4話-商業ギルド、エイビサ支部-
色々あって、バルシャを港の入港管理員に任せて、現在、商業ギルドの一室で紅茶をたしなんでいる俺だ。
あの後、ヴァンゼンとスイシュが俺に対して土下座をするハメになって、俺の方が慌てる事になってしまった。
そして俺がここにくるまでの事情を聞きたいとのことで、この場所に移動した次第だ。
本当にめんどくさい事になった。
どうしよう。こういうときはアレだ。もうゲーム脳でいこう。
……要するにゲームのキャラクターになっているのだから、ゲームのキャラクターを演じていればいいわけだ。ロールプレイなら任せろ。三度の飯より大好きだ!
もっとも机を囲んでやるようなゲームで遊んでくれる友達は皆無だったけどな……。
友達いなくて、社交性が大丈夫なのかって思われるかもしれないが。
良いか?
人間なにかしら、生きる目的があれば、どんなに辛くても生きれるもんだ……。
俺の場合、ゲームがしたくて必死で外で働いていたわけよ……。
いや、それ以前にゲームのやりすぎで家族から追い出される寸前だった口だが……。
親のスネを齧って生きてりゃそうなるわな……。
……あ? しまったな。大事な事を忘れていた!
この世界も楽しいかもしれないが、大量に詰んであるゲームが家に放置しっぱなしだった。
これは由々しき事態だ……。
戻りたい理由が一つ出来たな……。
いや、でもゲームやりたいから帰りたいって、人として危ないんじゃないか?
……つっても友達なんていないしな。むう……。
家族? 両親は現役バリバリで働いてるし、正直俺がいなくても問題はなさそうだ。
弟が二人居るが……。あれは良く出来た弟達だから問題ないだろ。
兄より優れた弟達だし……劣等感ヤバイな。
弟万能説……。悲しい。
話がまただいぶそれた。
とりあえず、この世界での俺の設定を適当に考える。
『スキル<思考>を使用シマス』
『スキル<即興>を使用シマス』
『スキル<交渉>を使用シマス』
うへぇ……。<思考>と<即興>とか知らないスキルが出てきた。
まじかよ……。そんなスキル聞いたこともないし、使ったこともないぞ。
そんなスキル、ゲームでも知らないんだが……。
唯一わかるのが<交渉>か? これは、商談とかで使ったりするからな。
主に、交易の交渉においてだが……。
そうして、俺の口から色んな言葉が湯水の如くでてくるでてくる。
曰く。
「記憶が曖昧で旅を続けている」
曰く。
「世情には詳しくない」
曰く。
「東から来た」
曰く。
「以前はなにをしていたのか良く覚えては居ない」
さらに。
「交易商の知識は何故かあった」
結果として、質問の受け答えにスラスラと結構重そうな話が出てきた。
大丈夫か俺の頭。
絶対、こんな話無茶がすぎるだろって自分でも思うわ。
思ってはいるが……。そのよくわからない設定の方がなんとなく活かせそうだ。
ゲームでは『始まりの島』から東へは最初はいけないし。
東側は後半の物語に影響する場所で、海賊も魔物も強かったりする。
要するに東側は魔境なのだ。
ついでに最初は東側の地域は地図をみても真っ黒表示だったから、プレイヤーの間では暗黒大陸(笑)とか揶揄されることもあった。
まあ、ゲーム上、西へ進んで外海にでていく仕様なのだから仕方ない。
まあ、これで話を聞いてもらえなかったらどうにかなれだ……。
騙すような形で色々と申し訳も無く、ついでに問題が上乗せになるがどうにかなるだろ。
つか、どうにかならなかったら『身分詐称罪』とか『詐欺罪』で縛り首かな?
『スキル<撤退>を使用シマス』
『スキル<退却>を使用シマス』
変なスキル使うなよ!
撤退とか退却とかしねぇからな!
しかもどっちも同じじゃねーのか!
違いを教えてくれよ!!
****
結果として俺のここまでの経緯的な説明はどうにかなった。
意外とだが信用してくれたし、相手も色々と紳士に対応してくれた。助かった。
ただ……。
・バルシャで一人旅。
・交易商をしている。
・持ち物が小麦だけ。
・見るからに怪しい。
・記憶が曖昧。
・東から来た。
・ガルデリア王家関係者かもしれない
……絶対逃がしてくれないような気がしてきた。
半ば強制的に保護されて、ガルデリア王家関係者へ引渡しとかにならないかね?
まあ、その時はその時で考えよう。
保護されるのも悪くは無い。
まだ、これといって何処へ行くか方向性が決まってないし。
ぶっちゃけて、海の上で困ってたからここに来たとしか……ねぇ?
