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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect24 ”ついでのついでのそのついで”


 これでは自分の方が子供みたいだと、らしくもなく落ち込む明日葉の肩に重ねた手に込める力を強める。蓮太朗だって、こんなときくらいは穏やかな声で語ることも出来る。


 「えぇ、柊先輩は間違いなくガキですよ。それもとびっきりの悪ガキなんじゃないですかね。2秒もあれば手も足も出すし、口を出せば暴言ばかり―――」


 明日葉は雰囲気からして珍しく蓮太朗が慰めてくれるのだろうかと思ったのだが、しかし蓮太朗は弱ったところを狙ったようにそんなことを言い出した。


 「今だってやったかどうかも分からない川内さんをブン殴ってワーキャーとまくし立てるしで、ぼくも正直焦りましたよ」


 「・・・・・・あのなァ、蓮太朗―――」


 「でもね、柊先輩。ぼくらは先輩みたいに素直にはなれないし、正直でもいられないし、怒ったりも出来ない。理不尽に昏倒させられた聖護院を見てなにも出来なかったぼくの代わりに先輩が怒鳴り散らしてくれたんじゃないですか?」


 「・・・・・・あのなぁ、蓮太朗よぉ―――」


 話の流れがおかしいことに気が付いて、明日葉は同じ台詞を全く違うトーンで呟いた。


 「なんだかんだ言っても、ぼくは先輩のそういうところは素敵だと思うし、信頼もしてるんですけどね」


 相変わらずキザな野郎だ―――と口の中だけで唱えて、明日葉は照れ臭そうに頭を掻いた。

 ただ、今の蓮太朗はいつもみたく口ばかり達者な後輩でも偉そうなことばかり言う副会長でもない。声色で分かるものだ。

 

 自分で自分にはガッカリしたが、まだ頼りにしてくれる仲間がいる。明日葉の空回りな努力の積み重ねも、3年間もやっていればあながち無駄でもなかったのかもしれない。


 ニッと笑って、明日葉は少しだけ顔を上げた。穏やかな蓮太朗と目が合う。


 「もしかしてお前この明日葉さんを口説いてんのか?だとしたら惜しかったな」


 「なんのことやら。ぼくには心に決めた女性がいますとも。それで、少しは気が楽になりましたか?」


 「あーそうだな。ちょっとイラッとした」


 それから明日葉は未だに不機嫌そうな目で自分のことを見下ろしてくる兼平の目を見つめ返して、微笑んだ。


 「いつまで見てんだバーカ。アタシが悪かったよ。殴っちゃってごめんなさい」


 「あ、あぁ・・・・・・。もう良いんだ」


 素直に謝られると、次に自身の大人げなさが恥ずかしくなるのは兼平だ。まだ血が垂れ流しのままの鼻を押さえつつ、兼平も居心地が悪そうに明日葉を許して目を背けた。


 蓮太朗が素敵だと褒めていたのは、明日葉のこういうところだったのだろう。


 「とりあえず、もう柊さんも清水君もアップに戻ってくれ。君らまで準備運動不足で怪我なんかしたら、そっちの方がよっぽど大問題になっちゃうからさ。大丈夫、さっきも言ったけどあとのことは僕に任せてくれ」




 矢生の介抱やメンバーの調整は全て引き受けて、兼平は集まった野次馬も含めて、その場を穏便に解散させる。

 最後には丸く収まっていたので、人が離れるのも早く、明日葉と蓮太朗も素直に戻ってくれた。ようやくホッと一息ついて、兼平はとりあえず補欠が必要になった話を清田一に伝えることにした。メンバーの管理は彼の担当という話を事前に受けていたからだ。


 しかし、ケータイを取りだそうとしたところで自分の手が血まみれだったことを思い出す。とてもではないが鼻からだけでこの量の血が出たとは信じがたく、兼平は溜息を吐いた。不意を突かれたとはいえ、たかだかちょっと優秀な学生相手にこのやられようは心に刺さって耐え難い。

