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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect22 ”転調”

 

 ざわめく有象無象を押し退けて、明日葉と蓮太朗はようやく騒ぎの中心へと駆けつける。

 倒れた人を抱き起こすようにしているのは、やはり兼平だった。


 「おい!どうしたんだ!?なにがあった!?」


 例にもよって人目のつかなさそうな陰で、兼平は少女を介抱していた。

 そして、その抱きかかえられた人物を確認して明日葉は息を飲み、歯を軋らせた。見開いた目に映ったその人物こそ、ちょうど今彼女たちが探していた聖護院矢生だったのだから。


 走る勢いのまま地面に膝をついて、明日葉は滑るようにして矢生に近付いた。兼平すら無視して明日葉は矢生の肩を掴んで揺する。


 「おい、おいッ!矢生!しっかりしろ!」


 「そんな・・・!?せ、川内さん、これは・・・!?」


 蓮太朗が兼平の方を見ても、兼平は悔しそうに顔をしかめたまま首を横に振るだけだった。彼も今この場に出くわしたばかりということなのだろう。

 目の前には意識もなくダラリと腕を地面に垂らした矢生。なにが起きたのかも不明。事態の唐突さに蓮太朗はどうすべきか分からず、混乱しそうになる。

 言葉を失っている蓮太朗に兼平は弁明する。彼はマンティオ学園のサポーターであり、IAMOの魔法士だ。矢生を守る義務がある立場であり、彼はそれを為さなかった―――。兼平の言葉にようやく蓮太朗も口を開くきっかけを得た。


 「すまない・・・。僕が見つけたときにはもう聖護院さんは気を失って倒れていたんだ」


 「そんな・・・、いや、川内さんに非はないでしょう・・・。いったい誰がこんなことを―――いや、例の通り魔の仕業か・・・?くそ!」


 「と、とにかくこの件は僕たちが捜査するから、君らは練習に戻ってくれ。気にするなと言ってもそんなのは無理だと思うけど・・・とにかく後は僕らに任せて欲しい。この子も僕が病院に連れて行こう。見たところ命に別状はないようだから、そこは安心して大丈夫だ」


 兼平がそう言うと、矢生の状態を見ていた明日葉もこれ以上の危険はないことが分かったので頷いた。確かに安心して大丈夫そうなバイタルではあるし、目立った外傷もない。


 ただ、相槌を打つ明日葉の声は実にくだらなそうだった。


 「あぁ―――キレイなもんだよねぇ、こりゃ」


 「柊さんもそう思うか?随分と加減が利いているとは僕も思ったよ。・・・でも、どちらにせよ早く犯人を見つけ出して押さえないと―――」


 「そーだね、あぁ、そーだよな。どっちにしろ、だ。―――なァ、オイ!!」


 なんの前触れもなかった。


 ただ、肉の潰れるような音がした。


 違う。事実、肉が潰れた。


 それは、矢生を抱き上げようとした兼平が明日葉の裏拳で弾き飛ばされた音だった。

 

 明日葉に殴られた兼平は空中でグルグルと回りながら吹っ飛ぶ。その様はまるで冗談かなにかのよう。人の体があんな風に飛ぶものだったなど、誰も知るまい。公園の景色作りで植えてあった木を1本へし折って、やっと兼平は地面に落ち着くことが出来た。


 「がっ、あっ、ぐ・・・!?な、なにをするんだ!?」


 「そりゃこっちのセリフだね。―――アタシの大事な後輩にナニ手ェ出してんだテメェ」


 

          ●


 

 ビルとビルの隙間のような道路で、不審な様子を見せる女が1人。一般人の目は誤魔化せても千影の目は誤魔化せない。ビルに隠れればお天道様からは姿を隠せるのかもしれないが、そんなときは千影がお仕置きしてやるのだ。

 

 コッソリと後ろから近付いて、千影はその女の腰をツンツンとつついた。

 彼女が例の通り魔事件の犯人だとすれば不意打ちで一気に縛り上げてしまえば良いのだろうが、もしも違ったときは責任重大なので念のため確認を取る必要があった。もっとも、ほぼほぼ間違いないはずなのだが。


