこんなに仲良し。運命感じますね!」


 「え、いや勝手に感じられても困るんだけど・・・。まあそれでさ、千影が言ってたじゃんか。ネビアには気を付けろー、みたいなことを」


 「ああ、言ってたね。結構マジな顔で」

 

 「でもさ、それなのに今はこうじゃんか。それがなんか安心するっていうかさ」


 言葉にしていて自分の感情が少し見えた気がした。そう、面白いというよりも安心の方がしっくりくる表現だ。あれだけ異質なオーラを出していたネビアは、今や迅雷や真牙、慈音や友香、向日葵・・・。たくさんの友人の輪の中に入り、こうして活躍する度に多くの人から心からの賞讃を受けている。あんなに素直に笑うようになった。

 それがどうして、嬉しくないなんてことがあろうか。


 と、そんなとき、迅雷の頭上から人が降ってきた。


 「やっと見つけた!危ないよとっしー!」


 「アバラッ!?」


 突然降ってきた女の子を肩車出来るほど迅雷の肉体は屈強ではない。というか今、千影はどこから降ってきたのだろうか。スピード的にビルの3階とか4階くらいの高さから落ちてきたのではないかと思うほどだった。


 当然ながら衝撃に耐えきれずに顔面からコンクリートの地面にめり込んだ迅雷はピクピクと震えたまま起き上がれない。


 「ふぇああっ!?な、なんですか投身自殺に巻き込まれちゃった的なハプニングですか!?」


 愛貴が慌てふためくが、当の投身自殺未遂者はなんということもなさげに迅雷の頭の上からのいて服についた砂を払った。


 「いやぁ、間に合って良かったよとっしー」


 「・・・・・・・・・・・・千影さんや」


 「ん?なんだい、とっしーさん?」


 「俺今ワンチャン死んでたからね」


 「ボクの手にかかればワンチャンなんて起こさないから安心していいんだよ?」


 「安心出来るかァ!!見ろこの血まみれフェイス!痛い!超痛いんですけど!?なんにも間に合ってないよ!」


 ガバッと跳ね起きた迅雷の顔は確かに擦り傷だらけで鼻血も少々。なにやらネビアについて気の緩んだ顔をしていたからオシオキのつもりで派手に登場してみたのだが、少々やりすぎだったらしい。

 千影泣きそうになっている迅雷を慌てて慰める。


 「あぁっ!ごめんねごめんなさいだね!これは痛いよね、うん。ちょっと待ってて、これくらいならボクでも治せるから」


 そう言って千影はなにやら小難しそうな魔法を唱えて、手を迅雷の顔にかざした。するとボンヤリと魔力の光が仄めいて、少しずつ迅雷の顔の擦過傷が消えて、なくなった。


 「これでよし!」


 「よくはねーよ。ったく・・・。ていうかそういや千影って治癒魔法まで使えたんだっけな、助かったよ」


 以前そんなことも言っていたっけな、と迅雷は思い出した。この手の魔法は専門的に勉強していないと初歩の簡単なものすら難しすぎて習得出来ないと聞くが、いかがなものか。

 

 「それで、どうしたんだよ、千影。一応警備の強化のために『のぞみ』に残るって話は聞いてたけど、なにが間に合ったんだ?」


 「あー、えっと・・・まあいいや、会いたかったよとっしー。スリスリ・・・」


 「ええい、腕に抱きつくなロリビッチ!」


 千影ごと腕を振り回すので通りすがる人々はギョッとした顔をして迅雷を避けていく。というか、千影も往来で騒ぎすぎである。

 嵐のように過ぎ去った一連の騒動を呆気にとられて眺めていた愛貴が我に返り、迅雷とその腕に抱きついた女の子を見て思わず苦笑い。


 「ず、ずいぶんとバイオレンスでちっちゃい彼女さんですね、あははは・・・」


 「俺とコイツがそんな関係に見えたのか?もしそうなら記者会見開いてみなさんお騒がせしてすみません、でも違うんです、だ!」


 「うぇぇ・・・そんな全力で否定されてもですし、お騒がせならもうしましたよね・・・?」


 結局最後は手をパンパンと叩いた真牙が場を収め、事なき(?)を得た。


 

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