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魔道具屋には今日も  作者: ゆおね
8/10

08

気付いたら朝になっていた。

見上げると見知らぬ天井、ここはどこだろうと寝惚けた頭で考える。

しばらくすると、今の状況が少しずつわかってきた。

ここはティシールのお店の2階のリビングのソファーの上、昨日の夜はここに寝転んですぐ寝たんだっけ。

そういえばティシールはもう起きているんだろうか。まだ寝てるのかな。彼女の生活は予想がつかない。作業場と台所のギャップは忘れがたい。しかもこのリビングも台所程ではないが汚い。

とりあえずティシールを探そうかな。

下に降りて作業場を覗いてみたけどいなかった。やっぱりまだ寝てるのか。

もう一度上に上がってティシールを探す。2階を少しうろうろしていると、まだ開けていない扉があった。

「ティシールさーん、朝ですよ」

開けてみると、ベッドとクローゼットしか置かれていない殺風景な部屋だった。床に服らしきものが転がっているのには目を瞑ろう。いつか掃除してやるけどね。

声をかけたらベッドの住民がもぞもぞと動き、起き上がった。

「なんで作業着のままなんですか!?」

起き上がったティシールの服が、いつもの作業着になっていた。確かお風呂に入った後の格好は普通の部屋着だったような……少なくとも作業着ではなかった。

「誰だ……?ああ、ミリエットか」

「今から朝ごはんを作ろうと思って……それより、なんで作業着になってるんですか?」

「夜に一回起きて作業してた。悪魔書の仕上げは月光の下の方がうまくいく」

着替えましょうよ!という言葉は何とかして飲み込む。この人はこういう人なんだ。作業着のままでもおかしくはない人だった。

「朝ごはんすぐできるんですけど、食べますよね」

食べますかって言ったら絶対いらないって言われる。無理やりでも食べさせますよ。ここに持ってきてもいいです。

「……私がどう答えても食べさせるだろ」

「はい」

もちろんです。

「わかった、起きるよ」

気だるげにゆっくりとティシールは立ち上がって伸びをした。

「じゃあ作ってますから降りてきて下さいよ」

私はティシールの部屋?を出て台所に向かう。昨日作って置いておいたスープの鍋がそのまま残っている……ように見えた。

「うぇっ!?」

鍋の蓋を開けると、白い何かが鍋の中から飛び出してきた。

それは見事私の顔面に命中し、材料の置かれた机の隅に着地。

「何これ……」

私の手の中にすっぽり入ってしまいそうな丸っこい小さな白い鳥、私が見ていることは気にしていないのか、夢中になって羽の付け根あたりを黄金色のくちばしでつついている。

ぼんやりその愛らしいしぐさを眺めていたが、そこで目的を思い出す。

慌てて鍋の中のスープを見ると、昨日味を染み込ませようと一個だけ残しておいた芋が見るも無惨な姿になっていた。ついばまれたのだろう、ぼろぼろになった芋の破片がスープの底に沈んでいた。

私は犯人をもう一度見た。まだのんきに毛繕いを続けている。この鳥はなんなのだろうか。昨日は見かけなかったし、ティシールのペットじゃないなら入り込んだのかな。っていうかどうやって鍋の中に入ったのだろう。

「いつできるんだ?」

先程と同じ作業着のまま台所にティシールが入ってきた。その声を聞いたとたん小鳥はぱっと顔を上げて澄んだ鳴き声を上げた。私の時はほとんど反応がなかったのに。

「ん?ピーちゃん、戻ったのか」

「ぴっ、ピーちゃん?」

思わず鳥を二度見しました。鳥だからピーちゃん、まんまじゃないですか。名前くらい真剣に考えてあげましょうよ。

「魔鳥の1種だ、魔鳥は知ってるだろ?」

「知ってますけど……なんでピーちゃんになったんですか?」

魔鳥っていうのは魔術の耐性を持っているとても賢い鳥で、文書のやり取りに使われています。繁殖させるのが難しいので、ものすごくお高い鳥、見た目もいいので一部貴族はペットとして飼っているところもあるらしいです。とにかく、超高級な鳥。そんな子になんでピーちゃんなんて名前を……

「鳥だから。普通鳥ってピーちゃんだろ」

いや、ちっちゃい子がその辺で鳥を見つけてピーちゃんってつけるならかわいいけどさ、いざ飼うとして、しかも大人が、鳥だからピーちゃんって、他の名前はなかったんですか。

「この子はペットじゃないんですか?」

ティシールのものだとは限らないもんね、よく来るだけなのかもしれない。めったにいないけど野生の魔鳥とか……

「痛っ!」

おもいっきりピーちゃんが私に向かって飛んできました。くちばしが服越しとはいえ痛い。

「ピーちゃんは……まあいろいろあって一緒にいる。言っとくが、ピーちゃんってつけたの私じゃない」

「じゃあ誰が……」

ピーちゃんなんて名前を……と言いかけて口を閉じた。ピーちゃんがもう一度こっちに突進してきそうだったから。

「出来たら呼んでくれ」

私の様子なんて全く気にすることなく、ティシールは手にピーちゃんを乗せて行ってしまった。

気を取り直して鍋を見る。芋がぼろぼろになってるけど、まあ作れないこともない。それに魔鳥は綺麗好きだから汚くはないはず。加熱すればなんとかなるだろう。

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