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LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~  作者: タイロン
第二章 episode4『高総戦・後編 全損』
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episode4 sect20 ”Coolness is Foolishness”


 「―――あの」


 雪姫は迅雷の母親に少しものを尋ねようとして、しかし彼女をどう呼べば良いのか分からずに閉口した。名前は知らないし、「お母さん」などとは冗談でも呼ばない。

 黙って立ち去れればこんな意味のない苦労などしなくて済んだはずなのに、半端に声を出した雪姫は腰を上げられなかった。なぜなら、真名は雪姫の方を見てなにを聞かれるのか期待しているから。

 

 「なぁに?」


 「・・・その、どうしてあたしのこと放っといてくれないんですか?」


 寂しそうに見えたからこうして声をかけたのだ―――と真名は言った。しっとりと穏やかに雪姫を見るその瞳はどこか安らぎを覚える。それを雪姫は否定しないことにした。

 真名が話しかけてきた意図を今一度問い直すのは、わざわざこんな思いをしただけの価値がある結果が欲しかったから・・・なのかもしれない。 


 「それは、そーね。やっぱり気にかけちゃうわよ、せっかくみんなで来たのに1人でいるなんて。でもね?」


 「?」


 「こうして立派に頑張ってるのも見れたから、おばさん安心もしてるのよね。商店街でお買い物するときとかにたまーにお店の人たちと雪姫ちゃんのお話をするんだけど、でもこんなにすごいから、ちょっとだけ嬉しくて」


 ―――嬉しい。嬉しい、か。


 雪姫は頭の中だけで二度唱えて、ゆるゆると首を振った。

 こんな人間の近くになんて雪姫はいたくない。反吐が出る思いだった。


 それにしても、商店街で話をする、である。「商店街のお店の人」なんて言われれば思いつくのは精々1、2人。

 精肉店の女店主と言い、迅雷の母親と言い、なぜみなして雪姫の抱えた事情を無遠慮に嗅ぎ回っては不要な世話ばかり焼きたがるのだろう。

 雪姫の名前を聞きかじった主婦はみなよってたかってそんな話ばかりしているのだろうか。だとしたら雪姫はさぞかし素敵な話のタネなのだろう。もう好きなだけ話題にでもしてくれれば良い。雪姫は勝手な大人たちの代表に真名を据えて不愉快さで目を細めた。

 こういうことを言ってくれる大人たちは、大体のことは分かっているつもりの目をしている。故に雪姫がなにをどう言い返したってただの強がりだと思われるに違いない。そうじゃないのに、そう思われることが一番虚しくて悲しい。

 

 「心配、嬉しい―――随分忙しいですね。でも全部余計なお世話です。これからはあたしに構わないでください」


 あの出来事はそういうことではなくて、全ては雪姫自身が引き起こした結果であり、決して誰も彼女のことを許してはいけないのだ。

 思えばなにも特別なことなんてなかった。誰がどんな目をしてなにを言おうが変わるものはない。急に熱が冷めるのを感じて雪姫は席を立った。


 みんな知った顔ばかりしてなんにも分かっちゃいない。理解は求めるつもりもない。ただ、いつか殺されても文句を言うなよ―――と突き付けておいてやりたいくらいだった。


 「あ、待って。余計なお世話って言われちゃうとそーなのかもしれないけど、それでもね、雪姫ちゃん。なんかあったら私でも誰でも頼って良い―――」


 「絶対にお断りです。こんな場所にまで来てなんの説教ですかね。それと、あたしはあなたみたいな人が――――――嫌いです」


 少しの溜めがあって、雪姫は真名に冷たく言い放った。

 

 どうせ今、迅雷の母親は「自分や周囲の大人たちのことも家族みたいなものだと思って頼って良いんだよ」的なことでも言うつもりだったのだろう。まるで変哲ない。どこまでも馬鹿にしている。

 なぜ家族がいるのにそれ以上の家族もどきまでいなくてはいけないのか。気持ちが悪いと言ったらこの上ない。これ以上は要らない。雪姫には今の分で十分、もうたくさんなのだ。


