3話-入港-
『希望を船にのせて……』のゲームをしてたとき、『始まりの島』から西側にある隣島のエイビサ港は、それこそ何もない印象が強すぎて、のどかな風景が広がる島という印象しかなかった。
入港しても、船のメンテナンスと立ち寄れる場所も以下の――
1、交易の為の『交易品の市場』。
2、情報収集の為の『酒場』。
3、ゲームのクエストを受け付ける『商業ギルド』。
この三つくらいしかなかった。
なので、港に近づいても、入港する船は少ないと踏んでいたのだが……。
「めっちゃ多いな……」
目の前を優雅に進む、船、船、船、非武装の中型船の多いこと多いこと多いこと。
どの船も屈強な水夫達が上手い具合に列を成していく。
帆をロープで操って速度を落として、他の船とぶつからないように入港するのに一苦労だ。
「あんちゃーん! どっからきたんだー?
そんな船で一人旅たぁ、やるじゃねえか!」
ホントだよ、どっからきたんだろうね! といいたい。
「おめえさんバルシャレースにでも出るつもりかー?
中々うめぇ船さばきだな!
レースにでも出るときは教えてくれよ!」
機会があればな! といいたい。
「一人で船うごかしてんのかよ! すげえなアンタ!
後で一杯どうよ!! 奢ってやるぜぇ!」
奢られたい。一杯ひっかけたいが、それどころでもない。
「まじかよ!
あれバルシャだぜ!
がんばれよー!」
「ここの海でアレに乗るかぁ!?
正気の沙汰じゃないだろ!?
どこかの魔物にでも襲われたのか?
もう少しで港だぞ辛抱しろよー!」
俺を追い抜いていく船乗り達が、これでもかと声をかけてくれる。
やっぱり一人で船動かしてるのはおかしいよな……。
めちゃくちゃ目立ってしまった。
そういえば、ゲームの中でも船を扱ったレースがあったな。
特定の港から港までのタイムアタックをするんだが、途中で海賊や魔物に絡まれてもタイムに記載されるやつでもはや運ゲー以外の何者でもないトンデモレースだ。
短いのでゲーム時間で七日くらいでおわるやつから、長いので百日くらいかかるやつもある。
前者は、まだわかるが、後者はまったく理解出来ない。
だいたいプレイ時間が一日一分だったので、百日だと百分もかかったもんだ。
百分も遊んでて海賊に会わないとか絶対にありえないから、凄い確立だからなそれ!
もしかしたら、スキルを多様して上手くあわないようにしてるんだとおもうが……。
俺にはあわなかった。
ストーリー上の都合で一度だけ体験したくらいだ。
なお、順位は最下位だった。二度とやりたくない。
ぶっちゃけNPCの船が速過ぎだ。
港に入ると、色々な船が停止していく。どうやら、ゲームと同じで開いてるところに停泊していいらしい。
長いキノコの様な鉄の塊、いわゆる繋留用のボラードにロープをくくりつける。
ボラードっていうのは、船を港に停泊させるときに使うやつだ。港なんかに良くあるやつで、船乗りが良く足をかけて海を眺めてたりするアレでもある。
船から下りて地面に降り立つとなんというか、少し足元がおぼつかない。
これはあれだ……。ゆれるのに慣れすぎたってやつだ。
船酔いならぬ、陸酔いみたいな……?
何いってんだ俺は……。
船を停泊させると、強面の屈強なオッサン達が書類を持ってなにやら俺に近づいてきた。
「ようこそエイビサへ!!
まさか、バルシャでこの港に来る奴がいるなんてな!
ガッハッハッハ!」
中でも葉巻を咥えた偉そうなオッサンが俺に声をかけて、バシバシと背中を叩いた。
めっちゃ痛い。
まさに荒くれ者どもの首領みたいなオッサンだ。
「エイビサの入港管理を任されている。商業ギルドのヴァンゼンだ!
面白い奴が来たって話しを耳にしてな?
居ても立っても居られずってやつだ!」
ガッシリとした右手を差し出されたので、とりあえず握手で答える。
「筒……ゴッホン!
交易商人のヴァルガスだ。
いろいろあってこんな船で旅をしている」
あぶね、思わず自分の名前いうところだったわ。
こういうときは大体、情報にあったゲーム名の方が良いんだろうしな……。
んで、いわゆるここのお偉いさんってやつかな?
妙に大柄で風格があった。
というか、横で書類をペラペラめくってるメガネをかけたオッサンが縮こまってるしな。
けっこう、怖い人なのかもしれん。
「いろいろあってだぁ?
いろいろっておめぇ……」
言ってから、オッサンは俺と船を二度見する。
別段かわった様子はみせてないはずなんだが、何か感じるものでもあるのだろうか?
オッサンは軽く頷いて笑みを浮かべた。
「確かに色々だわなぁ!
このバルシャだもんなぁ!
ガーッハッハッハ!
おめぇ、面白い奴だな!
ちなみにききてぇんだが、積荷は何だ?
まさかあぶねーもんじゃねえよな?」
「いや、ただの小麦だ。
できれば交易所で換金して、他の品物を仕入れたいと思っている」
ゲームなら何処に持っていっても小麦は適度に売れるからな。
ただし、小麦をメインで売ってる港では駄目だが……。
降ろしても仕入れ値の半分くらいにされてしまう。
ちなみに俺の記憶があってれば、エイビサで小麦は取引品目じゃなかったはずだ。
「なるほどなるほど!