 「もしもーし」


 「ひゃっほう!?」


 突然の出来事に女は縮み上がるが、後ろを振り返ればそこにいたのは小さな女の子だったので、安心したように胸を撫で下ろした。

 そんでもって、女の驚き方が随分と大袈裟だったので千影も縮み上がってしまう。素人感丸出しの反応には千影も勘が外れた可能性を考えた。

 

 「な、なにかな?小学生・・・?」


 「う、うーん、まあそういうことで・・・」


 「どうしたの?お父さんかお母さんとはぐれたり?」


 至って平凡な質問をする女だが、なかなかどうしてその挙動が不審すぎて、これは疑いたくもなるわけだ。オドオドしすぎて目も合わない。


 「ううん。お姉さんなにやってんのかなって思ってね」


 「わ、私が?」


 女は目を丸くして自分を指差した。それから、こんな場所でコソコソしていれば確かに人の目には変な風に映るものかと嘆息した。悲しい話である。


 「えっとえっと・・・私はぁ、そう!悪い人がいないかこうして見張ってたんですよ!?この街に来ている人たちが安心して大会を楽しめるようにーって!ね!?」


 と、ちゃんとした感じの理由を語ると少女の視線が険しくなるのを感じて女は思わず「ひいい」と声を漏らした。完全に疑われているが、疑惑を晴らせるほど女のコミュニケーション能力は高くない。そもそもそれだけの社交性があったなら、こんなところには―――。

 やはり正直に言うべきなのだろうか。女は確かに今よろしくないことをしている。


 「ふーん、そう?むしろお姉さんの方が怪しいんだけど」


 「あ、怪しくないって!ホントだってば!」


 「ジー」


 「うっくぅぅ・・・」


 千影は押し黙ってしまった女の外見を改めて眺めた。

 電波系なのだろうか、髪は目障りなまでにピンク色な上に、ツインテールはツインテールだが触覚っぽい。分かりやすく言えばツインテールをそのままこめかみのあたりまで持ってきたような感じか。目はカラーコンタクトでも入れているのだろうか、こちらも胡散臭いピンク色。出るところは出ていてスタイルは悪くないが、やや身長は低めかもしれない。

  服装は真っ白でふわふわしたパーカーとフリフリのスカート。恐らく20代前半なのだろうけれど、どこか精神的に幼い感じはする。

 ただ、可愛い見た目を作ろうと工夫したのだろうけれど、目の下のクマが寝不足を前面に押し出しているからイマイチきまっていない。


 「あ、あんまりジロジロ見ないでください・・・」


 女は泣きそうになってパーカーのフードを被ってしまった。するとフードにはうさ耳が生えているので千影はいよいよこのイタい女性をジト目で見るしかなかった。

 

 「ご、ごめんね。多分ボクの勘違いだったね、うん・・・」


 「か、勘違い・・・?とにかく私が悪い人じゃないって認めてくれるんです?」


 「認める認める」


 ひたすら自分を隠すように縮こまる女を『通り魔』だと思ってしまったのは、きっと女の立ち居振る舞いにある程度の風格を感じたからだった。しかし、こうしてみればなんだ、なんでそんな風に思ったのか千影も不思議でならない。

 ともかく、小学生(正確には通っていないので違うが)相手でさえこんなに怯える人がまさか人を襲えるとも思えない。


 「で、結局お姉さんなにしてたの?」


 「えっ、だ、から、そのぉぅ・・・」


 「絶対さっきの嘘だよね」


 「そんなことは、な、ないかなぁ?」


 目が泳いでいるとかそんな次元ではない。女の瞳は揺れに揺れて残像を生み出している。

 千影がしばらく見つめていると、女は項垂れた。


 「・・・・・・そうです、嘘です、私は悪い子です、はい」


 「急にどうしたの!?」


 白状し始めたかと思えば落差が激しいので千影はギョッとする。大人がいきなりそんなことを言い始めたら引くだろう。


 「と、とりあえずなにしたの?教えて」


 「はい・・・。いやですね、タイチョーのお子さんが全国に出場されると聞いたので、是非是非見てみたく思いましてですね?」


 タイチョーとやらは恐らく知り合いの名前だろう、と千影は適当に予測する。太町さんだか泰澄さんだかは知らないが、広い世の中タイチョーという名前の人もいるかもしれない。

