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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect31 ”Ingen Oppfyller Mitt Ønske”


 「よっす、ネビア。今から召集か?いつものことながら遅かったな・・・」


 「あら迅雷、どうしたの?カシラ。まぁ召集だけど―――あ、もしかしてわざわざ応援しに来てくれたの?カシラ」


 試合の召集時間になるので会場まで戻ってきたネビアをそわそわしながら出迎えたのは、この時間はこの場所にいるはずのない迅雷だった。意外な展開だったのでネビアは少しだけ驚いてしまった。

 目を丸くしたネビアがその後に照れ臭そうに頬を指で掻くと、迅雷も今更ながら少しだけ恥ずかしい気分になってしまう。迅雷はひょっとしたら大袈裟だったかもしれない。


 「ま、まぁな。応援っていうか気合い入れに来たっていうかさ。・・・ほら、柊先輩が負けちゃったからマンティオ学園(ウチ)もこれ以上負けられないし」


 「そっかそっか、カシラ。とりあえずありがとうね、カシラ。いやー、これは昨日はぎゅーっとしてあげた甲斐があったわね、カシラ。にゃはは」


 「んあっ!?それお前が勝手に・・・いや、っていうかアレはマジでなんだったんだよ!意味分かんなかったわ!」


 昨日の団体戦の観戦中、急にネビアに観戦場から連れ出された迅雷は、後ろを向くよう言われて素直に従ったところ、妙な間があって気になり始めた瞬間になぜかそのままネビアに抱きつかれたのだ。全くもって身に覚えのないサプライズには迅雷の心臓も一度破裂したかもしれない。

 ともかく、未だにその意図は分からないが、その出来事以降ネビアと2人でいる間はふとした瞬間に彼女の様子が目につくようになっていて、迅雷もいろいろと気が休まらないでいた。


 それは実はネビアも同じなのだが、いかんせんネビアは嘘吐きだ。表に出し過ぎるともう踏ん切りがつかなくなるだろう。だから彼女はこんな場面でも飄々と笑っているだけだ。


 「意味なんて求めちゃダメよ、カシラ」


 慌ててベラベラと喚きだした迅雷の唇に人差し指を当てて黙らせ、わざとらしくフフンと小さく笑った。そうして、ネビアは迅雷から離れていく。今はこれくらいのやり取りで十分だ。

 ただ、召集所に入る前にもう一度だけ、ネビアは迅雷を振り返った。考えていることと矛盾していることは分かっていたけれど、もう一度だけ迅雷を、それから学校では仲良くしてくれた友人たちの喜ぶ顔を思い浮かべる。視線の合った迅雷はまだ照れ臭そうにしながらも軽く手を振ってくれた。


 「まぁ任せといてよ、カシラ。ちゃちゃっと片付けてくるからさ、カシラ」


 召集所に着けば、この時間に試合のある選手たちがもう揃っていた。というよりも、ネビアが遅れてきた、と言う方が正しいのだが。迅雷がそわそわしていたのも多分これが半分だったのだろうな、とネビアは適当に想像した。

 ようやく来たかとでも言う風にホッとした顔をする係員にニパっと笑って気軽に手を振り、ネビアはチェックを受けてから、どこかにいるであろう真牙を探して隣に座った。彼もこの時間に試合があるのだ。


 「・・・あ、やっと来たんだ。オレ、ネビアちゃんが来ないんじゃないかと心配したんだよ?」

  

 「なによ、カシラ。ギリギリセーフは私のお家芸なのよ?カシラ。焦らしは大事、カシラ」


 「えぇ・・・」


 こんなところで焦らされたって心臓に悪い。


 「まぁ安心してよ、カシラ。次はちゃんと早めに来るようにするからさ、カシラ」

 

 いつも通り爪を噛みながらネビアはウインクをした。こういうあざとい仕草をしてやると真牙の場合は大抵オーバーなくらい喜ぶ。あんまり大きな声で「わーい」とか言うので周りから白い目で見られるが、ネビアも真牙も対して気にはしない人なのであった。