ちなみにここのギルドマスターがヴァンゼンで。
彼の部下でもあるサブマスターがスイシュだそうだ。
ギルマスとサブマスがそんなホイホイ歩いてて良いのか……。
違うか、港に出て一人一人に声をかけるくらい熱心な二人ってことにしておこう。
いや、逆に暇を持て余してるのかもしれない可能性も……。
んで、話をしてるうちに教えてもらったんだが、こんな大事になった原因。
それは俺の持ってる『交易許可証』にあったみたいだ。
こいつにはガルデリア王家直属の印がしっかり押してあった。
さらに、これを所持できるものは王家の中でも親しい存在だけ。
そしてそんな彼らの中でも身分証明として腕に特殊な刺青の様な印が入ってる人物は他国の上位貴族にも匹敵するらしい。すげえな。
しかもただの刺青ではなく、王家直親の魔法使いが腕に魔法で施すらしく、ニセモノであれば直ぐにわかるらしい。
ゲーム上ただの刺青かとおもってたが、そんな特殊装備だったのか。そりゃ外れないわな。
どうやってわかるのか、気になった事は気になったが……。
多分だがスキル<鑑定>あたりだろう。
あれならごまかしが効かない。
スキル<偽装>あたりでスキル<鑑定>をごまかすという方法もあるかもしれないが……。
多分ばれるだろう。スキル<鑑定>をごまかすのは難しかったはずだ。
あと話の内容から、ほとんどゲームの世界と代わりは無いようだ。
いや、知らないスキルがある時点で少しヤバイとは思うが……。
てか、俺の持ってるスキルがいくつあるのか知りたい……。
何度も調べようとしてるんだけど、出てこないんだよな……。
主に頭の中で、だが。
「――というわけでして、ヴァルガス様には多大なご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳も無く」
机を囲んで必死でペコペコとスイシュが謝罪をのべていく。
「オレ……あ、いや! 私達も何分と色々とありまするので……」
隣で同じようにペコペコ謝るヴァンゼンが居心地が悪そうに言葉たらずで答える。
たぶん色々ってのは、飛竜関係の話なんだろうな。
島に飛竜が棲んでいるだけあって、ゲームでも竜の素材があちこちに落ちてたし……。
そういったモノを回収したり、守ったりしているんだろう。
泥棒ってのはどこにでもいるからなぁ……。
「気にしないで良い。俺も記憶が曖昧なのが悪いし……な?
あと、普通に会話をしてもらって良い。
東から来た俺からすると、かしこまった話は好きじゃないんだ」
「……宜しいので?」
と、スイシュが言う。
「ああ、構わない」
俺がそういうと、二人が視線を交わして頷いた。
そして、やっとの思いだったのかヴァンゼンが深く椅子に腰を降ろした。
「ふぃーー……。いやービックリだぜ!
まさか王家縁の人間がこんなところに来るなんて思っても見なかったぞ!」
「私もですよ!
しかも記憶が曖昧との事ですが、そのー……ヴァルガス様は――」
スイシュの言葉に俺は軽く右手で払いのけてやった。
「ヴァルガスで良い」
「失礼しました。……ヴァルガスさんは本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫とは?」
ぶっちゃけ、大丈夫ではないよ?
直ぐにでも宿とって寝たいし?
「いえ、もしもお困りの様でしたら、私共ギルドはヴァルガスさんへの助力は惜しみませんので」
「それは助かるな!」
願ってもないことだ。
まあ、変にあちこちに通達されても困るけどな。
「応よ! 出来ることは少ないけどな!
何だったらガルデリア王家へ連絡をしてやっても良いぜ?
だが、それはお前さんがどうしたいかによるだろ?」
連絡ねぇ……? バルシャに乗って海の上だったわけだしなぁ……。
少し様子を見たほうがいいよなぁ?
そもそもガルデリア王家に良い思い出が無い……。
悲しい。
……ただ、彼らが個人を優先してくれるのは本当に助かる。
自分で自分の道を決められるってのは自由民っぽさがあって良い。
人生は自由に選択すべきだ。
勿論ゲーム脳的な意味でだが。
「それなら一つ頼みたい事がある」
「応! なんでも言ってみてくれ!
出来る限り何でもしてやるぞ!」
「良い宿と良い飯を二、三日お願いしたい。
できれば体も洗えるところが良いのだが……」
俺の頼みに二人はいっぱくの間を置いて、海鳥のように口をあけて「……は?」と一言だけ発した。
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