 どっと疲れが出てきた兼平は近くにあった木の幹にもたれ、地面に腰を下ろす。


 さっきからそんな兼平の情けない様子を眺めていたネビアは彼をからかってケラケラと笑った。


 「にしてもまたひっどい顔ねぇ、カシラ」


 「うるさいな、余計なお世話だ!」


 「おやおや、恩人に向かってその態度ですかぁ?カシラ」


 「確かに助けられたがな、素直に恩を返すだなんて思うんじゃないぞ」


 それもそうだな、とネビアは首を横に振る。いや、呆れたものだ。なにが、とまでは言わないが。


 最初の理由は自分の利益だったとはいえ、一度は助けてしまったので、ものはついでである。ここらでもう1つくらい恩は売っておいてやろうと思い、ネビアは魔法で適当な量の水を出した。


 「ほれ、ネビアちゃん特製触っても濡れない魔法の水よ、カシラ。手と顔くらい洗っときなさい、カシラ」


 「・・・溺れさせようとか考えていないだろうな?」


 本当に、今更なにを警戒するのだろうか。空中にフワフワと漂っている水の塊に手を突っ込むことを躊躇っている兼平が面倒になって、ネビアは彼の後頭部を足蹴にして水の中に叩き込んだ。


 「あーもう、メンドクセーなーチミは、カシラ」


 「あぼっ、がばぼがばばびぶべべっ」

 

 「はいはーい、ネビアちゃんですよー、カシラ」


 もう良いだろうかと思ってネビアが足の力を抜くと、必死の勢いで兼平が水から顔を出した。


 「ぶぇあッ!?貴様、こ、殺す気か!!」


 「やだなぁ、せっかくの良心を、カシラ。っていうか私の友達ならこれご褒美だって言いそうなヤツもいるんですケド?ほら、喜べよ、カシラ」


 「ご褒美なもんか!」


 「やれやれ・・・まぁ気にしないけど、カシラ。でももうちょっとは信用して欲しいですなぁ、カシラ」


 ネビアに心底呆れた目で見られて兼平は自分の頭が全く濡れていないことに気付いた。

 兼平は悔しそうに舌打ちをひとつして、それから右手を魔法の水とやらに入れて血を流し去る。

 ネビアはそれを見てしたり顔をしていて、それが気に食わなくて兼平は歯軋りをする。


 妙な感覚を感じた兼平は、新しい可能性を頭を振ってなにもないところに撒き散らして霧散させた。一瞬で破綻するようなものは可能性でもなんでもない。

 雑念を払った兼平はこのままネビアに負けてもいられないので、話を切り替えて誤魔化すことにした。例のコーンポタージュ代の話のことだ。


 「それで、そうだ。昨日頼んだヤツは?」


 「あぁ、そうそう、それよ、カシラ」


 白々しくポンと手を叩いてネビアはズボンのポケットからシールの剥がされた台紙を取り出す。


 「ハイこれ。これで良かったんでしょ?カシラ。あーあ、すっごく大変だったなぁ、カシラ」


 ついでのついででネビアは恩着せがましく兼平の顔の前で台紙をヒラヒラと揺らす。結局これがなんなのかは分からなかったが、少なくともネビアが気にすることではない。


 「そんなに大変だったわけがないだろう。架空請求には引っかかっててやらないからな」


 「ちぇっ。つまんないの、カシラ」

 

 唇を尖らせネビアは使用済みのゴミを兼平に渡した。これで昨日のアレはチャラ。


 ついでのついでの、さらにそのついでに、ネビアは興味本位で終わった話を掘り返してみることにした。事実確認が取れればまた退屈しない時間がやってくるかもしれない。


 「ねぇねぇ。あのさー、カシラ」


 「なんだよ今度は。今日のところはちゃんと感謝しておくからお前もさっさとどっかに行け。こっちもやることがあるって言ってるだろう」


 「ホントになにもやってないの?カシラ」


 ピクリと兼平の眉根が動いた。


 「無視すんな。それと何度も言うが、やってない。そんな風に疑うなら初めから俺に味方なんかしてくれないで良かったのにな」


 「はぁ・・・そうもいかないわよ、カシラ。私にはみんなが一生懸命頑張ってるのを無駄にしたくなかったんだから、カシラ。本音を言えば実際にあなたがその子に手を上げたかどうかなんてどうでも良かったんだよね、カシラ」


 もっとも、この時点でみなではなくても矢生の頑張りは無駄になっていることにはネビアは思い至れない。これも突き詰めればただの価値観の相違で済ませられる話だが、ともかくネビアは依然としてネビアだった。