 「にしてもネビアちゃんの相手ってオラーニア学園でしょ?いっちょ頼むぜ!」


 「さっき迅雷にも頼まれたわよ、カシラ。まぁ任せといてよ、カシラ。瞬殺秒殺滅殺じゃい、カシラ。にゃっはははは!」


 ネビアがはしたなく大声で笑うが、肝心のオラーニア学園の選手はまた別の召集場に集められているので彼女の勝利宣言には気付かない。

 端的に言ってネビアが今回の試合の相手に後れを取る理由などなにひとつなかった。それを言うのならネビアの高校生活において今までそうでなかった試合の方が圧倒的に少ないのだが、今回も例に漏れない。手を抜いても負けられる自信すらない。ちゃんと試合をするつもりでやれば、気が付けば勝利だろう。

 

 元々時間ギリギリでやって来たネビアには召集所でゆっくりする時間なんてないので、さっそくというほど早くにそれぞれの試合会場への移動が開始された。

 惜しげに手を振って真牙とも別れ、ここからはネビア1人だ。


 入場ゲートの前に立つと不意に思い出すのは、学内戦でこの短い時間にいろんな話をした係の少女だった。

 ネビアもまた、あの少女との会話は楽しんでいる節があったし、自分に対して素直に好意的でいてくれる人間の存在を感じられるあの時間は実はくすぐったくもあった。

 

 「そういえばあの子の名前、聞きそびれたなぁ、カシラ。・・・ま、いっか、カシラ」


 変な独り言を漏らした選手の様子を気にしてゲートの操作盤の前に立っていた係の男性がネビアに声をかけたが、彼女はそれを小さく笑ってなんでもないのだと返した。思えば意外に、あの係の少女も迅雷と同じで馬鹿で鈍感な子だったのかもしれない。


 いよいよ試合開始時刻になって、フィールドに立ち入る。


 相手はオラーニア学園の1年生。そこそこのやり手には違いない。顔を見ればその自信のほどは窺い知れる。


 「遂に1年生の部でもマンティオ学園との対決だけど、先に言わせてもらうぜ。俺の勝ちだ!」


 「おやまぁ、そりゃ恐いなぁ、カシラ」


 訂正。窺わなくても知れた。恐らくここまでのネビアの戦闘スタイルからいろいろと攻略方法を考えてきたのだろう。既に初撃の「目からビーム」を回避できるように若干腰を落としているのが分かった。

 当人はリラックスしているように見せようとしているし、事実かなりうっすらとしかその雰囲気は見えないが、まぁネビアならぱっと見で分かる。


 だが残念なのはその前振りとしか思えないような台詞。きっと地元に帰れば友達家族に散々イジられるのだろう。可哀想に。

 それを想像したネビアがツヤツヤと美味しそうな笑顔をしていると、試合開始の合図。


 「目からビーム―――」


 ・・・いや、躱そうとしているからといって、だからやらないなどとは誰も言っていないじゃないか。


 ただし、ネビアは真牙との会話でこう言っていたはずだ。「瞬殺秒殺滅殺」だと。あればかりは嘘ではない。


 「―――の、フルバーストバージョン!!カシラ!!」


 「よしきた・・・って、はぁ!?」


 オラーニア学園の選手は予定通りの攻撃に対して予定通りの回避運動に入ったが、その瞬間に「目からビーム」の火線の太さが10倍ほどに広がった。もちろん、そんなの避けられるはずがない。人の最大の弱点は進化しすぎた予測能力による先入観だ。


 試合時間は、一方が気絶するまでのおよそ6秒間だった。


          ●

 

 なにということもなく試合が終わってしまったネビアがさっさと外に出ると、ちょうど雪姫が召集所に来たところだった。


 「おや、雪姫ちゃん。早いのね、カシラ」


 ネビアの顔を見た瞬間に雪姫は舌打ちをした。奇しくもネビアと同じでウォーミングアップやそこらの準備事の一切なんかは雪姫にとって不要極まりないので、特にやることもなく、こうして早めに来たのだが。


