夜明けの街
「ふむ。初めての悪魔狩りにしては良いのではないか」
戦場だった場所に佇む悪魔と悪魔殺し。ストウは目を伏せながら、
「あんまり大したこと無いんだな」
ぽつりと呟く。
実際、戦ってみると人間より少し早いくらいで、死ねない体を持つストウにとっては造作も無い相手だった。
「あれを悪魔の全てだと思うな。あやつは雑魚中の雑魚。ちょっと、悪魔祓いをかじった人間でも倒すことは出来る。こんな奴、いくら倒したところで何の役にも立たん。油断すると貴様も死ぬのだぞ」
ストウはネリスの言葉に頷く。ネリスとの契約のお陰で、体がいくら傷つこうと、命が尽きることは無い上に傷も塞がるのだが、頭が傷を受けると復活することができない。
それに、ストウ達が悪魔を殺したのは慈善でも、正義のためでも、気まぐれでも無い。確かな目的それは
「さぁ、早く。その剣で我を刺すのだ」
悪魔を殺した剣で、悪魔と名乗るネリスを刺す。
ストウの手に握られた紫に光る剣の切っ先がネリスに向けられる。そのまま近づき、ネリスの胸に剣を突き刺す。紫の剣が明滅しながら、ネリスの魔力を吸い取ろうとは、しなかった。
むしろネリスに突き刺さった剣は明滅の明るさがどんどん失われていく。やがて明滅は完全に止まり、剣の姿が紫色のカットラスから錆びたナイフへと姿を変える。
「で、どうなんだ。お前の力は戻ったのか?」
ストウの問いかけに、ネリスは関心が無いと言わんばかりに鼻を鳴らす。
「はっ! この程度で我の魔力が戻るわけ無かろう。ワイン一滴分にもならんわ」
「じゃあ、また悪魔を殺さなければいけない訳だな?」
ストウの言葉にネリスは頷く。
「それじゃあ、行くぞ。ストウ。もうこの町に用は無い」
町から出るための道を歩き始めたネリスを追いかけようと足を進め、自分が片腕である事を思い出す。
痛みの感覚さえも遮断されているため、腕が無い事を忘れがちになってしまう。
「いよっと」
左腕の切断面を合わせるようにして、切断された腕をくっつける。
地面に転がる死体。自分が手にかけた少女の姿を目に収める。痛みなど感じないはずの胸に痛みが走る。
その痛みにストウは安堵の息を漏らす。
―ああ、まだ、自分は人間だ。と。
歪んだ自己認識だというのは分かっている。それでも、ストウは胸の痛みで人間だと認識できる。
せめて、安らかに眠れるようにと彼女の瞳を手で閉じる。
「すまない。せめて、天の主の元へ行けますように」
悪魔と共に行動し、少女を手にかけたにも関わらず、神への祈りを捧げる。月が照らすのは罪人を照らす贖罪の光なのか、それとも神の許しの光なのか定かではない。
二週間後、町の人たちを恐怖のどん底に陥れた殺人事件は、最後の犠牲者、教会の修道女クラムの後、ぱったりとなりをひそめた。
町の皆は喜んで、平和な日常を謳歌していた。唯一人を除いて。
ムーナは神に祈りを捧げていた。残酷な事件の被害者となってしまったクラムが主の元へ辿り着けるように。
そして、もう一つ。
クラムの罪を許してもらえるように。
薄々気がついていた。クラムに何か人ならざる物がとりついているような感覚は感じていた。
最初はあの二人の旅人が何か関わっているのではないかと思っていた。だが、よくよく考えればあの事件はあの二人が来る前から続いていた。犯人は誰だったのか。真相は定かではない。
だが、クラムが死んで事件は終わりを告げた。そう考えると、自然と辻褄が合う。だからこそ、彼女は祈る。
少女が安らかに眠り、安息を手に入れている事を。今日も司祭は祈り続ける。
「さて、次はどこ行こうかねぇ」
「貴様に決定権があるはず無かろう。とにかく町を歩き渡るぞ。人間どもの噂話は時として参考になる」
「そう言って、噂だよりで悪魔を狩ったんだろうが」
二人は今日も歩き続ける。悪魔によって人間を止めた悪魔堕ちと、悪魔殺しの悪魔。人間からも悪魔からも疎まれる二人の旅はまだまだ、終わらない。
そう。目的を果たすまでは。