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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect25 ”大人なんてそんなものだ”


 「あ、あの、俺!・・・俺、頑張りますから・・・。先輩方の足は絶対引っ張らないように頑張ります。俺だってちゃんと勝利に貢献出来るように戦えます・・・!」


 言われるがままだけは悔しかった。今までは自分の力に自信があった、その名残だ。

 

 唐突ではあるが、熱意のある言葉を受け、武仁の参加には反対しなかった智継はもちろん、反対していた蓮太朗もハッとして顔を上げた。

 本人がそう言い出してしまったら、もはや彼らにはどうこう言う権利はないのだ。


 だが。


 「いーや、ダメだね」


 「んな!?ちょっと柊先輩、さすがに四川がああ言うならぼくらも認めてやらないとでしょう!これくらいは空気読んでくださいよ!」


 「はぁ?アタシは蓮太朗が言ってたとおり正直に言ってるだけだぞ」


 「あのですね、それだって時と場合がありますから。彼は出来ると言っているんですよ?」


 「言ってるだけだろ。目ぇ見てみろ、すっからかんだ。口ばっかりなんだよ、コイツはさ」

 

 見透かしたようなことを言われ、武仁の顔が強張った。鼻が利くのか、目が利くのか―――実際、なにもかも明日葉が言った通りである。

 悲しいが、四川武仁は所詮凡人の枠から出られない内面の持ち主だ。非凡な才能は持って生まれたらしいし、それに一定の価値を自負していても、メンタルが彼自身を非凡な存在にはしなかった。

 学内戦で雪姫に挑んだときだってそうだ。明らかに常軌を逸した力の前にどうして一般人が勝ちの目を見る?だから武仁は端から負けるつもりだったようなものだ。

 今だって同じで、話の展開を見て所謂「当然あるべき流れ」を考えてこんな発言をしていたに過ぎない。


 「とにかくアタシは反対ッスからね!」


 教師にも物怖じせず抗議する明日葉には、もはや蓮太朗も止めに入れなくなっていた。

 とはいえ、やはり最後に強いのは教師であることも違いない。いくら明日葉が反対しても案を押し通すだけの権力が清田一の側にはある。


 「そうかなぁ。まあでも四川君も言ったからには『そうですよね』なんて引き返すのも心苦しいと思うし、とりあえず一緒に戦ってみてください。出場選手リストももう出さないとですし、頼みましたからね」


 ポンと武仁の肩を叩いて一歩前に押してから、ハジメは行ってしまった。つまりオーダー表は予め書いた上で事後承諾のように今の話をしに来たということだろう。

 最初から反論する余地など与えられていなかった。

 こういうことをされるからグレるんだろうが、と明日葉は吐き捨てるようにハジメの背中に話しかけるが、ハジメからすればそれも所詮は思春期真っ盛りの子供の健やかな文句でしかない。


 大人には子供の捉えきれない物事の機微をしっかりと見ることが出来るのだろう。それはいつだって、子供は後になってから合理的だったと気付くように出来ている。


 でも、だからと行ってそんなに未来ばかり見据えていたら、ずっと目を細めっぱなしで疲れてしまうだろう。今のためだけに我儘を言ったってバチは当たらないはずだ。


 「清田センセはちゃんと考えてんのかもしんないけどさぁ、いちいち汚いんだよ」


 「―――大人はキレイでいるために汚くなる生き物だからね」


 「けっ」


 とうとう文句を言うべき相手が去ってしまったので、明日葉は「あー」と低く唸りながら武仁を睨み付けた。どこからかぶりつくか吟味する獣のように視線を滑らせて様子を窺う。

 武仁はそれに怯えて冷や汗を噴き出させながら、せわしなく瞬き。


 「えっと・・・」


 「まぁその、なんだ。もうどうしようもねーからさ。自分で言った分は働いてみせろよ。一応期待はしとくからガッカリさせんじゃねぇぞ、武仁」


 「――――――!は、はい、頑張ります!」


 そんな先輩後輩のやり取りを横で見ている蓮太朗と智継は、なんだかんだで結局根はいい人な明日葉にはにこりと笑うのだった。


 「よーし、んじゃ武仁。とりあえず招集まであと10分しかないからフィールドの外周一周走ってこい。どうせ動いてないっしょ?」


 「い、一周ですか!?8kmなんですけど!?」


 やっぱり明日葉は悪い先輩だったのかもしれない。ちょっと「おっ」と思わせておいてからのこういう一言で地獄に叩き落とされた武仁が涙目になって抗議した。

 

