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殴られた右頬が熱を帯びているのがわかる。
その部分を押さえながら、今にもひび割れそうな階段を、一段一段上ってゆく。
できるだけ、音を立てぬように。
すぐ上には、妹が眠っているのだ。
「お姉ちゃん」
そう、こんな声だった。
あの頃の母によく似た、澄みきった湖のような声。
この声を聞くと、心が洗われるような気分になる。
「お姉ちゃん?」
2度目の呼び掛けに顔を上げると、そこには見覚えのある顔があった。
「詩乃?!」
「うん」
昔から変わらない、あどけなさの残るくしゃっとした笑顔。
数日ぶりに見た詩乃は、また少し痩せた気がする。
「寝ていろってあれだけ言ったのに…」
「ごめんなさい。でも」
「戻ろう」
部屋へ連れて行こうと、彼女の手首を摑む。
――冷たかった。
「……わたしね」
詩乃が、静かに口を開いた。
「お母さんのこ――」
突然口を噤んだ彼女は、
吸い寄せられるように玄関を見つめていた。