私の兄はゴリラだ。そのゴリラに彼女ができた件について
ゴリラの家族愛について書きたかった。
ここでは私の事を語るつもりはない。必要ならば書くつもりだが。
私の兄はゴリラだ。名前が剛利 蘭丸だからゴリラっていうわけではない。見た目がゴリラだからだ。身長は196㎝で現在高校2年生。部活には入っていないが、うちの実家は空手道場をしている。兄は小さい頃から、おじいちゃんに毎日叩きのめされてきた。
来る日も来る日も「構えがなっておらん」と言って小柄で、言ってはなんだか皺だらけで皮しかないんじゃないかってくらい細いおじいちゃんに投げ飛ばされた。
そのせいか、学年を上がるごとに身長はみるみる伸びて体格は筋肉マッチョになってしまった。高校2年にしてゴリラにしか見えなくなった。
兄は大きいがうちの家族はそこまで大きいわけではない。母は小柄だし、父は175㎝と平均身長。私は残念ながら160㎝を超える事が出来なかった。ちくしょう。母の胎盤から私の分の栄養まで奪い取って行きやがった。
そんなゴリラだが、最近彼女が出来たようだ。地方に住んでいる私たち家族だが、街もやはり昔より人が減ったように思える。ゴリラもとい兄の高校は元々男子高だったか、在籍生徒数がとても少なかったせいで市から隣の女子高と合併しろとのお達しがきた。それが去年の冬の事だ。今時珍しい木造建築の男子校は潰され、そこに都会の人向けにリゾート地を建設する計画らしい。2年の新学期からまだ真新しい女子高の校舎に通う事になった。
ゴリラと彼女の出会いは、合併して初めての登校日の事だった。
桜が満開でひらひらと散る中、彼女、咲本 小雛は美化委員会の仕事で朝早くから散った桜を竹ぼうきで掃いていた。春だが、せっせと体を動かすとじんわりおでこに汗をかく。ハンカチで拭いていたら風が吹いて桜の木の枝までハンカチが飛ばされた。
ずり落ちた丸メガネを直し、引っかかったハンカチを見て、取るために上るべきかやめとくか迷っていた。木登りなんて一回もしたことない彼女だが、先日の誕生日に友人からプレゼントされたものだから大事にしたい。
結局、無理して学校の桜の木に登って無事、引っかかったハンカチを取ることが出来たが案外高いとこまで上った事に気づき怖さで降りれなくなってしまったようだ。
そこに現れたのが、ゴリラだ。ゴリラは高い身長を生かして小雛の脇に腕を伸ばしてまるで乾いた洗濯物を掴むかのように持ち上げると地面に下ろした。
まあ、この先は大体想像がつくだろう。小雛さんがその時のゴリラに一目ぼれしてアタックするも所詮はゴリラ。そんなことに全く気付かず、小雛さんと友達として楽しい思い出を作っていた。小雛さんに色々アドバイスしてあげたのは私だ。ゴリラはバナナとか果物が好きで3時のおやつに渡してやると喜ぶとか、ゴリラは森が大好きだから一緒に富士登山するのはどうかとか、ゴリラは馬鹿だから一緒に勉強会なり遊ぶなりしてグイグイ押した後引けば自分から寂しくなってくっついてくるとか…アドバイスしてあげたおかげで今幸せになった。
ゴリラという動物は家族思いだ。うちのゴリラも家族思いだ。そして彼女思いだ。ウザい位。小雛さんは何故ゴリラを好きになったのか。それが未だに分からない。恋とは盲目だ。彼女からみたゴリラはカッコいいんだそうだ。
「おい。ゴリラ。小雛さん来たよ」
12時が過ぎて太陽はとうに上ったというのにまだ起きないゴリラをわざわざ起こしに行く。
「おい。朝食のバナナ食っちゃうよ」
「・・・・」
「おい。エロ本燃やすぞゴラァ」
「・・・・」
「おい。小雛さんが別れたいってさ」
「そんなの駄目だ!!!!!!!!!」
ぼさぼさの頭をしたゴリラが起き上がって部屋をドスドスと音を立て出ていく。そして、玄関にいる小雛さんを抱き上げ泣き出す。
「小雛ぁぁぁぁぁあ!!駄目だ絶対別れないからな!!」
「え?え?まって。蘭丸君・・・。うっ。苦しい」
小雛さんが酸素不足で死にそうだ。
「おい。ゴリラ!小雛さんが窒息死するだろうが!」
ゴリラのケツに思いっきり回し蹴りを決める。ふらついたゴリラは死にかけの小雛に気づき腕の力を緩める。白目になりかけてた・・・。
「小雛ぁぁぁぁぁぁぁあああ死ぬな!!!!!!!!!!!」
死にそうになった小雛さんをもう一度抱きしめ、今度は本当に意識を飛ばしそうになる小雛を助けるべく空中回転蹴りをした。
ゴリラは今日も彼女が大好きだ。
そして、私の兄はいつ人間になれるのだろうか。兄の友人達にゴリラの妹と呼ばれるのもいい加減我慢ならないこの頃だ。