小麦ね! それは危ない小麦ってやつかね!」
オッサンがなんか含みのある危ない事を言い出した。
頼むからそういう怖い冗談はやめてくれ。
危ない小麦ってあれだろ?
黒い奴だと火薬とか……。
白い奴だと砂糖とか……。
ちょっと匂い嗅ぐだけでトランスする危ない麻薬とかだろ?
「いや、正真正銘の普通の小麦だ!」
思わず力強くいってしまった。
オッサンの目が細くなる。
「ホー……。まっ! そういうことにしておいてやるか!
中見れば一発だしな!
船の中を検めさせてもらっても良いかね?」
「ああ、勿論大丈夫だ」
俺がそういうと、オッサンはノッシノッシと船の甲板へと上がっていった。
まあ、実際小麦しかないからな。ほっといても大丈夫か。
「ようこそ、エイビサへ。
私は入港管理員のスイシュと申します以後お見知りおきを」
「交易商人のヴァルガスだ。迷惑をかける」
「迷惑なんてトンデモない!
私たち商人は迷惑をかけてナンボですよ。
あと、ヴァンゼン様には悪気がないので気に障ったらすいません」
「荒くれ者の対応なんて慣れてるさ」
俺は胃に穴があきそうなメガネのオッサンに答える。
「お心遣い感謝いたします。
申し訳ないのですが、念のためですが、交易許可証はお持ちで?」
なんともたくましい回答をもらえた。
とりあえず、持っていた許可証を渡してみる。
「これだな」
ゲームだとこれですんなりいけるのだが……。
どうなんだ? ちょっと緊張するな。
「ブフッ! ちょ、え! ちょっとおまちををを!」
何故、いきなり噴出したし。
俺の交易許可証を受け取って確認した管理員の態度が急におかしくなった。
え、なに? それ、まずいやつだった系か?
とりあえず、平常心だ……。
何言われても困ったら負けな気がしてきたぞ……。
「ごごごごご、ご確認しますがががが。
ガルデリア王家縁の方で御座いますでしょうか?」
ん? なんだか、聞いたことのあるような単語が出てきたな。
ガルデリア王家……ガルデリア……ああ、思い出した。
ゲーム本編の商人系シナリオで主人公が『お世話』になるというか……。
最終的に『お世話』してやった方の貧乏王家だ!
最初はプレイヤーに優しい王家のはずが、後半になってくると王家の存続の危機!
とかいう変なシナリオがひたすらでてきて、色んな交易品を半ば強制的にパクられるっていう……。
あんまり面白みのないシナリオだったはずだ。
シナリオ最後に貰えたアイテムも『ガルデリア王家の紋章』とかいう微妙なやつで、装備するとキャラクターの二の腕に双頭の竜を描いた刺青がつくんだよな……。なお、一度装備すると二度と外せないっていう呪われた奴な……。
んで、その装備をした後に、ガルデリアの女王様に話すとエンディングが流れるんだったかな。
勿論エンディングの後に何でもいいからボタンを押すと、ゲームの続行はできるわけで。
しっかし、自分の船と商会を大きくするのが楽しくてシナリオとか完全にどんなだったか忘れてたわ。
ほとんど搾取されるだけの話だったしな……。なんか印象的なのは……。
ああ、ガルデリアの女王様は綺麗だったな。
耳も長くてエルフっぽかったし……。
懐かしい……な。
だが、レアな交易品をひたすらパクっていく女王様には二度と会いたくないわ。
ちなみに好感度があがっていくと、婚姻を迫られるが、特にこれといってイベントが発生しないっていうのも駄目な部分だろうな。
せめて、結婚イベントとか作っておけよ!
途中でイベントが止まるので、予算が足りなかったんだろうな……。
俺が現を抜かしてると、管理員のスイシュが声をかけて俺を現実に引き戻す。
「大変失礼かとととと、思いますがががが。
腕周りを拝見させてもらっても宜しいでしょうか?」
「ん? 構わないが……」
思わず俺も確認したくなって、腕を晒してみた。
見えにくいが、そこには確かに双頭の竜を描いた刺青があった。
無駄にカッコイイ。つか、イベントクリア後のキャラクターなのかコレ。
ってことは、今も王家が存命であればつながりはあるのか?
このキャラクターが今どうなってるのかが凄くきになる……。
でもなんか、めんどくさそうだ。
あれ? そうしたら、北欧あたりにあるドックには俺の使ってた船とかあるのか?
あれば、凄い見てみたい。そして動かしてみたい。
でも完全にゲームと同じとは限らないか。
とくに大事な船員すら確保してないしな……。
何処に行くかも決まってないし検討だけしておこう。
てか、あれか?
という事はだ。
俺がゲームで扱ってきた副官達もどこかにいるのか?
それは気になるってレベルじゃないな……。
また、楽しみが増えたな。
「ひええええ!!
大変、失礼を致しました!!
ヴァンゼンさまあああ!
もどってきてくださいいいいい!」
顔面蒼白になった管理員のスイシュが、俺を避けて凄い勢いでオッサンを捕まえに行ってしまった。
これは……予想以上にめんどくさい案件かもしれない。