 と、女は人差し指をくっつけてモジモジしながら顔を赤らめた。


 「いや、前にも写真でどんな子なのか見せてもらったんですけどね?結構可愛らしいというかほどよく凜々しいって言うか?とりま、私好みな顔の男の子で」


 「お姉さんってショタコンなの?」


 「ストレートに聞かないでくださいぃぃ・・・。というか高校生くらいならショタには入らないですって・・・」


 ショタの細かい定義はさておいて、女は悪人ではないにしろダメな系の大人だということは分かった。

 ところで、結局なにが悪かったのだろうか。ロリコン推奨派である千影からすれば別にショタコンくらいなんの問題もないのだが、電波女はそれを気にしていたということか。いずれにせよ試合を見に来ただけだろう。

 と、千影はそれならなにかおかしいことに気が付いた。どうして女は試合を見に来たはずがこんなところにいるのだろうか。やはり不審ではある。

 けれど、千影のそんな疑問には女が自ら語ってくれた。


 「じゃあなんでこんなとこにいるんだよって思いましたよね。・・・私、人混みが苦手なんですよ。てか人が苦手です。今あなたと会話してますけど普通にビクビクです」


 「うん、見て分かる」


 「そもそもなんで人混みって言うか、以前私なりに考えたんですよ」


 「へー、なになに?」


 「人がゴミのようだから『人混み』!」


 「お姉さんの頭の方が―――」


 「言わないでっ!さすがに子供にまで言われたら私もう立ち直れない!」 


 子供にまでということは既に子供ではない人からは言われたのだろう。いろいろと察したので千影は言わないでおいてあげた。


 「いや、まぁともかくそういうことなんでちょっとこっから出られないんですよ」


 ―――どういうことなので?


 女性は頭を抱えて本気で怯えているようだった。しかし、言っていることの意味がよく分からない。出ようと思えばすぐにでも出られるだろうに、どうして出られないのだ。


 「あ、ワケ分かんねーよって顔してますね!これだから!なんで分かんないですかね、あんな人混みの中に入ったらストレスで私の体が爆散しちゃいますよ!」


 「・・・だからアリーナにすら辿り着けない、と」


 千影が確認を取ると女は当然のように頷いた。もう帰れば良いのに。

 日頃から基本的にボケ担当の千影はここにきていきなりツッコミをやれと言われても困るだけだった。人混み恐怖症だという女は真っ青な顔で表の通りを指差している。

 恐らく彼女が必死に叫んだことは事実なのだろう。女はあまりにも人が多いこの街に耐えかねて路地裏に隠れてしまったのだ。

 

 「てか、そんなに人混み恐いなら普通こんなとこに来ないでしょ」


 「それはそうなんですけどぉ、でもぅ・・・。いっそ通行人一掃しちゃえば恐くないんですけどねぇ」


 女はなんの気なしに殺戮を始めそうな危うい空気を醸した。それがあまりにも自然な流れで出てきた言葉だったため、千影はやはり彼女が危険人物であったと確信し、身構える。

 ・・・のだが、刀を取り出すために『召喚(サモン)』を展開する千影を見て女は慌てて手を振った。


 「ひえっ!?冗談だから!」


 「ホントに?信用ならないんだけど」


 「ホント!だからその物騒なもの引っ込めてくださいね!」


 信用するかどうか迷ったが、千影は女の様子を見て一応信じることにした。魔法陣を途中で消すと、やっと女も息を吐いた。

 

 「・・・やっぱり精神を削ってでも生で見たかったんですよ、タイチョーの息子さんの活躍」


 「精神を削ってまで!?ボクまでその男の子が気になってきたよ!?」


 ここまで極端な対人恐怖症患者がそれでも一目見たがる少年とはどれほどのものか、千影も気になってきた。すると女性は千影の反応に嬉しそうな顔をする。感動は分け合いたいのだろう。

 しかし眩しい笑顔なのだが、目の下のクマが原因で女の笑顔は陰気だ。千影の言葉を真に受けて女はポケットからスマホを取り出すのだが、それがまたごてごてとストラップが付けられている。なんのストラップかと思えば全部アニメの少年キャラなので、女の趣味は丸分かり。紛う事なき電波系かつショタコンだ。