 「き、嫌い!?え、えー、えーっ・・・。ホントに?ホントに嫌いになっちゃったの・・・?」


 「えぇ、嫌いです。みんなみんな、人なんてみんな嫌いです」


 真名は生まれて初めて他人から「嫌いだ」と言われたのだが、遂にトドメを刺されてしなびてしまった。


 去り際に雪姫は思い出したように付け加えた。なにせ真名は一応雪姫の抱えたものを知ってはいるのだ。


 「あぁ・・・そうだ。それと、なに聞いてあたしに話しかけてきたのかは知らないですけどあいつにも余計なことは吹き込まないでくださいね」


 迅雷も迅雷で話しかけてくるようなことはなくてもどこか雪姫のことを気にかけている人物だ。親子揃って嫌がらせをしてくる前に雪姫は真名に釘を刺しておいた。


           ●


 「いけいけ、とっしー!そこだ!右!」


 「やったやった、いいよお兄ちゃん!」


 フィールドでドタバタと走り回っているのは迅雷で、マンティオ学園の連中とはまた別の場所から黄色い声援を飛ばしているのは千影と直華だ。それと真名もいるのだが、ちょっと用事をしてきた後はなんだかションボリしていたので2人にはそっとしておかれている。


 さっそく始まった2回戦で迅雷は、1回戦の相手とは対照的なスタイルの二丁拳銃使いの少年と当たっていた。銃は人気の純魔力式なので弾は非実体弾だ。また、特に使い手の好みか、銃口で魔法陣を発生させることで単なる射撃を超えた砲撃レベルの攻撃を行っている。

 ただ、非実体弾だとしても迅雷にとっては大した問題ではないし、慣れた銃士ではない相手選手の銃魔法は普通に弾を撃つだけと比べると攻撃の隙が大きい。爆発し続ける火炎の弾を迅雷は躱したり斬り捨てたりしながら接近戦に持ち込もうとしているようで、実際案外あっさりと間合いを詰めてしまった。


 白兵戦となれば勝負は決したようなものだ。

 向けられた銃口に『サンダーアロー』を突き立てて弾き飛ばし、あとは体術でねじ伏せたところに刃をかざしてトドメをさせる位置に落ち着く。

 勝利と共に『雷神』を頭上に掲げた迅雷の姿を見届けてから、千影は席を立った。


 「あれ?千影ちゃんどっか行くの?」


 「うん。ちょーっと治安維持活動にね」


 「ちあんいじ・・・?」


 「ほら、今なんかさぁ・・・なんだっけ、『通り魔』?悪い人が出没してるっぽいし。ここはやっぱりボクの出番だよねってことで。とっしーたちが頑張ってるところに水を差すような輩はみんなボクがとっちめてあげるゼ!」


 「そっかぁ。千影ちゃんは偉いしカッコイイね。あ、でもあんまり危ないことはしちゃダメだよ?いくら千影ちゃんでも心配だし」


 なんだかイッパシのお姉ちゃんみたく心配してくれる直華が千影は可笑しかった。本当に、願ってもなかったような素敵な家族である。


 「ありがと。でも心配しなくて良いよ。どうせちょっと人の少ないところをぐるっと散歩してくるだけだから」


 それだけ言って千影は直華(と項垂れている真名)に手を振って、迅雷が戻ってくるより先に試合会場を後にした。

 千影は肩をぐるりと回し、ストレッチ代わりに首や手首もほぐすと最後に頬を張った。昨日もかなり骨が折れたが、今日もうひと踏ん張りすればだいぶ楽になるはずだ。


 街も広いのでこの巡回は数人体勢で回しているが、いかんせんなにがどこまで及んでいるのかは千影も分からない。しかし、もう誰をマークしておけば良いのかは分かっている。ただし、上手く人の中に紛れ込まれるとやはり対処が厳しいのはあった。

 やっと日本に帰ってきたと思えばこれなので、落ち着く暇もない千影は最低限の深呼吸代わりに溜息を吐いた。やっぱり、そろそろ危ない時代に入ろうとでもしているのかもしれない。