 それよりも雪姫が少し気になっているのはネビアの様子だった。あくまで雪姫の目に映る範囲内での話だが、近頃はネビアが転校してきて間もないときとはまた違った意味で不自然なのだ。

 いや、ネビアの迅雷に対しての態度が他に対してのそれとどこか変だとか、その辺りについては気にするまでもなくなにを考えているのか分かるのだが、そこではない。

 雪姫が不自然と思っていたそれは、特に全国大会で『のぞみ』に来た3日前の時点から顕著になっていた。


 「ずいぶんと浮かない顔してんのね」


 ネビアが勝ったという放送は嫌でも聞こえるほど大々的だったので、その瞬殺大勝利には今頃学校の連中は揃って万歳でもしているだろう。それなのに当の本人は「あーあ」とでも言いたげに見える。普段はちゃんと喜んで誰かとハイタッチでもしたがっているだろうに、やはり不自然だ。


 「あれ、そんな風に見えちゃったのか、カシラ・・・。私もまだまだ修行が足りないなぁ、カシラ。うーん、まあそうだね、カシラ。ちょっとここから忙しくなるから憂鬱でね、カシラ」


 ネビアは苦笑したが、雪姫は意味がよく分からなかった。

 雪姫の試合、つまり次の試合の後は団体戦になるので、次にネビアの試合があるのはおよそ5時間後である。そしてその後もまた団体戦で3日目の日程は終了であることを考えると、このスケジュールでネビアはどう忙しくなるのだろうか。


 なにか求められているようにだけは感じてピクリをこめかみを動かすが、これは別に雪姫が知る必要もないことだと思って目を閉じ、雪姫は返事の代わりに召集所のベンチに腰掛けた。結局のところ、知らぬ存ぜぬが最善だ。


 「まあ雪姫ちゃんが気にすることでもないよね、カシラ。それじゃあ、余計なお世話かもしれないけど、頑張ってねー、カシラ」


 これ以上話しかけるなとでも訴える風にそっぽを向いた雪姫を見ながらネビアは目を細めた。とんでもない人嫌いさんである。



 「それじゃあね、カシラ。いろいろ迷惑かけたことは心から謝るよ、カシラ。ごめんなさい、カシラ」



 けれど、そんな自身の態度とは噛み合わず、漫然とした足取りでどこかへと歩み去るネビアの背中になにか言い知れぬ不安を感じた雪姫は無意識に手を伸ばしてしまっていた。 


 でも座ったまま不貞腐れる彼女の手は、指先すら見えるものにも届かせられない。届かせてはいけないのかもしれない。そして、いつも自分がそうするように、伸ばした手は見向きもされない。


 これが、今感じたこの焦燥が、もしも後悔だったのだとしたら―――。


 なぜだろうか。もう戻っては来ないのか。


 「なんなの、これ。じゃあどうしろって言うの?なにを・・・どうしろって言うの?」


 知らないうちに動いていた右手を引き戻してその掌を眺め、ジレンマしかないこの世の中を憎悪する。


 きっと最後の時までなにが正しかったのかも間違っていたのかも分からないままだ。

 なにもかもが手遅れのところから始まる。間に合うものはそこには無くて、ただひたすらに叶わない。無も有も同じだとしたら、否も肯も同じだったとするなら、人はどのようにして生きていけば良かったのだろうか。

 そんなことだから―――。


 果てしなく無意味で無価値な思考を、雪姫は打ち捨てることにした。

 とうの昔に出した答えは、今更変えられないのだから。

 

 ただ、ネビアはとっくにどこかへ消えてしまった。


ちなみにタイトルはノルウェー語です。グーグル

センセーに英語から変換して頂きました(笑)。

 ノルウェー語、なんか格好いいですよね、全然勉強とかしたことないので分かんないけど。

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