 彼女の意外性と異常性を再確認した兼平は少し顔色を悪くした。平然と吐き出される嘘は今どこに紛れているのかも分からない。


 「でさでさ、つまるとこどーなのよ、カシラ」


 「あーしつこい!!やってない!終了!」


 ネビアと兼平の会話はそれっきりだった。

 

 兼平は今度こそスマホを取り出してハジメに電話をかけ、矢生を背負ってその場を離れた。

 ネビアはそんな彼の背中を冷ややかな目で見送るのだった。



          ●



 「―――と、いうことで、聖護院さんの代理でBチームに四川君に参加してもらうことにしました。急なメンバー変更ですが、君たちならきっと上手くやれると信じています」


 「えぇと、よろしくお願いします・・・?」


 四川武仁を連れてきたハジメが軽いノリでそう言った。恐らく事をあまり重く感じさせないように振る舞っているのだろう。

 一番その「急なこと」について来られていないのは明らかに四川武仁本人だった。なにせ本メンバーたちと自分との力量差に項垂れていたところにこれである。ポイと戦場に放り出されてビックリではないが、覚悟が決まっていないのは確かだった。


 そして、納得がいかない人もまたいるわけで。


 「あん?なんで四川なんスか?(いたる)とかじゃなくって大丈夫ッスかね?」


 なぜ代役が1年生なのか、というのは表向きな言い分でもある。明日葉は、とぼけた顔をして突っ立つ武仁を生ぬるい目で流し見た。変な覚悟で出られて怪我でもされると後味が悪い。

 いつも通りではあるが不機嫌そうな顔の明日葉にそう言われ、武仁は怯えて萎縮してしまった。あまりに険悪な目つきには、とてもではないが視線を合わせることも出来ない。

 だが、それを見かねた3年生の石瀬智継が明日葉に突っ込みを入れた。


 「柊さん、それはあんまりじゃないの?四川君だって『二個持ち』なんだから良い戦力だ」

 

 「あぁん?アタシに意見しようってか。智継のくせにナマイキだぞコラ」


 ジャイアンとスネ夫を足して1で割ったような明日葉の脅しに智継も怯んでしまった。温厚な性格が取り柄ののび太ではなかなか明日葉に勝つことも出来ないだろう。


 「四川がいくら力持ってても、あんなツラしてるやつ連れ出せねーだろ・・・危なっかしい」


 明日葉は少しだけ反省したのか、そう吐き捨てた。

 なにせこの試合は4校同時参加であり、チームの特性的に乱戦は必至なのだ。明日葉の懸念を察したのか、蓮太朗も彼女に同調して武仁の参加を反対し始めた。


 「ぼくも四川の出場はまだ早いと思いますね。彼にはまだ試合に出るだけの覚悟が不足しています。この試合では相模が良いかと」


 「清水君が言うことも分からなくはないが、ものは経験だとも思わないか?『二個持ち』の四川君がこの機に大きく進歩出来るとしたら利点の方が絶対に大きい。それにこの試合であれば最悪君たち3人でも勝つことは出来る。ここはひとつ、先生の顔に免じて頼むよ」


 「それは・・・そうかもしれませんけど―――」


 ハジメが言っていることは概ね正しい。実力主義の方策にも特にいちゃもんをつける気もない。むしろ蓮太朗自身も実力至上主義な一面はあると自覚しているくらいだ。可能性は試して伸ばすのが正しいに違いない。

 だけれど、やはり勝負の中に不安の残るメンバーを加えるのは都合が悪いのだ。ただでさえしょぼくれた顔をした武仁が次の試合に出されてしくじれば、ハジメの目論みはまるきり裏目に出てしまうかもしれないのだ。

 何事もより確実な方を選ぶべきだということをハジメは知らないのだろうか、と蓮太朗は唇を噛んだ。


 なにか言い返してくれないだろうかと期待して蓮太朗は隣の明日葉を見て、溜息を吐いた。確かに明日葉は頼れる先輩と言ったし、それは嘘ではないのだが、どうやら彼女が子供だというのも間違いなかったらしい。ハジメの「3人でも勝てる」という旨の話で調子に乗ったのか、鼻の高そうな顔をしている。

 人に期待せず言うべきは自分で言うべき―――蓮太朗がなにか言おうとしたそのとき。


 しかし、そこで武仁が遂に口を開いた。

 


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