 「あーあ・・・とっしーもいつ狙われるか分かんないのに、余計なことばっかりだよ、もう」


 千影だって本当はずっと迅雷と一緒にいたいし、それが彼にとっても一番安全なのだが、そうは言っても迅雷だってこの時間帯は友人と共に行動するはずだ。なので、千影は他の面倒を見なければいけなかった。


          ●


 「天田さん、今日はお互い多忙ね。試合も2つあって、しかも今から団体戦だもの」


 拠点ブロックビルの屋上からフィールドを一望しつつ、萌生はビルの屋上の縁に座ってボンヤリと考え事をしている(ように見える)雪姫に話しかけた。


 多忙というのも午前中の1回戦と昼過ぎの2回戦、そしてこの団体戦の2回戦の計3試合である。A地区とB地区の移動なんかも計算に入ってくるので、単純な試合3回分よりも忙しいスケジュールだった。

 まぁ、当然3日目は今日より、最終日は3日目よりもスケジュールは濃くなっていくのだが。


 しかし、話しかけられた雪姫は一度萌生をチラリと見てから正面を向き直り、鼻で笑っただけだった。


 「あたし今日なんもしてないですけどね」


 いや、2回戦ではちゃんと雪姫も試合をしたのだが、あれは「なにかした」にはカウントされなかったらしい。

 また雪姫に冷たくあしらわれて拗ねた萌生の代わりに同じ3年の三嶋政が本戦の作戦を提示した。


 「―――ま、大まかな流れは昨日と同じで良いだろうな。今回は相手がたったの(・・・・)3校だ。拠点防衛は俺で十分なはずだから、萌生、煌熾、雪姫の3人はそれぞれ1校ずつ叩いてくれ。以上っ!」


 雑な作戦だが、高校生が即席で立てる作戦なんてこんなものだ。魔法の実力以外は基本的に平凡な少年少女に変なスキルを期待してはいけない。それに、適当でも問題はない。差し向ける戦力はこの大会においても一騎当千の大物揃いだ。


 それから、煌熾が律儀に手を上げて発言する。


 「天田に1つ頼みたいんだが、いいか?」


 雪姫は嫌そうに目を閉じたのでこの話は終わってしまった。

 会話にすらならなかったことがものすごく悲しくなったのに煌熾は気丈に「そ、そうだよな」と笑うのだった。


 試合開始前から早くも味方2人を沈めた雪姫は、直後の試合開始の合図と同時に『アイシクル』を発動した。目標は射程限界の300m先にあるビル。今回の拠点配置は長方形の四隅であるから、とりあえず一番近いビルを狙うことにした。


 雪姫はビルとビルの間を自身の魔法を用いて屋上に橋を架けるようにして最短距離で移動していく。それを繰り返す途中、眼下には果敢にもマンティオ学園の拠点を目指して走っている敵校選手が3人ほどいたのでちょうど使い終わった『アイシクル』を崩して氷塊の下に生き埋めにしてやった。

 それから少し移動して、目的地が射程圏内に収まったので、雪姫はその場で立ち止まった。


 ブロックビルの窓全てに照準を合わせ、表面に少し細工をした上で『アイス』で生成した氷弾を発射。当然ながら拠点にいるであろう選手は数百メートルも離れたところから攻撃が飛んできていることになど気付かない。放たれた氷弾はスルリと建物内に飛び込んだ。


 つまり、勝利確定。


 雪姫のフィンガースナップと共に、氷弾の表面に仕込んでおいた大量の『アイス』の術式が一斉に起動して拠点ビルは内部から崩壊したのだった。


 「これでフラッグさえなかったらだいぶ楽なのになぁ」


 雪姫が崩れたビルの中から旗を持って出てくると、少し遅れて遠くで火柱が上がったり轟音がしたりして試合は終了したのだった。

 やはりこの団体戦においてマンティオ学園を脅かし得るのはオラーニア学園だけらしい。

 あるいは欠員が出てメンバーが替わったとして、戦力が大きく下がれば話は変わってくるのだろうか。もっとも、マンティオ学園の選手に限って試合に出られなくなるほどこっぴどくやられるのもありえないのだが。



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