 

 「あ、見ます?実は写真いただいたんですよ、えへへ」


 「見せて見せて」


 「はい!」


 と、女に見せられた写真を見て千影は固まった。


 というのも、その写真に写っている少年は黒髪黒目、中肉中背、鼻筋辺りが少し女の子っぽさのありつつ顔立ちは全体的に見て整っていないでもないような―――。


 総合して、どこからどう見ても千影がよく知っている彼だったからだ。


 「これとっしーじゃん」


 「あれ?お知り合いです?」


 どんな風に人間関係が繋がって迅雷の写真がこんなところに出回ってしまったのか。千影は分からずに唸った。しかし、それも考えればすぐに分かることだった。女はこの少年、神代迅雷のことを「タイチョーの息子」と呼んでいた。つまり、そういうことだとすれば。

 興味のある少年と知り合いである風の反応をした少女に、女は苦手なりに人に期待した目をしている。

 ワクワクしているところに水を差すようで悪いとは思ったが、千影はとりあえず先に答え合わせをしておくことにした。


 「お姉さん、ちなみにだけどお仕事は?」


 「あっ」


 「もしかしてだけど、ケーサツじゃない?」


 千影の核心的な質問に遂に女は肩を跳ねさせた。これこそ今日彼女が「悪い子」な理由そのものである。なにせ今日は仕事が休みでもないのに無断でこんなところに来ているのだから。

 数秒間押し黙り、女は身をよじらせた。しかし、図星を突かれた以上はもはや言い逃れも出来まい。覚悟を決めるしかなかった。


 「はい、私は俗に言うお巡りさん・・・です」


 「・・・」


 「ご、ごべんだざい!!分かってます!分かってるんですよ私だってぇ!思いっきり仕事さぼってここまでやって参りました!市民の安全ほっぽり出して男の子を探しに来ました次第ですぅ!」


 そう言って女性は一冊の手帳を取りだし、千影に見せた。

 なるほど、「タイチョー」というのは人名ではなく、やはり役職名のことだったらしい。それと、女性からそこはかとなく強そうな雰囲気を感じ取ったのも、決して気のせいではなかった。


 警視庁魔法事件対策課所属、小西李(こにしすもも)。それがこの電波女の正式名称だった。


 「タイチョーってはやチンのことだったのかぁ。小西李・・・スモモンだね、じゃあ」


 「す、すももん・・・?というかタイチョーともお知り合いなんですか?」


 李はキョトンとした顔で千影を見つめる。最初からあだ名を付けられたことも対人恐怖症の彼女としては馴れ馴れしすぎて血の気が引く思いなのだが、それよりも疾風らしき人物の名前まで登場したのが殊更意外だったのだ。

 そんな李の質問に千影はムフフと笑って無い胸を張った。

 

 「はやチンから聞いてないの?ボクは千影、IAMO所属のランク4魔法士にして神代家の居候だよ」


 「・・・・・・あ、あ、あー!そういえばタイチョーから以前聞いた気がします。なるほど、これはこれは、いつもタイチョーとそのお子さんの写真にはお世話になっております・・・」


 「ちょっと待って不穏!?」


 いつの間にやら迅雷の写真が変なことに使われていた疑惑が浮上して千影はアホ毛を跳ねさせた。というか疾風はなんでこんな頭の回路がねじ切れたみたいな子・・・ではなく、なにをするかも分からないような不思議ちゃんに写真を渡したのだろう。人目も憚らずに少年の写真で鼻息を荒くするような李のなにを信用していたのだか。


 「それで千影ちゃん、さっそくですけど迅雷クンの連絡先とか持ってたら・・・」


 「それストーカーだからね、逮捕されちゃうからね」


 「あうっ。そぅですよねぇ・・・分かりました、私は我慢できる子ですから・・・」


 李が言うと本当に偉い風に見えてしまうのが不思議だ。

 それはともかくとして、千影は今忙しいのだ。李がそれなりに公的な立場を持っていることが分かったならこれ以上彼女と話している訳にもいかない。というより李と一緒にいると疲れるから、さっさと離れたい。