 「はぁ?どうせ本番はフィールド中駆けずり回るんだから変わんないだろうがよ」


 「いや柊先輩、それはぼくもムリだと思いますよ。世界記録にでも挑戦させる気ですか・・・」


 「なぁにぃ?やるならとことんだろ、意識低いぞ蓮太朗。世界でもなんでも狙っとけってんだ」


 ここで一応言っておくと、陸上競技の10000m競争の世界記録は現在26分17秒だ。ぜひとも参考程度に考えてみて欲しい。・・・・・・無茶苦茶だ。

 蓮太朗がそう説明すると明日葉もさすがに目が泳ぎ始めた。完全に適当なことを言っていたことが丸わかりである。自分で自分の言ったことの理不尽さを理解して、しかしあまりにも酷いので素直に謝るのもイヤだから明日葉はあくまで先輩ぶることにした。


 「あ、うん・・・。よ、よーし!じゃあ武仁、喜べ特赦だ。一辺の半分で折り返してこい。たったの2キロだぞ、楽勝だろ?」


 「は、はぁ・・・」


 既に武仁の中で明日葉の信頼度がガタ落ちしてとんでもないことになってしまった。こんな人物に背中を預けて大丈夫なのだろうか。

 学園の序列4位に位置する大先輩のことを疑わしく思いつつも、武仁は走り出したのだった。



          ●



 海上学術研究都市『ノア』の魔力感応技術研究所内、森口豊人の研究室にて。

 この部屋ではなにやら大仰なサイズの装置と接続された1台のパソコンの画面に5人ほどの男女が食いついていた。おかげさまでおしくらまんじゅうをする羽目になり、大変暑苦しい。


 「来た来た、来ましたね!」


 「先生、感度は良好のようですね!」


 「ああ、まあそうみたいだな。やれやれ・・・」



          ●



 午後7時半。四川武仁は不良に絡まれていた。・・・失敬、四川武仁は先輩に気に入られていた。


 「いやー、今日はお疲れサンだな、武仁!なんだよ、お前やりゃあ出来んじゃんかよー!」


 「は、はい・・・。その、ありがとうございます?」

 

 「んだぁ、声ちっせーぞ!オラ、今日は蓮太朗の奢りだから好きなだけ食ってけ!」


 「そうだな・・・って待て!柊先輩今なんと言った!」  


 いざこざはあったが、結論から言うとマンティオ学園Bチームはメンバーの入れ替わりというハプニングなどなかったかのような大勝を飾っていた。

 それがなぜこんなことになっているのかというと、こんな感じだ。


 特にその入れ替わりで参加した武仁だったのだが、彼は自陣の拠点の防衛に当たっていたところ、大きくフィールドを迂回して迎撃をすり抜けてきた敵選手を全て返り討ちにしたのだ。

 もしも数に押されて武仁が倒されていれば負けていた可能性もあったため、無事に拠点を守り抜いた武仁は高く評価されているのだ。


 それで今に至る。ファミレスの店内は夕食を食べに来た学生と引率の教員で大賑わいだ。沈んだ空気の人がいないのは、そもそも大抵の学校は全国大会に来られたとして1校当たり1人か2人なので、負けた時点でさっさと帰ってしまうからだ。


 とかくそんな賑わいの中でも一際やかましいのが明日葉とその周りである。

 結構な大所帯で来ていた彼女らはいくつかのテーブルに分かれていたが、その全員が酔っ払いかと思うほど好き放題な明日葉を見て溜息を吐いた。校風が疑われるのも時間の問題か。

 お願いだからもうちょっとだけ静かにしてくれ―――などと、明日葉にだけは言えないのだ。

 

