疑い
あれから三日の時間が流れていた。
その間ストウは教会の掃除、補修作業、買い出しなどの雑用を手伝っていた。
本来見習いの仕事であると言って、ストウの傍を離れようとせず一緒に仕事をしてきたクラムは買い出しの道すがら目を輝かせながらストウに語りかけている。
「司祭様は私にとっては命の恩人なんですよ。両親に捨てられて途方に暮れていた私を助けてくれて、命を救ってくれているのですから」
その言葉に相槌を打ちながら周りを見渡す。クラムの修道着を見てから顔をしかめる人もいる。この町の人にはあまり良い感情を与えてないようだった。
買い物をしながらそれとなくクラムに聞くと、目を伏せながら答える。
「町の人にとっては私たちは働かずにご飯を頂いているということらしいです。この町の人はあまり信仰心が無いらしく、あまり教会に足が進めてくれないんです」
なるほどと胸の中で頷く。元々神への信仰などよっぽど敬虔な信者でも無い限り熱心に行うものもいないだろう。それにこの町の人たちはあまり生活に困っているようにも見えない。それならば神に祈りすがる必要もないのだろう。
「ってことはやっぱり結構苦しいんじゃないか?」
ストウの言葉に一瞬険しい目を向ける。
「司祭様は頑張っていらっしゃるのです! とても……とても……お優しい方で……」
言葉が最後まで続くことは無く、泣きじゃくっていた。
「お、俺の方こそ悪かった。部外者が突っ込んでいい話じゃなかったな」
涙を拭きながらクラムは顔を横に振る。
「ご、ごめんなさい。つい……」
二人はそのまま帰路へつき、歩いていく。
「私は司祭様に早く恩返しがしたいんです。この町の人たちが頑張りをお認めになって欲しいなと思っています。だから、私は出来ることをしようと思っているんです」
張り切る姿にある姿が重なる。ストウは涙がこぼれそうになるのを必死にこらえていた。
「立派な……ことだと思うよ」
「はい!」
クラムは良く響く声で向日葵のように笑いながら歩いていた。
「あ、おかえりなさい」
「なんじゃ、もう帰ってきたのか」
二通りの歓迎(?)の声を受ける。なんと司祭とネリスは二人で紅茶を飲んでいた。
「ただいま戻りました!」
「……何してんだ……?」
こちらも二通りの挨拶(?)を返す。ストウは玄関で立ちつくしていた。
「見ての通りお茶を楽しんでおる。貴様という無粋な輩には分からんかもしれんがな」
「へーへー」
ネリスの言葉を受け流しながら隣の椅子に腰をかける。クラムは持ってきたカップに紅茶を入れストウの前に置く。紅茶をすすり、テーブルに置いてあるお茶菓子に手を伸ばす。
「そういえば……ここの経営はどうやって?」
お茶菓子をかじりながらまるで世間話のように話しかける。
「本部から送られてくるお金をあてにしております。なんとか、二人は食べていけますし、あなたたちみたいなお客様ももてなせますし」
その言葉からそうとう倹約している事が伝わって来る。だが、教会自体はぼろぼろになっていく。
「明日、屋根の補修をしますね」
「お願いします。本当に男の方がいてくれるだけでどれだけ助けられているか」
その言葉に罪悪感を覚える。本当はこの司祭を疑っているのだから。
だが、そんなことはおくびにも出さずネリスは堂々と答える。
「こ奴はどんどんこき使ってくれて構わんぞ。こ奴は労働に喜びを覚える変態だからな」
「労働に喜びを覚えるだけで変態扱いか」
軽口を叩きあう二人を見てクラムが笑いを漏らす。
「お二人は仲が良いですね。……ものすごくうらやましいです」
その言葉にすぐさま反応する。
「こ奴なんかと同等に見られている事が気に食わん」
「こいつと友達扱いなんかしてほしくない」
同時に口にする。一応言っておくが照れ隠しなどではなく二人は本心からの言葉を言っていた。
「ほら、やっぱり仲が良いじゃないですか」
含み笑いをしながら言うクラムに反論すべく口を開こうとするが、司祭が口をはさむ。
「駄目ですよ。クラムさん。お二人を困らせては」
「はーい。すみません」
「それじゃあ、ゆっくりしていてくださいね」
「それじゃあのムーナ」
司祭は柔らかく微笑んでクラムと共に部屋を出て行った。
「なぁ、ムーナって誰だ?」
個室に戻るなり口を開き、疑問を口にする。ネリスは小馬鹿にしたように笑うと、
「あの司祭に決まっておるだろうが。少し考えれば分かるだろうに」
思いっきり見下していた。
「確認しただけだろうが。そんなことよりもなんでお前が司祭様の名前を知ってるんだよ」
「そんなこと、この三日あの司祭とお茶を共にしていたからの」
「……初耳なんだが」
「言っておらんからな」
顔をしかめながらもストウは質問を重ねる。
「なんでそんなことを。お前は人間を見下してんだろう。お茶をするなんて馬鹿馬鹿しいんじゃないか?」
「確かにその通りじゃ。だが、司祭の傍に居ることが大事じゃろう。そのための手段じゃ」
冷静に告げるネリスはそのまま言葉を紡ぐ。
「じゃがのう……ちとおかしいな」
「おかしい?」
「ふむ。今の我では奴らの力を感じることは出来ぬ。とはいえ逆は可じゃ。本来ならば我を殺すチャンスであろう。そして、あの司祭と、二人でいた。殺すチャンスは何度もあった。だが、我は殺されていない。悪魔が憑いているにしては不自然じゃ」
じゃあ、居ないんじゃないのか。そう言おうとして、ネリスに止められる。
「貴様の良いたいことは分かる。我もそう思っていた。だが、力は無くとも直感は働く」
「へぇ。その直感は合ってるんだろうな」
挑発気味に吐き捨てるストウ。分かっているのだ。次にネリスが言おうとしている事を。
「そう苛立つではない。まぁ、苛立つということは」
「さっさと言えよ」
苛立ちを隠そうともせずにストウは言葉を遮る。
その態度に溜息をつきながら、ネリスは告げる。
「今度はきゃつ……クラムを見張るべきだろうな」
冷酷な言葉がストウに突き刺さった。