 「うーん、スモモンを放置してたらとっしーの貞操が案じられるけど・・・でも大丈夫だよね。あのね、ボク今街の警備で忙しいからまたいつかどこかでね、それじゃっ!」


 「待って!!」


 「にゃっ!?」


 驚くべきスピードでその場を離れようとした千影の手を李は驚くべきスピードを以て掴んだ。


 「は、放して!スモモンみたいなあからさまにヤバイ人にとっしーの電話番号は売れないよ!」


 「そんなこと言わずに!ここで千影ちゃんと会ったのもなにかの縁、とりあえず私をアリーナかB地区の観戦場に連れてってください!」


 「やだよめんどくさい!っていうか今日とっしーの試合終わってるから!」


 千影は言いながらズンズンと歩くのだが、李もしぶとく引きずられてはゴネる。さすがに仕事をさぼってまで来たからには彼女もこの大きなチャンスを逃せないのだ。


 「知ってます!でも別に本人を生で見られればそれで!」

 

 「やだってば!」


 「そこをなんとかお願いしますってセンパイ!」


 「ボクはセンパイじゃないもん、君の世話までいちいち焼いてられないもん!」


 なにを言っても喧しい李には千影もうんざりし始めた。なにが「人間が恐い」だろうか、李の執念の方がよほど恐ろしい。

 そろそろ表通りに出るので、千影はここまで引きずってきた変態を通りへと投げ飛ばしてやった。


 すると。


 「ぎょあああああああああああああああああ!!人、人がァァァ!やめて見ないで私を見ないでゴメンナサイゴメンナッ、ぴいいいいい!?」


 突然道の脇から投げ飛ばされてきたピンク髪うさ耳もこもこフードの女には通行人も驚いて飛び退き、それに過剰反応した李は発狂して地面を転がり回り始めた。

 これはさすがに問題だと判断して、千影は仕方なく李をもう一度路地裏に引きずり込む。まさか李の人混み恐怖症がこれほどまでとは思ってもみなかった。うまく追い払えるかと考えてのことだったが、本当に爆散しそうになっている李を放置出来ず、結局千影と李は2人で向かい合う羽目に。


 正座した李は潤んだ瞳で腰に手を当てて立つ千影を見上げる。


 「酷いです」


 「うん、ゴメン」


 「どうしましょう、このままだと私完全にヤバイ人ですよ」


 「これまでも完全にヤバイ人だったと思うよ」


 泣きそうになる李を千影は慌てて宥める。どちらが年上だか分かったものではない。

 安易に李を放置しておくのも心苦しくなってきたが、かといって千影も暇ではないのは前述の通りである。千影はこれから李をどう扱うべきか悩み、ちょうど良い案を思いついた。


 「ねぇねぇ、スモモン」


 「・・・?なんでしょう。あ、もしかして迅雷クンに会わせてくれる気になっ」


 「てない。とっしーもこんな人に追いかけられてたと知ったらトラウマだって」


 「それは問題ないです、私は遠くから見るだけで満足ですから」


 「なんか恐いよ!」

 

 コミュ力皆無の李は端から迅雷と会話するつもりなど毛頭なく、適当なところから彼の姿を見つけて写真を撮りたいと考えていただけだ。

 ものの考え方がなかなか噛み合わない李には呆れ半分恐怖半分、千影は話を仕切り直す。

 

 「そうじゃなくてね、知ってる?今『のぞみ』には『通り魔』が出ててね?」


 「あぁ、なんかそんな話してる人いましたね」


 「このまま放っておいたらとっしーもいつ襲われるか分からないんだよね。だから、ここは陰からとっしーたちの安全を守ってみようよ」

 

 「ハッ・・・!な、なんですかそれ、カッコイイ!そうですね、それは良いです!仕事さぼってここまで来た言い訳にもなるし!」


 言い訳にはならないはずだが李は上手く話に乗ってくれたので、千影はもう細かいツッコミはしないことにした。なにはともあれこれでやっと李と別れられる。

 李も人通りの少ない裏路地なら平気で歩けるようなので、千影はやる気満々になった李を大手を振って送り出し、自分も巡回に戻るのだった。

 


  

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