 そんな気まずそうなテーブル群の1つには1年生選手が集まっていた。


 「あの人ホントに酒でも飲んだんじゃないか?」


 頼んだ料理はまだ届かないので、テーブルの5人―――迅雷と真牙、ネビアと、あとは愛貴と知子は頬杖をついて行儀の悪い明日葉を眺めていた。ここから見ていれば女の先輩に可愛がられる武仁が男子目には羨ましく見えるかもしれないが、その先輩というのがアレなのだ。おかげで武仁の顔も赤くなったり青白くなったり。


 一度明日葉の被害に遭った経験のある迅雷は武仁に同情しながらそんな風に呟いた。すると、なんと真牙までもが素直に首肯した。普段なら絶対に今の武仁ポジションを羨ましがって勝手に妬み始めるはずなのに、真牙が武仁を憐れむなんて。

 意外な反応に女子勢が真牙の正気を疑う。

 

 「え、明日は血の雨でも降るんですか・・・?」


 「失礼しちゃうな愛貴ちゃん。確かに明日葉先輩はしかめっ面ばっかりしてるけど実は可愛い顔してて特にあの下睫毛とか牙なんかはオレ得のチャーミングポイントだとは思うのですけどね?」


 「ふむふむ、それでそれで?なんかやっぱりいつも通りの真牙さんっぽいですけど、とりあえず私は偉いので聞いたからには最後まで聞いてあげますね。で、なんで四川さんと代わりてー、とか言わないんです?」


 「よしよし偉いぞ。だってほら、見てみてよ。仲良く肩組んでるように見えるか?アレ」


 偉かったので頭を撫でられそうになった愛貴はスッと身を引いてそれを躱した。

 拗ねた真牙に顎で指されて愛貴はもう一度武仁の顔を見る。明日葉に肩を組まれて密着している彼の顔は熟れたリンゴのように真っ赤だ。


 「私には照れて赤くなってるように見えますけど、違うんですかねー?」


 「ちゃうちゃう。アレは完全に首をキメられちゃってるよ。よく見て、死にそうでしょ」


 窒息寸前で明日葉の万力のようなスキンシップから解放された武仁は青ざめた顔をして、料理よりも美味しそうに空気を吸っていた。


 「それにしても、今日は聖護院さん・・・残念でしたね。あんなに張り切っていたのに」


 知子が話題を切り替える。

 本来ならもっと華々しく活躍出来ていたはずの矢生がどこまで行ってもなにか見えない力によってその未来を妨害されているようだった。


 「そうだよな・・・。目が覚めたらきっと相当ショックを受けるだろうから、なんて言ってやれば良いんだか。本当なら個人戦に出れないだけでも悔しかっただろうにな」


 迅雷がそう言うとネビアが口をへの字に曲げる。


 「そりゃ失礼したわね、カシラ。私だってあそこで負けるわけにはいかなかったのよ、カシラ」


 「あ、いや、ゴメン。そう言う意味で言ったわけじゃないんだって」


 「ふーん?じゃあ誠意を示していただきましょうか、カシラ」


 「えぇ・・・?うーん、おれもねびあがみかたにいてくれるだけでこころづよくおもいまーす」


 「誠意が足りないですね」

 「足りないな」

 「足りませんね」


 呆れたような目を向けられて迅雷は「ぐぬぬ」と呻く。

 ジト目のネビアを見て咳払いを1つ。かくなる上はいっそ開き直って今の台詞をもう一度、いっそネビアを照れさせる勢いで言ってみることに。


 「俺も―――ネビアが味方にいてくれるだけで心強く思うしさ」


 「・・・っ!そ、そうなんだ・・・ちょっと嬉しい、カシラ」

 

 迅雷が自分でも恥ずかしくなるようなガチトーンで誠心誠意言い直すと、今度はネビアが頬を染めてはにかみ始めた。狙っていなかったとは言わないが、予想以上にしおらしくされた迅雷も耳まで赤くなる。

 気まずくなって黙り込む迅雷とネビア。途切れた会話には甘酸っぱい静寂が訪れる。


 兎にも角にもこうして迅雷はキッチリ誠意を示したのだが、隣で真牙が「ケッ」と吐き捨て、向かいでは愛貴がほっぺたを押さえて目を輝かせ、知子に至ってはなにを想像したのか顔を赤くして気まずそうに俯いている。


 「じゃあお前ら俺にどうして欲しかったんだよ!?」

 

 

見えない力(察し)

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